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真姫を後部座席に乗せて約30分、ようやく俺の家へとたどり着く。
「真姫、着いたぞ。暑苦しいしそろそろ俺から離れてくれ」
「言われなくてもそうするわよ!大体アンタが抱き付いてこい、みたいこと言いだしたんでしょうが!」
「誤解を招くようなこと言うなよ、そんなこと言ってねえし」
しっかり捕まってもらわないとだったし、下手に転んでケガされても困るだけだからな。
「とにかくほら、ここが俺の家だから入れよ」
「はいはい」
そう言って真姫を自分の家に案内する。
真姫の家に居候することになってから、自分の家に帰ることはほぼなかった。強いて言えば必要な衣服などがあれば取りに行く程度で1度や2度くらいしか帰ってない。
つまり、誰も使ってない家であることも同然だ。
「…ちょっと変な匂いしない?」
「誰も居ない家って掃除もしないからな、少しくらいガマンしろ」
元々は俺の家とはいえ、さすがに人を呼ぶために掃除などはしていない。
お嬢様にはこういう匂いはちとキツイだろうがガマンして欲しいものだ。
「大体、真姫も別荘持ってるんだろ?掃除とかどうするんだよ」
「そういうのって和木さんが大抵やってくれてるから」
「あー、そりゃそうか…」
ウチは執事とか雇わないから縁のない話だった。
「とりあえず、何も食うものがないから適当にその辺で見繕ってくるよ。リビングで適当にくつろいでてくれ」
「…この小汚い家で一人待てって言うの?」
「…イヤならお前が何か買いに行けよ」
「…それも何か癪ね」
「どっちだよ!まあ世間知らずなお嬢様を一人家に置いていったところで何をしでかすかわからないからな、それじゃあ俺と来い」
「…まったく、人使いが荒いんだから」
ブツブツ言いながらも真姫と俺は近くのスーパーへ出かけた。
軽く食事をする程度なので、簡単なものが作れる程度のものを買っただけだが。
トマト好きのお嬢様のご機嫌を取ろうとトマトを買おうとしたら事実機嫌が良くなった、単純なことだ。
で、再び家に戻ってきて。
「さすがにリビングで寝るのもアレだし、寝床の掃除をしてくる。お前野菜を洗って切るくらいのことは出来るよな?」
「私を誰だと思ってるのよ、任せておきなさいって」
「…洗剤で野菜を洗ったりしないよな?」
「いくら料理をしたことがないからって、そこまで非常識じゃないわよ!」
さすがに洗剤で野菜を洗うような人なんて滅多に居ないか。
先ほど買い物してた時の会話に、真姫は特に料理をしたことがないらしい。強いて言えば学校の調理実習くらいだとか。
ああいう生活をしてれば、自分で料理をする機会なんてないに決まってるよなあ。
…さすがにこの家出生活が続くとは思えないが、あまり生活能力のない子と共同生活するのは勘弁したいものだ。
しばらくして、寝床や風呂などの軽い掃除を終えると、真姫が一通りの工程を終えていた。
簡単なこととはいえ、包丁で指を切らないか不安だったが無事に終わってホッとしている。
「ほら、あとは任せたわよ」
「一仕事終えて、心なしか誇らしげだが、これくらいの包丁さばきは小学生でも出来ると思うぞ」
「うるさいわね、別にちゃんとやっといてあげたんだから感謝しなさい」
「はいはい」
ブツブツ言いながら真姫の切った野菜を炒めていく。
買いに行く前に確認はしていたが、調味料類は賞味期限などが切れずに残っていて助かった。さすがに米は市販の簡単なものを買ったが。
…思えば自分で簡単に料理するのも久々な気がする。
父親も母親も帰ってくることが遅いことが多く、自分の飯は自分で作る機会が多かったから、昔はよく料理していたものだ。
だから真姫の家に居候することになって、料理を出してもらう生活は少しばかり違和感だ。まあ、楽であることは間違いなくていいのだが。
簡単に炒めた料理を真姫に出した。ひとまずはこの1つの皿を分け合う形だ。
「アンタって意外に料理出来るのね。驚いたわ。てっきり不器用な男だと思ってた」
「そりゃどーも。お嬢様よりは作れないとな」
とはいえ同級生の友人たちは自分たちで料理は出来るのだろうか。…自分で言うのもなんだが、たぶん出来ない人が多いだろうな。
「お前さんも少しくらい料理は出来た方がいいと思うぞ、そんなんじゃ将来誰も嫁にもらってくれねえだろうし」
「一言多いわね。自分で作れなくても他の人に作ってもらえばいいのよ」
「ずっと和木さんとかの料理を食べ続けるつもりか…」
「あーでも、フランスの一流シェフとかを旦那さんにしたいわね~。それだったら毎日美味しい料理が食べられるんだから」
「…大きな夢をお持ちのようで。そんな相手なんてそうそう居ないぞ。もう少し現実的な相手を考えろよ」
「別にいいじゃない、間違ってもアンタみたいなのはあり得ないけれど」
「そりゃあこっちのセリフだ」
こんなヤツを将来嫁にする男はさぞかし大変なこった。
まあ家柄的に、それこそスペックの高い許嫁とか居そうな気もするけれど。
…親父さんが用意した許嫁とか。また、そういう展開で荒れることも今後ありそうな気がするなあ。
・・・・・・・・・・・
…さて、食事を終えて一段落したのであとは体を洗って寝るだけなのだが。
因みにシャワーの使い方を教えるのにも一苦労したし、着替えの洗濯をどうするのか大変揉めた。
「とりあえず服とかはこの中に放り込んでおいてくれ、真姫は洗濯機の使い方絶対わからないだろうから俺でやっとくから」
「え、ちょっと待ちなさいよ。アンタ私の服とかに何するつもり?」
「何もしねぇし、ただの親切心じゃねえか!むしろ任せて壊されたらたまったもんじゃないから」
結局最終的には洗濯機の使い方まで教える羽目になった。ホント困ったお嬢さんだ…。
でもまあ、ようやく就寝するにまでこぎ着けた。
「とりあえず、お前は俺のベッドで寝てくれ」
「…ハァ!?何言ってんのバッカじゃないの!?」
「何をそんなに喚くんだよ、俺はリビングのソファで寝るだけだし真姫はそもそもベッドじゃないと寝れないだろ」
「え、あ…そういうことね。アンタ言葉足らずなのよ…
ってそうじゃなくて、なんでアンタのベッドでなのよ、他にないの?」
「親のベッドはあるにはあるが、綺麗に片づけられてて、準備するのに時間も労力がかかるんだよ。誰かさんが洗濯機で揉めなければ時間がないこともなかったけどな」
そう、時計の針は0時を回ろうとしていた。
今日1日、家を出てから色々あり過ぎて疲れているし早く寝たいのがお互いの本音だろう。
「そう…。な、なんか悪いわね。気を遣わせちゃって」
「何を今更。…まあ、あれだ。
そうやって色々減らず口を叩くくらいには元気が戻って何よりだよ。
いつまでもしゅんとしてるのも真姫らしくないからな」
そうだ。今ではすっかりケロッとしてはいるが、つい数時間前までは、普段の真姫では考えられないくらいに大泣きしていたのだから。
「な、何よ急に。そんなことアンタから言われるとちょっと気持ち悪いじゃない。あれはちょっと取り乱しちゃっただけよ!早く寝たいからアンタの部屋まで案内しなさいよね」
「はいはい」
とりあえず真姫を俺の部屋のベッドで寝させることにした。
俺が敷布団を部屋に引いて同じ部屋で寝ることも考えた。
正直、こういう時は一人にさせた方がいいのかさせない方がいいのかわからない。
結局のところ、下手に障らない方がいいだろうし真姫を1人にすることを選択した。
で、俺はソファで寝ると言ったはいいものの。
「…寝れねえ」
かれこれ数か月、西木野家のあまりにもふかふかの素晴らしいベッドで寝ていたせいで、いきなりソファで寝るという劣悪環境においてはさすがに俺の体が悲鳴をあげたようだ。
なんか寝れないし、こういう時はホットミルクでも暖めてみるか。
重い腰をあげたところ、静かな夜に少し何かしらの音が聞こえてきた。
…俺の部屋、真姫が寝ているところか。よくよく考えればベッドを用意したとはいえ、同じ枕だとかそういうのじゃないと寝れないのかもなあ。こればっかりは仕方ないが。
ただ、普通に寝返りをしたような音ではない。
あまり良くはないが部屋の近くを耳を傾けてみる。
『……ヒグッ… ウッ…』
…真姫が、すすり泣く声が聞こえた。
…聞いちゃ、いけないやつだったな。
そりゃそうだ。あれだけのことがあって平常心でいられる子はそうそう居ない。
親とあれだけケンカして、家を出ることになって。そもそもこれからどうするべきなのかは不透明な状態だ。
μ'sでの活動を真っ向から否定されてしまって、その問題からずっと逃げているわけにもいかない。
そもそも、この家を出ているという状態も長く続くわけもない。
どこかのタイミングで、真姫の親御さんと話す機会が必要なのだ。
…勢いで家に連れてきてしまったのだが、果たして本当に良かったのだろうか…?
いずれにせよ、明日にみんなに相談しなきゃだ。
…今のこの状況、みんなはなんて言うんだろうか。
読んでいただきありがとうございました!
また続きちょくちょく書いていくのでよろしくお願いします。