今日から早速音ノ木坂学院での生活が始まる。
そう、今日は新入生である俺達の晴れ舞台でもある、入学式だ。
普通に学校生活が始まると思うと逆にホッとしている自分が居る。普通だと勉学に励まないといけないし面倒なんだが、それ以上にこの豪邸生活は驚きの連続で、気が気でなかった。
初めて真姫ちゃんの家に行ってから今日まで約1週間の生活。俺には新鮮なことが多すぎた。
体を休める場であるいつも一人分のスペースだった風呂場も、温泉じゃないのかと感じる広さだし、何よりも真姫ちゃんと風呂場で鉢合わせるわけにもいかない。
基本的に気を遣いまくりの生活なのだったのだ。
正直寮に住んでる感覚だな。迷惑をかけないように心がけてたから。
とは言っても、執事である和木さんの作る料理は非常に美味しかったし、いいところも沢山ある生活だ。
この生活も時期に慣れるだろう、時期に。
さて、せっかくだし真姫ちゃんと一緒に学校に…
ってあれ、和木さんと真姫ちゃんは何を言い合ってるんだ?
「ですから…お父様とお母様がそうしろと言われておりまして…」
「車出せないの!?パパとママもなんでそうするのか意味わかんない!」
「学校へ歩いて行かれる方が地元の方とのツテを作れるということだそうで…」
「もういいわ、歩いて行ってくる!」
そう捨て台詞を言う真姫ちゃん。和木さんも大変だなあ。こんな気難しい子のワガママを聞かないといけないし、真姫ちゃんの父と母からの伝言もあるだろうし。
執事は決して楽な仕事じゃない。俺ならストレスマッハで1週間持たない自信がある。
そして真姫ちゃんがこちらへ向かってきた。
「ほら、東谷君も来るでしょ?あなたも歩いて行くの?」
「初日だからね。いずれ自転車通学するかもだけど」
「ふーん、ま、せっかくだし一緒に行ってあげてもいいけど」
「なんでそんな上から目線なんだ… 別に構わないけどさ」
平常心平常心…。そう自分に言い聞かせる。
まあ、同じ家に住んでる者同士、しかも同じ高校ときた。
高校入学の初日から女子と肩を肩を並べて登校出来る優越感に浸らせてもらおうじゃないか。
何事にも好意的に捉えないとだ。
「音ノ木坂は歩いて何分くらいかしら?」
「うーん、このペースだとたぶん15分くらいじゃないかな」
「…割と遠いわね」
「だから自転車通学を考えてるんだよ」
そんな他愛もない会話をしながら歩いていく。
すると音ノ木坂学院の校門が見えてきた。
「…生徒はパッと見、女の子が多いな。受験の時にも思ったけど」
「昔は女子高だったらしいわよ。近年は少子化で人数が足りなくなったから共学校になったそうよ」
そう、この音ノ木坂学院。昔は女子高だったそうだ。
なぜそんな高校に俺が入学したのかと言えば、単純に両親の薦めだ。決して女子の多いところへ行きたかったわけではない。
薦めた理由は大方家から近いから、っていうことに過ぎないからだろうけど。仕事が忙しい親としてはあまり遠い高校に行ってほしくなかったのだろう。
幸い、音ノ木坂学院はさほど難しい学校でもないし、中学でもそれなりの成績だった俺はすんなりと合格出来た。
…あれ?
よくよく考えればなぜこんな高校に真姫ちゃんという箱入りのお嬢様が入学してるんだ?
見た感じキレ者で相当頭は良さそうだし、何よりも医者の娘だ。両親も普通は私立へ入れたがるはずだが。
ふと考えてみたが、理由はサッパリわからない。まあ、いずれそういうことが分かる日もくるだろう。
俺達は校門の中へ入り、自分達のクラスを確認した。
「一緒のクラスだといいな」
「私はどっちでもいいけど」
お約束な言葉を真姫ちゃんに言ってみたが、そっけない返事が返ってきた。相変わらずツンツンしてるなあ。
そう言いクラスを確認すると…
「あれ、一緒も何も… クラスは1つだけじゃないか」
「そうみたいね、本当に生徒少ないのね。この学校。」
ま、生徒の数なんて私には関係ないけど、と吐き捨てる真姫ちゃん。
とはいえこの数はなんだか寂しいな。在学途中で廃校とかにならなければいいんだが… まさか、な。
入学式を終えて、クラスでのホームルーム。
軽い自己紹介や班での軽い雑談。その他モロモロを済ませて一旦休憩に入る。
とりあえず席が隣の人にでも挨拶しておこうか。
クラスに溶け込むにはまず色んな人に名前を憶えてもらわねば。
「やあ、俺の名前は東谷竜也。よろしく。」
「あ、えと…こ、小泉花陽(こいずみはなよ)です。よろしくお願いします…」
隣の席の子は凄くたどたどしい子だった。
メガネをかけていて凄く臆病そうで、引っ込み思案な感じが滲み出ていた。
「えーと…俺達同級生なんだから敬語じゃなくていいよ。」
そう言うと、急に元気のある子が声をかけてきた。
「そうだよかよちん!同じクラスの人なんだから普通に仲良くすればいいんだにゃ!」
…にゃ?
「いきなり入ってごめんなさい、私の名前は星空凛(ほしぞらりん)!凛って呼んでね。かよちんとは小中学と一緒だったんだよ~、よろしくにゃ!」
「幼馴染か、俺の名前は東谷竜也、改めてよろしく。"かよちん"っていうのはこの子のアダ名?」
「そうそう!竜也君もかよちんって呼べばいいと思うよ!ね、かよちん?」
「ちょっと凛ちゃん、初対面なのにグイグイ喋り過ぎだよ~」
「かよちん、高校入る前に言ってたよね。中学の時は引っ込み思案だったから、高校の時はもっと積極的になりたい、って!今がその時だよ!」
…なんだか2人で話が始まってしまっていた。
活発な性格でグイグイ来る語尾が猫っぽい凛ちゃん、と引っ込み思案でオドオドしているかよちん。
なんというか凸凹コンビって感じがする。仲も良いんだろうなあ。
「あのー…」
「あ、かよちんと2人で進めててごめんなさい!えーと、お名前何だったかにゃ?」
「忘れるの早いよ!…東谷竜也。」
記憶力も猫くらいなんだろうか。
「そうそう竜也君!ごめんなさい、かよちんはいつもこんな感じだからにゃー…」
「ア、ハハ…」
苦笑いすることしか出来ない。
とはいえ、かよちんとちゃんと挨拶しておかないと。
「えーと…改めてよろしくな、かよちん?」
「う、うん、よろしくね。竜也君」
ようやく俺を受け入れてくれたみたいだ。良かった。男嫌いなのかもしれないと最初は思ったぞ。
「うん、かよちんよく出来ましただにゃ!」
「うう、凛ちゃん元気だなあ…」
この2人と仲良くするのに越したことはないよな。
真姫ちゃんも紹介しよう、と思って彼女の席を見てみたら、その時は席に居なかった。
お手洗いにでも行ってたのだろうか?また後でこの2人にも紹介しよう。
ちょっとクセのある2人だけど、それ以上にクセある女の子だからなあ、真姫ちゃんは。
仲良くなれるものなんだろうか。
まあ、クセがある者同士なら謎の化学反応を起こして仲良くなれるかもしれない。たぶん。
和木さんというお手伝いさん(執事)の方ですが、真姫ちゃんのSidに出てくる方と一緒の方だと思って頂ければ幸いです。