「大変だよ!今度のオープンキャンパスの結果次第で、廃校が決定してしまうんだって!」
テストも終わり、これから練習を始めようというところで、穂乃果先輩が部室に入って早々に声を荒げていた。
廃校を阻止しようと立ち上がって数ヶ月。早くもその分岐点とやらが来てしまったというわけだ。
突然の出来事にみんな驚いてはいるが、ここで怖気づくわけにはいかない。
「とにかく、オープンキャンパスでライブをやろう!それで入学希望者を少しでも増やすしかないよ!」
穂乃果先輩がリーダーシップを発揮し、一段と輝いて見える。テストという足かせが取れたおかげだろうか?
この人が引っ張っていくのなら俺の立場もあまり必要ないのではないのかとさえ思えてきてしまう程だな…。
ま、猪突猛進な先輩だからこそ、俺を含めて海未先輩やことり先輩で支えてあげるのも大事なんだろうけど。
「とりあえず、俺達の今やるべきことは、オープンキャンパスに向けて新しい曲の練習です。頑張りましょう」
・・・・・・・・・・
かくして、オープンキャンパスへ向けて練習は再び始まった。
因みに、オープンキャンパスにそもそもアイドル研究部が出られるのかという疑問が浮上していたのだが、ことり先輩曰く部活紹介の時間は与えられるとのこと。にこ先輩を招き入れたのも結果的に大正解だったわけだ。
テスト明け直後ということで、逆に足腰の疲れは取れていたのかみんなの動きは前よりも軽快に感じた。だからこそ自分の率直な意見を言ってみんなを褒めて、鼓舞した。…真姫にはさほどそんな言葉はかけないがな。
彼女達も、自分たちの動きの軽快さを感じて、自画自賛をしている子がほとんどだ。
…1人を除いて、だが。
今は全体のフォーメーション確認のために、俺が撮ったビデオをみんなで見返しているわけなのだが…海未先輩の表情は固かった。
「まだです…まだタイミングがズレています…」
「あっ、言われてみれば本当にビミョ~にだけどズレてるかも? わかった、もう1回やろう!」
穂乃果先輩がみんなのやる気をあげてくれている中で、少し海未先輩に目配せした。
「(理想を追い求めるのもわかりますけど、いきなり過ぎませんか?)」
「(…いいんです。そうじゃないと、認めてもらえませんから…)」
海未先輩の気持ちもわかる。生徒会長の昔のバレエの映像を見てしまっただけにそれと比較してしまうのだろう。
生徒会長のレベルが非常に高いことは重々承知だし、それに比べると今のμ'sの面々が劣って見えてしまうのは明らかだ。だが、いきなりハイレベルを求めるのは酷じゃないだろうか…?
この数ヶ月で体力もようやくつき始めて、成長が見え始めてきた頃なのだから。
…それ以上に、ダンスを踊っているわけでもない俺が、先輩達を含めて強く言うことは出来なかった。
もう一度踊った後にも、海未先輩は「まだダメです」の一点張り。
テンションの低さを見るに、おそらく自分もまだまだなレベルなのだと自覚しているからこそなのだろうか。
「何が気に入らないのよ!ハッキリ言って!」
「…感動出来ないんです。今のままでは」
海未先輩が、キッパリとそう言い切った。
俺自身も薄々とは感じてはいたものの、言えなかった一言を、海未先輩が躊躇なく言い切った。
「だからこそ、皆さんに提案があるんです」
・・・・・・・・・・
一旦練習を止めて、海未先輩と俺で、以前に生徒会長のバレエの映像を見せてもらったことを打ち明けた。
それと同時に、恐る恐るではあるが、生徒会長にダンスを教えてもらうようにお願いしてはどうかとみんなに問いかけてみた。
焦る海未先輩の横で、テスト終わった直後のタイミングで…?と俺は内心思っていたのだが、遅かれ早かれ言わなければならないこと、ではあるよな…。
「あの人のバレエを見て思ったんです。私たちはまだまだって」
「話があるってそんなこと?」
「でも生徒会長って絶対凛達のこと嫌ってるよね!」
「つうか嫉妬してるのよ、嫉妬!」
「…そう思う気持ちもわからないでもないんですけど、あんなにバレエを踊れる人から今のμ'sの踊りを見たら、『素人だ』と言えてしまう気持ちもわかるんです」
今のμ'sでは、実力が足りない。
海未先輩が言ったように、今のμ'sのパフォーマンスでは、感動出来ないのだ。
率直にそれを言うのもやや抵抗はあるのだが。
「私は教えてもらうのに反対よ。潰されかねないわ。アンタはそう思わないの?」
「その可能性もあるし否定は出来ない。俺は実際に教えてもらう立場じゃないから俺に意見は言えないよ」
「中途半端な意見ね…」
「意見も聞かずに俺が無理やり教えを乞うようにゴリ押しする方がもっとダメだろ」
あくまでも、主導は穂乃果先輩達の現メンバー7人なのだから。俺は状況を整理するサポートの立場だからこれでいいのだ。
…真姫に皮肉を言われてしまうのは少し心外ではあるが。
「私も反対だわ。3年はにこが居れば十分だし」
「いや正直、にこ先輩が最年長なのは不安でしかないですけど」
「なんですって!?」
にこ先輩のアイドルに対する想いとかはある意味尊敬に値するんだけど、かといって、それについていけるかと言えば否だ。
「私も…生徒会長…ちょっと怖いかな…」
「凛も楽しいのがいいなー」
「そうですよね…」
「そういう意見が多いなら俺は強要は出来ないですね…」
生徒会長とμ'sの仲を考えると、慎重をならざるを得ないのもいた仕方ない。
海未先輩も俺もやっぱりダメだよなあ…と諦めかけた時だった。
「私はいいと思うけどなあ~」
穂乃果先輩の一言にみんなが驚きの声をあげた。
「だって、ダンスがうまい人が近くに居て、もっとうまくなりたいから教わりたいって話でしょ?だったら、私は賛成!頼むだけ頼んでみようよ!」
「ちょっと待ちなさいよ!」
「でも―― 絵里先輩のちょっと見てみたいかも」
「あっ!それは私も!」
「いよーっし!じゃあ早速明日聞いてみよう!」
なんやかんやで穂乃果先輩の鶴の一声で海未先輩と俺の提案が通りそうになっていた。このリーダーシップ、恐るべし。
ことり先輩もすぐに乗せられてしまうあたり、穂乃果先輩のイエスマンなんだろうなあ…。
かよちんの場合はアイドル好きならではの好奇心で賛成したんだろうけど。
ただ、念のため穂乃果先輩に確認しとおかなければならない。
「あのー、俺と海未先輩で提案しておいてアレですが、本当にいいんでしょうか?」
「んー、何がー?」
「あくまでも俺は中立な立場で話をしてるので言わさせてもらうんですが、今の間柄で生徒会長に教えてもらうように頼みに行くのは図々しいお話になるんです。妹想いな一面もありましたし、生徒会長をやってるくらいだから悪い人ではないと思うんですけど、大丈夫かなって…」
「そうだね…。でも、私たちの目標を思い出してみて」
「廃校を阻止する…ですか?」
穂乃果先輩が、この学校のことを好きだから。何度も聞いた言葉だ。
「そう! だったらさ、今度のオープンキャンパスがもしかしたら最後のチャンスかもしれないんだよ…? でも私は、悔いが残らないようにしたい!…私のワガママになっちゃうかもしれないけど、みんなでダンスがうまくなるためにも、どうかなあ…?」
「そう言われると…やらないわけにもいかなくなってくるわね」
「なんだ、さっきまで潰されかねないって言ってたのに」
穂乃果先輩の言葉に、少し心が揺らいだのか、真姫も賛成となりそうだ。
海未先輩はともかく、俺だけだったら真姫は確実に反対のままだったろうな…。
「生徒会長の前でケガだなんて無様な姿は晒したくないし。むしろ、私たちがいかに凄いかってことを見せつけてやりたいくらいよ」
「おーおーこわいこわい」
肝は座ってるからな、この子。
凛ちゃんもかよちんが賛成なら、ということで賛成に。
あとは頑固になりそうなにこ先輩だが、案外すんなりと賛成派に移動した。
しっかたないわね~とやや声が震えてたあたり、空気を察しただけなんだろうけど。
かくして、μ'sの面々がダンスレベルの向上を求めて、生徒会長へ頼みに行くこととなった。
・・・・・・・・・・
「…私にダンスを?」
「今の俺達だけでは、至らない点が多いので先輩にお願いしたいです」
「私たち、うまくなりたいんです!お願いします!」
そう言った後に、生徒会長が俺と海未先輩を一瞥する。
「…わかったわ」
「本当ですか!?」
「あなたたちの活動は理解できないけど、人気があるのは間違いないようだし、引き受けましょう」
思いの外、簡単に了承してくれたようだ。
生徒会長は何を考えているのだろう…。あれから俺達が頼みに来ることは想定していたのだろうか。
「でも、やるからには私が許せる水準まで頑張ってもらうわよ。いい?」
「はい!ありがとうございます!」
了承してもらえたのはいいが、厳しい練習が待っていることになりそうだ。
・・・・・・・・・・
早速だが生徒会長に教えてもらいながら練習する日々が始まった。
今更ながら気づいたことだが、基本的に練習を回していくのは生徒会長になったので、俺は傍から見るだけになり、なんだか自分の立場がわからなくなってしまった。
疲れてる子を気遣う役しか出来ないのは歯がゆいな…。
とは言っても、本当にヤバくなったら生徒会長は練習を止められるくらいの眼力はありそうだ。
実際、生徒会長の練習メニューは参考になるものばかりだった。
バレエをやっていただけあり、柔軟性、バランスを重視するメニューがとても多い。
凛ちゃんのケースだと、運動神経が抜群故にダンスのセンスはあるものだと思っていたが、体が硬いので体力の消耗がとても激しいし、安定はしない。
確かに今までの練習を振り返ると、凛ちゃんはいい動きをしていたがミスも多かった印象だ。その原因が柔軟性だとすぐに気が付いた生徒会長…侮れない。
初日は生徒会長からのダメ出しばかりだった。
「もういいわ、今日はここまで」
「ちょ、何よそれ!」
「そんな言い方はないんじゃない?」
今の実力を見て呆れかえってしまったのだろうか、1時間ほどで練習を切り上げてしまった。
元々生徒会長相手に乗り気でなかったにこ先輩と真姫は不満気味だ。
「私は冷静に判断しただけよ。自分たちの実力が少しはわかったでしょう?今度のオープンキャンパスには、学校の存続が懸かっているの。もし出来ないって言うなら、早めに言って。時間が勿体ないから」
「待ってください!」
そのまま帰ろうとした生徒会長を、穂乃果先輩が呼び止める。
「ありがとうございました!明日もよろしくお願いします!」
穂乃果先輩の後に全員で「お願いします」と言った。
色々ダメ出しはされたし、気持ちが萎えてしまうようなところだったが、ここで逃げては意味がない。
一度生徒会長に教えてもらうとみんなで決めたのだ。簡単にその意思を曲げるわけにはいかない。
「皆さん…お疲れ様でした」
生徒会長が屋上を出た後に、みんなをねぎらった。
「傍から見てた俺が言うのもなんですが、今までより濃密な練習だったと思います。…体力的に大丈夫でしょうか?」
「私は大丈夫!これくらいやらなきゃだよ!他のみんなは大丈夫かな?」
「ちょっと苦しいけど…頑張らなきゃですよねっ…」
体力的に不安のあるかよちんも頑張ってくれているんだ、それだけオープンキャンパスに向けて真剣になってくれているという証拠。
俺も、もう少しだけでも彼女達にいい言葉がかけてあげられればいいんだが…。
「…まだ時間もあるので、しばらく休憩した後に再開しましょう。皆さん日陰で休んでてください」
休憩の時間に、自販機へと向かうことにした。
と言うよりは、一旦女子だけの場にしてあげたかったのだ。間違いなくみんな体力を消耗しているし、休憩の時間だけでも気を抜けるようにしてあげたい。
…この行動が、マネージャーとして正しいのかはわからないが。気を遣わないでとは言われたけれど、どこに一線を引けばいいのか、わからない。
自販機に向かうと、生徒会長と副会長と出くわした。
さっきのさっきだとやや気まずいな…。
「あなた…」
生徒会長と目が合う。
「…どうも」
「…あなた、どうしてあの子達のマネージャーをしているの?」
自販機で飲み物を選ぼうとすると生徒会長が話しかけてきた。そういえば生徒会長からすれば俺がなんでこんな立ち位置に居るのかは知らないのも無理もないか。
以前に亜里沙ちゃんと喋ってた時には、俺が下心ありきでマネージャーをやっていると思ってそうだったし。
「…別に、特別な理由はないです。やりたい部活もなかったですし。
…強いて言えば、先輩達に誘われたからでしょうか。居てくれると助かるみたいだそうで。それがお世辞かどうかはともかく、誰かに必要とされるってことって嬉しいじゃないですか」
「そう…。それが、あなたの"やりたいこと"なの?」
"やりたいこと"。
そんなこと、考えたこともなかった。マネージャーをやっていることも成り行きみたいなものだったし。
でも、穂乃果先輩達に誘われた時から思ってたことはこうだった。
穂乃果先輩達が頑張る姿を傍から見ていたい。
真姫、凛ちゃん、かよちんの輪に自分も加わっていたい。
それが俺の、やりたいことなんだろう。
「言うなら…、自分に親しい人が頑張っている姿を、間近で見たかったんです。そしてそれを応援する立場、支える立場の人間として、傍で見ていたい。
…それが俺の、"やりたいこと"なのかもしれません。」
自分でもあまり整理しきれてはいないが、大体こういうことなのだろう。
「…てっきり、誰か意中の娘が居るのかと思ってたわ」
「まあ、女の子ばかりの中に飛び込んでるくらいですから、そう思われても仕方ないですけどね」
「そうやって平静を装っておいて、意中の娘について話さないだけかもしれないけどね。以前に平然とウソをついてたあたり、冷静な人みたいだし」
以前にウソ…。ああ、理事長にラブライブ出場の話をしに行った時に、生徒会長と出くわした時のことか。
あの時はその場を回避するべく、とっさにウソをついたんだっけな。
「冷静な人とは買い被り過ぎですよ。生徒会長や副会長の方がよっぽど冷静な方だと思います」
「あら、嬉しいこと言うてくれるやん?ウチらを口説いても何も出てこうへんで?」
「いやそういうつもりは…」
海未先輩もそうだったが、口説くつもりはさらさらないのになぜみんなそう思うのだろう。女の子はそういう生き物なのか…?恋バナが好きだとかよく聞くけれど。
「…それがあなたの、"やりたいこと"ね。時間を取ったみたいでごめんなさい。私たちは生徒会へ戻るわ」
そう言って生徒会長はその場をあとにした。
「因みに、君はエリチの"やりたいこと"って何やと思う?」
副会長が生徒会長には聞こえない程度の声で俺に囁いた。
「希、何してるの。早く行くわよ」
「はいは~い。それじゃあね、マネージャーさん」
…生徒会長の"やりたいこと"。そんなこと、考えたこともなかった。
今の生徒会長は、廃校を阻止することがやりたいことではないのだろうか?実際、そうするように生徒会で動こうとしている節は何度か見てきた。
ただ、副会長がわざわざ俺にあんな聞き方をするあたり、もっと複雑な感情が生徒会長の中で渦巻いているのではないのだろうか?
生徒会に没頭するあまり、生徒会長自身の"本当にやりたいこと"を本人が見失っているとか。
あくまで憶測でしかないが。
考えるのもアレだし、早く屋上に戻らないと。
・・・・・・・・・・
翌日。放課後の朝練習のため、1年生組で屋上へ向かう途中だった。
屋上の扉の前に居る生徒会長が居た。
「覗き見ですか?」
「…い、いえ…」
真姫がそう言った。確かに、外から眺めているような感じはあった。あの生徒会長に限って、入るのを躊躇うような人ではないとは思うが。
それを見た凛ちゃんが半ば強引に生徒会長を中に招き入れた。すっかりノリノリだな、この子。
μ'sの面々が次々と言葉をかける。今から厳しい練習もなんのそのという空気だ。
「…辛くないの?」
生徒会長がポツリと疑問を漏らした。
「昨日あんなことをやって、今日同じことをするのよ?…第一、うまくなるかもわからないのに」
「やりたいからです!」
穂乃果先輩が即座にその疑問に答えてみせた。
「確かに、練習はすごくキツいです!体中痛いです!でも、廃校をなんとかしたいと思う気持ちは、生徒会長にも負けません!」
そうだ。穂乃果先輩はスクールアイドルが好きということもあるんだろうけど、一番に"やりたいこと"は廃校を阻止したいということ。
その想いがあるからこそ、今の厳しい練習にも頑張って耐えようとしているのだ。
「だから今日も、よろしくお願いします!」
穂乃果先輩がそう言って頭を下げたあとで、みんなで頭を下げた。
何を思ったのだろうか、生徒会長は屋上から出て行ってしまった。
「ちょっと照れくさくなったんですよ、きっと。俺が呼んできます。皆さんは柔軟でもしててください」
その場をあとにし、俺も生徒会長を追いかけた。
・・・・・・・・・・
生徒会長に声をかけようとしたら、先に副会長が声をかけていた。
どうやら真剣な顔をしているし、入っていける雰囲気でもなかったので、一旦角に隠れてやり過ごそう…。
「エリチと友達になって、生徒会やってきて、ずっと思ってたことがあるんや。エリチは、本当は何がしたいんやろうって」
昨日、副会長が俺に問いかけてたことを、そのまま本人へと聞いているようだ。
「一緒に居ると、わかるんよ?エリチは頑張るのは、いつも誰かのためばっかりで、だから、いつも何かをガマンしてるようで、全然自分のことを考えてなくて――
学校を存続させようとしてるのも、生徒会長としての義務感やろ!?だから理事長も、エリチのことを認めなかったんと違う!?
…エリチの、エリチの本当にやりたいことは?」
…そうか。生徒会長としての義務感で廃校の阻止を…。
ダンスを教えてくれるのを簡単に快諾してくれたあたり、ただスクールアイドルが嫌いってわけじゃなかったのか…。
「何よ…。なんとかしなくちゃいけないからしょうがないじゃない!
…私だって、好きなことだけやって、それだけでなんとかなるならそうしたいわよ!」
涙を流しながら生徒会長が叫んでいた。
…あんなに感情的になる人だったのか。いや、普段はもっと冷静なんだろうけど、おそらく友人に核心を突かれてしまって、少し自分を見失っているのだろう。
「自分が不器用なのはわかってる…!でも…っ!
今更アイドルを始めようなんて、私が言えると思う…?」
…そういうこと、だったのか。
生徒会長はスクールアイドルなんて嫌ってはなかった。目に敵になんてしてやなかった。
講堂でライブを録画していたことだって、ずっと俺達のことを気にかけていたからだったんだ。
μ'sの踊りを見て、自分だったらああ踊れるだろうだとか、そんなことを頭の中で考えていたからこそ、厳しい言葉をかけていたのだろう。
でも、自分は生徒会長としての建前上、今から急に生徒会と掛け持ちしながらスクールアイドルをしていくのは難しい。
自分が実際にスクールアイドルとして出来ないから、色んな感情が渦巻いていたに違いない。
でも―― 俺達が実際に声をかければ?
生徒会だって廃校を阻止するための活動をしているのであれば、その生徒会長がその活動のためにスクールアイドルをするのは間違ってないはずだ。
…やるしかない。
「副会長さん」
「君は…」
生徒会長は逃げるかのようにどこかへ行ってしまい、その場で少し立ち尽くしていた副会長に声をかけた。
「すみません、今の一部始終見ちゃってました」
「…女の子が泣いてるところこっそり見てるだなんて、趣味悪いで…?」
「本当にそれですね…。生徒会長にあとで謝っておきます。
…μ'sの一員となってもらった後に」
「…なんや、丁度君らのところに助けを求めようと思ってたとこやったんよ」
副会長も思っていたことは俺と一緒だったみたいで、話し込む時間もそう長くはなかった。
副会長を連れて、屋上へと向かい、みんなを事情を話し、説得することにした。
事情を言ったらみんなすぐに納得してくれた。
・・・・・・・・・・
「私の…やりたいこと…。そんなもの…」
教室へこっそりと入ると絵里先輩が外を眺めながら何かを考えているようだった。
自分の置かれている立場からすれば、どうしようもない問題なのだろう。
でも、その状況を、俺達が打開してあげればいい。
絵里先輩の元へと行き、穂乃果先輩が手を差し伸べた。
「生徒会長…いや、絵里先輩。お願いがあります!」
「練習?なら、昨日言った課題を全部こなして――」
「絵里先輩、μ'sに入って下さい!」
生徒会長の言葉を遮るように、穂乃果先輩が声を張り上げた。
「一緒にμ'sで歌って欲しいです!スクールアイドルとして!」
「何言ってるの、私がそんなことするわけないでしょう」
まだ、生徒会長の心の殻は破られない。
「さっき、希先輩と竜也君から聞きました」
「やりたいなら素直に言いなさいよ~?」
「…にこ先輩に言われたくないけど?」
「ちょっと待って、別にやりたいなんて!大体、私がアイドルなんておかしいでしょう!」
生徒会長は、まだ自分の心を押し殺していた。
「別に、おかしくないですよ。生徒会長が学校のためにスクールアイドルをするだなんて、普通のことです」
「やってみればええやん?特に理由なんか必要ない。やりたいからやってみる。
本当に"やりたいこと"って、そんな感じに始まるんやない?」
そう言って副会長が微笑みかける。
他のみんなも絵里先輩に微笑みかけた。俺は顔を作ることが苦手なんだがな…。
生徒会長が全員を見渡した。それと同時に、だんだんと困惑していた顔が、いつものキリッとした顔に戻りつつあった。
穂乃果先輩が差し伸べた手を―― 生徒会長が掴んだ。
つまりこの瞬間、生徒会長はμ'sのメンバーになったということ。
「絵里先輩…!」
「これで8人…」
「いや、9人や。ウチを入れて」
「え、希先輩も…?」
まあ、生徒会長をスクールアイドルにしてあげたいと動いてたあたりから、予想は出来ていたこと。
穂乃果先輩達に話すまでに、俺が予め聞いておいたことだった。
「占いで出てたんや。このグループは9人になった時、未来が開けるって。
だからつけたん。9人の歌の女神、"ミューズ(μ's)"って」
「え、じゃああの名前をつけて下さったのって希先輩だったんですか!?」
ギリシャ神話の話はよく知らないが、副会長が言ってたように芸術の女神の総称を英語・フランス語では「ミューズ」と言うらしい。ギリシャ語だと「ムーサ」と呼ぶらしいが。
この名前をつけて、そして9人目となる最後の1人が副会長。
最初からこうなることがわかってたら…大した先輩だ。
「希…。まったく、呆れるわ」
絵里先輩が歩き出す。
「どこへ…」
「決まってるでしょ、練習よ!」
全員が歓喜の声を上げた。
「…最初からこうなるのが分かってたかのようですね」
「どうやろな?君が居らんかったら、こんなにうまくいかんかったかも」
「先輩も持ち上げるのうまいですよ」
占いの力とは、恐ろしいものだ。
・・・・・・・・・・
かくして、生徒会長と副会長を加えて、マネージャーの俺を除いてμ'sは9人のメンバーとなった。
ここまで来るにあたっては何かの因果が働いてたのかはわからない。副会長が糸を引いてたからなのか、穂乃果先輩がみんなを引っ張ったからなのか。もしかしたら、俺もその要素の1つだったかもしれない。
ただ言えることは、新しく先輩達が入ったことによって、更に濃密な練習が可能になって、確実にスクールアイドルとしてレベルアップしたのは間違いない。
そうして臨んだオープンキャンパス。
「皆さんこんにちは!私たちは音ノ木坂学院のスクールアイドル『μ's』です!私たちはこの音ノ木坂学院が大好きです!この学校だから、このメンバーと出会い、この9人が揃ったんだと思います。これからやる曲は、9人になって初めて出来た曲です!
――私たちの、スタートの曲です!」
オープンキャンパスのステージで、穂乃果先輩が集まった観客へ向けてそう喋っていた。
本番のステージは、俺は一観客としてステージ下に紛れていた。
「お姉ちゃん、とっても楽しそうに話してる…」
「私のお姉ちゃんも嬉しそうだよ。これもぜーんぶ、竜也さんのおかげなんですよね」
「全部でもないよ。大体は亜里沙ちゃんのお姉さんが"やりたいこと"を見つけてくれたおかげ」
亜里沙ちゃん、そして穂乃果先輩の妹さんらしい雪穂(ゆきほ)ちゃんと喋っていた。
こうやって妹に見守られて、生徒会長も穂乃果先輩も幸せものだよなあ。
さあ、いざ本番だ。
「聞いて下さい!『僕らのLIVE 君とのLIFE』!!!」
――――ライブは無事、大盛況に終わった。
エリチと希が加入して、第一章はこれにて終了です。
ここまで色んな子へとスポットが当たっていましたが、次の章からようやく主人公竜也君と真姫ちゃんの関係について掘り下げていく話になります。真姫ちゃんが好きでこの小説を読んでくださってる皆さん、お待たせしました(汗
さて、通算UAも20000、評価もちょくちょく頂いてます。読んでくださってる方がいらっしゃるのは嬉しい限りです。
今後ともお付き合い頂けると嬉しいです。それでは~(=゚ω゚)