ラブライブ! ~お嬢様と一つ屋根の下~   作:軍曹ニキ

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key.5 歌声

廃校の知らせの翌日。

校内はやはりその話題で持ち切りだった。

朝も昼も、どの休み時間も。少しくらいは別の話をしててもいいじゃないのかと思うが…

ま、そりゃこれだけ重大な話だ。しばらく生徒は皆この話題を喋り続けるのだろう。

 

「みーんな同じ話ばかりして…バカみたい」

 

「おいおい真姫ちゃん、頭で思ってても口に出すもんじゃないって」

 

やや不機嫌気味の真姫ちゃんをなだめる。

他の生徒と仲良くすべきとは言ったものの、接点が見つけられないし俺もどうしたものか…。

 

「私ちょっと出てくるわ」

 

「え、どこに行くんだ?」

 

「音楽室よ、暇つぶしに最適なのよ」

 

「そうなのか、暇だし俺も行っていい?」

 

「構わないわ」

 

 

・・・・・・・・

 

 

今まで休み時間は、凛ちゃんやかよちんと喋ることが多く、その一方で真姫ちゃんはいつもどこかへ行っていた。

だからどこに居るのかサッパリだったのだが…音楽室に行っていたのか。

 

「昼休みは結構時間があって暇なのよね。先週音楽室を見つけたんだけど、誰も来ないし誰も使ってないししばらく使わさせてもらってたの」

 

「そういうことか。音楽室は…ピアノがあるからな。…全く、どれだけピアノが好きなんだか」

 

「今のこの学校の楽しみはそれくらいしかないのよ、それ程面白そうな部活も何もないし、廃校する高校なんてそんなものでしょ」

 

「…痛烈な一言だこと」

 

相変わらず毒が強いな。

この前に真姫ちゃんの家で話をした時は丸くなったと思ってたんだが。

毒舌状態の真姫ちゃんをどうしたものかと思ってたが、1つ案が浮かんだ。

 

「なあ真姫ちゃん、この前聞いてた感じだと自分で作曲してたんだよな?もしかして歌も歌ったりもするのか?」

 

「出来ないことはないわ。弾きながら歌うことは滅多に歌うことないけどね」

 

「やっぱり歌もいけるのか凄いな…。よかったら聴かせてよ」

 

「えぇ…」

 

ド直球で歌を聴かされてくれとは言ったものの、本人からはいい反応が得られなかった。

まあ、急に歌声を聴かせてくれって言われても困惑するだけか、反省反省。

 

「ま、どうしても聴きたいっていうならいいけど」

 

「いいのか…」

 

どう説得しようか考えてたら結局歌ってくれるのか。1つ返事じゃないあたり素直じゃないな。

自分のピアノと歌声を聴いてもらう機会なんてないだろうし、もしかして一度誰かに歌を聴いてもらいたい、なんてことを今までに思っていたのだろうか。

そんな質問を投げかけたら、真姫ちゃんは間違いなく不機嫌になって、歌う気をなくしそうなのでやめておこう。

 

「でも!歌ってる姿を見られるのはイヤだからあっち向いてて」

 

そう言って、真姫ちゃんはピアノのある方向とは真逆の音楽室の後ろの方を指差す。

まあ、歌声が聴けるならいいか。

 

「わかった、後ろの方向いておくよ」

 

俺はそう言って真姫ちゃんとピアノと正反対の方向を向いた。

 

 

真姫ちゃんが軽くピアノを弾き始めた後、しばらくすると同時に歌い始めた。

 

…うわ、すげえいい声だ。とても、綺麗な声。

あの特徴的な声だからどんな歌声だろうと思ってたが、いざ歌ってみるとこんなに透き通る声になるのか。

カラオケに来たわけでもないのに、なんだかんだ歌うと言ったからそれなりに歌唱力に自信があったのだろう。

ある程度うまいだろうとは俺も予想していたが…これほどとは。

 

今の真姫ちゃんはマイクを通してエコーをかけて歌っているわけではない。

何も通さず、純粋に彼女自身の声だけで歌っているのだ。しかもピアノを弾きながら…

 

恐ろしい程のポテンシャルを持った子だ…

こんな子が将来普通に音楽の道を歩んでいくのだとしたらどれほどのものなんだろう。

つくづく医者の娘であることを勿体なく感じた。

 

 

真姫ちゃんの歌声に感銘を受けてたら、演奏が止まった。終わったようだな。

 

さてなんて感想を言おうか…素直に褒めるべきか、いやしかしベタ褒めはダメだろうか…

……と思っていた矢先だった。

 

教室の外から突然拍手が聞こえてきた。

その拍手をしている女の子は驚いたような顔をしている。正直言って変顔だな、あれは。

 

「ヴぇぇ!?」

 

真姫ちゃんもあの女の子に驚いたのか、変な声を出してしまっていた。

そりゃあんな顔をいきなり見たら驚くわな。

 

その女の子は拍手を止めると即座に音楽室へ入ってきた。

 

「凄い凄い!感動しちゃったよ!」

 

「べ、別に…」

 

「歌、上手だね!ピアノも上手だね!それに、アイドルみたいに可愛い!!!」

 

ベタ褒めじゃないか。

とは言うものの、彼女の意見には同意だ。歌もピアノも上手。アイドルみたいに可愛いかどうかと問われるかわからないが…。

俺はアイドルものの曲なんてさほど知らないし、テレビ番組で見ることも聴くことはあまりないからな…。

 

「ね?君もそう思うでしょ?」

 

「え?」

 

俺に急に槍玉が飛んできたから真姫ちゃんと同じく変な声が出てしまったじゃないか。

俺達、驚いた時に出す声も変な声…こんなところで"似た者同士"かよ…。

 

「え、まあ…そうじゃないのでしょうか」

 

急すぎて曖昧な回答しか出来なかった。

そんな出会ってまだ間もないのに、これから仲良くなりかけてる子にアイドルみたいに可愛いとか言うにはまだ早いだろう。

 

「そうでしょそうでしょ~! あの、いきなりなんだけど… あなた、アイドルやってみたいと思わない?」

 

真姫ちゃんへ向かって、この先輩は急な問いかけをしてきた。

……。

急な提案で俺はついていけないぞ。

 

「……。何それ、意味わかんない!」

 

そう言って真姫ちゃんは音楽室を出て行った。あれ、俺は置いてけぼりかよ…参ったな。

 

「だ、だよね… アハハハハ……」

 

この女の子も苦笑している。むしろ苦笑したいのはこっちなんだが。

普通にピアノと歌を聴いて感想を言うべきところで急に真姫ちゃんに逃げられてしまったし…全く。

せっかく真姫ちゃんの機嫌が直ると思ったが振り出しだ。

 

とりあえずなんで急にアイドルやってみないかと口走ったのか知りたかったので、この女の子と話してみることにした。

 

「そりゃ急にアイドルやってみないか?って言われたら困惑しますよ、普通は」

 

「だよね…私、いつも勢いだけで話しちゃうから…。友達に注意されてばかりなんだよね…」

 

「1つ勉強になったと思ってみたらいいんじゃないんですかね…。

 ところで、あなたは2年生以上の方ですか?見たところ1年生の教室では見かけない顔なので」

 

「あ、そうそう!私2年生の高坂穂乃果(こうさかほのか)!その話を聞く限り、君は新入生の子かな?よろしくね、お名前は?」

 

「東谷竜也です。よろしくお願いします」

 

正直おっちょこちょいキャラっぽいし、先輩って感じのしない人だが…まあそれは別だ。しっかり敬語を使わないと。

 

「竜也君だね、覚えておくよ!竜也君は…さっきの子とどういう関係?もしかして音楽室に2人きりで居るくらいだし恋人とか…?」

 

この先輩は下の名前で呼んでくれるのか。俺も穂乃果先輩と呼ぶことにしよう。

それにしても…思った以上にフレンドリーな人だ。

こんなおっちょこちょいな人でもちゃんと注意してくれる友達が居るってことは、それなりのコミュニケーション能力を持っているからこそなのだろう。

 

「恋人とかそんな洒落たものじゃないですよ、ただ俺があの子の家に居候させてもらってるってだけです」

 

「そうなんだ~。ゴメンね、穂乃果が急に入ってきちゃったりして…あの子ちょっと不機嫌になっちゃったかも…」

 

「ありゃ大分不機嫌になったでしょうね」

 

「えええ!?ゴメンね…ホントゴメンね!」

 

「まあ、いつもあんなムスッとしてる子なんで大丈夫ですよ」

 

「それはそれでどうかと思うけど…」

 

喜怒哀楽が激しい先輩だなあ。

とはいえ、いちいちリアクションが大きいし喋っていて面白い人だ。

話のペースが先輩に握られてしまうのは少し悔しいが。

 

「ところで、なんであんなことを聞いたんですか?アイドルのスカウトでもしてるんです?」

 

「そのことなんだけど、音乃木坂って廃校になっちゃうでしょ?だから、それを阻止したくて"スクールアイドル"を始めようと思うの」

 

"スクールアイドル"か…。

テレビに出てくるアイドルとかならわかるが、スクールアイドルはそこまで詳しくはないな…。

でも最近は時たまに聞くワードだし、流行ってるのかもしれない。

 

「その…スクールアイドルっていうのはそこまでよく知らないのですが、穂乃果先輩は結構よくご存じなのでしょうか?」

 

「私もつい最近知ったばかりなんだけど、スクールアイドルっていうのはね…」

 

そう言うと、穂乃果先輩はスクールアイドルのことを教えてくれた。

 

音ノ木坂学院の近くにある、UTX学院のスクールアイドルの"A-RISE"というグループが大人気で、最近では一番人気の高校となっているということ。

全国各地では様々な高校生たちが目標の違いはあれど、スクールアイドルをしている高校生が多いということ。

穂乃果先輩は、彼女の友人たちと共にスクールアイドルを結成して廃校を阻止しようということ。

 

「なるほどです…俺はその心意気、凄いと思いますよ。結果はどう転ぶかはわかりませんが応援します」

 

特別この高校に思い入れがあるわけでもないし、廃校を絶対に阻止して欲しいというわけではないが…、このように何らかに一生懸命になろうとしている人は応援したくなるものだ。

とはいえ、俺に言えるのは"頑張って下さい"という無責任な言葉のみなのだから世の中は残酷だ。

 

「その気持ちだけでも嬉しいよ。ありがとうね。

さっきの子…ピアノ上手だし私たちと一緒にアイドルやって…あわよくば曲も作ってくれると嬉しいんだけどな…」

 

「他力本願じゃないですか…」

 

応援するとは言ったが大丈夫だろうかこれ。

 

「だって私には曲を作る才能なんてないから…。ああやってピアノが弾けるだけでも羨ましいのに…出来ればでいいんだけど、さっきの子にそれとなーく、スクールアイドルのこと、話しておいてくれない?」

 

穂乃果先輩もやっぱりピアノが弾ける人は羨ましいって思うタイプか。俺も同じことを思ってたし、やはり一般的にはそうだよな。

ってかこれ、俺は仲介役を頼まれてるんだよな。面倒なことになっちまった…。

応援しますと言った手前断れないし、まあ乗っかった船だ、仕方ない。

 

「あの子の機嫌が良い時にでも話しておきますよ、そろそろ昼休みも終わるんで教室戻りますね」

 

「うん、ありがとう!またね!あの子によろしくーーー!!!」

 

ホント、元気な先輩だ。あれならうまくスクールアイドルやれそうな気がしないでもない。

実際は難しいだろうけど、それを跳ね除けてしまいそうくらいなポジティブな先輩に思えた。

 

「あ、そうだ。改めて、"スクールアイドル"応援してます。頑張って下さいね」

 

そう言って俺は手を差し出した。

応援すると言った手前、ちゃんと敬意を表しておかないとだからな。

 

「うん、ありがとう!きっとこの学校の廃校を阻止してみせるからね!」

 

俺の右手を穂乃果先輩は両手で握り返してきてくれた。俺の方が年下なのになんだか申し訳ないな。この先輩、こういうところはしっかり礼儀正しいというか、人の心を掴むのがうまいんだろう…。

 

そして、音楽室を後にした。

…あ、真姫ちゃんの名前教えておくの忘れてた。さほど重要なことでもないか。いずれわかることだろうし。

 

さーて、教室に戻ったら不機嫌な真姫お嬢様をどう料理しましょうかね。参った参った。

…っと、お嬢様呼ばわりはいけないだっけか。

 

とりあえずさっきのピアノの感想を言わないとな。

どういう風に感想を言うべきか、頭を巡らせながら、俺は教室へと戻って行った。




ようやくアニメ第1話の部分に入ってきました。
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