これで「実はISの方はアニメしか知りまてん」とか言ったらフルボッコかしら………
「―――何者だ」
懐中電灯の光が逆光になってわかりづらいが、声をかけて来ているのは白いジャージを着た女性のようだ。
肩口のあたりに構えられた光源のせいで顔はよく見えないが。
おそらく、というかほぼ間違いなくここの管理に関わっている人物だろう。
あの位置に光源がくるということは、もしオレの予想通りならマグライトを棍棒としていつでも振るえる構えを取っている、ということだ。
それにあの無理の無い姿勢、無駄の無い足運び―――。
藤ねえや遠坂も相当な実力者だと思うが、この目の前の女性はもっと上にいる。
オレでさえ実際に戦ってみる前からはっきりと分かるほどの圧倒的な戦闘力、これは下手しなくとも代行者級か。
オレじゃ確実に手も足も出ない。
それどころか、なりふり構わず魔術を使っても逃げ出すことさえ覚束ない相手だ。
そんな相手に警戒されている―――これは非常にマズい。
何と言っても、今のオレは申し開きのしようもなく、不法侵入した不審者なのだから。
という訳で、素直に謝る事にした。
いきなり問答無用で撲殺は―――されないよな………?
ありがちな衛宮士郎の異世界闖入モノ~第二話
「すみません、無断で入り込んで―――それと勝手にISを起動した事も謝ります」
頭を下げた拍子に、打鉄のハイパーセンサーの表示に気がついた。
『現在光学補正OFF 開始しますか?』
そんな機能もあるのなら、と考えた途端、表示がOFFからONに切り替わる。
顔を上げてみると、逆光だった明かりだけが目立たないように減衰されている。
思考制御システムにリアルタイムの限定光学補正―――一体どんな
―――とにかく、これで相手の女性の容姿がはっきりした。
年齢はおそらく藤ねえと同じぐらい、やはり白いジャージを着ていて、こちらを油断無く見据えている。
なまじ整った顔立ちをしているだけに、眼力が凄い。
「何者だ、と訊いている」
「オレは衛宮士郎と言います。住所は冬木市―――」
「そんな事は訊いていない」
女性の目つきが一層厳しくなる。
一般的な自己紹介に用は無い、つまりこの女性も『こちら側』の人間ということか?
あるいは―――あまり考えたくは無いが、しかしこのISに使われている技術からしても………。
この女性が『こちら側』の人間かどうか、確かめるのは簡単だ。
オレの『正体』を素直にばらせばいい。
その反応次第で、この女性が代行者かそうでないかぐらいは分かるはずだ。
もっともそれはそれで色々と問題があるのだが。
今はそんな事を言っている場合じゃない。
「オレは―――魔術使いです」
「………魔術?」
女性は一瞬きょとん、としてから、胡乱なモノを見る目つきになった。
この反応、間違いなく一般人だ。
―――正直、この女性が代行者だった場合、為すすべもなく狩られていた可能性もあったので、心底ほっとした。
「で、その魔術師が早朝のIS学園に何の用だ?」
「いや、特にこれと言って用は―――」
―――待て。
今この女性は何と言った?
学園?
こんな物騒な兵器をずらりと並べて、ここが学校だと、そう言ったのか。
オレはてっきり、軍事関係の施設か何かに無断侵入してしまったのかと思っていたのだが。
いや、学園の名前にISとついている、ということは自衛隊関係の専門学校みたいなものか?
最悪の場合、
「すみません、話の前にコレ、脱いでいいですか?」
「―――勿論だ。さっさとしろ」
許可も下りたところで、言われた通りさっさと打鉄を脱ぐ事にする。
先ほどのハイパーセンサーの反応からして、ISとはこちらの思考を読んで動くものなのだろう。
ならば、さっきの
「―――
やはりイメージ通り、簡単に打鉄は止まってくれた。
よっこらせ、と装甲の隙間から抜け出しつつふと気付いたのだが、この女性、オレに武装解除を呼びかけもしなかったな。
オレ程度の実力なら、ISを着ていても素手で相手できる、という事だろうか。
実際できそうだが。
Interlude
私は柄にも無く緊張していた。
目の前の少年―――衛宮士郎と名乗っていたか―――に、嘘をついているそぶりは全く無い。
だが、それも演技でないとは言い切れない。
ついでに少々、頭の残念な少年である可能性も出てきたが、まあそれはいいだろう。
戦闘面では問題ない。
たとえ衛宮士郎がISに乗っていたところで、かかってくれば逆に打ち倒す自信はある。
そのことは、多少は心得のありそうな衛宮の方でも理解しているはずだ。
だがそれでも、この少年は私の目の前でISから降りた。
考えるまでもなく、現在の異常な非常事態の原因はこの衛宮士郎だ。
学園の厳重な警戒網を痕跡すら残さずにすり抜け、最重要区画の一つである訓練用IS格納庫に忽然と姿を現したその手並み。
しかもいきなりISを起動してのけた少年。
学園側は今、蜂の巣をつついたような騒ぎになっている。
私も寮長室から急遽呼び出されて、取るものも取りあえず駆けつけた次第だ。
実際のところ、戦闘以外の能力や背景については未知数。
だからこそ、直接対面している私も緊張を強いられているのだが―――
その張本人は、と言えば、どうも私に対しては緊張しているようだが、それ以外にはあまり緊迫感がない。
今も何やら困ったように頭をかきながら、こちらを見てくる。
「その、すみません。学校とは知らずに入り込んでしまって………」
―――その何とも間の抜けた言い訳に、私は軽い頭痛を覚えた。
Interlude out
オレは十二畳ほどの広さの、ちょっと雑然としたオフィスのような―――あるいは体育教官室のような部屋の片隅に連れてこられた。
応接用らしい小さな卓の対面にはあの女性が腕組みをして腰掛けている。
彼女はここの教員で、おりむら先生というらしい。
お茶こそ出されているものの、シチュエーション的にも心理的にも、これからお小言を頂戴する生徒のような気分になってくる。
―――いや実際それに近いか。
このIS学園という学校は、島一つ使って建てられている。
通常の交通手段としてはモノレールが本土との間を繋いでいるだけだ。
そう、オレがさっき口にした『知らずに紛れ込みました』という言い訳は、あまりにもお粗末すぎたのだ。
「―――で?つまりお前は家で寝ていたはずが、自分でも知らない間にここのIS格納庫に来ていた、と言う訳か?」
「そうです」
ぎろり、とこちらを睨むおりむら先生の眼光に、微妙に小さくなるオレ。
まさにお説教している教師とされている生徒の構図だ。
「………そうなる原因に心当たりは?」
「あります、というかいます。―――二人ほど」
一人はもちろん、オレが直接知っている数少ない魔術師であり、オレの師匠でもある遠坂だ。
そう、昨夜はオレが魔術の鍛錬をしている途中まで、遠坂が何やら土蔵の魔法陣を調べていた。
遠坂の家に伝わる物との差異がどうとか言っていたが―――何しろ『あの』遠坂だ。
調べ物のついでに『うっかり』転移魔術を組み込んじまっても不思議ではない。
まあ、それならそれで、まだ対処のしようもあるだろう。
ただ問題は―――
「で、その人物は、ISの事も、このIS学園の事も知らなかったお前をここに放り込んで、何をするつもりだ?」
「………わかりません」
そうなのだ。
あのISというパワードスーツ、そしてこのIS学園は、世界的に有名なのだとおりむら先生は言う。
だがオレはついさっき、実際に打鉄と同調するまで、ISなんて言葉すらまったく聞いたことはなかった。
国家が威信を賭けて競い合うモンド・グロッソなる大会まであるという。
オレだって別に人里離れた山奥に隠棲してた訳じゃない。
そんな有名な競技があるなら、周囲の誰かから話ぐらい聞かされていてもいいはずだ。
まして女尊男卑なんて風潮、冬木にいて感じた事もなかった。
何がなんだかさっぱり分からない―――と、言いたいところだが、さっきから嫌な予感がしている。
具体的には、あの腕っ節なら神霊一歩手前の愉快犯な大師父のやたら輝く笑顔とか。
サムズアップしている姿まで思い浮かべてから、あまりの胸糞悪さにその想像図を急いで脳裏から消去する。
で、次に思い浮かぶのはやっぱり遠坂の、『やっちゃった、ゴメン』的なてへぺろ顔だった。
「あの、織斑先生―――」
「ん―――ちょっと失礼するぞ」
緑髪に眼鏡の、ちょっと幼い印象のある女性に呼ばれて、おりむら先生が立ち上がる。
「―――
あまり行儀はよくないが、耳に強化をかけて扉の向こうの会話を盗み聞く。
人目もないし、もうなりふり構っちゃいられない。
「―――冬木市、という地名は日本に存在しません」
「………本人の方は?」
「えみや・しろうという名前で、年齢、特徴に該当する人物も存在しません。あの―――」
ああ、やっぱり。
イヤな予感ほどよく当たる。
つまりオレは、遠坂のうっかりか大師父の悪戯か知らないが、平行世界に投げ出されたのだろう。
―――最悪の展開に、何故か脳裏で道場がちらついた。
勢い余ってまた投稿。
ほんの息抜きのはずなんで、コレ以降の投稿は不定期だと思っておいてください。