真姫ちゃんが曲を作り終えた次の日。
放課後になり学校から帰ろうとしていた時に、青い髪をした先輩から声をかけられた。
「あ、あの~ あなたが東谷さんでしょうか?」
「はい、東谷ですけど…どうかしましたか?」
どこかで見覚えのある先輩だな…何回か見かけたことはあるはずだ。
「東谷さんですね、良かったです。穂乃果の幼馴染の園田海未(そのだうみ)と言います。穂乃果から話は聞きましたよ。私達の曲作りの手伝いをしてくれたそうですね、ありがとうございました」
思い出した。穂乃果先輩が真姫ちゃんを勧誘してる時に一緒に居た先輩だ。
他2人が居ることは知っていたが、穂乃果先輩だけに声をかけられることが多いため、しっかり把握しきれていなかったな。
時たま穂乃果先輩の口から"海未ちゃん"という言葉を聞いていたが、それがこの人だったか。
「ああ、その説は真姫ちゃんにお礼を言ってあげて下さい。曲そのものを作ったのは彼女ですから。俺は傍観者みたいなものですよ」
そう、真姫ちゃんに少し助言をしたものの最終的に曲を完成させたのは彼女だ。
俺に手柄などあってないようなもの。
「それでも、あなたが居なければ西木野さんは曲を作ってくれていなかったかもしれない。穂乃果曰く、あなたが彼女と私たちの架け橋となってくれたのですよね? だからこそ、改めてありがとうございます」
そう言って頭を下げられた。特別俺が頑張ったわけでもないのに感謝されるのは気難しい。
「…頭を上げてくださいよ先輩。俺は所詮架け橋になった程度ですからそこまで深く感謝されることもないです」
「そうでしょうか?こういうのも何ですが、私は少々内気な性格をしていまして―― 私だったら、勧誘のため西木野さんに話しかけに行くのは、心苦しいものなのですよ」
「ああ…だから穂乃果先輩が一人でグイグイ勧誘してたんですね」
「その節はご迷惑をおかけしました…」
先輩は苦笑していた。穂乃果先輩の猪突猛進っぷりに今まで困らされてきたんだろうなあ、その姿が目に浮かぶ。
それにしても…この先輩、内気な方なのか。
後輩とはいえ今まで話したことのない俺に話しかけるのも一苦労だったのだろうか。
それこそお礼くらい穂乃果先輩から言ってくれたら良かったのに。
「その穂乃果先輩は今どちらへ?」
「穂乃果は小テストの点数が悪かったので補習を受けています」
「あっ…そうっすか…」
やっぱり穂乃果先輩、生粋のアホだ。
「ということは穂乃果先輩の代わりに言いに来てくれたんですね。内気な方なのに無理をさせて申し訳なかったです。ありがとうございます」
「い、いえっ!私の方こそ急にすみませんでした!」
慌てちゃってるなあ。
よくよく考えてみると、先輩なのにここまで敬語を使ってるあたり、やっぱり人と話すことに慣れてない人なんだろうか。
「あと俺は年下なんですから敬語は使わなくていいですよ」
「あ、はい!わかりました! じゃなくて、了解です! あ、あれ…?」
「…やっぱ喋りやすい言葉でどうぞ」
「すみません…」
世の中には敬語以外の言葉を話しづらい人も居るということを学んだ。
裏を返せばそれ程丁寧な性格をした人なんだろう。
「何にせよ、曲も出来上がったということですしこの先も頑張って下さい。いずれはライブ、するんですよね?」
「は、はい!今から丁度3週間後ですね。正直な話を言ってしまえば、短い期間ですし仕上げるのが厳しいと思うのですが、精一杯のパフォーマンスが出来るように頑張りたいと思っています」
「先輩はその辺しっかりしてそうですし、きっと出来ますよ。頑張って下さい」
長居するのも先輩の練習時間を削ってしまうことになるだろうし、その場を後にしようとしたその時。
「あ、海未ちゃんここに居たんだ!」
「ほ、穂乃果!?補習はもう終わったのですか?」
穂乃果先輩がやってきた。
放課後になってからはまだそんなに時間は経ってない。補習が終わるにしては早すぎると思うが。
「いや~補習はまだ終わってないんだけどね。でも、さっき問題解いてる間に新しいダンス思い付いたんだ!だから早く海未ちゃんとことりちゃんに言おうと思って――」
「何やってるんですか!早く補習に戻って下さい!」
大方、教師の目が光ってない自習形式の補修だったんだろうな。
穂乃果先輩は勉強には集中出来なさそうだろうし、別のことを考えててもおかしくない。
…まさか補習を抜け出すほどとは思いもしなかったが。
「うわぁ!?そんなに怒らなくても…」
「いいですか穂乃果。学生の本分は学業なのですよ。勉強も出来ないようではスクールアイドルだなんて――」
「わ、わかった!わかった海未ちゃんごめんなさい!また後で言うから!」
でもこうやってキチンと勉強の心配してくれる友人が居るだなんていいことじゃないか。
そして海未先輩の方を見ていた穂乃果先輩が俺の方に向いて目が合った。気が付くの遅すぎじゃないですかね。
「あ、竜也君だ!西木野さんの件はありがとうね!海未ちゃんの作ってくれた歌詞でバッチリ作曲してくれて本当に嬉しいよ!」
それじゃ、と言って穂乃果先輩はすぐに教室に戻った。嵐のように来て嵐のように去って行ったな…。
一方で海未先輩は少し俯いて小刻みに震えていた。
「あの曲の歌詞、先輩が作詞されたんですね」
「い、言わないでください!恥ずかしいので…ああ穂乃果のバカ…ッ!」
「あとご友人の穂乃果先輩にも敬語なんですね」
「これ以上私を甚振らないでください!」
相当シャイな先輩なんだな。後輩ながら弄ると面白い人だな、と思う。
「長居するのも先輩の練習時間削って悪いので。これで俺はおいとまします。お疲れ様です~」
こういう場合、海未先輩にどう言えばわからないので逃げるように学校を後にした。
友人に余計なことを喋られて、後輩に少し恥ずかしい想いをさせられた海未先輩…ドンマイ。
――――――――――
で、今日は音楽室や図書室へ出向くわけでもなく、少し寄り道して家へ帰ることにした。
俺の行き先は… UTX学院だ。
スクールアイドル界のトップ、"A-RISE"が籍を置いている高校だ。
なぜ俺がここに来たのかと言えば、先日穂乃果先輩の言っていたA-RISEがどれ程の人気を誇っているのか気になったからである。
音ノ木坂学院からもさほど遠くないし道草みたいものだ。
UTX学院に来てみると、音ノ木坂学院との違いに圧倒された。
まず生徒数の減少により共学校となった音ノ木坂に対し、列記とした女子高。
そして何より建物がビルのように高く、学校への入場は全てカードキー式、建物外には大きなスクリーンが設置、何もかもが近未来的だ。
「これこそがお嬢様学校じゃねぇか…」
真姫ちゃんが通うべきだった場所ではなかったのだろうかと思ってしまうほどだった。
下校時間となると、一気に黄色い歓声が聞こえてきた。
見ればA-RISEの3人組が学校から出るところであり、多くの女性たちが応援の言葉を叫んでいる。
高校生なのに出待ちをされる…これほどの人気とは驚きだ。
これがスクールアイドル、か。穂乃果先輩たちはこれで学院を救おうと奮闘しているのか。
ハハッ、すげえや。
「頑張って下さいよ、先輩」
スクールアイドル自体に興味が元からあったわけではない。
それでも、大きな目標を立ててやり遂げようとしている先輩たちは、俺の中では応援したくなる、そんな存在になっていたのだ。
――――――――――
「お帰りなさいませ」
家へ帰ると、今日も和木さんが出迎えてくれた。
大変だろうし、毎回出迎えてくれなくていいのにと思うが、これも和木さんの仕事だからな…。
「そういえば真姫さんはもう帰られてますか?」
「いえ、お嬢様は塾へと行かれましたよ。今日はいつもよりお早めに出られましたね」
「ってことは晩御飯は?」
「もう既にお食べになってます」
珍しいな。まだ18時を過ぎたばかりだと言うのに。
いつも塾に行っている時間はまだ先だったはずだ。それも和木さんの車の送り向かいだったはず。
となると、今真姫ちゃんは誰かには知られたくない場所へ行っている可能性が高いってことだ。
…神田明神に先輩たちの練習を見学しに行ってるのかもしれないな。
俺に知られたくなかったのか、和木さん伝いで両親へ知られたくなかったのか、どちらかは定かではないが、あの性格だ。きっと神田明神に居るに違いない。
となれば、自分の提供した歌がちゃんと届いているのか確認したくなったのだろうか?
仮に本当に神田明神に行っていたのだとしたら…素直じゃない子だな、本当に。
それはもう分かり切ったことか。
――――――――――
「ただいま」
玄関から真姫ちゃんの声が聞こえてきた。帰ってきたんだな。
俺は部屋を出て階段を上がってくる真姫ちゃんを待った。
「おかえり」
「あら、部屋から出て出迎えてくれるだなんて珍しいわね。ただいま」
「別に出迎えたわけではないんだけどな。ちょっと話があっただけ」
「話って何かしら?」
俺は少し間を空けて言った。
「…夕方、晩御飯も速攻で食べてどこに行ってた?」
「…どこでもいいじゃない、別に」
真姫ちゃんも少し間を空けて言った。一瞬ムッとした顔になってたから図星だろうな。
この子は、自分からは言うわけがないだろうし。
だから俺は要点だけを言うようにした。
「先輩たちの初ライブ、3週間後だってさ」
「なんでそれをわざわざ私に?」
「自分の作った曲が披露される場だから気になるだろうと思ってな。むしろ既に知っていたとか?」
「さあ、どうかしらね」
どこか上の空のような回答だった。
少なくとも、このことを知っていたらこのような反応はしていないはずだ。
ということは、やはり先輩たちと会ってライブの日程を伝えられたとみるのが正解か。
「それで。私にそのことを言ってきたってことは、あなたは観に行くつもりなの?」
「俺? 俺は――」
俺は、どうだろう。
ライブは新入生歓迎会の日に行われる。
それはすなわち、新入生の部活勧誘が解禁されるということだ。俺はこの学校でも軽音部に入ろうと思っていたが、廃校目前の学校にはなかった。
だから新入生歓迎会の部活紹介で気になった部活に適当に見学にでも行こうと思っていたのだ。
正直、帰宅部まっしぐらなのが見えている。
確かに穂乃果先輩たちとはそれなりにコミュニケーションを取っているし、真姫ちゃんの曲がどう披露されるのか楽しみではある。
しかし、いくら見知った先輩といえ、アイドルのライブを男一人で観に行くのもなんだかなと思う。
ただ――
『俺はその心意気、凄いと思いますよ。結果はどう転ぶかはわかりませんが応援します』
って、穂乃果先輩に直接言ってしまったんだよな…。これで観に行かなかったら男が廃るような気もする。
何より、廃校が決まっているのに健気にスクールアイドルをやろうとしている先輩たちの姿を見たい。
仮に、あの穂乃果先輩のことだからその言葉を忘れてしまってたとしても、これほどスクールアイドルの話をしてもらった先輩だ。観に行くことを断る理由がない。
つまり俺は今、実質ライブを観に行かないと行けない状況であり、男一人で観に行くことで周りの視線も痛くなること必須の状況でもあるということだ。
この状況を打開するには誰かを誘えばいい話なのだが…。
男友達。
ダメだ、先輩たちに気があるのかと勘違いされて面倒なことになる。
女友達。
となると誰だ、凛ちゃんは陸上部に興味がありそうなこと言ってたし、かよちんもそれに引っ張られそうだ。
アイドルに興味アリのかよちんを誘うのが無難なような気もするが、凛ちゃんと一緒に行動するのを邪魔するのは悪いしな。
となると俺に残された選択肢は…
「『俺は――』って何よ、早く何か言いなさいよ」
俺の目の前で、不機嫌そうにしててぶっきらぼうで素直じゃないツンデレな真姫ちゃんを誘う、という選択肢しか残されてないということだ。
…やれやれ、仕方ない。少しは恥を惜しむか。
「俺は―― 適当なヤツ誘って観に行く予定だよ。興味ありそうな友達もいることだろうし」
「…そう」
と相槌を打って、しきりに不機嫌そうにしていた真姫ちゃんは部屋へと戻って行った。
それを見届けて俺も部屋へと戻った。
やれやれ、なんであんなに不機嫌なんだ、俺と話すのに時間が取られたのがイヤだったのか、まったく――
「じゃねぇよ!」
部屋に戻った俺は思わず吐き捨てた。この家のことだから防音対策はしっかりされてるはずだ、大丈夫だ。
いくら直球で誘うのがイヤだからって、なーに遠回しにしか誘ってないんだ俺は。むしろ遠回しに誘えてたのかすら怪しいぞ。
やっちまったな…。
とはいえ、おそらくではあるが練習見学に行っている真姫のことだ。
その日になったらどうせ真姫がライブが気になっていてうろついてるに違いないし、それを見かねて引っ張っていくという形でいいか。
まったく、真姫ちゃんが素直に観に行きたいって言ってくれれば良かったのに。
・・・・・・・・・・
~真姫side~
部屋に戻った私は、スクールアイドルのことを考えていた。
せっかくこの私が曲を作ったのから、本当にその曲を使って練習しているのか気になったし遠目ながら見学に行ったけど、本当に練習していてビックリしたわ。
そりゃ、わざわざ頼み込んできたくらいなのだから当たり前なのだけれど、それでも内心はちょっと嬉しかった。
作曲も終わったことだし、これであの先輩たちとはおさらばね。これ以上は関わることもないでしょう。
――って、思っていたんだけど。
遠目に見ていたら先輩たちに見つかっちゃって。作曲のお礼を言われた後に、ライブを是非観に来てねって言われちゃった。
そりゃ私の作曲した曲が披露されるのだから、興味がないってこともないのだけど。だからって、そのまま行くのもなんだか癪なのよね。
…てっきりあの先輩たちと仲良くしてるだろう、竜也君に誘われるのかと思ったけどそうでもなかったし。
余計に行きづらくなっちゃったじゃない。普通に誘ってくれればいいのに。
今更こっちから誘うのはもっと癪だし、どうしたものかしら。
まったく、竜也君が素直に観に行きたいって言ってくれれば良かったのに。
少しずつですがお気に入り数が増えているのが嬉しいです。ありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。