東方空雲華【完結】   作:船長は活動停止

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期末考査………赤点ありました。この時期はさすがにヤバイですよね。………英語はやはり苦手です。

今回は軽く糖分を投げ込みました。

ではではどうぞ。




メイドの頁

 

 

 

 

 

 目の前に聳え立つ紅魔館を前にしていつもの学生服、ではなく執事服に着替えた橙矢は感嘆の息を吐いた。

「いつ見てもでかいよなここは」

 かつてこの中に住んでいる者達に支えていたなんて到底思えない。まぁ実際に支えていたのだが。

 昨晩の宴会から明けるまで何回も自問自答してこれからどうするか決めた。結局自らで邪魔してきたところを勝手に抜け出したところに収まるなんざハナがよすぎると思うが橙矢が出した答えがそれなのだ。拒絶されたって仕方がないと思っている。それだけのことを橙矢はやらかしたのだから。

「さて、まずは門番をどうにか説得しないとな…………。いや、或いは………」

 

 

 

 

 

 

「zzz」

「デスヨネー」

 いつも通り寝ている門番に逆に感心する。さすがの橙矢もここまで職務怠慢にはならない。もういっそのことリストラされた方がこいつの、紅魔館のためなんかじゃないかと思うほど清々しい寝顔だった。

「…………ま、それはそれでこいつらしいからいいか」

 足を強化させると音を立てずに跳んで壁の上に登る。

「門は通らせてもらうぞ」

 一言だけ言うと敷地内へ入った。その時点で外の世界では不法侵入の罪で色々と言われるだろうがここは幻想郷。言葉を借りるなら何処ぞの現人神の東風谷さんの台詞『常識に囚われてはいけないのですね!』。はい、そうです。常識は通じません。

 館への道を歩いていると段々と違和感が身体の下から競り上がってくる。

(……なんだこの感じ)

 何かが紅魔館の日常と違う。

(何が違う?静かすぎるのは今さらだし門番が起きるのは……いやないか。だとしたら………)

 そこで目を見開いてその違和感に気付く。

(咲夜さんが迎えにこない……!そうだ、普通だったらいついかなる時でも誰かが来たときには迎えに出るというのに。………何かあったのか……!?)

「お嬢様……!」

 駆け出してその勢いで扉を押し開ける。―――――と目の前に咲夜が。

「え―――――」

「――――――――は?」

 まぁ当然の如く押し倒してしまうわけで。

そしてこのあと殴られることも解っていながらも避けるような馬鹿な真似はせず、我々の業界ではご褒美ですッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう、貴方が帰ってくるとはね。少し意外だったわ。まぁけど部屋は残してあるからそこを使いなさい」

 主人であるレミリアに伝えると簡潔にそう返ってきた。拍子抜けしたが別に驚くことなく頭を下げて部屋を出ていこうとする。

「待ちなさい」

 不意に呼び止められる。

「何でしょうかお嬢様?」

「忘れ物よ」

 レミリアの手から何かが放られ、それを受けとる。

「それ、貴方のでしょ。……勝手にいなくなるなんて馬鹿な真似、誰から教わったのかしら」

「……………すみません」

 手に収まっている懐中時計をポケットに入れた。

「私の知らない間に色々とあったみたいね。これを返すだなんて」

「えぇ、ちょっとの間月に行ってきました」

「…………月に?なんでまたそんなとこに」

「ちょっとした用事ですよ」

「………………そう。あえて深くまでは聞かないわ」

「そうしてくださると助かりますよ」

「引き際くらい心得てるわ」

「では早速仕事に取りかかるとしますか。お嬢様、今日は何をすればよろしいので?」

「あら仕事に対してかなり積極的なのね。何処ぞの門番にも習ってほしいものだわ」

「それは言い過ぎです。咲夜さんの方が出来るじゃないですか」

「比べる対象が違いすぎるわ。貴方くらいがちょうどいいのよ。さて、今日の貴方は……図書館にでも行ってもらおうかしら」

「図書館にですね。わかりました」

「それと橙矢。貴方今日はこの館に泊まっていくかしら?」

「え?……えぇまぁこれからはお嬢様方が良ければこの館に住居を移すつもりですが」

「そう。…………なら今日の仕事が終わり次第大広間に集まってちょうだい」

「………?何か集まりでもあるんですか?」

「ふふ………まぁそれはお楽しみ、ということで」

「あのお嬢様。俺まったく話についていけないのですが………」

「いいのいいの。とにかく終わったら来ること、分かったわね」

「…………………………はい」

 もう何を言っても無駄だと悟り頷いた。

「じゃあよろしく。以上よ」

「では失礼します」

 頭を下げてから扉を開いて部屋を後にした。

「…………さてと、そろそろ準備を始めた方がいいわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 課かせられた本の整理を終えるといつも図書館の主であるパチュリーが座しているところに向かう。が、そこにパチュリー、さらに使い魔の小悪魔までもがいなかった。

「あれ………?何処に行ったんだあの二人」

 辺りを見渡すが誰もいない。

「………ん?」

 ふと机の上に一枚の紙が置いてあるのに気付いた。

「……なんだ?」

手にとって見てみる。そこには「貴方がそれを見る頃にはちょうどいい時間になってると思う。大広間で待ってるわ」なんていう置き書きがあった。繊細な字であるからして恐らくパチュリーのものだと推測する。

「普段出ないパチュリー様まで?……何かの記念日だっけか今日は」

 それよりも、と懐中時計を見てみるとすでに十八時を過ぎていた。

「ヤベッ、本片付けるのに集中し過ぎた!」

 慌てて図書館から出ると駆け出して大広間へと向かう。図書館は二階にあって大広間はその反対側の一階の奥にあったはず、近くの階段は飛び降りることでショートカットする。その際に橙矢は廊下を駆けながらある疑問が浮かんできた。誰一人として、妖精の一匹も廊下にいないのだ。普段だったら数が無駄に多い妖精メイドがちらほら見れるのに、今日に限って見られない。

「おいおい、本格的に分からねぇぞ大広間で何が行われるのかが」

 そうこう言ってる間にも大広間の扉の前に来ていた。一応耳を立てるが何も聞こえない。

「…………?」

 騙されたのかな、なんて不審に思いながらも扉を開けた。

 

 

 

 

―――――瞬間破裂音と共に細かい紙が舞う。

 

 

 

 

 それがクラッカーによるものだと理解するのにそこまで時間は必要なかった。

「………………は?」

 見渡すとレミリアはもちろんパチュリー、咲夜、美鈴、フラン、小悪魔や妖精メイドが集まっていた。

 何事かと混乱しているとレミリアが橙矢の前に出てくる。

「ふふ、驚いたかしら橙矢?」

「……お嬢様?これは一体……それに皆さんまで」

「あら、まだ分からないかしら?私は、紅魔館は、帰ってきた家族を歓迎してるだけよ。他に理由なんていらないでしょう?」

「………………」

「………レミィ、まだ東雲は混乱してるようよ。……仕方ないけれど」

 パチュリーが手に持っている本から視線を外して橙矢へと移す。

「あらそうなのパチェ?まったく…理解が遅いわね橙矢。普段の貴方ならここで皮肉をひとつやふたつ言うところでしょう?」

「いや、あの…………」

「……何なの?」

「その……家族と言ってくださるのは……正直にとても嬉しいです。………言いたくなかったですけど……俺は………俺はこの紅魔館を潰しかけました。……その罪滅ぼしのために今日からここに来ました。………だから俺は……家族だなんて」

「…………あぁあんな事ね。まさか貴方、まだ引き摺ってんじゃないでしょうね」

「あんなこと!?お嬢様!あんなこと程度では済まされないのですよ!自らの願望のためだけに家族だったお嬢様方に刃を向けて……それでも俺のことを家族だなんて言えますか!?」

「―――――――言えるわ」

 それに答えたのは意外にも咲夜だった。悠然と橙矢の前に立つ。

「それに家族と言ったのは橙矢。貴方じゃない。『俺はお嬢様の執事であり家族である』、と……その時の貴方の瞳は嘘をつくような物ではなかった。だから信じられるのよ。私やお嬢様の他の者達も全員貴方のことを家族だと思ってるわ。あんなこと程度で済むのよ。ちょっとした家内の諍いよ」

「咲夜さん…………」

「だからほら、今は一緒に楽しみましょ?」

 咲夜が手を差し伸べる。それに橙矢は満面の笑みを浮かべて取った。

「…………ただいま」

 

『おかえりなさい!』

 

 

 彼は帰るべきところへと帰ってきた、本当の家族。紅魔館という家族へと―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数時間続いた宴会は一段落ついて一応解散となった。橙矢は自分の部屋のベッドで横になっていた。

「…………」

 電気、というよりこの世界だと部屋のあちこちに蝋燭を立てるのが普通らしい。だが蝋燭に火をつけずに暗闇の中で何も装飾のない天井を見つめていた。

「風呂、まだかしら……」

 何故女口調になったかは置いといて今橙矢は風呂の順番を待っていた。当然のことながら紅魔館の中で一番位が低い橙矢は一番最後に風呂を使える。いや、風呂というよりもはや大浴場なのだが。さすがは館ですね。

 久し振りの一人の時間。それまでは神社や先程のことがあったせいか余計に一人というのがいやに孤独に感じる。元々一人だった奴が何を言っとるか、という疑問があがりそうだ。

 すると橙矢の部屋の扉から軽い音が聞こえた。

「はいはい、風呂が俺を待ってますかな?」

「何馬鹿なこと言ってるのよ。咲夜よ」

「あぁ、咲夜さんでしたか」

 扉を開けるといつもと変わらないメイド服を着ている咲夜がいた。

「どうも、今日はお疲れ様でした。して咲夜さん、何用ですか?見るあたりまだ風呂を済ませてないように見えますが」

「見えるんじゃなくて実際そうなのよ。お嬢様と妹様が今日に限って中々どうして長くてね」

「………なるほど、じゃあ尚更ですね。俺の部屋に来る理由がまるでないじゃないですか」

「確かにそうね。私ですら疑問に思ってるわ。なんで貴方の部屋に来てるんだろうって」

「………どうぞ」

 部屋の中へと入れるとベッドに腰かける。橙矢に習ってその隣に咲夜も座る。

「それよりも貴方こんな暗さのなかずっといたの?さすがに暗すぎるわよ」

「………すみません。明るいところだと落ち着かなくて」

「そう?…まぁ一応月明かりで見られるからまだいいわ」

「……何か飲みますか?軽いものなら出せますよ」

「いらないわ。どうせすぐに済むわ」

「左様ですか」

「それにしても貴方、よく帰ってきたわね」

「何ですか急に。……まぁ形は中々違いますけどね」

「いいじゃない。罪滅ぼしで働くよりも一人の家族として働いた方が気が楽よ」

「……そう言われればそうですけど………こうなったのもお嬢様のおかげですね。あの方には感謝してもしきれません」

「……………お嬢様、ね。……当たり前よ」

「…………咲夜さん?」

 言葉までに少しだけ間があり、何かを考えているようだった。

「ん?どうかしたかしら」

「……いや、何でもないです」

 きっと気のせいだろうと自らに聞かせて話を続けた。

「けど初めて会った時は本気で殺されるかと思いましたよ。魔理沙が偶然通ったからいいものの、あのままじゃ八つ裂きにされてましたよね」

「そうね。私も貴方を見たときは少し驚いたわ。吸血鬼の凄むこの館に一人で、しかもこの世界に来て間もない人間が来るだなんて」

「お互い様です。けど……結局はお嬢様に助けられましたね。その後の一週間は美鈴やパチュリー様などの他の方にも助けていただきましたし」

「…………………………」

 またしても黙り込む咲夜に違和感を感じる。何かまずいことでも言ったのだろうか。

「………………咲夜さん?」

「……………ねぇ橙矢。ひとつ、聞いてもいいかしら?」

「答えられるものなら何でも答えますよ」

「…………………そう」

 次の瞬間咲夜が橙矢の肩を力任せに押す。急なことだったので対応しきれずにベッドに倒れる。

「ッ、咲夜さん?」

 次いで橙矢の顔の横に両手をつかれる。いわゆる押し倒しってやつですね。

「………この状況で言うのもなんなんですけど………普通は男がするものじゃ――――」

「黙りなさい」

「ッ………………」

 酷く冷たい声で口を閉ざすことになった。

「橙矢、お嬢様に忠誠を誓い、またお嬢様を崇めるのは解るわ。……それに家族のことを大事に思うことも。それは私も同じよ」

「いやそこまでは………」

「……………その瞳には何が映ってるのかしら。お嬢様?妹様?パチュリー様?美鈴?それとも小悪魔かしら?」

「……………何言ってるんですか」

「貴方が口を開くたびに私以外のことばかり………」

 すると橙矢の顎を妖しく上げてその視界に自らを入れさせる。

「ねぇ橙矢?いつになったら私を、十六夜咲夜を見てくれるのかしら?」

「……………………俺は皆を見てますよ」

「そういう意味じゃないのよ。……いや、そういう意味かもしれないわ」

「…………訳が分かりませんよ」

 咲夜を押し退けようとしたがその手を手で押さえ付けられ、さらに額を合わせられて起き上がらせていた上半身も再び倒される。

「逃げようたってそうはいかないわ。……答えてちょうだい」

「…………猶予は?」

「与えないわ」

「それは酷いでごわす。…………けど咲夜さん。これで俺がいつまでも見る気はないって答えたらどうするおつもりですか?」

「……………………………」

「……その様子ですと考えなしにこの状況になったみたいですね」

 咲夜さんにしては珍しいな、なんて思いながらも苦笑いする。

「…………私はお嬢様が、この紅魔館の家族が好きよ。もちろん貴方を含めてね。……けど貴方に対してだけは同じ好意でも他の方とは違うのよ。……これは何なの?」

「違う好意、ですか。………何でしょうね。分かりかねます」

「橙矢ッ」

 一際大きくなった咲夜に多少なりとも驚くものの特に表情に出すことなかった。

「…………残念ですが本当に分かりませんよ。……俺は咲夜さんのような感情を抱いたことはありませんからね」

「………………そう」

「……………………それで、いつまでこの体勢でいるおつもりですかな」

「もう終わるわよ」

 言うやいなや身体から力を抜いて橙矢に乗りかかる。

「え、ちょっと咲夜さん!?」

「……いいから。このままでお願い」

「!……………分かりましたよ」

 観念したようにため息を吐いて空いている腕で咲夜を抱き締める。

「ッ!……………ありがとう」

 一瞬驚いたようにビクッと反応したがすぐに橙矢に身を預けた。

「…………ねぇ橙矢」

「なんでしょう咲夜さん」

「これからも………ずっと貴方とこうしていたいわ……。だからもう二度と……二度とこの家を捨てないでちょうだい」

「……………愚問ですね。そんなこと分かってます。あの時とは違い、もう二度と咲夜さん達の前から消えませんよ。俺の存在を忘れない限り、ですけど」

「忘れるわけないじゃない。……私は貴方のことをこんなにも思っているんですもの」

「…………そうですね」

「…………橙矢、これからもよろしくね」

「えぇ咲夜さん。俺からもよろしくお願いします」

 すると咲夜がおもむろに橙矢の首もとに近付いて――――軽く首にキスをした。

 キスを首にする意味、執着。

「ッ!…………さ、咲夜さん……?」

 さすがの橙矢もこれには表情を隠すことは出来ずに困惑しながら咲夜を見る。見えた表情はよく橙矢がする悪戯に成功した子供のような笑みだった。

 

 

 

 

 

「好きよ、橙矢」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三日後

 

 

 

 叢雲の異変が落ち着いてきた頃、紅魔館の図書館には招かれざる客が来ていた。

「ハッハー!今日も借りてくぜパチュリー!」

 縦横無尽に図書館を箒に跨がって駆け回る魔理沙に対し図書館の主、パチュリーは弾幕を放つが悉く避けられる。

「相も変わらず懲りずに来られるわね貴方は………!」

「何でそんなに怒ってるんだよ?ちゃんと返すさ。死んだら、だけどな!」

「それを借りパクって言うのよ!」

「要は私に勝って撃退すればいい話だ!それ行くぞ―――――!」

 言うと同時に懐からミニ八卦炉を取り出す。

「最大出力……!マスタースパァァァァク!」

 パチュリーに向けて光の奔流が放たれる。

「……!あまり今日は調子良くないから使いたくなかったのだけれど―――」

 瞬間、光の奔流が宙でいきなりかき消えた。

「ッ!!」

「残念だったなァ魔理沙」

 図書館の入り口から歩いてくるひとつの少年の影があった。それを見るなりパチュリーが笑みを浮かべた。

「……あら、来てくれたのね」

「俺の読みたい本が盗られるのは好きではありませんから」

「…………おいおい、こんなところにいたのかよ。……霊夢が心配してたぜ、どっかに消えて行方が分からなくなってるってな」

「あいにくと俺は戻るべき場所に戻ってきたからな」

 少年は刀を一気に引き抜くとその先端を魔理沙に向けた。

「確かにここにはここにしかない魔導書が多くある。それに目が眩むのはよくわかる。……けどそれを盗るのは感心しねぇな」

 少年の言葉に魔理沙は口の端を吊り上げるとミニ八卦炉を構える。

「面白ぇ……!だったら力ずくで黙らせて借りていくぜ!この大魔法使い、魔理沙様がなァ!」

「暑苦しいなまったく……」

 さてどうしたものかと思うが結局やるしかなさそうだ。視線を鋭くすると刀を握る手に力が入る。

「…………お前の前にいるのは退治屋の時の俺でもない。ましてや妖怪の時の俺でも異変を起こした時の俺でもない。……紅魔館の執事である俺だ。……だからこの紅魔館においてお前にあげられるものなんざなにもない」

 刀を一薙ぎすると構える。

「それでも盗るというなら……。俺が相手になってやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………紅魔館の執事、東雲橙矢がな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 





こういう咲夜さんはたまには良いですね。書いていて自分でも胸が高まります。
次回は村紗です。

感想、評価お待ちしております。

では次回までバイバイです。
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