…さて、あのピアノの演奏の後に俺なんかのギターを弾いて聴かせるってことになったはいいが…少し緊張気味だ。
緊張というよりは不安の方かもしれない。
俺なんかのギターの実力じゃガッカリされるのが目に見えてる。
…いや、せっかく真姫ちゃんが聴きたいと言ってるんだ。
この2週間同じ家に住んでるのにほとんど会話をしてなかったが、ようやくそういう機会が巡ってきたのだから。
「ギター取ってきたよ、曲は…何がいいだろう」
「何でもいいわよ」
「そっか、それじゃあ…」
昔に軽音部の仲間と引いた曲を弾いてみせた。
当時好きだったバンドのコピー曲。みんなたどたどしい感じで、決してうまくはなかった。それは俺にも言えることだ。
だが皆で音を合わせて演奏している時はとても楽しかった。
昔の仲間は今頃元気にやっているだろうか。
…ちょっと弾いただけで昔のことを思い出してしまったな。
「へえ…案外やるじゃない。」
演奏を止めると、お世辞なのかわからないけど、真姫ちゃんは褒めてくれた。
この子は言いたいことはハッキリ言うし、下手なら下手って堂々と言ってきそうな子だが… 本当に俺の演奏が良かったのだろうか。
お前は謙遜し過ぎとバンド仲間に言われてたし、少しは自信持っていいかもな。
「真姫ちゃんのピアノのレベルに比べたらまだまだだよ。…でも、ありがとうな」
「私はピアノばかりで、ギターは弾いたことないから羨ましい限りだわ。ギター弾きたいと言ってもパパが買ってくれなさそうだし」
「そっか、俺はそもそもピアノなんて高価なもの親におねだりなんか出来ないよ」
お金持ちと言えども何でもおねだりしたら買ってもらえるわけでもないのか。
「…なんだか私達、境遇は違えど似たもの同士なのかもね」
「え?」
一瞬、真姫ちゃんの言った意味がよくわからなかった。
箱入りのお嬢様とただの凡人が似ている…?
「お互いがお互いにその楽器が弾けることを羨ましく思ってるこの状況。なんだか面白いじゃない?」
そうか、そういう意味合いか。
こんなお嬢様でも俺なんかを羨ましく思うことなんてあるのか。
「…言われてみればそうだね。…似た者同士か」
思わず含み笑いをしながら言ってしまった。
「な、何笑ってるのよ。私変なこと言ったかしら?」
「いや、変ではないんだ。俺みたいなそこらへんの凡人と、真姫ちゃんみたいなお嬢様でも接点はあるんだなって思ったら、思わず笑っちまった。
お嬢様が俺みたいな奴を羨ましく思うことがあるだなんて驚きだよ」
「そりゃ私だって誰かを羨ましくことなんてあるわよ。むしろ、東谷君に限らず色んな人を羨ましく思うことなんてザラにあるわ」
何か遠くを見つめるような、諦めたような目つきをしながら真姫ちゃんは言った。
真姫ちゃんのようなお嬢様が誰かを羨ましく思うだなんて、そんなわけないだろ。
そう言おうとした俺はすぐに言うのをやめた。それは失礼だ。
"お嬢様"というのはあくまで俺が貼ったレッテルに過ぎないが、お嬢様だからといって自分の好き勝手な生活が送れているとは限らないのだ。
ピアノを弾いている真姫ちゃんに対する、父親の含んだような言い方。そして医者の娘。
そこから考えられる答えは容易に想像できる。
だから俺が言うべき言葉やすべき行動は、
真姫ちゃんを"お嬢様"として接するのではなく、"一人の普通の女の子"として接すること。
「…そうか、人間なんだしそりゃそうだよな。俺だって色んな人を羨ましく思うし。そう考えると真姫ちゃんに親近感が湧いてきたし、近い存在に思えてきた」
「むしろ今の今まで遠い存在と思われてたのね…。私、お嬢様扱いされるのは嫌いなのに」
やっぱり真姫ちゃんはお嬢様扱いされるのが嫌いな子だったのか。
きっと小中学生時代は同級生にそのような扱いをされていたのだろう。そして真姫ちゃんも他の子達と距離を取っていた。いや、取らざるを得なかったのだろう。
周りが皆が自分にだけは余所余所しい。そんな状況にウンザリして…やがて誰とも無理に仲良くなろうとしない子になってしまった。
そんな姿が容易に想像出来た。まるで…今の高校での真姫ちゃんの状況とそっくりじゃないか。
「俺も最初はそういう扱いをしていたと思う。不快に思っただろうしそこは申し訳ない。この通りだ」
そう言い俺は頭を下げた。
やっぱり人は外観や先入観だけで判断しちゃダメだ…。
「頭を下げられるほどじゃないわ。…分かってくれたらいいのよ。今まではそもそも分かってくれる子も1人しか居なかったから…」
「1人?…その1人は真姫ちゃんの友人?」
「そうよ。中学校の頃は一緒だったけど、今は全寮制の高校に通ってる子。文通くらいでしか連絡が取れないのよね」
「全寮制の高校って珍しいな… となると会うのも難しい相手か」
全寮制の学校ってそもそもあまり聞かないからなあ…お嬢様学校かもしれない。
真姫ちゃんもむしろそのお嬢様学校に行きたかったんじゃ…と思ったが、そういうことは考えないようにしよう。
さっきお嬢様扱いはしないと真姫ちゃんに言ったばかりじゃないか。
「東京から遠い場所に居るらしいからね。夏休みとか長期休暇の時にはこっちに戻って来るかもだけど」
「じゃあまたその子が帰ってきた時でいいし紹介してくれよ。真姫ちゃんが仲良くなった相手だし少し気になるし」
「構わないわ。ちょっと先が長い話だけどね」
1つ今後の楽しみが増えた。
この真姫ちゃんと最初に打ち解けた女の子。
今でこそ、ある程度俺と話が通じるが、先にその女の子が打ち解けていなければ、真姫ちゃん自身は未だ閉塞感に溢れた子だったのかもしれない。
俺一人なんかでは今こうやって真姫ちゃんと話が出来ているのか怪しいし、その女の子に感謝しないとな。
「…しかし、真姫ちゃんとこうやって色々話したのも初めてだな」
「東谷君は今の今まで余所余所し過ぎるように感じたわ」
「そりゃ済まなかった。俺も新しい生活に慣れるのに大変だったんだし、今後は気を付けるから許してくれ。んで、仲良くしようぜ。…俺達、"似た者同士"、なんだろ?」
俺は少し笑いながらそう言った。
「そうだったわね。家柄の違いはあれど、お互いがお互いを羨ましむ…"似た者同士"ね。」
真姫ちゃんも少し照れ笑いしながら言った。
よくよく考えれば1人の女の子とは仲良くしたことはあるけど、俺のような男とは友人として仲良くしたことは過去にあったのだろうか。
考えても仕方ないことか。
「それじゃあ、似た者同士改めてよろしくってことで…」
俺はそっと再び手を出した。
最初に会った日にしたことと、同じように。
「…東谷君、それ好きなの?」
「好き、っていうよりはなんとなくクセだよ。握手は手と手とお互い握り合う。それで友情とかが生まれる、って俺のお婆さんが昔言ってた」
「へえ…あまりよくわからないけど。まあいいわ、改めてよろしく」
そう言って真姫ちゃんは俺の手を取った。
今日で少し真姫ちゃんとの距離が縮まったような気がした。
最初はお互いに気まずさが残ってはいたが、これからはあまり気にしなくて良くなるだろう。むしろそう願いたい。
「真姫ちゃんも学校で色んな人と話そうな。会話を重ねればみんなきっとわかってくれるって」
「ま、出来る限りはやってみるわ」
明日からの学校生活に、少し明るみが感じられた。
お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、真姫ちゃんの言う1人の友人とは、Sid(真姫版)で登場していた子です。
さて4話分書きましたが、いかがでしたでしょうか。最初は話の土台作りとしてスローペースでしたが、ここからアニメ準拠でガンガン話を進めていく予定なのでよければ今後もお付き合い頂けると幸いです。