ひとつ言い忘れてました。この話は百十六話で分岐してます。本編では橙矢君は死亡しましたが今回は生きてる、ということで。
だ、誰………?
あ、橙矢君。
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ではではどうぞ。
何が起きたか誰にも理解出来ていなかった。
近くにいた藍でさえもだ。少し離れたところで戦闘をしていた紫と豊姫も動きを止めていた。
「……………」
当の本人は鋭い眼孔で依姫を睨み付けていた。
「……貴方、どうやってフェムトファイバーを…………」
「…………簡単な話。俺が須臾と同等、またはそれ以上の速度で破っただけだ」
ごく当たり前のように言うがそれは人間技ではない。いや、普通の生物では無理だろう。違う。異形な生物でも無理だ。
依姫を刀の上から蹴り飛ばした。
「………ッゥ!」
すぐさま藍を抱き起こす。
「藍さん!大丈夫ですか!?」
「退治屋……。い、一応無事だ。そ、それより……」
「分かってますよ」
「………そうか、なら雑魚は任せろ。この傷じゃあろくに動けやしない」
「なら任せます。俺は依姫を」
刀を抜き、足を強化させて目の前に移動する。
「覚悟しろ……月人ォ!」
刀を力任せに振り上げる。刀で受け止められるが吹き飛ばす。
「力だけは一人前ですね」
「だったら力に屈しやがれ!」
斬撃を放つが依姫の一振りにかき消される。
その隙に回り込むが依姫はすぐさま反応して刀を突き出す。
「甘ぇよ!」
叩き落として刀を踏み、固定すると柄で脇腹を殴り付け、腹を蹴りあげる。
「ッ!」
腹を押さえながら後退する依姫に対して橙矢は追撃をかけるべく接近する。
その前に橙矢の横から弾幕が飛んできて橙矢を吹き飛ばした。
「………サグメ様」
依姫がなにやら複雑な顔で苦笑いして橙矢に駆け出す。
次々と振るわれる刀の軌道を先読みして避け続け、少し大振りになった時刃に刀を軽く当てて軌道を逸らした。
「………ッ!」
「油断したな。くらいやがれ―――!」
超至近距離で斬撃を放つ。
が、
「それはどっちですか」
慌てる様子なく回転して受け流した。
「な………!?」
「天手力男よ。我に彼の者の悪気を祓う力を」
依姫が刀を振り下ろし、それを刀で受け止める。だが、あまりの重さに橙矢の身体が沈む。
「……ッ!」
腕を強化させて押し返そうとするが逆にさらに沈む。
(天手力男……。そういうことか……ッ!)
もっと早くに気付いていれば受け止めるという馬鹿な発想はしなかったはずだ。
「ッ…………っそが!」
刀の先を少し下げて刀を流して地に叩き付けさせると強化させたままの腕で殴り付ける。
だが天手力男の力を付与している依姫には受け止めることは造作もなかった。
「散りなさい」
一閃が閃いて橙矢の身体に斜めの一本線が入り、そこから血が大量に吹き出る。
「……カ……は……!?」
「東雲さん!?」
「退治屋!」
藍が駆け寄るが、兎が持つ銃剣で一斉射撃された。
「…………ッ!」
「藍!」
次いで紫に暴風が叩き付けられる。
「ぐ……ガァ……ッ!」
「無様ね」
「テメェら……!!」
橙矢が立ち上がろうとするが顔面に依姫の蹴りが入って地を転がる。
「黙りなさい」
「……………………」
しかし倒れていた橙矢の姿がブレると消えた。
「え………?」
「テメェらこっちだ」
次に橙矢の声がしたのは依姫の背後。
「いつの間に……ッ!」
振り向き様に刀を振るうが避けられた。
「遅ぇよウスノロ」
「ッ!」
慌てて刀を盾にする。しかし今までの橙矢からは信じられない程の威力が依姫の刀に走り、軋んで大きく後退させられた。
「…………貴方………」
橙矢は振り抜いた状態からユラリと身体を起き上がらせると顔を上げた。
「東雲…さん………」
月の住民ではなく紫が目を見開く。
橙矢は顔に刻印が刻まれていた。
それは橙矢が神力を宿し、人間をやめた証拠。
「まだ幽かにだが残ってたんだよ。俺の中に神力がな………。それにこの童子切のお陰でもある」
刀、童子切を抜いて依姫に向ける。
「この刀は元々俺が使っていた天叢雲剣のような聖剣に近い一品だ。だから少なからずの神力が宿っている」
「………面倒ですね。ですがそんな付け焼き刃でどうにかなるとでも?」
「ハッ、面白いこと言ってくれるじゃねぇか、出来る出来ないんじゃないんだ。やらなきゃいけないんだよ」
童子切を上段に構え、思いっきり振り下ろした。すると蜘蛛の巣状に地に皹が入り、すり鉢状に窪む。
「馬鹿力が……ッ!」
「それはテメェもだろ!!」
依姫の懐に潜り込むと刀を振り抜く。為す術なく吹き飛んで壁に激突した。
「今のうちに……」
藍と紫を抱えると屋根に上る。
「紫さん、藍さん。無事ですよね」
「え、えぇ何とか……」
「すまない退治屋……」
「大丈夫なら早くずらかりますよ。ここから逃げ出さなければどのみち俺等は袋の鼠です」
「そうね……分かったわ」
紫が立ち上がってスキマを開く。
「俺が最後尾を護ります。神力はまだ持ちますから」
「ごめんなさいね………何からなにまで」
「元はと言えば俺が言い出したことです。心配なく」
スキマの中にまず藍が入ると同時に橙矢の目の前に豊姫が現れる。すると紫が空けたスキマが徐々に閉じていく。
「何処へ行こうと?」
紫は焦りの表情を浮かべるが橙矢は不敵に笑っていた。
「………安心しろよ。何処にも行かねぇさ」
「東雲さん!早く!」
紫が今にも閉じそうなスキマから手を伸ばす。
「すまんな紫さん。俺は行けそうにねぇや。代わりに……」
ポケットから懐中時計を取り出し、紫を掌に放った。
「それをお嬢様に返しておいてくれ。あ、俺の名前は出すなよ」
「東雲さん!!駄目で―――――」
「……………悪いな」
足を強化させて一瞬で豊姫に接近して腕を掴むと下へと落ちていく。
「……………」
スキマが閉じる寸前橙矢と紫の瞳が合う。紫の瞳は何か語りたがっていたが橙矢はそれを受け止め、そして逸らした。
「落ちろ……!」
地に向けて投げ付ける。
「甘いわね」
豊姫が地に扇子を振って勢いを緩め、さらに橙矢に向けて振るう。
橙矢に暴風が叩き付けられ、吹き飛んで建物に激突する。
「………ッ!」
そのまま崩れ落ちて地に鈍い音を立てて落下した。
「…………あんな女を逃がすためだけに自らを犠牲にするなんてね。馬鹿なの?」
身体を痙攣させながら橙矢はゆっくり立ち上がる。
「黙れよ……。あんたらの同情なんかいらねぇよ……。いいか、紫さんと藍さんは幻想郷に必要な人材だ。………それに比べて俺は公では死んでいることになっている。だったら俺が戻る必要なんてないだろ………」
「……………………」
「…………さ、続きを始めようか。丁度こっちは身体が温まってきたところだ」
腕を一薙ぎし、身体を起き上がらせ、戦闘体勢を取る。
「来いよ月の都。俺が地上を代表して相手してやる!」
駆け出して依姫に接近する。その前に玉兎達が立ちはだかる。
「邪魔だァ!!」
腕を一振り、それだけで玉兎達が吹き飛んだ。
「テメェらじゃ話にならねぇ!」
「貴方達は退きなさい!この少年は私とお姉様で相手します!」
橙矢の刀を依姫が受け止め、豊姫が後ろから扇子を振るう。
暴風が二人を襲う寸前依姫が横に跳んで回避する。
「………ッ!」
橙矢は避けきれずに建物に背を打ち付ける。
「ァ……………」
崩れ落ちた橙矢に豊姫が歩み寄る。橙矢はまだ意識があるみたく必死に立とうとしていた。
「……………馬鹿ね貴方。あの女は貴方が命を張って護る必要なんてなかったのよ」
「黙れ…………おま……なんかに……わか……ってたま……るかよ……」
「……今ここで幻想郷を滅ぼそうとしたら?」
「殺す」
迷いのない解答だった。血まみれになりながらも橙矢は幻想郷を護る一心で豊姫に刃を向ける。
「………折れないのね」
「…………お姉様」
「…………………………この者は地上に返します」
すると玉兎の中でざわめきが起こる。
「………彼の者は一人を逃がすために自らの命を捨てたのです。それも敵の大軍を前にしながらも。………私はこのような人間を見たことはありません。……少しこの者に興味を持ちました。彼は私達が思うよりもずっと浄化されている人間です。そんな彼がこれからの世界をどう変えていくか。それが知りたくなりました」
「て………め…………なんの……ま……ね………」
そこまで言うと橙矢の身体が再び崩れ落ちる。が、それは途中で止められた。
「………………」
受け止めたのはサグメだった。
「ご苦労様です、彼は養護室にでも運んでおいてください。起きてから再度説明します」
「………………」
サグメは数名呼んで担がせるとそれに付いていった。
「……………お姉様、良かったのですか?」
「別に彼を許すつもりはないわ。……ただ彼からは他の者とは違う、そのような感じがしてね………なんでかしら」
▼
数日後、橙矢は静かな海に来ていた。橙矢の背後には依姫と豊姫が。
「………ここから戻れるのか?」
「えぇ、私の能力を使えば、だけど」
「……………」
「何かしらその疑うような目は」
「………別に」
「まさか疑ってるの?」
「疑うなって方が無理な話だ」
「確かにそうね。けどこればっかりは信用してほしいわ」
「まぁでもこれしか帰れる方法はないわけだしな」
そう言うと海面に映る地球が割れて紫とは違ったスキマが開く。
「ここを通っていけば帰れるわ」
「そうか……」
一歩海へ入ると冷たい水が橙矢の身体を打つ。
「……………ま、何かと世話になったな」
「そうね、最初はただの野蛮な人だと思ったわ」
「最初は?つまり今はどうなんだ?」
「野蛮な殿方」
「言い方が変わってねぇ………」
「それよりも早く行ってくれないかしら。私の能力もそこまで続かないの」
「じゃあ最後にひとつだけ」
「何かしら?」
「………どうしてやめた?」
「愚問ね。答える価値がないわ」
「あっそ、答える気がないならいい」
予想に反して潔く諦めた。
「あら、意外ね」
「……………じゃあな」
「えぇ、無事辿り着けることを祈ってるわ」
「どうだか」
肩を竦ませながら苦笑いしてスキマの中へと入っていった。
「………………」
「お姉様」
「……………分かってるわ。あの人がどう転ぼうと私は地上をどうこうする気はない」
「………そうですか」
「彼を見てたらなんか心変わりしちゃったわ………私は彼のように何かのために命を捨てられるかしら」
「少なくとも私達はそうならなければなりませんね」
この無理矢理終わらせた感………。
次回でこのお話は終わりです。
感想、評価お待ちしております。
では次回までバイバイです!