東方空雲華【完結】   作:船長は活動停止

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第十一話 狂人同士の楽園

「――――あの人の思い、無駄にはさせないわよ」

 

 

 

瞬間、紫の背後の空間が裂けた。

「ッ!」

霊夢がいち早く反応して札を紫に向けて放つ。

紫に当たる寸前、目の前の空間が裂け、その中に札が吸い込まれていった。

舌打ちするともう一度札を投げつける。

紫がまた空間を開けて――――しかし、直前札が爆発した。

「………!」

「レミリア!」

「分かってるわよ……!」

爆煙にレミリアが突っ込み、紫に突進する。

「終わりよ!」

「貴方がね」

「………ッ!?」

紫がいた場所にはすでに弾幕が広がっていた。

「しま――――」

ついた勢いは止められず、自ら突っ込んで行く。

「ッァ!」

吹き飛んだレミリアの脇を霊夢が通り弾幕を放つ。

霊夢の弾幕は特別で、追尾型になっている。

しかし紫は至極落ち着いた様子で空間の開き、その中へ弾を突っ込ませる。

だがそれも想定内。

一瞬で紫の背後へ移ると祓い棒を叩き付ける。

腕を振り上げて祓い棒を受け止めようとする。

その時、懐にいつの間にか咲夜が潜り込んでいた。

(その能力は面倒ね……!)

祓い棒を受け止める事を止め、避けると咲夜に狙いを定める。

弾幕を咲夜に向けて放つ、直前。

咲夜は範囲外に移動していた。

素早く銀製のナイフの取り出すと紫に投げつける。

さらに投げた瞬間一瞬だけ時を止めて距離感覚を狂わせる。

「ッ!」

扇子を取り出し、正面のナイフをはたき落とすと残りのナイフは弾で落とす。

カウンターとばかりに弾幕を放つ。

しかしそれはすぐに自らが出したスキマによって吸い込まれる。

「ッ!何を――――」

「あら、余所見はいけないわよ?」

「!!」

慌てて辺りを見渡す、と同時に絶句した。

咲夜の回りにスキマが開いており、そこから先程吸い込まれていった弾が飛び出てくる。

同様に時を止める。

すぐさま弾幕の穴を見つけ、時を解除させ、そこへ跳ぶ。

―――さらに目の前にスキマが開いた。

「――――――!」

避ける事もままならず弾が直撃し、吹き飛ぶ。

「咲夜!」

レミリアが咲夜に駆け寄る。

「フラグが立ちますわよ?」

レミリアの背後から紫が出てきて、弾をレミリアに放つ。

「ガァ……!」

「もう終わりかしら?」

倒れたレミリアの傍らに降り立つ紫。

「……まったく……」

霊夢が焦ったようにため息をつくとどうするか考え、結局いい案が思い浮かばなかったので、弾幕を放った。

 

 

 

 

 

 

 

「―――――ゴハッ!」

ドラキュラを殴ったあと重力に逆らえず、地に叩き付けられた。

ケホッと血を吐くと血の色が先程より黒かった。

先程の落下のせいなのか肋骨が肺に突き刺さったらしい。

呼吸をする度肺に激痛が走る。

刀を杖代わりにして何とか立ち上がる。

目線を上げると前方にドラキュラが平然と立っていた。

「くそ………いい加減くたばりやがれ……」

無理矢理足を強化させて間合いを詰める。

しかし先程のような速度は出ず、失速した。

「ッざけんなァ!」

足が壊れる事もいとなわず更に強化する。

一瞬で目の前に来ると足の強化を止め、刀を硬化する。

そして刀を振り上げると思いっきり降り下ろした。

「――――ッ!?」

さすがにドラキュラでも反応出来ずに肩口から反対側の脇腹まで深い裂傷を浴びせた。

しかし人間に身体にも限界があり、橙矢はその勢いで倒れる。

「ッ………ッ………」

呼吸もままならない状態だった。

四肢は微かにも動かず、立ち上がることすら無理。

「…………人間如きがよくもやってくれたな」

鬼気迫る顔でドラキュラが身体を起こす。

橙矢は挑発的に嘲笑する。

「お褒めに頂き……光栄だな………」

「しかし貴様、本当に人間か?」

「人間じゃなかったら……なんなんだよ……」

だが今思えばそうだった。

弾幕を受けた時といい流れすぎた血といい。

どう見ても常人を逸している。

「そうだな……どこからどう見ても妖怪……ではないな」

「当たり前だ………」

「まぁ私にとってはどうでも良いことだがな」

ドラキュラが近付いてきて急に橙矢の腹を蹴りあげた。

「ゴッ……!」

宙を舞い、再び地に落ちる。

「ァ……ガァ………」

肋骨が更に深く肺に突き刺さる。

意識が途切れそうになるが口内の肉を噛み切り、無理矢理保つ。

「ァ……ハァ………」

ほとんど神経が機能してない腕を立てて、身体を持ち上げる。

「いきなり……蹴り奴があるかよ………」

足も動かして立ち上がる。

「だがな……もうてめぇはお仕舞いだ」

ニィ、と口の端を吊り上げる。

「?」

―――――瞬間

「ッァ!?」

陽が昇り、ドラキュラの身体を焼いた。

「き、貴様……!朝はまだのはずじゃ……!?」

「悪いな………少しこの紅魔館の敷地内の生物全ての時間経過を……遅くしてもらった」

「ふざけるな!貴様の能力は……!」

「あぁ……だからこの紅魔館を覆っている……結界の時間経過低下を強化させた」

「結界だと!?そんなものあるわけ……」

「あるんだよ。パチュリー様が張ってるんだ。常備用としてな」

「……………!」

慌ててドラキュラが建物内に入ろうとする。

「逃がすかよ…………!」

身体にも 鞭を打って足を強化し、ドラキュラに向けて跳ぶ。

「!」

ドラキュラの横から激突し、壁に叩きつける。

そして胸に刀を突き刺し、深く刺し込む。

「ガ………貴様ァ!」

陽に焼かれながら刀を抜こうとする。

「ッ!」

刀を掴みながら殴り付ける。

「往生際が悪いな吸血鬼!」

「それは貴様もだろうが人間!」

次第に陽の光は強くなっていき、ドラキュラの力が抜けていく。

「ハァ……ハァ………いい加減諦めたらどうだ」

「ふざけるな……!私はまだ……」

「それこそふざけるな……人を……妖精を殺しておいてなにがまだだ……!」

「………だからこそまだなんだ」

「何………?」

一瞬動きを止めた橙矢の腹に蹴りを入れる。

ドラキュラが手を前に出すと、そこに力が集束していく。

「人間、貴様はスペルカードと言うものを知ってるか?」

「何言って……………」

「この幻想郷ではそう言うらしいな」

そう言うなり手に一枚のカードが形成される。

「なんでも幻想郷の決闘ではこのスペルカードが使われてる……らしい。ま、今回使うのが始めてなのだがな」

「させるか……!」

止めようと跳ぼうと身を屈めると次の瞬間ガクン、と膝が落ちる。

「しまっ……!」

「残念だな。いくら貴様が足掻こうとも意味はない…!スペル!新史〈境界の渡り橋〉!」

ドラキュラが持つカードが神々しく輝く。

「この幻想郷を…………終わらせる!!」

瞬間スペルカードから結界が広がり、瞬く間に幻想郷を包む。

「ッ!テメェ何しやがった……!?」

「…………あと三ヶ月でこの幻想郷を包む博麗大結界が破壊………いや、幻想郷から拒絶されるようにした。忘れ去られた者の楽園幻想郷で拒絶されればどうなる?幻想郷は全てを受け入れる。何処かの賢者が言ってたが私はその理を無視させる能力を持っている!!さぁ幻想郷よ!三ヶ月後私と共に滅びようぞ………!」

最後まで言いきると日光に照らされ、燃え尽きた。

「………ッドラキュラ……やってくれたな………――――」

ドサッと倒れ、血が流れていくのがわかる。

血は生暖かく、同時に鉄臭いものだった。

(全く……ただの復讐心だけでこれだけ出来るって……やっぱり人間怖いわ………。それより結界だ………早く知らせないと………)

立ち上がろうとしたが今の橙矢の身体は動くことはもちろん生きている事すらも危うい状態だった。

(くそ………動けよ……ッ!)

そう思うがそれとは反対に橙矢の意識は落ちていく。

「………――――――――」

意識を保っているのも困難になり、手放した。

 

 

 

 

 

ふと紫が動きを止めた。

「………………終わったみたいね」

迫り来る弾幕を避けながらスキマを開く。

「さて……それではここにいる皆様紅魔館へご案内致します」

スキマが急激に広がり、紅魔館住民と霊夢を取り込んだ。

「ッ!紫!あんた何して………!」

「落ち着きなさいな。…………やっとドラキュラが殺害されたわ」

「それって………」

「えぇ、ですから今から紅魔館へ送ります」

新たに開いたスキマの先には、血塗れで倒れる橙矢がいた。

 

 

 

 

――――――…………

―――――…………

――――…………

「……………」

身体が揺すられて目を開ける。

空が見れた。

「橙矢………!」

不意に自身の名前を呼ばれてそちらに顔を向ける。

そこには霊夢とレミリアが前後左右に橙矢の身体を揺すっていた。

ちなみにレミリアの上には咲夜が日傘を差していた。

その後ろでは紅魔館の面子と紫が静々としていた。

――――していた様にしてただけかもしれないが。

「よっ………と」

橙矢は何事も無かったかのように身体を起き

上がらせる。

「な……大丈夫なの橙矢!?」

「大丈夫に決まってますよ。ドラキュラの戦闘中も上手く演技で騙していけましたし」

「……その傷は?」

「ちょっとやられました。けどそんなに深くはないので気になさらないで下さい。血も流れてるように見えますがただの返り血です」

「………橙矢、貴方また嘘つく気?」

「はて、またと言う意味が分かりませんが」

「貴方の家にいた妖精メイドから話は聞いたわ。………紫」

レミリアが紫に目線を配る。

「はいはい」

扇子を取り出し、虚空に閃を引くとスキマが開いた。

「出てきなさいな」

「は、はい………」

スキマから出てきたのは橙矢が介抱した妖精メイドだった。

「お前………」

「東雲さん!」

急に妖精メイドが橙矢に抱き付いてきた。

「おわっ………!」

「無事で良かったです……!」

突然の事で妖精メイドの勢いに耐えきれずに倒れる。

「ほんとに東雲さんですよね!?」

「あ、あぁ……」

「本当に………無事で良かった………出ていった時はもう………」

「……だから言ったろ、夜明けには終わらせるって」

妖精メイドを離すとレミリアに向き直る。

「………で、妖精メイドが何ですって?」

「彼女に聞いたのだけれども貴方、やっぱりドラキュラを復活させてないのじゃない」

「…………………………ハァ」

橙矢は少々驚いた顔をするがすぐにため息をついた。

「………えぇ、そうです。俺はやってませんよ」

「今更聞いても何なんだけど………なんで嘘をついた?」

「………………なんで、と言われましても」

呆けたように言った、と橙矢以外には見えたように思える。

「例え事実であろうとも死んだ奴等に罪を着せるのはおかしいんじゃないですか?」

「………それは」

「俺は誰がどう言おうとその考えは正しいと考えてます。罪を被ることが出来るのは実体を持つ命ある者だけです。それを魂魄しかない者達に被せるのはおかしいですよ。しかもそれが家族なら尚更だ」

鋭い双眸に貫かれて言葉を失う。

「………俺が言いたいのはそれだけです。じゃあ俺はもう疲れたんでこれで」

何事も無かったかのように橙矢は手を振って紅魔館の門をくぐろうとする。

「……………咲夜」

レミリアが不意に呼ぶ。

「……えぇ、分かっていますわ」

「頼むわよ」

 

 

 

 

 

 

「ハァッ………ハァッ…………」

自宅へ入るなり、壁にもたれ掛かる。

それまでに通った道には夥しいほどの血が垂れていた。

紅魔館から出るまでは筋肉で無理矢理抑えていたが、さすがに厳しかった。

「くっそ…………」

誰かに見られてはマズイと戸を閉め、それを確認すると玄関に座り込む。

いかせん血が足りない。

さすがの橙矢も所詮血がなければ生きられない人間なのだ。

(………返り血もあるが自分の血が大半だな)

半分意識が無い状態で呑気にそんな事を思う。

「あー………まだ死神の………お迎えが来てないってのに」

「ならまだ死なないんじゃないのかしら」

戸の外から声がした。

聞き慣れた声なのですぐに誰か分かった。

「……あぁ咲夜さん。ちょっと……今日は仕事休めませんかね…」

「何呑気な事言ってるのよ。開けるわよ」

「え、ちょっ」

橙矢の静止も聞かず、開けられる戸。

「……………やっぱりやせ我慢してたのね」

玄関に座り込む橙矢を一瞥してから戸を閉めた。

「全く……貴方はどうしてそんな嫌われるような事をしでかすのかしら?」

「………………黙秘権は?」

「あるわけ無いでしょう」

冗談半分で言うと真面目な顔で返された。

「………別に、理由なんてありませんよ」

「貴方………何て言えばいいのかしら……。相当な馬鹿ね」

「今更な事言わないで下さい」

ため息をつく咲夜に対して橙矢は平然としていた。

「……強いて言えば嫌われたくてやってるだけ………、ですかね」

「……………続きをどうぞ」

「どうも……。ま、どうせ忘れ去られる身だ。とことん嫌われてやろうと思いまして」

自嘲的な笑みを浮かべる。

「嫌われてる?それじゃあ貴方の目論見は外れたようね」

「………えぇ、そうですね。何せ嫌われる筈の俺自身がこの世界を好いてしまいましたから」

「…………貴方の事天の邪鬼とでも呼ぼうかしら」

「勝手にしてください。どうせあと一ヶ月の付き合いなんですから」

つい、口が滑ってしまった。

「一ヶ月?……橙矢どういう意味かしら?」

「あぁ、いえ、何でもないですよ」

瞬間、顔を両手で挟まれる。

「――――どういう意味かしら?」

「…………………」

「……言いなさい」

ナイフが首に突きつけられる。

「……そんなことしても無駄ですよ」

「あら、私がそんなか弱い女に見えるかしら?」

「えぇとても」

「……………冗談はここまでにして、早く医者のところまで行くわよ」

「冗談だったんですか………にしても医者ですか」

「それが本来の目的だもの……それより何か不都合でも?」

「一日で二回行くとなると……」

「変なところで良心が出るのね」

「分かりました………分かりましたから」

「何だかんだ言って結局こうなるのよね………おおよそだけど貴方の事が分かってきた気がするわ」

さ、行くわよ、と咲夜が立ち上がる。

「………咲夜さん、すみません……」

橙矢も立ち上がろうとしたが既に身体が動かなかった。

「…………ハァ…。仕方ないわね。ほら」

橙矢の手を取ると引っ張っていく。

「ありがとうございます」

橙矢にしては珍しい微笑みを溢す。

それを見て咲夜は目を丸くした。

「貴方、そんな顔が出来たのね」

「……………」

「ふふっ、冗談よ」

橙矢に合わせる様に咲夜も微笑んだ。

 

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