そして迎えた、新入生歓迎会の当日。
この新入生歓迎会とは、全校集会にて現時点で正式に活動している部活の紹介をステージ上にて行われるという催しだった。
要するに、各部活のアピールタイムだ。
因みに、"正式に"活動している部活ということなので、穂乃果先輩達はこの場で紹介することは出来ない。
どうやら、部活を新しく立ち上げるには5人以上必要だそうで、穂乃果先輩達はまだ正式に部活として認められていないからだ。
新入生歓迎会の後にライブをするということは、前々からビラを配っている姿を見かけたし、知らない人は決して少なくはないはずだ。
ただ、知っているからと言って、実際に活動を覗きに来るとは限らないのだが。
『これで、新入生歓迎会を終わります。各部活とも、体験入部を行っているので、興味があったらどんどん覗いてみてください』
生徒会長の挨拶も終わり、いよいよ放課後。体験入部の解禁だ。
さて、俺はどうしたものか。ライブの開始時間も目前に迫っている。
ダメ元で凛ちゃんとかよちんをライブに誘ってみるか。
かよちんさえ乗ってくれれば凛ちゃんもついてくるはずだ。
―そう思って、ロッカーの前で話し込んでいる2人に声をかけようと思ったのだが。
「ねえねえ、一緒に陸上部観に行こ?」
「え…陸上部!? あ、その…」
「かよちん運動したいって言ってたじゃん! 早くいっくにゃ~!」
「え… だ…、だ…、誰か助けてーーー……!!!」
南無三。時既に遅し。
猫のような速さで自分から遠くなっていく2人を見て呆然としていた。
いやいや、追いかけろ、俺。かよちんが助けてって言ってるじゃないか。
「ちょっと待った!」
「た、竜也君!?」
「あれ、竜也君だ。急に追いかけてきてどうしたのー?」
全力で廊下を駆け抜け凛ちゃんに追いついたところでかよちんの手を掴むことに成功した。
いきなり手を掴んでしまったのでかよちんには酷く驚かれてしまったが、今はそのようなことを気にしている場合ではない。
「急に呼び止めてごめんよ。…えーと、かよちんはアイドルに興味あるんだよね? 今日の穂乃果先輩達のライブは観に行かないの?」
「えっ、もしかして竜也君は観に行きたいの? ダメだよ、男の子が行ったら変な目で見られちゃうよ~」
凛ちゃんに若干哀れみを含んだ顔をされてしまった。
本心は別に後ろめたい理由など全くないのだが、今の俺の行動はそう見られても仕方のないのが歯がゆいところだ。
「先輩とよく喋ってるから観に行かないとマズイかな~と思ってね。だからアイドル好きなかよちんはどうなんだろうと誘ってみたんだ」
「わ、私は観に行きたい…!」
「え~陸上部はどうするの? 凛は陸上部見たいのにー」
予想通りかよちんは乗り気だった。それならこっちのものだ。
「陸上部の見学くらいいつでも行けるし、今は今日しかやらないライブに付き合ってくれないか?お詫びに今度アイスくらい奢ってあげるし…」
「アイス奢ってくれるの!? じゃあアイドル観に行くにゃ~!」
アイス1個で釣れた。やっぱり女性は甘いものに弱いな。かよちんを引き込めばこっちのものだ。
さて― ライブの時間はそろそろだったはず。今の時間を確認する。
現在の時刻は16:57。ライブ開始時刻は17:00ジャスト。開始まで3分しかない。もたもたしてる場合じゃなかった。
「マズイ、ライブが始まるまであと3分しかない!」
「い、行かなきゃ…!!」
「えー、このままじゃ間に合わな―― ってかよちん!?」
俺の言葉を聞いた瞬間、かよちんはすぐに走り始めた。あのスピードは凛ちゃんより速いような気がするのは気のせいだろうか。
人間、自分の興味のあるものが目の前にあると、あれだけ早く走れるものなんだな…。
「かよちん速いな… お、俺達も行こうか」
「そうだね、いっくにゃ~」
凛ちゃんはそう言うと俺よりも速いスピードでかよちんの方へ向かっていった。
俺が決して運動不足ではないと思いたいのだが… 凛ちゃんと本気で勝負したら負けそうで怖いな。
講堂へ向かう途中、俺は真姫ちゃんのことを思い出していた。
結局誘わずにライブへ行くことになったけど、あの子はどうしているだろうか。
大抵、この時間帯は音楽室ピアノの音が聞こえてくるのだが、今はそれが聞こえてこない。
ということは、今はもうライブを観に行ってるのだろうか。あの子が素直に一人で観に行く子だとは思えないが。
そう頭を巡らせていると、講堂が見えてきた。
既にかよちん達は中にいるのだろうか。音は聞こえてこないので、まだ始まってなさそうだしギリギリ間に合いそうだ。
そして最後の角を曲がろうとした時、件の子を見つけた。
「お前―― こんなところで何やってるんだ?」
軽く走っていた足を止めて、質問を投げた。
「何だっていいじゃない。貴方の方こそ、こんなところで何をしてるの?」
「穂乃果先輩達がライブをするから観に来たんだよ。真姫ちゃんもそうじゃないのか? …その手に持ってる楽譜を見れば一目瞭然な気もするが」
ここまで来たらライブを観に来たことを別に隠す必要はない。
今この講堂の近くにいる時点で、穂乃果先輩達のライブを観に来ようとしているのはほぼ明確なのだから。
真姫ちゃんが手に持っている楽譜はほぼ間違いなく、今回歌われるであろう曲だ。
「せ、先輩たちがちゃんと歌えるか気になったから来ただけよ」
「…そんな遠回しに言わなくても」
「まぁまぁお二人さん、こんなところで話し込んでないで講堂に入ったらどうや? そろそろ始まるみたいよ」
真姫ちゃんと話していたら、先輩らしき人に声をかけられた。
こういうことを言うってことは、穂乃果先輩たちの関係者だろうか?
しかし、この人… どこか見覚えがあるような気がする… と思ってたら思い出した。今日の新入生歓迎会で前に出てた副会長だ。
「な、なんでアンタもここに居るのよ!」
「真姫ちゃんはいずれここに来るやろなあと思ってね、ここでずっと待ってたんよ」
「えーと…副会長さんと真姫ちゃんはお知り合いですかね」
「真姫ちゃんが何度か練習を観に来てる姿を見かけてね、そこで声をかけてたんよ。私は神社で巫女さんのバイトやってるから」
「ちょ、勝手に言うのやめなさいよ!」
ああ、やっぱり真姫ちゃんは神社の方へ練習を観に行ってたんだな。あくまで想像の範疇だったものが、ここで確証が得られた。
というか、この人は副会長で先輩なんだから敬語使えよ…。
「ほら、音楽が聞こえてきたで。始まったみたいや」
副会長さんの言う通り、音楽が聞こえてきた。どうやら始まったみたいだな。
「えーと、それじゃあ俺は中へ行きますね。ほら行くぞ」
半ば強引に真姫ちゃんの手を引いて俺は動こうとした。
もう始まってるんだ、急がないと。
「ちょっと!別に引っ張っていかなくてもいいじゃないの!」
「引っ張っていかないと、ここでずっと副会長さんとウダウダ話し込むだけだろ」
「おー!彼氏君なのかわからんけど積極的やね~」
「彼氏でも何でもないので先輩も黙っててください」
外野がうるさくなっているがそれはさておき、講堂の中へと入る。
ステージの上では一生懸命に歌って踊っている穂乃果先輩ら3人の姿が見える。
しかし、スクール"アイドル"が踊るにはもの寂しい会場となっていた。
――観客が明らかに少ないのだ。
見ればかよちんと凛ちゃんが観客席の真ん中ほどに居るのだが、それ以外に見当たるのは会場のスタッフとして居るであろう先輩2人だけだ。
観客席は暗いから、しっかりと見えてないだけなのかもしれないがそれでも少なすぎる。
「…ほぼ誰も居ないじゃない」
真姫ちゃんがポロッと呟いた。見たままの感想だし、そう言ってしまうのも仕方ないだろう。
俺自身は先輩の練習風景を実際に見ていたわけではない。
放課後に何度かやっているのを見かけた、校門前のビラ配りを手伝っていたわけではない。
それでも――
それでも俺は穂乃果先輩が本気スクールアイドルに対して取り組もうとしていたのは俺もよく知っている。
海未先輩も内気な性格だと本人から聞いた。その内気な先輩が今こうやって目の前のステージにいる。
もう一人の先輩も衣装作りに勤しながら、元々得意ではないダンスに取り組んでいたと穂乃果先輩から聞いた。
この3人が今この瞬間、一生懸命にスクールアイドルとして歌い、踊っているのだ。
他にほぼ誰も居ないからこそ、見届けなくてはいけないと感じた。
「確かに観客は少ないけど、まずは穂乃果先輩達のパフォーマンスに集中だ。真姫ちゃんも、今まで練習見てきたんだろ?」
「…それもそうね」
真姫ちゃんは一瞬講堂の中で立ち止まっていたが、やがて俺と同じく中の方へと入ってきた。
そうだ、先輩達の歌を、踊りを集中して見ないと。
3人のパフォーマンスは確かに拙い感じはあるのかもしれない。結成してから3週間程度なのだ、無理もない。
それでも、先輩達の一生懸命さは俺にもよく伝わってきた。
アイドルの知識なんかこれっぽっちもない、そんな俺にでも伝わってくるものがあったのだ。
その3人の一心不乱なパフォーマンスを、しっかりと受け止めなきゃな…。
――――――――――
歌が終わると会場の中にいる人は少ないながらも大きな拍手が鳴り響いた。
かよちんは純粋にアイドルに惹かれているかのような表情をして。
凛ちゃんは今まで見たことのないような光を初めて見たかのような表情をして。
真姫ちゃんは優しい目をしながら「やるじゃない」と言っているかのような表情をして。
他の人も、スタッフらしき先輩たちはにこやかに笑いながら大きな拍手をしていた。
副会長さんは下を向いていたので表情が見えなかったが。
ステージ上にいる穂乃果先輩達3人もその顔は少し疲れていたが、やり遂げた表情をしている。
会場が拍手の渦に包まれる中、1人の生徒がステージ上へ向かう姿が見えた。
その正体は―― 生徒会長だった。
生徒会長が見えた途端、会場の空気が凍るようなものを感じた。
「どうするつもり?」
凍る空気の中、生徒会長は言った。
生徒会長が言うこの言葉の意味。正直、俺にはサッパリわからなかった。
「……続けます!」
生徒会長の質問に穂乃果先輩が答えた。この穂乃果先輩の回答で、少し状況が見えてきた。
大方、生徒会長が言うのだから、この観客の少なさを見てスクールアイドルを続けるのかどうかを問いただしたのだろう。
生徒会長の立場からしてみれば廃校が決まった高校にもかかわらず、スクールアイドルをされるのは気に入らないのだろうか?
その真相はわからないが。
「なぜ?これ以上続けても、意味があるとは思えないけど」
「……やりたいからです!今、私もっともっと歌いたい、踊りたいって思ってます。きっと海未ちゃんもことりちゃんも。こんな気持ち初めてなんです!やって良かったって本気で思えたんです!」
遠回しにスクールアイドルを辞めるように促す生徒会長に対し、真っ向から自分の意見をぶつけていく穂乃果先輩の姿がそこにはあった。
立場上、上の先輩にこれだけ言えるって穂乃果先輩は肝が座ってるな…。羨ましいくらいだ。
今回は確かに観客こそ少なかった。しかし、先輩達の中ではここが終着点ではなく、ここがスタートであり、これからも歌と踊りを届けていきたいとのこと。
「いつか、いつか私たち必ず―― ここを満員にしてみせます!」
穂乃果先輩の声が講堂の中に、大きく、高らかに響いた。
大きな決意の表れだ。
この先輩の決意を聞いて、俺もただの傍観者や傍目から応援する人ではなく、純粋に先輩達を手伝いたいという思いが少し芽生え始めた。
穂乃果先輩は基本的に笑顔を見せながら踊っていた。しかし、一瞬だけ寂しそうな表情をしながら踊っていたのは引っかかっていたのだ。
まあ、観客席がこれだけ少ないと仕方ないな。生徒会長ももしかするとそこが引っかかっていたからこそ質問を投げかけたのかもしれないな。
――いつか、穂乃果先輩が終始笑顔を見せながら踊れる日が来ますように。
週一更新になりかけてます(汗
最近某サイトに投稿する用のラブライブのMAD動画作ってたもので(言い訳)
というわけで次回もよろしくお願いします。