ではではどうぞ。
――――――天界
主を失った龍神の間にて一人の半妖と神の戦いが広げられていた。
迫る剣を手に持つ刀で弾いた半妖の少年、東雲橙矢は相対する破壊神シヴァに向けて殴り付ける。
「……!」
刀身の太い封印された神器のカリブルヌスで防ぐ。
「チッ、しゃらくせぇ!!」
「それは俺の台詞だ!」
カリブルヌスを蹴り飛ばして脳天に頭突きを喰らわせた。僅かにシヴァの身体が揺らいでその隙に懐に潜る。
腹を殴り上げて次いで殴った箇所に天叢雲剣を突き刺す。
「ッ!貴様……!」
橙矢を掴み上げて投げ捨てるように地に叩き付けて距離を取った。
「随分としつこいんだな神様よぉ……」
すでに戦闘を初めてから早二十分は経っていた。最初は拮抗していたが徐々に橙矢が押されていき、今では橙矢が防戦一方になっていた。
「死んでも文句は言えないよな東雲橙矢。貴様からけしかけたことなんだからな!」
「………ッ仰る通りだ……」
膝が笑っており、すでに限界が来ていた。
「さすがの貴様も所詮は半人半妖。これほど動き続けたんだ。無理もない」
「うるせぇよ……!まだ終わったわけじゃねぇだろ!」
「よく吠える負け犬だ。……世話の焼ける」
「負け犬、だと……。テメェ……!」
「東雲さん!!」
「ッ!」
少女の声が橙矢の耳に聞こえ、視線をそちらに向ける。橙矢とそう大して歳の変わらない少女が心配そうに橙矢を見ていた。少女の名前は新郷神奈。訳あって幻想郷から追われ、破壊神によって天界へと連れていかれた少女。橙矢はそれを追って現在ここにいる。
「新郷……」
「東雲さん!やめてください!こんな戦いは無意味です!」
「何言ってんだよ新郷!こいつを殺らなきゃ幻想郷もお前も……何もかも終わるんだぞ!そんなの……許容出来るかよ!」
「東雲さん!駄目です!」
神奈が手を伸ばすが届く寸前に橙矢がシヴァへと駆け出す。
「迷ってる暇なんてねぇんだよ!」
「その意気やよしだ東雲橙矢!俺の全てを持って貴様を真っ向から否定してやるわ!」
「神如きが俺を潰せると思ったら大間違いだ!俺は誰からも、どの世界からも浮く存在!神ですらもだ―――――!!」
金属音が響き渡り、衝撃波が走って龍神の間の壁に皹が広がる。その際にシヴァが押し負けて大きく後退させた。
「貴様ァ!……ここにきてまだギアが上がるか……!」
「はじめから全力でいく馬鹿がいるか?野球の投手が初回から、一球目から疲れるほどに投げるか?セーブしながら投げるだろ」
「チッ……。長期戦に持ち込まれてたか……だがそれでも貴様の劣勢は変わらないぞ」
「…………………」
シヴァの言葉に顔をしかめるが無言で構える。
「言っただろ。まだ終わったわけじゃねぇって」
足を強化させて一瞬でシヴァの背後に回り込む。
「刻まれろォォ!!」
刀を死角から振り上げてシヴァを上空へと打ち上げる。それを追うように跳んで天井に張り付いて天井を足場にしてシヴァに向けて再び跳んだ。
「殺スッ!!」
次いで腕を強化し、力任せに刀を振り下ろした。……が、甲高い音に目を見開く。
シヴァがカリブルヌスで受け止めていた。
「な……ッ!」
「………ひとつ忠告しておこう東雲橙矢。貴様は神という存在を些か軽視しすぎている。神は神たるためにその力を維持しなければならない。貴様一人くらいでやれる神なぞ地に堕ちた堕神くらいだ」
「堕神……?」
「あぁ、貴様も見たことあるだろう?幻想郷でいうならあれだ、龍神とかな。あの蛇は中々のものだが訳なかったな」
「………ッ、どこまでこの幻想郷を虚仮にしたら気が済むんだお前は……!」
「虚仮になんてしてないさ。事実を言ったまでだ」
「ほざくな堕神―――――!」
「五月蝿い。少しは静かに出来ないのか」
刀をカチ上げて空いた胴を殴り付け、橙矢を吹き飛ばした。何度も地を跳ねて地に墜ちる。
「……ッ、くそ……ッたれ……」
腕を立てて立ち上がろうとするがその前にシヴァに蹴られて転がる。
「もう立ち上がるな東雲橙矢。すでに勝敗は決した。これ以上の殺傷は互いに利にならん」
「……待ちやがれ……。……まだ……まだ終わってねぇよ……」
刀を杖代わりにして何とか、といった様子で立つ。とその刀をシヴァが払って再び橙矢を地に墜とす。
「すでに終わったんだ。……貴様の命もな」
カリブルヌスの先を倒れている橙矢へと向ける。すると橙矢を庇うように二人の間に一人の少女が入ってきた。新郷神奈だ。
「……邪魔だ新郷神奈。殺されたいのか」
「やめて………。やめてください!東雲さんは……殺さないでください!外の世界に還すだけなのでしょう!?だったら殺す必要はないはず!なのにどうしてそんなにそんな簡単に人を殺そうと出来るんですか!?破壊神シヴァ!貴方は確かに神。ですけど今は現人神、つまり人間なのですよ!?」
「……奴を放っておけばいつどこまでも追ってくるだろう。……だから早めにその芽を摘む。それが今俺が出来ることだ」
「お願いします…!殺さないで……殺さないで……!」
「一々五月蝿い。少しは静かに出来ないのか。でないと殺すぞ」
殺気が自らに向いたことに恐怖するが堪えて耐える。
「……逃げ……ろ……新郷……」
背後からは弱々しい橙矢の声。
「………そうか、それが貴様の答えか新郷神奈」
呆れたようにため息を吐くとカリブルヌスを振り上げる。
「残念だ」
「やめ……ろ……!」
「ッ!」
目を瞑って覚悟を決める。
「全人類の緋想天――――――!!」
その声と共に轟音が響いた。
「え……?」
目を開けると丁度横から来る閃光にシヴァが吹き飛ばされるところだった。
「賢しいわッ!」
シヴァがカリブルヌスで吹き飛ばそうとする。その寸前、橙矢がシヴァ目掛けて駆け出した。
「罪人を庇うなぞ愚の骨頂!荒べ地に堕ちた天人がァ!」
閃光を下から斬り上げて弾き飛ばした。瞬間橙矢がその中を突っ込んでいく。
「何………!?」
「油断大敵だ破壊神!」
踏み込んで深く袈裟を斬り裂いた。
「ッ………!」
振り抜いた状態から振り上げ、シヴァを弾き飛ばした。そしてたった今スペルを放った人物へ視線を移した。比那名居天子が緋想の剣をシヴァへと真っ直ぐ向けていた。
「天子………。何でここにいるんだよ」
「それはこっちの台詞。何で貴方がここにいるのよ」
「シヴァが新郷を天界に拉致したから連れ戻しに来たんだ」
「新郷?誰よそれ」
「……あ、そうかお前は面識がなかったな。まぁいい」
「私はあれよ、天界が無事かどうか、ね」
「………だったら話が早い。あの堕神をどうにかすれば全て終わりだ」
「……そうね、私も丁度あの神様に用があったの」
「…………合わせろよ天子!」
「アンタこそね!」
シヴァに左右から挟撃するように橙矢と天子が回り込んで迫る。
天子が下から、橙矢が上から共に緋想の剣と刀を振るう。それをシヴァは剣先と柄で受け止めていた。
「な………!」
「嘘でしょ……ッ」
「無能共がッ!」
回転させて弾くと横に薙いで距離を離させる。
「チッ、二方向からのものも防ぐのかよ……」
「要石〈天空の霊石〉!」
上空から落ちてくる要石にカリブルヌスを衝突させて粉々に砕いた。
「こんな石ころが何だってんだよ天人!」
粉々に砕いた石を突っ切って橙矢が再び接近する。
「目眩ましだ!」
「その手は見飽きたわ!」
各々の武器が交差して止まる。腕を強化するが逆に押し返され、龍神の間の壁に激突する。
「東雲!……ッ全人類の緋想天!」
完全に背を向けているシヴァに閃光を放つ。だがシヴァは振り向く勢いでカリブルヌスを振り抜き、弾き返す。
「ッ!」
横へ飛んでやり過ごすが先のシヴァとの戦闘で限界が来ていたのか膝が崩れる。手当てを受けたとはいえ本当に応急措置なのだから仕方ないと言えば仕方ないが。
「終わりだな天人!」
「させるかよ!」
横から橙矢が蹴り飛ばして天子の前に立つ。
「とっとと失せろ天子!これからは俺と奴の土俵だ!」
刀を返して地に突き刺すとシヴァが目の前に現れて振るうカリブルヌスを防いだ。
「ッ……!」
腕を強化させて地盤ごとカリブルヌスを打ち上げ、伸びきったシヴァを裂き、殴り付けて吹っ飛ばした。
「カ……ァ……!?」
片膝を落とし、目の前に打ち上げられたカリブルヌスが突き刺さる。それを掴んで無理矢理立ち上がる。
「……ッほんとしつこいな……!」
「当たり前だ……貴様如き半妖に………屠られる俺ではないッ!」
「この馬鹿野郎……ッ!一度死んでみなきゃ分からねぇようだな!!」
「貴様に俺は滅せぬ!すでに滅した身であるが故に!」
「だったら眠っとけ堕神――――!!」
同時に駆け出して刀を構えると突きを放―――――
「―――――東雲さんッ!」
「ッ!」
つ寸前シヴァの目の前に割り込んだ神奈に反応して無理矢理突きを止めた。神奈の眼に触れるか触れないかの距離で止まっていた。
「…………何の真似だ新郷」
刀を下ろしてたった今邪魔に入った神奈を睨み付けると胸ぐらを掴んだ。
「お前……!もう少し反応が遅れたら死んでたんだぞ!?なんて危なっかしいことしやがる!!」
「………ッ」
神奈のひ弱な身体が橙矢の叱咤に恐怖で震える。それでも橙矢は続けた。
「お前がここで死んだら……ここまで来るのに手伝ってくれた奴に顔向け出来ねぇんだよ!いくらお前とシヴァの命が繋がっているとはいえお前が死ぬ必要はないんだよ!」
「東雲……………さん……」
「ほんとに……馬鹿……な奴………」
緊張感が解けたのか橙矢が崩れ落ちる。それと入れ替わるようにしてシヴァが落ち着いたのか立ち上がる。
「………東雲橙矢はどうやらまだ勘違いしているようだな」
「………けどもう東雲さんは戦闘不能です。……これでもう良いでしょう?貴方にもやりあえるほどの体力は無さそうですし」
「……あぁまったくだ。このガキ……よくもやってくれたな」
苦笑いして再び倒れ込む。
「………これ以上殺る必要がないならそれに越したことはない。……そのガキが大人しくしてくれればお前らは還してやる」
「大丈夫ですよ破壊神シヴァ。彼はちゃんと理解してくれます」
「………そうか」
「……………何が勘違いだって?」
倒れている橙矢が仰向けになって神奈を見上げる。
「……………私と破壊神シヴァの命が繋がってないことです」
その言葉に頭が真っ白になった。
「…………は?おいおい冗談きついぞ新郷」
「…………その娘の言うことを信じてやれ東雲橙矢」
「……シヴァ?」
倒れたままのシヴァの声が聞こえた。
「……その娘の言うことは何も間違ってない事実だ」
「………東雲さん。聞いてください。ここにいる破壊神シヴァは私と同じ現人神。つまり人の形をした神様なんです」
「……………」
「……本物のシヴァは遥か昔に神々によって殺害されました。ですから……私と破壊神シヴァの命が繋がっていることはあり得ないのです」
「………………………そうか」
「…………信じて……くれますか?」
「………………………………」
しばらく沈黙が続き、しかしそれを橙矢が破いた。
「…………………新郷」
「は、はい…………」
すると橙矢の手から天叢雲剣が放された。
「……お前が俺を信じてくれるのにお前を信じない理由が分からないな」
「それじゃあ東雲さん…………」
「あぁ………終わったよ」
そう言うと今度は神奈が膝から崩れる。
「ッ!新郷!?何処か怪我したのか!?」
「いえ………大丈夫です。ただ……もう東雲さんが……傷付かずに済むんだなって思って………」
「……………心配かけたな」
二人のやりとりを見ていたシヴァは大きく息を吐いて天上を見上げた。
(これで良かったんだよな………先代シヴァ………)
ここに、破壊神と一人の半妖の戦いの幕が閉じた――――――
『まだ、駄目だよシヴァ』
そう響いた言葉が新たな戦いの始まりだった。
続きます。
あれですね、昨日東方深秘録の発売記念でニコ生でやっていた大忘年会。豪華でしたね。かなり面白かったです。
感想、評価お待ちしております。
では次回までバイバイです。