ではではどうぞ。
翌日、神奈は橙矢に連れられてひとつの家屋の前へと連れてこられていた。
『香霖堂』
そう看板には書かれていたがその店の脇に置かれている色んなガラクタが変な匂いしかしない。
「あ、あの東雲さん……胡散臭さが凄いのですが………」
「……まぁ初めて来たやつはそうだろうな。けど……いやけどって言ったらおかしいかもしれんが安心しろ。顔くらいは何回か合わせたことがある」
そう言って店の中に入っていく。神奈は仕方無く橙矢に付いていくことにした。
「よぉ香霖、生きてるか」
「――――――急に来ておいていきなりの生存確認か。些か君は礼儀というものを知らないようだ」
気だるそうな声がして眼鏡をかけた男性が店の奥から出てくる。
「仕方無いだろ。何事に関しても無関心なお前を呼び出すためには常識ではないことをして呼ぶに限るんだよ」
「その考え方は間違っているよ。それに僕は何事に関しても無関心じゃない。ちゃんと関心があることだってある」
「あそう。じゃあ話は変わるが刀を寄越せ」
「君は少し接続語というものを覚えてくるといい。さっきの話と今の話、じゃあという言葉では繋げられないよ」
「知ってるさ、んな事。それよりもこれを見てくれ」
橙矢が鞘に納まっている刀を抜くと霖之助は驚いたように目を少し見開く。橙矢が使っていた刀が半で折れていた。
「……ほぅ、見事なまでに折られてるね。年期だったのかな」
「それってつまり粗悪品を渡したのか?」
「人聞きの悪いこと言わないでくれよ。君に渡したのは純粋な鉄の刀。不純物が入ってない代物だよ」
「ふぅん………。まぁもう過ぎた話だからな。信じる信じないは俺の勝手だろうな」
「別に信じてくれなくて結構。君に期待なんかしてないよ。………その話は後にしてくれ。心当たりがあるから。それよりももっと重要なことがあるだろ?」
見据えるように神奈を視界に入れる。
「…………最初に言っておくけど僕は特に新郷神奈、君を殺す気は微塵もない。……あの破壊神と命が繋がっているとは到底思えないからね。殺しても無駄だよ」
「………霖之助?何言ってんだ」
「普通に考えてみなよ。その子はあの破壊神と命が繋がっていた女神、サティーの生まれ変わり。つまり前世の時に命が繋がっていたということになる。けどその子は一応サティーの生まれ変わりということになっているから神が持つ神力は引き継いでいる訳だ。そうなると自然と人間の形をした神、即ち現人神。……それに加えすでにサティーは死んでいる身だ。もし仮にまだ命が繋がっていたとしたらシヴァはサティーが死亡した際に共に死んでいる。そう仮定すると自然とシヴァはその子と同じような人の形をした神様と推測が出来る。さらに新郷神奈を見る辺りシヴァ神とは面識がないようだから再び命を繋げられることは出来ない。もひとつの仮定としてサティーが命を切っていたとしよう。そうなれば新郷神奈も命が繋がっている可能性は低くなる。というより可能性はない」
「…………あぁなるほどな」
「僕がその子を殺したくない、という理由もあるけどね。………だけどそうなると変だ」
「新郷を殺したくない理由がか?」
「違う。ほら、僕ですらここまで説明が出来るんだ。霊夢や賢者辺りだったらすぐに分かるはずなのに。実際に二人は新郷神奈を襲ってきたのだろう?」
霖之助の言葉に小さく頷く。
「新郷があの駄神と命が繋がっていないってことが分かっていないのならその理由は明白だ。だが反対に分かっているとしたら?何のために殺そうとしている?」
「………俺に聞くなよ。考えるのは嫌いなんだ。………しかしそうだな。考えられるとしたら新郷がこの世界にいてはいけない理由があるはずだ。外の世界に出そうとしても神力で阻まれて外に出れない。だからこれに乗じて殺そうとしたのか」
「いや、シヴァ神関連には間違いない。推測ではね」
「………お前の推測では、か」
「おっと、少し話が逸れたね。戻そう。刀が折れたんだっけか」
「ん、あぁ」
腰から鞘を抜いて霖之助の前に置いた。
「出来れば次も刀だと助かるんだが」
「一応予備があるよ。いや、言い方が良くなかったね。本物と言った方が良いかな?」
「どういうことだ?説明してもらおうか」
「別に隠すつもりは毛頭ない、そのまんまの意味だよ。君に渡した刀はかなりの業物だ。けどそれよりも遥かに凌ぐものがうちにはあるんだ」
「つまり二流物を渡していたと」
「そう邪険にしないでくれ。……あの時の君では到底使いこなせないからだよ」
「……それはつまりある程度の使い手じゃないと使えない物ってか?」
「ある程度なんてものじゃないさ。何もかも捨ててまであるひとつのものを護る、その覚悟がなければ掴むことすら許さない」
「…………銘は?」
「………天叢雲剣、またの銘を草薙の剣」
「―――――あ、天叢雲剣ィ!?それって日本神話で須佐之男が使っていた刀だろ!?なんでそんなものがあ………いや、あって当たり前か」
「そう、幻想郷は忘れられたものの自らを維持できる最後の園。天叢雲剣には数多くのレプリカが存在する。恐らくレプリカが多すぎて本物が忘れられたのだろう。少し昔に魔理沙が持ってきたんだ」
「魔理沙が?とんだ拍子抜けだな」
「そんなこと言わないでくれ。……けど驚くのは無理ない。あの時の僕ですら驚いたんだ」
「そりゃあ日本神話に出てくるものがそんじょそこらの少女が持ってきたんだ。普通だったら度肝抜くぞ」
「では僕は普通ではないと」
「こんなボロクセぇとこに住んでるんだからな。異常者だ」
「それは自分自身も異常者と言っているようなものだが?」
「おぉ冗談キツいな」
「君の方がキツいよ。少しは自重した方が身のためだ……って言ってももうすでに遅いんだろうけどね」
「よく分かってらっしゃる」
「………少し待っててくれ。すぐに取ってくるよ」
霖之助はそう言って店の奥へと入っていった。
「………天叢雲剣か。そんなものがこの幻想郷にあるとは思わなんだ」
「あの東雲さん………。天叢雲剣ってあれですよね。遥か太古に須佐之男が八岐大蛇を倒した時に使っていた刀で日本の三種の神器のひとつでもある……」
「色んな説があるけどな」
「待たせたね。これが例のものだ」
丁寧に扱われた鞘に収まっている刀が机上に置かれる。
「これがか?」
「まぁね。触れてみるといい。すぐに分かるよ」
「じゃ遠慮なく」
何の躊躇いもなしに掴んだ、瞬間。
可視出来るほどの電撃が橙矢を襲った。
「ッヴゥゥァ!?」
放しそうになるが歯を食い縛って耐える。
「りん……之助……!どういうつもりだ……!?」
橙矢が睨み付けるが彼は驚いたように目を見開いていた。
「………あぁそうか」
しかしすぐに納得したように一人頷いていた。
「ちょ、ちょっと東雲さんは大丈夫なんですか!?」
堪らず神奈が霖之助に飛び付く。
「今の東雲君の妖力に反応したんだと思う。彼は今は完全な妖怪だ。僕も持ってくるまで気を付けていたけどね。ほらかなり手つきが丁寧だったろ?なるべく僕に被害が受けないようにしていたんだ。それを東雲君は無造作に触れた。そりゃあ怒りを露にするよね。本来天叢雲剣を初めとした聖剣は悪を滅ぼすために産み出された謂わば正義の象徴。それに対し妖怪は悪。正のものに悪が触れたらどうなる?答えは簡単。悪を滅ぼさんとその力が働く。今の光景はそれさ」
目の前でもがき苦しむ橙矢を見てて耐えられなかったのか神奈が助けようとするが霖之助によって止められる。
「邪魔をしてあげないでくれ。彼は君を護るためにあんなものにすら手にかけたんだから」
「私のため……………」
「君には苦しい光景だろう。……けどこの程度の苦痛は彼にとってまったく効いてないはずさ」
「余計な話してんじゃねぇぞ香霖!馬鹿なこと言ってんじゃねぇ!!」
いつの間にか抜いたのか橙矢が息を取り乱しながら抜き身の刀を霖之助へと向けていた。
「東雲さん………」
「………思ったより早かったね。まさか君が抜けるとは思わなかったよ」
「……霖之助。とりあえず天叢雲剣についてはどうでもいい。……それよりも余計なことしてくれたな」
「はてなんのことやら」
「惚けるなよ。新郷に余計なこと吹き込みやがって」
「酷い言いがかりだな。僕は事実を言ったまでだよ」
「…………ッ」
歯軋りをさせながら鋭い双眸で霖之助を射貫く。しかし彼は呆れたようにため息を大きく吐いた。
「………いつまで彼女に嘘を突き通すつもりだい?……いい加減にしろ」
「………あ?」
「そこまで君が馬鹿だとは思ってなかった。呆れを通り越して逆に感心するよ」
「んだと霖之助!言わせておけば……!」
「やめておいた方がいい。その気になればいつでも君達を追放出来るんだぞ僕は。……けどそんなことしたくない」
「ハッ、変な情でも湧いたか」
「君になんかじゃない。新郷神奈にだよ。彼女は心の底から君を心配しているんだ。その気持ちに少しばかり情も感じてしまってね」
「新郷に?」
「感心するよ。彼女は東雲橙矢という存在を単なる自らを元の世界に還すためだけの道具としてはなく一人の人間として必要としているんだ。……あって間もない君を信じているんだ。それに比べて君はどうだ。ただただ新郷神奈だけを還すためだけに動いて、彼女がどれだけ君が傷付いて辛かったか分からないだろ?少しは彼女の気持ちを考えてみなよ」
「…………新郷が?俺のことを……?」
「…………本人から聞いた方が早そうだ」
霖之助が自身の後ろで控えていた新郷を前に出す。新郷はずっと俯いていたままだった。
「し、東雲さん……」
「新郷……。さっきの話は……」
「………本当です。店員さんの言った通りです。私は……私はずっとずっと心配でした。私のせいで東雲さんが死んでしまうのではないかと。一昨日、そして昨日の出来事で貴方がこの世界に必要とされているということがよく分かりました。そんな貴方が私みたいな新参者のせいで死んでしまっては……」
そこでふと俯いていた顔を上げた。色が互いに違う瞳には涙が浮かんでいた。
「例え貴方が死んでしまって私が外の世界に還ったとしても嬉しくありません!私には……東雲さん、貴方には生きていてほしいのです。……だからお願いします。もっと自身を大切にしてください。自身のことを道具だなんて言わないでください。貴方は、貴方は東雲橙矢という一人の人間なのですから………」
「………………新郷。…………悪い、ずっと勘違いしてたんだな」
刀を鞘に収めて床に置くと神奈へと歩み寄って頭に軽く手を置く。
「………新郷がそこまで俺を思ってくれてるなんてな……思いもしなかった。けど、ありがとう。…………今度からは自身を大切にする」
「東雲さん……」
嬉しかったのか涙ながらに微笑む。
「………………これで一件落着、かな」
頃合いと思ったのか霖之助が声をかける。
「……あぁ、お前にも迷惑かけたな霖之助。悪い」
「そんなの別にいいさ。それよりも君は天叢雲剣を抜いた。それは事実だ」
置いてある天叢雲剣を拾って橙矢に放る。
「君はそれで神を殺す権利を得た。存分にその力を振るっていきなよ」
「あぁ、必ずあの駄神は俺が殺す」
「その意気やよし、かな。それと君達に悲報だ」
突然声を低くした霖之助は机の引き出しから紙を取り出した。
「…………それは?」
「よく見てごらん」
霖之助から紙をひったくり見た、瞬間全身の鳥肌が立った。
「………君はとうとうこの世界を敵に回したんだよ」
『――――手配状
破壊神シヴァの妃であるサティーの生まれ変わりである新郷神奈の殺害。以上のものを成したものには報酬を与える。
八雲紫』
神奈ちゃん可愛すぎだと思う。
いや女神だ。
あ、それと来週に期末試験がありますので投稿ペースが落ちるかもです。
感想、評価お待ちしております。
では次回までバイバイです。