ではどうぞ。
「あなた、能力持ちの人間ね」
そんなこと言われて信じる人は多くはいないと思う。
東雲橙矢もそんな一人である。
「………は?ごめん、よく聞こえなかった」
惚ける橙矢をよそに霊夢は言葉を続ける。
「あなたの能力は『触れたものを強化する程度の能力』よ」
「はぁ………」
「触れているものならば何でも強化、つまり硬化や自分に干渉するエネルギーの増幅等々、使い方によってはある意味使い勝手がいいかも」
「あー、つってもなぁ…使いどき無いしなぁ」
「妖怪に襲われた時とかなんか使えるんじゃないか?」
隣に座っていた魔理沙が助言をくれる。
「襲われるほど影は濃くないから大丈夫だよ」
「そういう問題かしら………」
「じゃあ俺はそろそろ帰るからな」
そう言って立ち上がって去っていく。
「あ、お賽銭……」
「わーてるよ」
後ろ手を振りながら橙矢は姿を消した。
「………なぁ霊夢」
不意に魔理沙が霊夢に声をかける。
「なによ」
「あいつ、橙矢って自分で影が薄いなんて言ってたが本当か?」
「なによ急に?」
「だってよさっきの話術といいとても存在が忘れ去られるような感じではなかったぞ」
「さぁ、育った環境が悪かったんじゃない?」
「にしてもなんだかよく分からねぇ奴だったな」
「それじゃない?忘れ去られた原因」
「は?」
「だって生き物ってのは正体が分からなかったりよく分からない奴は自動的に脳がそれを記憶から消去するように出来てるんだもの」
「ほんとにそうかなぁ?」
「分からないなら貴方が構ってあげなさい。多少はよくなるでしょ」
「ん、お前はいいのかよ」
急なカウンターにハァ?と返す。
「どうゆう意味よそれ」
「だってよ、あいつと話していたときのお前、結構楽しそうだったぜ」
「……あなたがそう言うんならそうなんでしょうね」
「なんだ?こーりん以外の男と久しぶりに話せたから嬉しいのか?」
「そ、そんなわけないでしょ!」
「冗談だって、なんでそんなに慌ててんだ?」
「~~~~~~!」
「さ、さーて私は戻ろうかな」
言うや否や全速力で宴会の中に逃げていく。
「あ、こら逃げるなー!」
逃げた魔理沙を追う霊夢。
今夜の宴会はまだまだ続きそうだ。
翌日、橙矢は朝早くから家を出ていた。
理由はひとつ、紅魔館へ入社試験ならぬ入館試験的なものを行うためだ。
地図通り来たわいいが、
「………まんま紅いな」
塀の向こう側に見える館を見ながら門の方へ向かっていく。
そして門の前に誰かがいるのに気付く。
「門番か……?」
その人物を見て少し驚嘆した。
寝ていたのだ。
門番でもあろうひとが。
しかも何故か中国人が着そうな服を着てる。
「……………寝ている方が悪いんだからな」
自分に言い聞かせるように呟くと門番の横を通り過ぎた。
―――――通り過ぎた瞬間、門番の目が開いたのが視界の端に映った。
「誰ですか!」
門番が一瞬で構える。
橙矢は舌打ちすると地を蹴って距離をとる。
「タイミングが良すぎるだろおい!」
犬歯を剥き出しに笑う。
「もう一度聞きます、あなたは誰ですか?」
「………東雲橙矢、普通の人間だ」
「何故人間がこんなところに?」
「里にメイドを必要としてるー的なビラがあったもんでな。それで話をしに」
「え?見たところ男のようですが」
「だからその事について話に来たんだよ。執事でもどうかってな」
「………そうですか」
門番は一応構えは解いているものの警戒は解いてないようだ。
「何をしているの美鈴」
不意に美鈴と呼ばれた門番の後ろから声がかかる。
そこには銀髪でメイド服を着た女性がいた。
「あ、咲夜さん」
「この人は誰なの?まさかボーイフレンドとかじゃないわよね」
「そんな訳ないだろ、ただの人間だよ。人手が不足してるってビラに書いてあったもんでちょっと来てみた」
「あら、確かビラにはメイドとしか書いてなかったような…」
「あぁ、だから執事でもどうかってな」
「少々お待ちください」
瞬間咲夜の姿が消えた
「瞬間移動……?」
「まぁそんな感じですね」
「何かしらの能力ってところか?」
「普通の人間なんですけどね」
「何言ってんだ、あんたもだろ?」
「へ?私は違いますよ」
「……そうか」
興味が無さそうに館の方に目線をとばす。
「あれ、驚かないんですね」
「なんかもう色々とどうでもよくなったんだよ」
その時メイドである咲夜が姿を現した。
「お待たせいたしました。お嬢様が一応話を聞くと」
「どうも、じゃあお嬢様のところまで案内してもらっても?」
「分かりました、ではこちらに」
そう言って館の方に足を向ける。
橙矢はチラと美鈴に目線を投げる。
「えーと、美鈴だっけ?さっきは悪かったな」
「え?あ、気にしないで下さい」
橙矢は軽く微笑むと咲夜に付いて行った。
「はー、凄いな」
廊下は一面が永遠と続くような赤だった。
橙矢は先程から気になっている事を前を歩いてるメイドに聞いた。
「……窓は少ないんだな」
廊下には一切窓が付いてなかった。
「えぇ、理由は後程話します」
そして咲夜は廊下の奥にある一番仰々しい扉の前で止まる。
コンコンとノックすると、
「お嬢様、十六夜咲夜です。連れてきました」
「入って」
咲夜が部屋の中に入ったあとに橙矢も入る。
「失礼します」
そこにはこれまただいぶ大きいソファーでふんぞり返っている女の子がいた。
「貴方ね、うちで働きたいって人間は」
「あぁ、結構自給が良いって書いてあったもんでな」
「?そんなこと書いたかしら、咲夜」
「えぇ、ちょっと間違えました」
「…………………………おぃ」
何か信じられない言葉が聞こえた気がする。
は?給料がない?ハハ、ワロス。
「ま、そんな事どうでもいいわ、貴方には明日から働いてもらうわね」
「うんちょっと待て」
危ねぇ、危うく刀抜くところだった…。
「何かしら?」
「何だよ給料が出ないって」
「そのままの意味よ。安心しなさい、ちゃんと定休日も決めておくし、貴方の住む部屋も決めておくわ」
「いや、毎日俺家から通いたいんすけど」
「何?人間風情が私に逆らうつもり?」
「……………ッ!」
直後思考が止まった。
「おま……なんだよ……それ……」
少女の背中から小さな体型に合わないほどの翼が生えていた。
そして口からは鋭い牙が。
見間違えるはずがなかった。
かつて橙矢がいた世界でもその種族はいた。
「…吸血鬼…!」
「礼儀知らずな貴方でも分かるようね」
橙矢が感じた疑問の答えがようやく出た。
何故この館には窓が付いてなかったのか。
――――この館の主が吸血鬼だからだ。
知ってのとうり吸血鬼は陽の光に弱い。
だから陽の光が入らないよう窓がついてないのか。
そこで緊張感がピークになり、逆に冷静になる。
「へぇ………吸血鬼か。じゃああんた……ドラキュラ公か?」
気が付いた時にはすでに口が開いていた。
吸血鬼は驚いた顔をしたがフンと鼻で笑う。
「残念だが私はドラキュラ公ではない」
「だよなぁ、ドラキュラ公ってのは人の名前だ。しかも男だしな」
「……………何が言いたい?」
「あんたはドラキュラ公と何か関係でもあるのか?例えばドラキュラ公の子孫とか」
「いいや、ドラキュラ公と私は何も関係ないわ」
すると橙矢はのどで笑う。
「それならあんたはそこまで巨大な力を所持してないと推測する。何故なら吸血鬼の先祖であるドラキュラ公と何も関係がない、それだけであんたの霊格が格段に下がる。違うか?」
吸血鬼は少し考える仕草をすると口を開く。
「確かに、その考え方はあながち間違ってはないわ。――――けど」
刹那、橙矢の目の前に長い爪が突き立てられた。
「ドラキュラ公が吸血鬼に目覚めたのが1958年に対して私が生まれた年は今から500年も前の話。つまり私がドラキュラを吸血鬼ドラキュラ公としたの。…結局は使い物にならなかったのだけれど。残念だったわね、私は最初の吸血鬼、つまりそれ相応の霊格がある。妖怪の中でもかなり上のクラスに座してる」
「…………ッ!で、でもそんな事どこの歴史書にも記されてなかったぞ…ッ!」
「当たり前じゃない。そういう運命に変えたんですもの」
不味い。
直感で感じて一歩後ろに下がる。
その時先程の扉の鍵がしまる音がした。
「な……」
慌てて振り向くと咲夜が扉の前に仁王立ちしていた。
「さて、人間風情で私に逆らったらどうなるか教えてあげる」
「――――――――ッ!」
腰に刺してある刀を掴み、抜く体勢に入る。
「あら、まだ抵抗する気?」
「何もしないよりはマシだ」
精一杯の笑みを作る。
「咲夜、どきなさい」
瞬間華奢な腕で突き飛ばされる。
「ご……ッ!」
今まで喰らったことのない衝撃が橙矢を襲う。
鍵のかかった扉を突き破り、背中を床に強打する。
「ガバッ!ごほっ、が………」
あまりの痛みに身を悶える。
「やっぱり人間は脆いものね」
吸血鬼が歩いて近付いてくる。
「あ……ぐ………」
四肢に力を入れてなんとか立ち上がる。
「あら、まだ立てたのね」
「頑丈さには好評でな……!」
足に力を集中させて筋肉を強化する。
「ラアァ!」
一瞬で距離を零にすると蹴りを横から喰らわす。
すると人間とは思えないほどの威力が出た。
(これが強化する能力ってことかよ…!)
吸血鬼は思った以上の威力に目を見開く。
だがそこまでだ。
「どういった能力かは知らないけど普通の人間よりかはやるようね」
「―――ッ」
「だけど所詮能力を持とうが人間は人間。妖怪に敵うはずがない……ッ!」
「……ッ言ってろ!」
一旦距離をおいて―――――――。
「あら?誰が逃げていいなんて言ったかしら?」
吸血鬼の手が橙矢の首にかかる。
そのまま持ち上げられ、壁に叩き付けられる。
「カ……ッ!」
「いっそこのまま貴方を私達と同種にしてあげようかしら」
「………ッ!」
薄れゆく意識の中でなんとか刀を握ると強化させ、振り抜く。
「お嬢様!!」
後ろの方で咲夜の声がする。
もう遅い―――。
構わず刀を目の前にいる吸血鬼に―――――
ドンッ!と音と共に吹き飛ばされた。
「チッ!」
体勢を立て直して元自分がいた場所を睨み付ける。
そこには咲夜がいた。
「あぁそういやぁあんたは瞬間移動出来たんだな」
「ええそうね、貴方程度なら殺そうと思えば何時でも殺せるわ」
「ハハハ!言ってくれるじゃねぇか」
怒りに身を任せて立ち上がる。
もういっそどうでもいい。
やれるだけ殺ってやる。
橙矢は始めて自分が本気で殺意が沸いたと感じる。
刀の先を二人に向ける。
「来いよクソ野郎共……ッ!」
目の前に銀で出来たナイフが迫る。
「――――――!」
上半身を倒し、何とか避ける。
(瞬間移動させたのか?いや、でもナイフなんて何処にも見えなかったぞ…!待て……そもそも瞬間移動すら間違っているんじゃないか?瞬間移動だけであんな細かい操作なんて出来るはずない……)
次々くるナイフを避けながら思考を働かせる。
(時間を止めてその間に操作してるってんなら納得がいく……。つまりこいつの能力は時間を止める………否!)
「時間を操る能力かァ!」
足を強化させて咲夜に肉薄する。
「な―――――」
瞬間移動ともいえる速度で咲夜の腕を掴み、地に叩き付ける。
「――――――ッ!」
流れるように刀を横に振るい、吸血鬼に迫る。
「まだまだね」
キィンと刀が弾かれて身体が伸びきる。
(しまった……!)
吸血鬼に両肩を掴まれる。
身動きが取れなくなる。
「せっかくの男の人間だもの、殺さないでおいてあげるわ」
吸血鬼の鋭い牙が橙矢の首に迫る。
「ぐ………」
―――その時廊下の先から何やら飛んできた。
「?何かしら」
吸血鬼が橙矢の両肩を離したところで一気に距離をとる。
………何やら箒に跨いで後ろを警戒している人が………。
「ちょ、ちょっと待てってパチュリー!」
聞き覚えがある声がする。
「今日という今日こそ許さないわ!いい加減本を返しなさい魔理沙!」
「は?魔理沙?」
箒に乗っていたのは昨日知り合った魔理沙だった。
背には何やら膨れた袋を持っているようだが。
「ん?おぉ橙矢!どうしたんだよ!」
「それはこっちの台詞だ。何してんだよ」
「いやぁ、ちょっと本を借りに」
「………借りるだけだったら普通あんな形相してないけどな」
魔理沙の背後を指差す。
「え?」
そこには鬼の形相をした寝間着のようなものを着た背の低い女性がいた。
「……………………やべ」
箒に跨がり直すと飛んでいく。
「ちょ、待て!」
箒に何とか掴まる。
「あ!」
吸血鬼が獲物を逃がしたような表情をする。
………比喩じゃないぞ。
「咲夜!逃がすんじゃないわよ!」
「はい」
答えるや否やナイフを構える。
「させるかよ………!」
橙矢ではなく魔理沙が手からレーザーを放つ。
「恋符〈ノンディレクショナルレーザー〉!」
ありとあらゆる方向にレーザーが放たれる。
「ちょ、ノンディレクショナルって――」
「あぁ、文字通り無差別だぜ!」
レーザーが壁やら天井やら当たり、土煙が舞う。
「うぉあ!」
「一気に行くぜ!」
箒の後ろから光の奔流が走り、加速する。
そのまま土煙に突っ込み、廊下を突っ切る。
「俺……出方分かんないんだけど!」
「私が知ってるから大丈夫だぜ。それよりもなんで橙矢がここにいるんだ?」
「まぁちょっと野暮用でな」
「野暮用で普通殺されそうになるか?」
「色々あったんだよ」
「ふーん、なるべくレミリアは…あ、さっきの吸血鬼の名前な。本名はレミリア・スカーレット。あいつは怒らせない方がいいぞ。あれでもこの世界の実力者の一人なんだからな」
「一人?ってことは他にもいるのか?」
「あぁ、言い出せばキリがないな」
「そんなに強い奴がいるのかよ…」
「なんだ怖くなったか?」
「いや、いい暇潰しになりそうだ」
口の端を吊り上げて楽しそうに呟いた。
「…………そうか」
そんな橙矢を見て魔理沙は同じように笑った。
「さぁて橙矢、とばすからちゃんとしがみついとけよ!」
後ろを気にしながら速かったスピードを更にあげる。
あっという間に玄関口にたどり着く。
ドアを破ると上昇する。
「ふぅ、何とか出れたな」
魔理沙が息を吐きながら呟く。
「………大方紅魔館で働こうとしたんだろ?」
「ん、よくわかったな」
「止めておけよ」
は?と箒にぶら下がりながら魔理沙を見上げる。
「あそこにいたら精神的にも肉体的にも体力がもたないぞ」
「そうは言ってもなぁ……」
その時目の前にメイドである咲夜が現れた。
「……ッ」
「橙矢さん、おぜう…いえ、お嬢様から伝言を預かっております」
「……何だよ」
「『先程は悪かった、そちらの条件通り給料も出すし住むところもそちらが決めていい。だから明日また顔を出せ』との事です。お嬢様は最近不機嫌でしたのですぐに頭に血がのぼったのだと思います。あ、それと来るのなら明日の夜にしてください。その時間にはお嬢様は起きていらっしゃるので」
「……………」
橙矢は考える仕草をしてから口を開いた。
「………わかった、明日必ず行くと伝えておいてくれ」
「かしこまりました」
答えを聞くなり咲夜は姿を消した。
「……橙矢、良かったのか?」
「あぁ、給料さえもらえれば何だってやってやるよ」
「お前がそう言うなら仕方ないけど……せいぜい気を付けろよ」
「忠告ありがとよ」
その後、一言も話さず家に送ってもらった。
翌日――――。
昼過ぎまで寝ていて陽が落ち始めたくらいに紅魔館に訪れた。
「あ、橙矢さんこんばんは」
昨日とは違い、寝ずに仕事をしていた美鈴が声をかけてくる。
「おう、昨日ぶりだな。今日はちゃんと仕事やってるみたいだな」
「それ私が四六時中仕事をサボってるみたいじゃないですか!」
「なんだ違うのか?」
「いや違わなくはないですけど…」
「へぇ、そうなの」
美鈴の背後から冷たい声が聞こえた。
一気に温度が低くなった気がする。
美鈴がビクンと跳ねる。
「さ、咲夜さん………」
「あら橙矢さんこんばんは。早速だけど付いてきてもらうわよ」
「はいはい」
じゃ行きましょうか、とナイフを取り出す。
ヒュッ、と投げる。
その軌跡を辿ると美鈴がいた。
「あ………」
察しがついた。
ナイフは吸い込まれるように美鈴の頭に突き刺さる。
「~~~~~!」
美鈴が声にならない悲鳴をあげて転げ回る。
そんな門番にかいもせず咲夜は橙矢を連れて館に入っていった。
「橙矢さん」
館に入ってすぐに半歩前を歩いていた咲夜が声をかけてくる。
「なんすか?」
「………昨日の事……まだ怒ってらっしゃいますか?」
突拍子な質問には?と答えてしまう。
「……別に怒ってなんかいない、ただ軽いカルチャーショックを受けただけだ」
「そうですか……良かったです」
「何でだ?」
「お嬢様が珍しく楽しそうにしていたからです。多分……貴方が来たから…さしずめそんなところでしょうか。でもその相手が不機嫌だったりしていたらお嬢様はそれこそ昨日より不機嫌になりますから」
「なんに関してもお嬢様一筋なんだな」
「当たり前です、メイド長たるものの務めですから。あ、良かったらお嬢様の話を少々しましょうか?」
レミリアの話になると急に食いついてくる咲夜に驚きながら首に横に振る。
「い、いいよ。それは一人のときにやってくれ」
断ると咲夜は残念そうな顔をする。
「……暇な時に聞いてやるから」
最後に付け足すと嬉しそうな顔をする。
「でしたら今からお嬢様のお部屋に着くまで―――」
「じゃあもう切り上げないとな」
へ?と情けない声を出す咲夜の前にはレミリア・スカーレットの部屋が。
「私としたことが………」
「んなこといいから早くお嬢様に会わせてくれ」
「あ、はい」
昨日と同様ノックするとドアの向こう側からどうぞ、と聞こえた。
「失礼します、連れて参りました」
「ご苦労、下がって良いわよ」
「よろしいので?」
「ええ、ちょっと彼と二人で話をしたいからね」
「分かりました、それでは」
深々と頭を下げると姿を消した。
「さて……じゃあ腰でもかけて」
レミリアは自分が座っているソファの向かい側にある椅子を指差した。
「あ、あぁ」
「ふふ、そんな緊張しなくてもいいわよ」
「吸血鬼様々だからな、緊張しない方がおかしい」
「確かにそれは言えてるわ」
よほど橙矢の言ったことがおかしかったのだろう、レミリアはより笑みを濃くした。
「で、何のようだよ?」
「そんなこと貴方が一番知ってるくせに」
「ここで働けってことだろ」
「あら、私がいつそんな命令したのかしら?」
「あんな伝言出されちゃどんな奴でも気付くだろ」
「察しが早くて助かるわ。それで働いてくれるの?」
「ひとつ条件がある」
「何かしら?」
「ちゃんと伝言通りにしてくれ、それだけだ」
「今度はちゃんとするわよ」
「じゃあ交渉成立だな」
「えぇ、よろしく頼むわ」
「こちらこそ」
「じゃあ早速だけど今から働いてもらうわ」
そういって指をパチンと鳴らす。
するとレミリアの背後に咲夜が現れる。
その手には何やら黒い布の物が………。
「貴方には働くときそれを着てもらうわ」
そこで咲夜が持っているものが服だと知る。
「……………だろうと思ったよ」
持っていたものは執事服だった。
「それじゃ、よろしくね執事さん」
楽しそうに笑う主人を見て橙矢も口の端を吊り上げる。
「かしこまりました、お嬢様」
こうして東雲橙矢はレミリア・スカーレットの執事として働き始めた――――。