遡ること数十時間前。
ロキにより神力を送り込まれた橙矢は意識が刈り取られる寸前口を開いた。
「紫……さん……」
すると僅かにだがスキマが開かれる。
「何……かしら……東雲さん」
途切れ途切れに声が聞こえる。心なしか息も荒いような。
「何……かあったので……?」
「それはお互い様……それで……私に何か用かし……ら?」
「………頼みがある……」
「…………聞くだけなら」
「…………もしだ。……もし俺が誰かを……殺しそうになったら、その時は……
俺を殺してください」
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貫かれた橙矢は血を撒き散らして倒れた。
「何………が………」
「橙矢さん!」
椛の目の前にスキマが開いて気付いたときにはかなり離れたところに倒れていた。
「う………」
顔を上げると紫が傘の先端で倒れた橙矢の首を持ち上げていた。
「………間一髪だったわね」
「八雲紫………!?どうしてここに……」
「東雲さんに頼まれたからよ。……誰かを殺しそうになったら自分を殺せってね」
そう言って傘の先端から濃密度な弾幕を放って首に直撃させた。
「カハ………!?」
吹っ飛んで地を転がるが転がった先にスキマが開いてその中から紫が出てきて蹴り上げる。そして首を掴み上げると締める。
「……ァ……アァ………!」
「恨むなら恨みなさい。……これも貴方が望んだ結果なのだから」
首を放すとスペルカードを抜く。
「廃線〈ぶらり廃駅下車の旅〉」
横から電車が走ってきて橙矢に激突した。
「……………ッ」
「紫奥義〈弾幕結界〉」
橙矢の周りに結界が張られると弾幕が四方八方から迫り来る。
何とか避けようと身体を動かす。
結界〈魅力的な四重結界〉
結界が細長い円上になると橙矢の四肢を拘束する。
「逃がさないわよ」
次々と弾幕が橙矢に直撃し、骨に皹を入れさせる。
「……中々タフね」
結界を解除させると橙矢は重力に逆らわず仰向けに地に墜ちた。
その際に橙矢の手から刀が放される。
「くそ……ッ!」
今にも切れそうな息をしながらも刀に手を伸ばす。恐るべき生命力だ。
ある意味感心しながらも傘を刀に伸ばしている手に突き刺す。
「―――――――!」
声にならない悲鳴を上げる。
橙矢は紫を睨み付けると突き刺されてはいない方の手で傘を掴んで抜いた。
「まだだ……!まだ……」
傘ごと紫を蹴り飛ばして距離を離させる。
「この神である俺を殺せると……!」
「残念だけど貴方は神ではないわ」
「ッなん……だと……!?」
「神力を宿した比較的神に近い存在。人間でもなければ神でもましてや妖怪でもない」
橙矢は今まで人間から半妖、妖怪へと成っていた。それは事実だ。それは妖怪を数え切れないほど殺してきた結果であり、さらに直接妖怪の血という同族の妖力を浴びてきたため成せたことである。しかし神になるために橙矢は神をシヴァしか殺してない。ロキにより直接神力は送られたわけではあるが所詮それは力だけであり種族を越えることは出来ない。
「さて、さっさと元の東雲さんに戻ってくれるかしら。名の無き種族の相手なんてしてられないの」
「ふざけるな………ッざけるな!」
橙矢であり橙矢でないものは怒りだけで立ち上がると刀を薙いだ。
「俺は神だ……!貴様らとは違う存在なんだ!」
「勝手に言ってなさい」
そういうとスキマを開いてその中に手を突っ込む。瞬間橙矢が悶え苦しみだす。
「ァ……ガァ……!?き、貴様……何をした……!」
「……貴方の中から必要最低限以外の神力を放出させたわ」
「この……チート野郎が……!」
「あら、チートは神の特権ではなくて?」
「ッ!」
「自分で認めたわね。やはり貴方は神に遣える……形無き神力の塊である天使。そんな分際で東雲さんに入り込むだなんて……馬鹿ね」
徐々に消えていく刻印を押さえながら紫を睨む。
「許さない……!俺はお前を……!」
「まだやる気かしら?」
「当たり前だ!シヴァ様を殺した貴様らを許すわけには……!」
「……仕方無いわね。……ごめんなさいね東雲さん」
スペルカードを引き抜く。
「――――貴方が望む通り貴方を殺す」
「待ってください!」
スペルを宣言する寸前割って入る声がひとつ。
紫が鬱陶しげに向くと白狼天狗が立ち上がっていた。
「待って……ください。……殺すのは…やめてください」
「……却下ね。これは彼が望んだことなのよ。それを叶えることが彼の幸せってものよ」
「それがなんだってんだよ……!」
次いで蓬莱人が天子に肩を貸しながら立つ。
「……確かにそれが本心だとしたら橙矢にとっては幸せかもしれないわね。けどそれがもし彼なりの優しさだとしたら?橙矢の幸せは何処にいくのよ」
笑う膝を押さえながら霊夢と幽香が身体を持ち上げた。
「橙矢が自分を殺せ、なんて馬鹿なこと言うようになったもんだね。後でお仕置きしなきゃ」
紫の上から声がする。見上げると錨を肩にかけた村紗が木の枝に腰かけていた。
「貴方達……」
「悪いわね紫……これだけは譲れないのよ」
霊夢が祓い棒を向けると紫は少し考えた後ため息をついた。
「仕方無いわね……。十分よ。それまでに東雲さんを戻したら殺すのをやめるわ」
十分。充分過ぎるほどの時間だ。しかし全員立っているのも辛い状態だ。
「東雲さんは今精神を神力の塊である天使に奪われているわ。けれど私がさっき殆どの神力を抜いた。それに加え彼はすでに瀕死状態よ。……せいぜい頑張りなさい」
スキマを開かせるとその中に姿を消す。すると橙矢の視線が椛達に向く。
「…………馬鹿だな。殺せるチャンスだったのにな」
「そしたら橙矢さんも死んでしまうでしょう?そんなのは許容出来ません」
「優しいな。が、それを聞いてこいつはどう思うかな?」
「知りませんよ。私達は彼を助けたいだけです」
「ハッ、助けたい助けたいと言って助けられるほどこの世界は甘くねぇんだよ―――!」
足を強化させた橙矢が迫る。
「結局こうなるんですか……!」
振り下ろした刀を幽香が傘で受け止める。
「だったら力ずくで止めてやるわよ」
「やってみな!!」
「じゃあ……やってみるわ」
上空へ弾き飛ばすと閃光を放つ。すると幽香が崩れ落ちる。恐らく限界がきたのだろう。無限のような体力を持つ幽香でさえそうなのだ他の者達も残り一発撃てば幽香みたく崩れ落ちる。妹紅が飛び上がり、上から橙矢を蹴り飛ばす。そうすることで自然と橙矢が閃光に飛び込むことになる。
「……!」
「次よ、霊夢!」
「霊符〈夢想封印〉!!」
虹色に輝く陰陽玉が橙矢を囲い、一気に橙矢へと迫る。
「ッ!」
宙にいる橙矢は何も出来ずに喰らうと地に墜ちて転がる。
「………カハ……!グ……」
それでもまだ立ち上がる。
「……まだ倒れないの………!?」
「ハァ…ハァ………全人類の緋想天!」
天子が橙矢の視界からレーザーを放つ。しかしそれは刀によって弾かれる。
「くそ…………」
スペルを放った体勢のまま倒れた。
「………どうしようか。このままじゃ私達全滅だよ」
椛の隣に降り立つ村紗が焦り気味に問う。だが仕方無いだろう。先程の橙矢との戦闘ですでに全員瀕死状態なのだ。そんな状態でまともに戦えるはずない。
幽香、妹紅、霊夢に天子。
この四人はもう動ける状態じゃない。
「だけどそれと引き換えに橙矢さんにも多大な痛手を負わせれました」
「そうだね。……私達の手で終わらせようか」
覚悟を決めて椛が剣を、村紗が錨を構える。
「ハッ、貴様ら二人だけで俺を殺すつもりか?」
「私のことも忘れてもらっちゃ困るわ」
瞬間橙矢の身体中にナイフが突き刺さった。
「何……」
二人の前に息を荒げたメイド服を着た女性が降り立つ。
「紅魔の犬が……!」
「幻象〈ルナクロック〉」
咲夜が宣誓すると咲夜以外の時が止まる。
息を整えながらナイフを構えて、しかし咲夜の世界に皹が入ったことに驚愕した。
「え――――――」
パキィィンと乾いた音が聞こえると止まっていた時が動き出す。
「貴様みたいな時を操る者は我々の世界では別段に珍しくもない」
「………!」
さっきのスペルで魔力を切らしたのか膝が折れた。
「……悪いわね。私はもう動けそうにないわ……」
「いえ、充分です。後は任せてください」
「さて、行くよ天使さんよ!」
駆け出して錨を振り下ろす。が後ろに後退して避けられる。
錨が地を叩き付けるとその勢いを使って身体を持ち上げると弧を描くように回ると上から蹴りを入れた。
「……!」
「白狼天狗!」
「分かってます!」
剣を真横に振り抜く。刀で防ぐが力負けして後ろに大きく押される。
「転覆〈撃沈アンカー〉!!」
村紗の真横の空間から錨が飛んでいく。
刀で弾いて村紗に駆け出す。しかし不意に後ろに存在を感じる。
振り向くよりも早く鈍器で殴り付けられて木々を貫通して吹き飛んでいく。
「詰めが甘いですよ」
そういう椛の手には橙矢が弾いた錨が。
「そういうことか……」
血を吐くと村紗目掛けて跳ぶ。
「船長さん!」
「あいよ!」
錨を受け取ると振り下ろされる刀を弾く。そして柄の部分で殴りあげた。
「………ッ!」
飛び上がって腹に踵落としを決めて地に叩き付けた。その際に煙幕が二人の視界を覆った。
「……ッハッ!」
腕を強化させて足を立たせ、まだ立ち上がる。
「ハァ………ハァ………。そうだ、それでいい………」
当に刻印は消えていた。しかしそれでも橙矢は立つ。
「どうした………来い!!」
叫ぶと煙の向こうから地を蹴り音が聞こえた。
それと同時に刀を上段に構えた。
▼
「どうした………来い!!」
煙幕の向こう側から橙矢の声が聞こえる。いや、橙矢ではない何者か、が。
チラ、と椛は村紗の方を見る。
「……………」
息を荒げているがまだ動けそうだ、
「白狼天狗、アンタが隙を作ってくれ。まだ時間はある……。私が全て終わらせる」
村紗が訴えかけるように椛の瞳を見る。それは揺るがない真っ直ぐな瞳だった。
「………分かりました」
椛は盾を捨てて両手で剣を持つ。今の橙矢に隙を作るとなれば防御は捨てて捨て身で行かなければならない。
椛は頷くと剣を真っ直ぐ、煙幕の向こうにいる橙矢に向ける。
「行きます……橙矢さん!」
覚悟を決めると足に力を入れて駆け出す。
橙矢の姿は踏み出して二歩目にうっすら確認できた。刀を上段に構えている。
(あのまま振り下ろす気ですか……。でしたらそこを弾く!)
間合いが零になった瞬間刀を突き出す。
その時煙が晴れた。
煙が晴れたことによって橙矢の姿がはっきりと確認できた。
いまだに刀を振り上げたままだ。
椛の思考が固まる。
(―――――ちょっと待ってください。このままじゃあ……)
視線だけ顔に向ける。
――――――そこには椛の大好きな笑顔があった。
笑顔は崩さず口だけを動かす。
「―――――――ありがとう。椛」
椛の掴む剣が橙矢の心臓に突き刺さった。
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では次回までバイバイです!