どっちがいいのだろう…w
「失礼します!」
昼休みのことである。
真姫ちゃんは、今日は図書室へ行っているらしく、俺は凛ちゃんとかよちんと雑談をしていた時に、穂乃果先輩とその友人らしき人物が教室へと入ってきた。
急にどうしたのだろう、昨日の今日だしスクールアイドルの宣伝でもするのだろうか?
「新入生の皆さんこんにちは!スクールアイドルの高坂穂乃果です!」
そう高らかに穂乃果先輩は言うが、クラスの皆はポカーンとなっている。急にこんなこと言われても困惑するだけだよな。
案の定、凛ちゃんもかよちんも驚いていた。そりゃそうだ。
昨日の真姫ちゃんもアイドルやってみないと勧誘されてたが、急に言われて困惑してたし。
「…あれ、全く浸透してない?」
「当たり前です」
「それで…穂乃果ちゃんが言ってた歌の上手な子は?」
前でこそこそ話しているようだが会話内容を聴く限り、行き当たりバッタリ感が少し見て取れる。
青髪の先輩はある程度状況は掴めているようだが…おそらく穂乃果先輩が1年生に知ってもらおうと教室に行くように促したのだろうか。
すると、教室の扉がガラリと空いた。入ってきたのは真姫ちゃんだった。
真姫ちゃんの姿を見ると、穂乃果先輩はすぐに駆け寄り教室の外へと真姫ちゃんを連れて行った。
ってことは、新入生への挨拶も兼ねてたが真姫ちゃんを勧誘しに来たってことか。昨日の今日であんな拒否をされてたのに懲りないものだなあ。
先に穂乃果先輩が折れるか、真姫ちゃんが折れるか、どっちに転ぶだろうか。
…あ、穂乃果先輩に真姫ちゃんによろしく言っといてと言われたのに、すっかり忘れてた。
今連れて行ったみたいだけど…またキツく拒絶されたりしてないだろうか。
・・・・・
~真姫side~
「お願い、あなたに作曲してもらいたいの…!」
「お断りします!」
昨日、アイドルの勧誘をしてきた先輩がそう言うが、私にその気はサラサラなかった。
厳密に言えば、アイドルではなくスクールアイドルらしいけれど、興味が持てなかった。クラシックは聴くけれど、アイドルの曲なんて薄っぺらくてどうにも好きになれない。
それに…仮にスクールアイドルがやりたいと思ったとしても…そんなことパパが許してくれるわけないとも思った。
「あ、もしかして歌うだけで作曲とかは出来ないの?」
そう言われた瞬間、ムカッとした。この言い方、なんだか失礼じゃないかしら?
「出来ないわけないでしょ!ただ、やりたくないんです。そんなもの…」
「学校に生徒を集めるためだよ!その歌で生徒が集まれば!」
「興味ないです!」
これ以上話しても無駄と思ったので屋上を後にした。
少し強く当たり過ぎてしまったかしら…。先輩を驚かせてしまったかもしれない。私の悪い癖だわ…。
でも、学校の廃校を阻止するだとか、あまり興味が持てなかったのは本当のこと。
別に私だってこの学校に望んで来たわけじゃないし、この学校そのものに思い入れなんてないのだ。
だから、スクールアイドルなんて…。
・・・・・
~竜也side~
真姫ちゃんが穂乃果先輩に連れて行かれた後、教室はしばらく静かになっていたが、やがて活気を取り戻していた。
皆、スクールアイドルという単語に興味津々だった。そこまで知らなさそうだった男子連中はともかく、やっぱり最近の女子高生には流行のものだったのか。
「2人とも、この学校のスクールアイドルのことは知ってた?」
「昨日からだったけど、スクールアイドルの張り紙がされているのは知ってたよ」
「え、ホント!?凛は全然気づかなかったにゃ~。さすがアイドルのことになると詳しいよね、かよちんって」
「り、凛ちゃん!今はその話はいいって!」
「へ~、かよちんはアイドルが好きなのか」
女の子なのにアイドルが好きって意外だな。
女の子だったら普通に男の集まったグループが好きなのだと思ってたぞ。偏見は良くないが。
ん、あれも一応括りとしてはアイドルになるのだろうか?いまいち詳しくないせいで混乱してきた。まあ、目の前にいるアイドル好きに訊けば解決しそうだ。
この話は追々訊くとしようかな。
「そうそう!かよちんって昔からアイドルのことが大好きで憧れてるんだよ~」
「アイドルが憧れっていいことじゃないか。しかし…俺なんかに凛ちゃんの方からペラペラ喋って大丈夫なのか?」
横を見るとかよちんが真っ赤に膨れ上がっていた。
アイドルになりたいとかいう夢を男にペラペラ喋られたらそりゃ恥ずかしいよな。
でも、アイドルになりたいなら、スクールアイドルというものが丁度出来たところなんだ。いいタイミングだし、かよちんも入れてもらえるように頼みに行ったらいいのに。穂乃果先輩たちも真姫ちゃんに頼んでたりと部員募集中なのはほぼ間違いなさそうだし。
まあ、内気な彼女がそんな勇気を出せていたら苦労はしていないか。
「もう!凛ちゃんのバカ!知らない!」
「ああああぁぁ!!かよちんゴメーーーーン!!!」
かよちんは知らんぷりしていらっしゃる。
すっかり弱気な子だと思ってたけどやっぱり怒る時は怒るんだな。
そういう一面を男の俺の前でも見せるようになってきたということは、少しずつ距離が縮まっているのか、それともかよちんが凛ちゃん以外と話すのに慣れてきたということなのか。いずれにせよいい傾向だ。
そして即座に、かよちんの頭を撫でる凛ちゃん。
まあ、こうやってかよちんが怒っては凛ちゃんがなだめる、っていうのが1つの様式美みたいなものなんだろうな。
やっぱりこの2人からは非常に仲の良さが感じられる。ここに男の俺が割って入っていいのかと思ってしまうくらいにだ。
とはいえ、俺とかよちんと机も隣ということで、かよちんの席に来た凛ちゃんにちょくちょく声をかけられている。
かよちんはともかく、凛ちゃんからは良き友人と思ってもらえているのだろう、きっと。
----------
放課後になったのですぐに帰宅することにする。
見学ならまだしも、正式に部活入部が出来るのは、入学から1ヶ月後の新入生歓迎会の日から。だから、その日までの放課後は暇なのだ。
真姫ちゃんは放課後になればすぐ帰るのかと思いきや、音楽室でピアノを弾いていることが多いようだ。勿論、今日も音楽室へ少し寄っていくらしい。
今の今まで放課後は一緒に帰ることもなかったので、放課後は大抵音楽室に居るだなんて気づかなかった。
普通、音楽室って吹奏楽部とかが使ってそうなのに、この高校って吹奏楽部もないのだろうか…。
さて誰も居なくなった教室を出ようかと言う時に、教室のドアがガラリと開いた。
…穂乃果先輩だった。放課後も宣伝しに来たのだろうか?一足遅いようだけれど。
「こんにちは、また会いましたね」
「あ、竜也君こんにちは!」
穂乃果先輩は元気よく挨拶してくれた。
これだけ元気がいいと気持ちがいいものだな、どこかの誰かさんもこのくらい元気があれば俺も楽なんだが。
「ねえ、あの子は?」
穂乃果先輩は周りをきょろきょろしているし、誰かを探しているようだが…?
っておそらく真姫ちゃんのことか。昼も真姫ちゃんを呼びに来てたし。
真姫ちゃんの居場所は…と答えようと思ったら外から声がしてきた。
「西木野さん…ですよね、歌のうまい…」
「そうそう、西木野さんって言うんだ!」
声の正体はかよちんだった。
急に会話に入り込んでくるとは驚いたな、自分から話しかけるのは相当な苦手な子という感じを受けてたが。
それとも穂乃果先輩のことを知ってて声をかけたとか…?まさかな。
「この感じだともう帰っちゃってるよね、アハハ…」
「たぶん音楽室に居ると思いますよ、大抵は図書館か音楽室に居るっぽいので」
「そうそう、あの子、あまり皆と話さないんです。休み時間はいつも図書館か音楽室だし…」
近くに居た凛ちゃんも会話に加わってきた。
「そうなんだ…わかった!3人ともありがとう!」
「あ、あの!」
すぐにでも音楽室へ走りそうな穂乃果先輩を、かよちんが呼び止めた。
「が、頑張って下さい…!アイドル…」
「うん!頑張る!」
そのかよちんの声は掠れており、とてもじゃないけれど大きな声ではなかった。
だが、内気な彼女にとっては精一杯の勇気だったのだろう。
そしてその声は…間違いなく穂乃果先輩の心に届いたに違いない。こういう時の応援の声を直接聞くというのは、きっと先輩の励みになる。
穂乃果先輩はダッシュしてで音楽室へと走って行った。一応廊下は走るものじゃないんだけどな…あの人に言っても無駄そうだ。
…なんだか心配だし、あとで俺も音楽室へ行くとするか。俺が居たところで何も変わらない気もするが。
「それにしても…2人とも真姫ちゃんのこと知ってたんだな」
「クラスメイトだし勿論知ってるよ。この前の芸術科目の音楽の授業でも、凄く歌がうまかったしよく覚えてるよ」
当たり前と言えば当たり前だが、音楽の授業で歌を歌ったりしてるものなのか。
つまり俺も普通に音楽の授業を取っていれば真姫ちゃんの歌声が自然に聴けてた、というわけか。
俺も選択授業で音楽を希望していたのだが、抽選漏れで書道に回されていたのだ。きっと希望理由の書類を真面目に書かなかったからだろう。
まあ、書道は書道で楽だからいいんだが。
「でもあの子独りよがりなところあるし、なんだか近づきにくいし…私は仲良くなれる気がしないにゃ!」
「そうハッキリ言われても…」
前に凛ちゃんやかよちんと真姫ちゃんは仲良くなれるかもしれないと勝手に思ってたが、現実はそうではなかったようだ。
「私だったらキツイこと言われて立ち直れなくなっちゃうかも。だから、真姫ちゃんと普通に接してる竜也君は凄いと思うよ…」
「ここだけの話、俺は真姫ちゃんの家に居候してるんだ。一緒に住んでるわけだし気まずくはなりたくないからね。真姫ちゃんの母親さんからも仲良くしてあげてと言われてるし、居候の立場上拒むことも出来ないから」
「竜也君、居候してたんだ~。私だったら面倒でその家に住むのやめちゃうにゃ」
「おい」
とはいえ、真姫ちゃんとは最初に比べると少しは距離間は縮まってると思う。お互いにタメで喋れているわけだし。…むしろ同い年だしタメで喋れるのは当たり前か。
このまま少しずつ友達同士として仲良く出来たら御の字だろう。
「さて、俺は穂乃果先輩が何かチクリと言われてないか心配だし、音楽室へ行ってみるか。2人はそのまま帰る感じ?」
「うん、そうだね」
「竜也君、バイバイにゃ!」
「おう、それじゃまた明日」
凛ちゃんとかよちんと別れて、俺はピアノの音が聴こえてくる音楽室を目指した。
----------
音楽室に着く前に、部屋から出てきた穂乃果先輩とすれ違った。
もう勧誘終わったのか。案外あっさりだったようだな。
「あ、竜也君お疲れ様!」
「先輩お疲れ様です。そういえば真姫ちゃんの名前教えるの忘れてましたし、スクールアイドルのこと言っておくのも忘れてました。すみません」
「そうだったんだ、竜也君も私と一緒で抜けてるところあるんだね~」
「たまに、ですけどね。穂乃果先輩ほどじゃないですよ」
穂乃果先輩に少し冗談を言ってみる。
「え~それはちょっと言い過ぎじゃないかな!」
「冗談ですよ。それで、真姫ちゃんの勧誘はうまくいきましたか?」
「わからないな…。とりあえず真姫ちゃん歌詞を渡しておいて作曲をお願いしてみたの。スクールアイドルをやっているかの答えは、また今度聞いてみる予定。その時に断られたらすっぱり諦めようと思ってるよ。さすがにこれ以上は迷惑だもんね…」
「そうですか…最後は彼女自身で決めることですからね。何か失礼なこと言われませんでしたか?」
「そんなことないよ!むしろ私の方がお邪魔しちゃってたからね…。そうだ、もしも良ければ真姫ちゃんにこう伝えておいてくれない?
"毎日、朝と夕方に神田明神でトレーニングしてるから、よかったら遊びに来てよ"って!」
「わかりました、今度は忘れずに言っておきますよ」
「今度こそだよ!それじゃあ、私は練習へ行ってくるね、さようなら!」
そう言って、穂乃果先輩はまたどこかへと走っていった。ホント、落ち着きがないのか、ただただ真っ直ぐな人なのか、一体どっちなのやら…。
それにしても、朝と夕方とみっちり練習してるのか…スクールアイドルやることに本気なんだな。
この学校の廃校を阻止してみせる。穂乃果先輩はそう言っていたけど、その目標を実現するべくただただ真っ直ぐにやるべきことをやっている。
さて、その熱い思いを聞いたであろう真姫ちゃんはどう思っているのだろうか。
俺は真姫ちゃんが居る音楽室へと入っていった。
「よ」
「あら、また来たのね。また私の歌声が聴きたいって言いに来たの?」
「違う違う。さっき穂乃果先輩が音楽室へ入っていったろ?何を言われたのか気になってね」
どういうことを言われたのか。
大体のことは想像出来たが、真姫ちゃん自身がどうしたいのか。俺はそれが気になった。
「アイドルやってみない?曲を作ってくれない?ってまたまた誘われただけよ。しかもご丁寧に歌詞まで渡してくれちゃって…」
「歌詞を渡してもらって曲を作ってくれだなんて光栄じゃないか。…で、結局のところどうするつもり?」
「最初は断ろうと思ったんだけどね。ただ、あの先輩がグイグイ来るからどうにも断り切れなくって…」
ああ…穂乃果先輩がグイグイ迫っていく姿が容易に想像出来る。
しかし、断ろうと思っていた割には歌詞を受け取ってるのか。
…内心では迷っているのだろうか?
「そうそう、その穂乃果先輩からの伝言。何だったっけ… あ、そうそう思い出した。
"毎日、朝と夕方に神田明神でトレーニングしてるから、よかったら遊びに来てよ"
だってさ」
「それを伝えてどうするの? 私をそこへ連れて行くつもり?」
「俺は何もしないさ。伝えることを伝えに来ただけだし。そこへ行くかは真姫ちゃんの自由だろ」
「何よそれ…」
そう。結局は真姫ちゃん自身が決めることなのだ。
そこへ俺が介入しても仕方のないことだろう。
しかし、彼女はピアノが非常に上手でもあり、また歌唱力も素晴らしいものを持っている。家の事情だからと言って、この才能をそのままにしておくのはいささか勿体ないと感じる。
当人じゃないからこんな無責任なことが言えてしまうのだが。
それでも、毎日退屈そうにしている彼女を見ていたら、この穂乃果先輩の誘いに乗ってみてはと提案したくなってしまう。
「ただ…穂乃果先輩以外に俺からも一言。真姫ちゃんはさ、この学校でしたいことなんて何もないんだろ?家でも、学校でも、ピアノを弾いている時以外は退屈そうに見えたぞ。だったら…そんな日常を変えるために新たなことに挑戦してみても面白いと思ったけどな」
「…」
一言のつもりがうまくまとめられなかった。
真姫ちゃんもなんだかんだで真剣に俺の話を聞いてくれていたようだった。
先に穂乃果先輩の説得で心を動かされていたからだろうな。
真姫ちゃんに伝言を伝えた後、俺は静かに一人で家へと帰って行った。
穂乃果先輩たちに心を開くかどうかは、最後は彼女次第だ…。
・・・・・
~真姫side~
不思議な気分に陥っていた。
確かに、先輩に私の歌声がと大好きと言われたことは嬉しかったわ。
今までにピアノの技量をパパやママに褒められたことはあったけれども、こうやって純粋に自分の歌声を大好きと言ってくれた人は誰も居なかった。
そして、作曲を頼んでくれる友人も今までに居なかった。
それを後押しするかのように言ってくれる人も居なかった。
それだけに… 自分の心が動かされそうになっている。
自分を必要をしてくれている人がいるだなんて、今までそんなことはなかったから。
最初に"アイドルをやってみない?"だなんて言われた時は、何の冗談なのかと思ったわ。ただの思い出作りのための戯言だと思っていた。
しかし、実際にこっそり練習風景を見に行ったら真剣そのものだった。真剣だったので声をかけることすら躊躇ってしまったわ。
べ、別に単純に見に来たと言いづらかったから声をかけなかったってわけじゃないからね。本当よ?
ただ、あの真剣な目つきで練習する先輩たちを見ていたら、私も感化されちゃった。
今まで誰かに頼られたことなんてなかった私だけど…
この瞬間から私の心は、既に決まっていた。
女の子の心情を描くのは難しいッス。