東方空雲華【完結】   作:船長は活動停止

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第二十話 不死鳥再誕

飛んでくる弾を避けて木の影に隠れる。

「ハァ…ハァ…!」

すでに戦闘、というより一方的なものが始まってから二十分近く経っていた。

先程予め持ってきておいた懐中時計を見たからほぼ間違いないだろう。

にも関わらず妹紅は絶えず弾幕を放ち続けていた。

「そこか!」

妹紅の声が聞こえると同時に橙矢はその場から飛び退いた。

刹那橙矢がいたところに炎の鳥が激突し、焔を撒き散らす。

「相変わらず熱いな!!」

駆け出して妹紅に接近すると刀を振り上げる。

「ッ!」

避けられるが微かに翼に当たった。

当たったところに皹が入り、そこから広がり、翼が崩れる。が、

「チッ!『フェニックス再誕』ッ!」

すぐに翼が生成される。

「…さすが不死鳥ってところか……」

休む暇も無く翼が生成されたと同時に横から蹴り飛ばす。

「ッ容赦無いな!」

「それはこっちの台詞だ!」

吹き飛んだ妹紅を追撃するように追う。

「しつこいな!ほんとにあんた人間かッ!?」

「お前に言われたくねぇよ!」

追い付くと妹紅の肩を掴むと地に叩き付ける。

「離……せぇ!」

妹紅が橙矢の腕を掴んで炎を撒き散らす。

「熱……ッ!」

あまりもの熱量で手を離してしまう。

その隙に橙矢の腹を蹴る。

舌打ちして体勢を整えると再び接近して上段から降り下ろす。

避けられるがそれも想定内、すぐに横へ振るい、回転して斜めから斬り上げる。

さすがの妹紅でも避けられずに脇腹から肩口にかけて深い裂傷を作った。

「ッ!………あんた!!」

苦悶に顔を歪めるがすぐに傷口が塞がる。

「これでもすぐに治るかよ……。致命傷を与えたつもりだったんだけどな」

「それは私が不死って事を知ってての発言か?」

ニヤリと妹紅が笑みを作る。

「さて……あとあんたのストックがどれだけあるか知らないが……精々死なないように気を付けな!!」

札を数十枚取り出すと橙矢に投げ付ける。

ただの札ではないと思い、斬り落とす。が数枚は橙矢の腕に当たり、拘束した。

「ッ!」

「ハハッ惜しい惜しい!」

動けない橙矢に対して哄笑を揚げながら迫る。

「ナメんなァ!!」

しかし拘束出来たのもほんの数秒の事。

すぐに腕を強化して引きちぎる。

それでも一瞬だけ隙が出来る。その一瞬を縫って弾幕を放ってくる。

上半身を思いっきり寝かして避けた。

安堵するのも束の間、踵を振り上げた妹紅が目の前に現れた。

「ッそがァ!」

着地の事も考えずにとにかく横に跳んだ。

妹紅が踵を降り下ろして地に叩き付けると同時に焔が爆散した。

その衝撃により橙矢の身体は軽々と宙を舞う。

「これで終わりだと思うなよ!」

宙を舞う橙矢を視界に捉えると拳を握り、飛ぶ。

橙矢はいち早く体勢を立て直して妹紅の拳を受け止める。

しかし下から腹を蹴りあげられ、更に上空へと上げられる。

視界の端で妹紅が橙矢より上へ行くのが見えた。

(あの野郎何処へ………)

訝しげに思っているがすぐに気付く。

現在の立ち位置からして妹紅に圧倒的なアドバンテージがある。

それにうえ妹紅は飛べて橙矢は飛べない。それだけでも絶対的な有利性を誇る。

「喰らえ…!蓬来『凱風快晴‐フジヤマヴォルケイノ‐』!!」

次の瞬間至るところで爆発が起きた。

そして妹紅からは一直線に橙矢目掛けて弾幕を放ってくる。

「冗談だろ……ッ!」

避けようと努力するがここは空中。ただの人間である橙矢がどう足掻こうと意味がない。

「ッざけんなァ!!」

腕を無理矢理限界まで強化すると一気に刀を振り抜く。

骨が嫌な音を立てて軋むのを代償にもの凄い勢いの風圧が弾を襲い、逸らさせる。

「ッ…………!」

微かに妹紅が表情を歪める。

着地すると急にガクン、と膝が落ちた。

「しま―――」

その隙に妹紅が弾幕を一気に放ってきた。

「………!」

避けられぬ直撃。せめてと思い、急所を強化させて最低限の防御を図る。

「無駄だ!!」

真横で爆発がおき、吹き飛ばされ、強化したところが解除される。

たて続けに弾幕が身体に着弾する。

「ッァ!!」

ぶっ飛び、地を何度も跳ねて木に激突し、止まる。

「カ……ァ………」

口から血を吐き出し、地を汚した。

「随分と……やってくれたな」

連戦続きでとっくに限界を過ぎている身体に鞭を打って持ち上げる。

「今更ながら言っちゃあ悪いけどなお前の事はお守りしてやるけどな、さすがに鳥もお守りするわけにはいかねぇんだよ」

「………………何を言っている?」

「つまりそのフェニックスだっけ?撃つの止めてくれるか」

「却下だ!」

怒号が聞こえると同時に不死鳥が迫ってくる。

「………!」

腕を強化して地に叩き付けると地面がめくれ上がり、鳥の進行を妨害する。

更にめくれ上がった地面を強化したままの腕で不死鳥ごと殴り付け、吹き飛ばした。

焔で生成されていた不死鳥は消えるかと思いきやすぐに元通りに直る。

舌打ちすると妹紅への接近を試みる。

不死鳥の横を通り過ぎる際に刀を横に一閃して真っ二つに斬った。

直る前に妹紅に目の前にまで跳ぶ。

「橙矢………!」

憎々しげに橙矢を睨む。

「ッアアァ!!」

上段から降り下ろした刀が避けられる。

「……『インペリシャブルシューティング』」

ボソリと呟いた言葉はしかし、確実に聞こえた。

「………!」

「燃え尽きろ……!」

妹紅の周りに弾幕が円上に漂い、それがジグザグ状に分裂する。

その弾の間に微かに隙間が生じる。

警戒して一気に範囲外へ退く。

「残念だけどその避け方は間違いだ!!」

弾が凝縮し、散々に飛んでいく。

「え、ちょっ―――――」

隙間はすでに無く、避けられずに直撃した。

「ッ!くそ……さっきの時点で抜けないと行けねぇのかよ!」

足を強化して弾幕の中を突っ切る。

「何回やっても無駄なんだよ!!」

再び弾が分裂する。

隙間を見つけ、すかさずそこへ飛び込む。

妹紅が舌打ちした音が聞こえた。

たて続けに同じものを二、三個放ってきた。

―――だがただ数が増えただけの事!

同じように隙間を見つけては飛び込み、隙間を見つけては飛び込みを繰り返し、妹紅の目の前にまで接近する。

刀を地に水平に構える。

「――――これで終わりだッ!」

突きを放ち、さらに刀にかかっている運動エネルギーを増幅し、加速して妹紅に迫る。

「――――――ま……だだァ!!」

刀が妹紅の首を貫く寸前、妹紅が四方八方に炎を撒き散らした。

「―――――ッ!!」

熱風に吹き飛ばされ、地に叩き付けられる。

「ガ…ァ………」

至近距離からの攻撃だったので着物は焼け爛れ、その下の肌も焼けていた。

そんな橙矢に妹紅はゆっくりと近付き、右手に炎を集束させる。

「……………消えろ」

その時背後から何者かに右手に掴まれた。

「…………」

何者か、と背後に視線を配る。

「……もういいだろ妹紅、そのくらいにしておけ」

慧音だった。

そして橙矢を庇うようにさとりも妹紅の前に立っていた。

「……慧音か、邪魔をするな」

「……止めろと言っているんだ」

「………………チッ」

舌打ちして乱暴に腕を払うと橙矢に背を向けた。

「………………」

「………橙矢、大丈夫か?」

妹紅を一瞥してから橙矢に手を差し伸べる。

「ハァ……ハァ………余計なお世話だ………」

差し伸べられた手を弾いて自力で立ち上がる。

「どうせあんたも妹紅と同じで俺を殺したいくらい恨んでるはずだ」

「……何を根拠にそれを言う?」

「里に行けば分かるさ。ま、俺にはもう関係のない話だけどな」

「………………」

「別に殺したきゃ何時でも殺しにこい。何時でも大歓迎だ」

軽く嘲笑うと慧音に背を向けて歩いていった。

いっぺん普通に歩いているように見えるが微かにフラついている。

「………何もあそこまでやる必要なかったのにな。何考えているんだか」

やれやれと首を振ってから妹紅に向き直る。

「…………にしても妹紅、さっきのはさすがにやり過ぎじゃないか?」

「……………分かってるよ」

「……とりあえず今晩は私の家に泊まっていけ。ここから妹紅の家は遠すぎるしな」

「………………あぁ」

「それじゃあ行こうか」

慧音が歩きだし、それに続くように妹紅が付いていく。

が、ふと橙矢のいる方へ視線を送った。

「…………………橙矢」

 

 

 

 

 

 

橙矢の家への通り道、橙矢とさとりが歩いていた。

「………なんで付いてくるんだ……は愚問か」

「そうね、理解が早くて助かるわ」

「………で、お前はこのあとどうするんだ?」

「あら、それも愚問よ?」

「あーはいはい、俺の家ね」

気怠そうに答えてからふと気付いた。

「これを聞くのは野暮なんだが……なんで俺を庇おうとした?」

「借りを返そうとしただけよ」

「………借りなんて貸した覚えなんてないぞ」

「貴方の脳は鳥以下かしら?」

「もう三歩歩いたから忘れたよ」

「大層お目出度い脳味噌なんでしょうね」

「違ぇねぇ」

真剣な話を冗談半分で話しながら歩いているといつのまにか家に着いていた。

「っともう着いたのか」

「早いものですね、話していると」

「あぁ、ほんとにな」

橙矢が先に戸を開けてからさとりを招く。

「ま、狭いけど入れよ」

「では遠慮無く」

開けた途端に入ってくるさとりに呆れながら居間で焼け爛れた服を放り、新しい服に着替えてから座り、向かい合うようにしてさとりが腰を下ろす。

「……………」

「……………………」

「………………………………」

「………………何か話せよ」

「貴方がね」

「おいおい、毎年ボッチだった俺に会話を求めるのかよ」

「逆に考えれば人に話したくても話せなかった事もある、それを話せばいいじゃない」

「あいにく心を読むさとり妖怪に話すことなんかひとつも思い浮かばねぇよ」

「その台詞は私が心を読めるようになってから言いなさいな」

「うるせぇロリ」

「黙りなさい毎年ボッチ野郎」

「妹に致命傷負わされそうになった奴に言われたかねぇよ」

「……言ってくれるじゃない」

「口喧嘩では敗けたことがなくてな」

「そもそもする相手がいないじゃない」

「ハッ、違いねぇ」

さとりの皮肉にも鼻で笑ってあしらうだけ。

さとりは軽い虚脱感を感じていた。

「皮肉の言い合いもこれまでにしておきましょ」

「なんだよもう終わりか?」

「付き合ってられないわ」

あっそ、と急に冷めたように返事をする。

「………………今更言うのもなんだけどあの蓬来人。そうとう気が狂ってたわね。言ってる………じゃなくて思ってる事とやってることがまるで違うわ」

「………どういう意味だよ」

「察しが悪いわね。つまり貴方を襲ったのは一時的な感情に流されたためでしょうね………。面倒な生き物ね人間というのは」

「なんだそりゃ。………あぁいや、やっぱりいいや………」

ふと窓の外を見るとただ暗闇が広がっているだけだった。

「………今日はもう遅いからさっさと寝ろ」

押し入れの中から一枚の分厚い布団を取り出す。

「ほら、貸してやるよ」

それをさとりに向けて放る。

「……………どういう事?」

「まんまの意味だ」

「まぁそれは分かるわ。でもそしたら貴方はどうするの?」

「寒いところで寝るなんざ馴れてるからな」

「……………………」

「気にすんなよ」

そういうや否や横になる。

「……………まぁ人の善意を無下には出来ないわよね」

「そういうこった。とっとと寝ろ」

突き放すように言うとさとりに背を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

「……………」

目を開けて身体を起こすとすでに窓の外は明るくなっていた。

「寒いな………」

学生服に袖を通してからまだ眠っているさとりを置いて戸を開けて外に出る。

「あーだりぃ」

寝癖が酷い髪の毛を押さえながら欠伸をする。

そろそろ外の世界では年越しのイベントでもやっている頃だろう。

「………つっても俺一人だから関係ないか」

「――――じゃあ今回は私と年を越すか?」

不意に横から声がかけられる。

首をそちらに傾けると昨晩橙矢と殺しあっていた蓬来人――――妹紅がいた。

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