ラブライブ! ~お嬢様と一つ屋根の下~   作:軍曹ニキ

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第2章 Warped mind
key.19 乱れる感情


オープンキャンパスは無事大盛況に終わった。

 

アンケートの結果も、廃校の件も一旦様子を見るということに終わった。

少なからず、μ'sが貢献出来たことは間違いないだろう。

事実、今回の結果を踏まえて、アイドル研究部に今までよりも大きな部室が与えられた。今まで屋上での着替えだったのが、少しは楽チンになるというわけだ。

 

そして、これからはラブライブへの出場を目指し、また練習に励む日々となる――

 

のだが。

 

 

「……あちぃ」

 

そろそろ夏休みに入ろうというこの時期。

炎天下での屋上の練習はなかなかに酷な話だ。下手に練習して、みんなが熱中症にならないか心配で仕方がない。

 

「ってゆーかバカじゃないの!?この暑さの中で練習とか!」

「そんなこと言ってないで、早くレッスンするわよ!」

 

生徒会長がここで一喝した。穂乃果先輩もこれまでのμ'sを引っ張ってきた実績はあるが、人生経験などを考慮すると生徒会長の方が圧倒的に頼りになりそうだ。

 

「…同じ3年生なのに、にこ先輩と会長とで全然カリスマ性が違いますね」

 

「何ですって!?アンタ後輩のマネージャーのクセして生意気過ぎよ?」

 

「そこで先輩面して俺に歯向かってる時点で自覚してください…」

 

まあ、ある意味これでにこ先輩のキャラは立ってるからアイドルとして見れば、

「イジられキャラ」としてはアリっちゃアリなんだろうけど。

 

本人の意向はともかく。

 

「それもだけど、これからは先輩も後輩も関係ないからね。竜也君も私のことを"会長"なんて呼ばなくていいのよ」

 

「それでは絵里先輩って呼べばいいでしょうか?」

 

「違うの、先輩も後輩も関係ないって言ったでしょ。"絵里"でいいのよ。呼び捨てで」

 

生徒会長は年下の俺に驚くべき提案をしてきた。

確かにスポーツ系の部活は上下間の隔たりを無くすためにあえて敬語を使わないとか聞いたことがあるな。

 

言われてみればこれまでずーっと生徒会長と呼んでたな…。なんか急に絵里先輩って呼び直すのも気難しい感じがしてたけど、なるほど。

オープンキャンパスも終わって、今がいい機会だよな。

 

「な、なんか恐縮ですけど… よろしく、"絵里"」

 

「いきなり年上の先輩を呼び捨てだなんて、あたかも竜也君の彼女っぽく聞こえてくるなぁ~?」

 

言われてみればそんな気もするな…。まあ、絵里がいいって言うならそれでいい気もする。

そういえば希先輩は相変わらず俺のことを「君」付けで呼ぶのか。後輩の女の子には大抵「ちゃん」付けだったことを考えると、まあ何ら変でもない。

 

「絵里にも俺にもその気はないのでそう言っても無駄ですよ、希」

 

「うーん、ウチのことを急に呼び捨てで呼んでビックリさせたかったんやろうけど、その前に敬語使ってるからあんまり響いてこんわ~。ウチを口説こう思ったらそんなんじゃ甘いで?」

 

「…まだ慣れてないんで。あと口説くつもりは別にないですからね!」

 

希に手玉に取られるのはある意味真姫以上に悔しいな…。

なんというか、前々から思っていたが、人生経験がある意味絵里よりも豊富そうなだけに出し抜くのが大変そうだ。

 

 

「とにかく、今言った通り、みんなも先輩後輩は気にしなくていいからね。これからのためにもその呼び方に早いうちに慣れた方がいいと思って」

 

みんなも最初こそは戸惑っていたが、すぐに快諾した。徐々に慣れていくことだろう。いや、俺も慣れないといけないんだけどな。

2年生の先輩方も呼び捨てっていうのはちょっと違和感があるけど…。

でもにこに関しては自然と呼べた。いや呼べてしまったというのが適切だろうか。威厳って大事だなぁ。

 

しかし…それでも急に、沢山の異性の先輩を呼び捨てで呼ぶことに、抵抗があった。

 

「なんか不服そうやね?」

 

「不服ってわけではないんですけど…ちょっと驚いてるだけです。男の先輩でさえ呼び捨てで呼んだことが今までなかったのに、それが異性の先輩ともなると…」

 

顔が暗くなってるところを早速希に気づかれてしまった。この人は本当に鋭い…。

 

「そういう気持ちもあるかもしれないけど、これは竜也君にも乗り越えて欲しいことなの。そこまで男女間を意識して欲しくないから」

 

「…と、言いますと?」

 

年頃が相手だし、俺はこれまでも気を遣う場面が多々あった。

部室が変わって着替えの心配はしなくてもよくなったが、そもそも穂乃果の着替え中に入ってしまう失敗もあったりしたし、どうにも慎重になるのだ。

 

「オープンキャンパスが終わるまで言わなかったけど、ところどころ席を外したりして女性だけの空間にしようと動いてたりしなかったかしら?

マネージャーなんだからその場に居るのが普通よ。私たちだってそれくらいはわかってるし、気を遣い過ぎて欲しくないの。

 

…せっかく私たちのマネージャーなんだから」

 

「そう…でしたか」

 

 

今まで、気を遣い過ぎていたと指摘されてわかった。言われてみれば確かにそうだ。

ところどころ男女間を意識して席を外していたら…何のためのマネージャーなのか分かりやしない。

それもまた見越しつつ、絵里は呼び捨ての解禁を提案してくれたのだ。

 

「本当、絵里は入ってきたばかりのμ'sの色んなところを見てますよね」

 

「希にも前々からどんな感じなのかは聞いてはいたけどね。…あと、敬語も使わなくていいからね」

 

「あー… 気をつけます、じゃなくて気を付けるよ」

 

「いい感じ!ハラショーよ!」

 

 

絵里から片目でのウィンクをもらいつつ、お褒めの言葉を頂いた。

2つ上の年上の先輩、しかもハーフの美人さんにこんなことされたら、ウチのクラスの大半の男子は一瞬で落ちそうだ。

俺は落ちちゃいけない立場だけど。

 

 

……ん?本当に落ちちゃいけない立場なのか?

マネージャーだからと自制をしてたけど、男女間を意識し過ぎるなと言われたということは、そこまで自制する必要もないのだろうか?

 

考えれば考えるほどわからなくなってきた。そういう細かいところは今はいいだろう。

特別何かをしているわけでもないマネージャーの俺なんかに落ちる者も出ないだろうし、俺もたぶん落ちることはない。

恋愛に発展することはないのだ。

 

…そのはずだ。

 

 

「でも、凛達1年生同士は特に変わることもないよねー」

 

「確かにそこは安心だよね~、改めてよろしくね!」

 

凛ちゃんとかよちんを呼ぶのはなんだか実家のような安心感があるぞ…。やっぱ先輩を急に呼び捨てだなんて緊張するし。

 

「ま、アンタに関しては居候の身だし、真姫お嬢様って呼んでくれてもいいのよ?」

 

「じゃあ真姫お嬢"ちゃん"でどうだろうか」

 

「…ふざけてるの? アンタよりも下の立場みたいに思われるじゃない」

 

「ふざけてるのはどっちだよ。それより、俺には"アンタ"じゃなくて"竜也"って名前があるんだが?」

 

「はいはい、竜也"さん"。これでいいの?」

 

「このアマ…」

 

こういう場面で「さん」付けされるとムッとしてしまうのはなぜだろうか。

 

まあ、1年生同士の絡みはこれまで通り変わることもないだろう。

なんやかんやで気を遣わずに言葉をぶつけられるのは真姫くらいだが、それも今となってはなんだかありがたみを感じてしまった。そのありがたみを感じてしまった自分が悔しい。

真姫自身はどう思ってるかは知らないが。

 

 

「そういえば話は変わりますが…」

 

海未先輩が話し始めた。

 

 

「明後日には1年生のみ、夏休み前の実力テストがあるのですが…そちらの方は皆さん大丈夫でしょうか…?」

 

 

海未先輩の言葉に「ウソだにゃ…」と崩れ落ちる者が約1名。誰かなのかは…説明不要か。

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

「なーんーでー!凛たちは部室で勉強なの!?勉強するくらいなら暑い中でも練習してる方がまだいいにゃ!」

 

「そんな凛ちゃんの勉強に付き合わされる俺の身になってみろって」

 

まあ、炎天下の中に居るよりはこのクーラーが効いた部屋が楽なのは間違いないしある意味ラッキーだ。

間違っても穂乃果先輩とかには言えないが。…おっと、穂乃果、だったか。

 

一応、普段からコツコツと勉強しているであろう、真姫とかよちんはそのまま練習に励んでいた。まあ、成績にかかわる重要なテストでもないしな。あの2人なら赤点を取ることもないだろう。

 

「竜也君はまだいいじゃ~ん。凛が問題解いてる間はそうやって本を読んでいられるし」

 

「こういうスキマの時間を利用して俺自身の教養を高めてるんだよ。凛ちゃんもそういう時間を作って勉強出来れば、こうやって苦労することもないんだぞ」

 

「そんな面倒なこと凛には向いてないよ~」

 

「でしょうな」

 

実際、こうやって本を読むことは大事なことだ。

歌詞を考える上での語彙力は、こういう積み重ねより高まっていくものだろう。

 

凛ちゃんがいつか作詞するってなったら大変だろうな。たぶんなさそうではあるけど。

 

「まあ、ちょっと煮詰まってきたなら気分転換でもしよう」

「本当!?それじゃあ早速屋上へ練習に…!」

「だーめ。気分転換は5分程度。体を軽く動かすことならここでも出来ることだろ?」

 

凛ちゃんに屋上へ行かれては困る。いくら暑い中がイヤだったとしても、凛ちゃんにとっては勉強と比べると天と地ほどの差があるだろう。

今は勉強してもらわないといけない。仮に赤点でも取ってもらったら、ペナルティーはないとはいえ、理事長に合わせる顔がない。

 

「うぅ…竜也君のケチ、厳しいよ…」

 

「テストが終わったら散々体を動かせるから。早速だけど今ここでやってもらうのは柔軟だからな」

 

「…え"っ」

 

 

以前、絵里に言われて柔軟性が欠落していると指摘された凛ちゃん。

その体の固さは相当なもので、よくぞこれであれほどの運動神経が発揮出来るな、と思わせるほどだ。

柔軟性さえあれば、凛ちゃんのパフォーマンスはもっと良くなるのに。

 

 

――そんなわけで。

 

 

「痛い痛い痛い痛い痛いにゃあああああ!!ちょっと竜也君!手加減してよ~!」

 

「…そんなに力入れてないけどな」

 

それにしても、ちょっと体が固いにしろ悲鳴の度合いが半端ない。相当な痛がりだな、この子。

背中の後ろから押してあげてる力はそんなに大きくないのに…。

 

「大体、そういう竜也君の体はどうなの!?凛だけにして不公平だよ!」

「俺は別に踊ったりしないし不必要だからいいんだよ」

「嘘だー!竜也君だって体が固いからそんなことを言ってるんだよ!試しに座ってみて!」

 

凛ちゃんが半ば強引に俺に柔軟をさせようとしてきた。

…俺も柔軟に関してはあまり自信がないのだが。

 

仕方ないので流れるがままに座ってみた。

 

「いくにゃー、せーのっ!」

 

凛ちゃんの掛け声の後、腰から足にかけて全身が激痛を襲った。

 

「いってぇえええええええ!!いきなり何すんだ!」

「やっぱり~!竜也くんだって体固いじゃん~!」

 

体が固いとかそうじゃなくて、いきなり全力で背中を押すか、普通?

 

「体が固いのは認めるけど、凛ちゃんよりはマシだ」

「私よりも大きな声で痛いって叫んでたと思うけどにゃ~」

 

確かに思わず声が出たのは認めるがそこまで叫んでただろうか…。自分じゃわからないからな…。まあ、部室のお隣さんとかに迷惑がかかってなければいいか。

 

「いや別に声量で勝負とかじゃないから。とりあえずちゃんと体の固さを知りたかったら、後ろからゆっくり押してくれよ」

 

「もー、仕方ないにゃ~」

 

と言いながらも再度後ろから凛ちゃんが背中を押してくれることに。

 

…ふと思ったが、本当に体の固さを知りたかったら、背中から押してはいけないんじゃないのだろうか。よく体力テストなんかで長座前屈がある時は、基本的に自力だし。

 

自分の体がある程度伸びきったところで、少し痛みを感じる。

 

「やっぱり思ってた通り体固いね~。足に手が届いてないじゃん~」

 

「……そうだな」

 

あれだけ凛ちゃんに対して苦言を言っていたので何も言い返せなかった。

 

「いや、まあ…、俺はスクールアイドルじゃないし?」

 

「そのスクールアイドルを支えるマネージャーがこんなに体が固いようだと、説得力が皆無だよ!まずは凛が手伝ってあげるから!」

 

凛ちゃんがそう言うと、今度は彼女の全体重が俺の背中に降り注ぐ。

一気に力をかけてないだけ凛ちゃんも学習しているのだろうが、ストレッチとして適正なやり方な分、さっきより余計に激痛が走る。

 

「痛いからやめろって、ストップ!ストーップ!」

 

「やめないよーだ。オープンキャンパスまでの期間、ずーっと凛をいじめてた分の仕返しだにゃ!」

 

確かにオープンキャンパスまでの期間は、絵里に言われて凛ちゃんには柔軟を重点的にやらせてはいたが…まさかここで自分に跳ね返ってくるとは。

 

凛ちゃんも腕だけで体重をかけてくれればいいのに、彼女の上半身を俺の背中に密着させる形で押してくるから、色々と問題がある。

 

俺自身、異性と手を繋ぐくらいのことは慣れてはいるが、ここまで露骨に体を密着させることには慣れてないだけに、少し心拍数の乱れを感じる。

…凛ちゃんは平気なんだろうか?まあ、μ'sの中では一番男子との触れ合いが多そうな子だからなあ…。

 

無理やり凛ちゃんを振りほどくことも出来ないことはないが…強引にやるとケガをさせてしまうかもしれない。

 

つまりこの状況。

 

 

――凛ちゃんの気が済むまで、腰から足にかけての激痛と心拍数の急な高まりに耐えなければならないということだ。

 

 

早めに飽きてくれないだろうかと悟りを開きかけた途端、部室のドアが開く音がした。

 

 

 

「アンタ達… 一体何してるの…?」

 

 

 

今この状況で入ってきたのだろう、真姫の声が、静かな部室に重く響き渡った。

 

 

 

 

 




第二章、スタートです。

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