「…………………」
海の中で橙矢は虚ろな瞳で沈下していた。
(あんなのどう勝てってんだよ………)
圧倒的な力の差。さらに相手はまだ本気を出してないようにも見えた。
(あれが月の科学力……?)
諦め半分で閉じていた瞳を開ける。同時に目を見開いた。
(なんだ…………あれ………)
橙矢の目の前に広がるは無数の骸骨の山。
(これは……月の民のか?何でこんなところに………自殺でもしたのか?いや、だとしたら数が多すぎる。仮に自殺だとしよう。だとしても何でここに?自殺の中でも溺死はかなり辛い方に部類するはずだ。そんなの好き好んでやるやつなんているのか?いや、けど確か水には穢れを祓う役目があるって何処かの国の習わしで聞いたことがあるな。……禊だっけ。死体から穢れでも出るからそれを清めるために…………ん?ちょっと待てよ。穢れを祓う?水が?死体から穢れが発生。そしてそれを祓うために水に入れる。死体を。…………)
そこまで考えたところで橙矢の頭の中にあるひとつの答えが浮かんだ。
(まさか………。これは自殺じゃなくて死んだ者をこの海に棄てているのか!?月の民は穢れを嫌う。だとしたら月の都に死体なんて置いておくわけない。それで穢れを祓えることが出来るのはここだけだ。………そういうことか。…………屑め)
刀を掴む手に力を入れると限界まで強化させる。
(馬鹿やったな綿月豊姫。………俺にも限度というものがあるんだよッ!!)
水中とはいえないほど素早く童子切を振り下ろす。
瞬間海が割れた。
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橙矢の吹き飛ばした豊姫は笑みを浮かべて紫に向き直る。
「八雲紫。今度は何のようかしら?」
「……………彼は人間よ。少々やりすぎではなくて?」
「何を言うかと思えば。……月の都に仇なすものは何者であろうと排除する。それが私の使命よ。それを咎められちゃ私の立場があったもんじゃないわ」
「……………………」
「おだんまりかしら?つまらないわね」
「……残念だけど月の都に攻撃を仕掛けたのは東雲さんよ。私ではないわ」
「…それで罪が逃れられとでも?」
「もちろん思ってないわ。ただ貴方、やってしまったわね」
「何がかしら?」
「東雲さんは誰よりも幻想郷を愛している。…それ故にそれを傷つけられたら……いくら普段温厚な東雲さんでも怒っちゃうわよ」
「脅しかしら。そんなものに私が―――」
そこまで言うと急に海から振動が伝わってくる。
「…………………?何が」
「来たわね」
紫はひとつ息を吐くと上空へ飛ぶ。
「気を付けた方がいいわよ。せいぜい彼に見付からないようになさい」
紫が言い終えると海の中からひとつの斬撃が飛んできた。
「ッ!」
横に跳んで避けて海の方に視線を向けると唖然とした。海が割れているのだ。綺麗さっぱりに。
その中を一人の少年が悠然と歩いてくる。
「…………貴方」
「…………何が月の民だ。結局は俺等と同じ穢れまみれの生き物じゃねぇか」
橙矢が浜辺へ着くと裂けていた海が元に戻り、高い波を上げる。
「………海の中の骸骨の山、あれはなんだ?」
「………………何のことかしら?」
「…………」
(一瞬だけ動揺したな)
「東雲さん?それに海の中って……」
「海に吹っ飛ばされたときに丁度見えたんだよ。………お前ら、死んだ者を海に棄ててるだろ」
刀を上段に構えると振り下ろす。
斬撃が豊姫に迫る。
「こんな程度で……」
扇子で器用に受け流す、と目の前に橙矢が迫っていた。
「油断はすんじゃねぇぞ!!」
下から振り上げられる刀を扇子で受け止める、しかし勢いは殺せず上空に弾き飛ばされる。足を強化させると跳んで追い付く。
「死んでもらっちゃあ困るからな!!」
宙で回転すると踵落としをする。その際に一瞬だけ運動エネルギーを強化させる。強化し終えるとそれに加えて脚を強化して豊姫に叩き付ける。
それも扇子で受け止められるが地に落とすことは出来た。
「嘗めないで頂戴……!」
地に向かって扇子を振るうと風が舞い、豊姫の落下の勢いを弱める。
「そんな使い方まであるのか、よッ!」
豊姫が着地する地点を予測して何発も斬撃を放つ。
「―――――反転」
不意に第三者の声が橙矢の耳に届くと同時にいきなり橙矢の足は地に着いていた。
「え………」
慌てて上空を見上げると斬撃が迫っていた。
「しま―――――!」
逃げることも出来ずに直撃した。
「………ッ……!」
何度も地を跳ねて転がる。
「……………何だよ………」
血を吐きながらも立ち上がる。その時橙矢の前方に豊姫が着地した。
(反転……?豊姫と俺の位置が反転したのか…………けど誰が………)
「……………………」
豊姫とは別の砂を踏む音が聞こえる。そちらに目を向けると片翼を生やした銀髪の女性が橙矢を見下ろしていた。
「…………おいおい、他人の戦いに横槍入れるなんて些か常識がないな?」
「………………」
しかし依然として女性は沈黙を保つ。
「東雲さん!」
紫が弾幕を放つ。しかしその弾幕は軌道を変えて紫へと向かう。
「いつかの天邪鬼みたいね……!けどこれならどうかしら!?」
一枚のスペルカードを抜き放つと宣誓する。
「紫奥義〈弾幕結界〉」
豊姫と女性の周りに結界が張られ、弾幕が二人に迫る。しかし女性は一言。
「私が結界で縛られている、か」
瞬間、二人を囲っている結界が解けて逆に紫が結界に囲まれる。
「な……!お前!何した……!」
橙矢が問うが何も答えない。
(くそ……!反転させる能力か!?だとしたら天邪鬼と同じ種族!?じゃあなんで月にいられる……!天邪鬼とは違うものなのか!?)
何か考えていても拉致が空かない。橙矢は足を強化し、紫目掛けて跳ぶ。
「……………!」
「壊れろッ!」
次いで腕を強化し、結界を殴り付けた。
すると結界に皹が入って壊れる。
「東雲さん………」
「紫さん。あんたは逃げろ。二人まとめては逃げ切れない」
刀を構えて二人を牽制する。
「………俺があの二人を止めれば紫さんが逃げ切れる時間くらいは稼げる」
「………けどそんなことしたら」
「なに、俺のことは心配いらねぇよ。どうせ俺が死んだところで幻想郷に何も起こらねぇしな。……どっちの命に価値があるか考えろ」
「………………」
「そういうことだ。とっとと失せな」
捨て台詞を吐くと二人に駆け出す。
「東雲さん!」
「ッ!」
振り返り様に斬撃を放って紫の足元に直撃する。砂埃が舞って紫は姿を隠す。
「八雲紫が……!」
「お前らの相手は俺だ!!」
跳び上がると上空から落下の勢いで刀を振り下ろす。
その前に豊姫が扇子を広げて振るう。
疲弊していた橙矢の身体はいとも簡単に飛ばされ、宙に投げ出された。
意識が飛んでいく中で橙矢はチラ、と紫がいた場所を見る。そこにはスキマを閉じながらこちらを見ていた紫が。
「………良かった………」
紫が無事に逃げ切れた。それを確認し終えると橙矢の記憶が途切れた。
▼
スキマを抜けると見慣れたところへと出た。マヨヒガへ。
「…………東雲さん」
自身を犠牲にしてまで逃がしてくれた。その行動には必ず意味があるはずだ。
だが、
「…………あの化け物にどう対抗すれば……」
「紫様、お帰りになられましたので?」
紫の姿を見付けたのか藍が歩み寄ってくる。
「藍…………」
「……退治屋はどうしたんですか?」
「………彼なら身を挺して私を逃がしてくれたわ」
「……………………そうですか」
察したかのように目を伏せて紫の肩に手を置く。
「ですが紫様。彼が貴方を逃がしたこと、その意味をよくお考えになられたらどうでしょう」
「………分かってるわ」
「……………ならいいです」
それでは、と頭を下げて家事の途中だったのだろう。忙しそうに駆け足で去っていく。
「…もう一度………。幻想郷には貴方が必要なのよ東雲さん……」
サグメの能力の用途が……分からない。
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では次回までバイバイです。