「へ~!竜也さんってμ'sのマネージャーさんだったんですね!竜也さんみたいなカッコいい人がマネージャーをやってるからあんな踊りが出来るんですか!?」
「買い被り過ぎだよ。俺は特にダンスもやったことないし、練習中に気になったところを言ってるくらいだけだって」
校門で生徒会長と出くわしてから、海未先輩と流れるかのように一緒についてきてしまった。勉強会の話もあったが、元々今日は練習のスケジュールの話し合いで行けないかも、という話をしていた上に、この状況を逃す手はない。
海未先輩が直接生徒会長と話をしたいからと言い、少し離れたところで話をしているみたいだ。
一方の俺は亜里沙ちゃんを1人にしておくわけにもいかないので、相手をすることに。
それにしてもこの生徒会長の妹の亜里沙ちゃん、人懐っこいな。どうやらロシアでの暮らしが長かったらしく、そこでの文化が染みついてるのか、グイグイ来る子で非常に喋りやすい。まだまだ日本の文化は勉強中とのことだが、こんな子ならそのうち慣れてくるだろう。
『お名前はなんて言うんですか!?』
『私のことは亜里沙と呼んでください!』
『私のお姉ちゃんすっごく優しいんですよ!』
まさにマシンガントーク炸裂といったところか。妹はフレンドリーな一方で、堅物そうな姉とは正反対だ。
しかし、亜里沙ちゃんの言う通り、生徒会長が妹に言葉をかけている時はいつもの堅苦しい言い方ではなく、優しく語りかけていて、優しい姉そのものの姿だった。
生徒会長という学校の顔を担っているだけあって、別に悪人とまでは思ってなかったものの、そのギャップに少しばかり驚いてしまった。
…だからこそ、そんな生徒会長が俺達を快く想ってない理由を海未先輩に聞いて欲しかったわけなのだが、1人で大丈夫だろうか。でも、人見知りで怖がりな海未先輩でもこういう真面目な場だと頼りになる人だし、先輩を信じよう。
しばらく時間が経つと、話し合いは終わったのか生徒会長がこちらに向かってきた。
「もう話は終わったからいいわ。帰りましょう」
亜里沙ちゃんに向かってそう声をかけた後。
「…あなたも、不純な動機なのかどうかまでは知らないけど、ちゃんと楽しいと思える3年間を過ごすことね」
女は怖いから、と付け加え、厳しい口調で俺に告げた。
生徒会長はおそらく、俺が意中の女の子と近づきたいからマネージャーになったのだと思っているのだろう。
…別に女の子が居るからマネージャーやってるわけではないんだけどな。まあ、傍から見ればそう思われるのもいた仕方ない。否定したところで無駄だろう。
それでも、今のμ'sのメンバーと過ごす時間が無駄のように言われたことだけは心外だった。
「お姉ちゃん、最近張りつめてるからイライラしているんですよ」
「亜里沙、余計なことは言わなくていいのよ」
「ごめんなさーい。あ、そういえば連絡先聞いてなかったですね、よければ竜也先輩の連絡先教えてくれませんか?」
怒りが込み上げそうになった時に、亜里沙ちゃんがサラッと制してくれた。よく出来た妹だ…。
連絡先を交換し終えたところで、海未先輩の声が聞こえてきた。
「あなたに…あなたに私たちのこと、そんな風に言われたくありません!!」
海未先輩のこの言葉を聞くだけでも、何を言われたのか想像するのが容易い。おそらく穂乃果先輩たちへの厳しい言葉を言われたのだろう。友人として怒るのは当然だ。
その海未先輩の元へ亜里沙ちゃんが駆け寄って行った。
「あの…亜里沙、μ's―― 海未さんたちのこと大スキです!勿論竜也さんことも!えへへ…」
そう言い、先に歩いて行ってしまった生徒会長を追いかけるようにして、去って行った。
姉が厳しい言葉を言ってしまった後に、この妹…。本当に出来た子だ…。
「…亜里沙ちゃんと話してたんですけど、姉と違ってとても良い子でした」
「年下の女の子から大好きと言われただけでデレデレですね」
「いやそういう意味で言ったわけじゃ…」
それでも年下の女の子は可愛く見えてくるものなのだろう。同じ屋根で暮らすお嬢様は性格がキツイし。
「ところで生徒会長と何を話されてたんでしょうか?大体想像はつきますが…」
「そのことなのですが…」
海未先輩が言うには、やはり、ビデオを撮影しウェブ上へアップしたのも生徒会長で間違いなかったようだ。
ただし、その理由はダンスや歌がいかに人を惹きつけられないかを証明するためだから、決して俺達のことを想ってというわけではなかったようだ。
更に、生徒会長から見るとスクールアイドルは全部素人にしか見えない。挙句の果てには、あの『A-RISE』でさえも素人にしか見えないと言っていたそうだ。
「…いくらなんでも『A-RISE』を素人呼ばわりはナンセンスじゃないですかね」
「正直、私もそうは思うのですが…。あそこまで自信を持って言われると、生徒会長はもしかするとダンスの経験があったから、という可能性も考えられるのです」
「確かにあの人の性格上、自分に跳ね返ってくるような発言はしなさそうですもんね…」
自分にダンスの自信があるからこそ、他人のダンスに口が出せる程の実力がある。
…となると生徒会長は昔にダンスをしていたことになるわけだが、その推測は果たしてどうなんだろうか。
「希先輩に一度聞いてみようかと思うんです」
「副会長ですか、確かに何か過去のことを知ってそうですよね。でも――」
そんな過去の話へと踏み込んでいいのだろうか。
いくら俺達の目線からすると敵に見える生徒会長でも、踏み行っていいものなんだろうか。
あくまでも憶測に過ぎないが、あれだけ文句を言えるくらいダンスが自信があるにもかかわらず、生徒会長が今現在やっているという話を一切聞かないのはなぜか。
過去に大ケガをして今は踊ることが出来ないからこそ、ああいう言葉がふと出てきてしまうのかもしれない。
そういう重い過去を抱えているかもしれないところへ、本当に、踏み込んでいいのか。
「竜也君が言いたいこともわかります。でも、このまま絵里先輩に否定されているだけでは、前に進めないと思うんです。先輩のことを知った上で、私たちを認めてもらわないと…」
その海未先輩の目は、青い炎のように、静かにギラギラと燃えていたのだと思う。
大丈夫だ、海未先輩のこういう時の精神の強さは人一倍なのだから。
海未先輩がその気なら、男である俺がビビってるわけにもいかない。
「わかりました、行きましょう。俺も付き合います」
かくして、俺と海未先輩で希先輩の働くいつもの神社へ向かった。この時間なら既にバイトへ入ってる時間だろう。
移動中に海未先輩と話していたことなのだが、にこ先輩はともかくとして、穂乃果先輩と凛ちゃんの勉強、大丈夫だろうか。俺と海未先輩が居ない中で勉強が進んでるかどうか思うと首をかしげるしかない。
そんなこんなで雑談をしているとやがて神社へ着き、副会長と会うことが出来た。
「――そう、エリチにそんなこと言われたんや」
「生徒会長がスクールアイドルに批判的だとしても、いくら何でも、『A-RISE』のダンスの歌を素人みたいだと否定するのは頂けないと思うんですよ」
「…ただ、絵里先輩は何でも頭ごなしに否定する方でもないと思うんです。希先輩なら何か知ってるのではないかと思いまして…」
「なるほどな、それでウチに…。エリチならそう言うやろね。実際、そう言えるだけのものがエリチにはあるんよ」
やっぱり、生徒会長には自信を持って批判してる裏付けがあったわけだ。
「知りたい?」
希先輩が少し温かい表情をしながら問う。
俺と海未先輩は迷うことなく、ゆっくりと頷いた。
・・・・・・・・・・
副会長から聞いた生徒会長があそこまで言えてしまう理由はこうだ。
生徒会長は過去にバレエをしていたことがあるらしい。
バレエとは珍しいと思ったが、亜里沙ちゃん曰く家系的にロシアの血が入ってるらしいし、それほど珍しいことでもないのかもしれない。
また、そのバレエの実力は素晴らしいもので、数々の賞をもらっていたそうだ。
俺にはバレエの詳しい知識はないのだが、普通のダンス以上に体にバランスが求められるはず。
実際、俺達がバランス感覚を養う練習をしたのかと言えばNOだし、見る人が見れば"練習不足"と見えてしまうのだろう。
ましてや、バレエで数々の賞をもらう程の実力を持つ生徒会長から見れば…答えは一目瞭然だ。
話を聞いた当時は『やっぱり凄い人だった』という気持ちが出てきたが、それと同時にとんでもない人に認められようと奮闘している事実に、海未先輩は少しショックを受けているようだった。
あの話を聞いた後で、海未先輩との帰り道も会話があまり弾むこともなく。
――それでも、ここでショックを受けて立ち止まっている場合ではないのだ。
「海未先輩、1つ思ったんですけど…」
「…わかってます」
自分たちのレベルアップを狙うなら、やることは1つ。
「絵里先輩に、ダンスのレッスンをお願いしに行きましょう」
海未先輩の提案に、勿論俺も賛同した。
本人に何を思われていたとしても、ダンスの手本になるべき存在がすぐ近くに居るのだ。
そして、生徒会長に認めてもらうのではなく、"人を惹きつける"ダンスを習得するためにも、それが最善の選択だろう。
「ちょっと悔しいですけど、認めざるを得ませんよね。あのダンスを見てしまったら」
「明日にでも絵里先輩に――」
「待ってください」
明日にでも生徒会長に教えを乞うように頼もうとする海未先輩を止めた。
「気持ちが逸るのはわかりますが、今はさすがに試験に集中しましょう」
今や期末試験の一週間前だ。
穂乃果先輩たちが試験に集中しなければならないのは言うまでもないし、俺も海未先輩も赤点を取るまでとは言わないがそれなりに勉強をしなければならない。学業も学生の本分だし。
「それも…そうですね。今やるべきことに集中しなければですね。少しばかり焦ってましたわ」
「そういうことです。第一、穂乃果先輩の勉強を海未先輩以外の誰が見てあげるんですか。ことり先輩だけだと、あのぐうたらな穂乃果先輩をその気にさせるのに時間がかかりますよ」
「竜也君も穂乃果の性格のことを少しずつ分かってきたみたいですね」
くすっと、俺に微笑みを投げかけてくる海未先輩。
さっきまでの暗い雰囲気はどこへやら。
「良かったです…。さっきまで海未先輩が暗かったので、少し心配だったんですよ。今のその笑ってる顔を見て安心しました」
「それを言うなら、竜也君もさっきまで少し怖い顔をしていましたよ。お互い様だった、ってことでしょうか?後輩に気を遣われていたのは少々申し訳なさもありますが…」
「俺だってマネージャーを名乗るくらいですから、顔色を窺うくらいは出来ますよ」
全部が全部実践出来てるかまではわからないけど、周りの女の子達に気を遣うことを心がけるくらいは出来る。それが今の俺に出来る、いや、俺にしか出来ないことなんだろう。
「竜也君なりに色々考えてくれてるんですね、ありがとうございます」
そう言ってまた笑顔を見せてくる。
――海未先輩ってこういう風にやんわりと笑うことがあるのか。
いつも怒ってばかりで、少し怖い先輩の印象が強かったけど、俺の先入観が強すぎたようだ。…大体は穂乃果先輩が原因なんだけど。
「海未先輩のそういう表情、初めて見た気がします」
「えっ?」
「いつも海未先輩は怒ってばかりで…。その時は穂乃果先輩がドジをやらかしちゃって、ってことが大半ですけどね」
「確かに、穂乃果はだらしない行動が多いのでよく叱ってはいますが…」
「今こうやって海未先輩と話が出来て、少し距離が縮まったのを感じます。怖い先輩なんかじゃなくて、こんなに優しい表情を見せてくれるいい先輩なんだなって思いました」
素直に、自分の想いを打ち明けた。実際に自分の思っていることだし、何らおかしくはない。
それを聞いた海未先輩は照れくさくなったのか、少し表情が赤くなった気がする。
「あ、ありがとうございます…。今まで怖い先輩だと思われてたことが心外ではありますが」
「だって海未先輩いきなり腹パンしてくることもあったじゃないですか!あの時の海未先輩の表情は修羅のようで凄く怖かったんですよ!」
あの時は着替え中の穂乃果先輩を、俺の不可抗力で結果的に覗いてしまう形になってしまったわけだが。
「あの時はまだ竜也君のことをよく知らなかったですし、覗き魔だって思うじゃないですか!あんな行動は破廉恥です!」
さすがにハレンチ扱いを受けるのは勘弁願いたいです。
「大体、今だって私のことをそれとなく褒めて好感度をあげようとしてませんか?私のことはともかく、穂乃果やことり、他の子達に必要以上に手を出さないで下さいね!」
「いや好感度も何も、マネージャーとしてですね…」
「ただでさえ絵里先輩のような方の目があるのですから―」
「あの人にも釘を刺されましたけど、特別恋愛がしたくてマネージャーやってるわけじゃないですから!」
そんな言い合いをしつつも、なんだかんだで海未先輩との距離は縮まった気がする。
別に下心ありきで、好かれたいだとかそういう感情が全くないわけではないが、俺が今こうやってマネージャーをしているのは、恋愛をするためではない。
あくまでも、スクールアイドルを応援したいから。それだけのこと。
・・・・・・・・・・
――翌日から勉強会が始まった。
穂乃果先輩も凛ちゃんもかなりの困ったさんで、物事を理解してもらうのにそれはそれはかなり時間が大変かかりましたとさ。
まあ、教える方も少しは勉強になるからそれでいいんだけど。
赤点さえ取らなければいい、というのは内心気楽だ。
その勉強会の甲斐もあり、全員無事に赤点を回避することが出来た。
穂乃果先輩が『53点』とさほど良くない点数で喜んでるあたり、普段の点数の悲惨さを物語っている。こりゃあ、今後も苦労することになりそうだ。
俺個人としては、まあ可もなく不可もなくって感じだったし何ら問題はない。それよりも、凛ちゃんが無事に乗り切ってくれたことの方が嬉しい。
真姫はたまに気に食わない点数があったのだろう。不満げなところもあったが、まあ自分の理想が高そうだからなあ。
とはいえ、不満げな顔をしていたというよりは何か引っかかるような表情をしていた。…まあ、俺が気にすることでもないだろう。
欲を言えば、点数勝負をしてギャフンと言わせてやりたいがたぶん負けそうだしフェードアウト。
テストも終わったことで心機一転。
まずは理事長に報告して、そこから生徒会長のことをみんなに打ち明けて、ますますダンスを頑張ってもらわないと。
――そう思っていた矢先だった。
「大変だよ!今度のオープンキャンパスの結果次第で、廃校が決定してしまうんだって!」
よほど焦っていたのか、穂乃果先輩が大きな声で俺達にそう告げた。
読んで頂きありがとうございました。
この回で苦悩しつつも前に進もうとする海未と、それについていくマネージャーの竜也を描きたかった感じです。
次回で第一章が終わりそうかな…?
感想などお待ちしております~