東方空雲華【完結】   作:船長は活動停止

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第二十三話 里の集会場

 

里に入ると同時に橙矢にはキツい視線が刺さる。

「………」

そんな視線を気にしながら前を歩く霊夢に付いていく。

「……なぁ」

「何よ」

「……何処に連れて行く気だ?」

「まずは……そうね、あんたまだ昼御飯食べてないでしょ?」

あぁ、と心無く答える。

「じゃあ軽く食事とでもいきましょう」

「………何を考えてる?」

「何も考えてないわよ。それと食事が済んだら集会場に出てもらうわよ」

「………それが本当の目的か……」

「人聞きの悪いこと言わないでちょうだい」

「うるせぇ腋巫女」

 

 

 

 

 

食事を済ませてから霊夢に集会場へ連行された。

「ほらここよ。入りなさい」

霊夢に背中を押されて歩いていく。

「里にこんなところがあったなんてな」

「あんたが興味を持たなさすぎなだけよ」

「違いない」

苦笑いして答える。

「えぇと……確かここね」

霊夢が指差した部屋の前に来る。

「それじゃあ入るわよ」

一切の躊躇なく襖を開けた。

「待たせたわね。連れてきたわよ」

部屋の中には霊夢と橙矢含め七人の人がいた。

慧音、妹紅、里長、その長の連れ二人、そして今来た霊夢と橙矢。

里長とその連れの表情はどうみても友好的なものではなかった。

「おぉ巫女殿、ご苦労だったの」

里長が霊夢に対して微笑を浮かべて労う。

「……それと、こうして話をするのは始めてだったな。東雲橙矢………いや、退治屋」

「職業名で呼ぶなくそジジイ。それと俺はもう退治屋じゃねぇ。それに退治屋なんてもんそっちが勝手に押し付けたんだろうがッ」

「なに、貴方が――――」

「里長殿、それまでで良いのでは」

慧音が里長の言葉を遮った。

「……………」

「急に連れてきて悪かったな東雲。この場を代表して謝るよ」

「………いや、別にどうでもいい。それより用件はなんだ?」

「あぁ、ちょっと確認したいことがあってな」

「……俺が退治屋を辞めるか辞めないかってことだろ?」

「そういう事だ」

「そんな事なら辞めるに決まって―――」

「―――断るならそれなりの責任を負ってもらわないとこちらとしても困る」

「…………条件付きか」

「おい里長、そんな事聞いてないぞ」

妹紅が話に割り込んでくる。

「貴方には話していなかっただけです。……いや、話す必要が無かった、から」

「里長……あんた何言って……」

「妹紅さん。貴方に話せばすぐに退治屋に話すだろう?それを防止するためさ」

「里長………!」

「それより退治屋」

「東雲橙矢だ」

「退治屋、貴方が辞めるか辞めないか、それは貴方自身で決めればいい。ただこちらとしても困る。だからこちらは手を打つことにした」

「…………」

「貴方が退治屋を辞退しようと言うのなら私達里の人間は総力を挙げて貴方を捕え、処罰を与える」

「ふぅん?つまり俺が退治屋を続けなければ里全ての人間を敵に回すと?」

「まぁその表現でもあながち間違ってない」

すると橙矢は不気味な笑みを浮かべた。

「――――上等だ、やってみろよ!」

「――――捕えろ!」

里長が一喝すると同時に部屋の四方八方から里人が出てきた。

「なるほど、確かに合理的だ。……だがな甘いんだよ!」

強化させた腕を真下に降り下ろす。

叩き付けられた拳は衝撃波を生み出し、里人を吹き飛ばす。

「俺を捕らえようなんざ十年早ぇんだよ!」

一瞬出来た隙を逃さずに外へ飛び出る。

「待て!逃がすな!」

「おい里長!」

声を荒げる里長の肩を妹紅が掴む。

「どういう事だよ!何で橙矢を殺す必要があるんだよ!?あいつは元々は被害者なんだぞ!」

「……被害者、か。……だったら私達も同じ被害者だ。力を持つものには分かるまい。守りたくても守れない無力さ。何時殺されてもおかしくない恐怖に怯える毎日。あの少年はまだ良い方だ、力を持っているからな。……むしろあの少年より私達の方が被害者だ」

「ッ…………」

奥歯がギリッと擦れる音がした。

「どうやら貴方はあの少年の事を随分庇ってるようですが………何かあるので?」

「何かあっちゃいけないのかよ……!」

「えぇいけません。仮にも貴方は里の自警団なのですよ」

「知ったことかよ。言っておくが自警団なんてものそっちが勝手に決めたことだろ」

「酷い言われようですね」

里長は余裕があるのか首を竦めて苦笑いする。

「でも今の橙矢には賛同出来ないな。あくまで私は中立の立場にいるとするよ」

「…………そうだな、私も妹紅と同じく中立の立場にいるとしよう」

慧音が妹紅の隣に並ぶ。

「…………そうですか。まぁそのことに関しては何もいうますまい」

「そのことに関しては、か」

「……妹紅、心配なのは分かるが今は抑えておけ」

慧音が妹紅の肩に手を置く。

「………………あぁ」

小さく頷いた。

 

 

 

 

 

「そっちに行ったぞ!」

背後から聞き飽きた台詞が飛び交う。

「チッ、面倒だな」

二次的な被害防止のため能力を使わないと決めていたがさすがに多対一の鬼ごっこは圧倒的に不利だった。

角を曲がると待ち伏せていたのか一人の男が前にいた。

「くっ………そッ!」

上体を低くしていたせいか男が足を振り上げてきた。が、慣れない動作なのか動きがおぼつかない。

橙矢の元々の身体能力では人一人飛び越せないため、走っている膝を折り、脚でスライディングする感覚で滑る。その際に上半身を寝かせ、蹴りを避ける。

「ッ!」

通り過ぎると同時に足を振り上げて、バック宙並みの動きをし、地に足を着くと走り出す。

「っそが!」

すぐ後ろで男の悪態をついた声が聞こえた。すぐさま強化されない程度に足の裏に力を入れると後ろへ地を蹴る。

蹴られた土が舞い、男の顔にかかる。

「うわっ!このッ……!」

男の視界が奪われてる内に近くの里を囲っている木で出来た塀に登り、反対側へ降りた。

里の外へ出た事によって追ってくる者はいなかった。

そこから足を強化させて一気に離れる。

「何が俺を捕まえるだ。そう言うのは俺と同じくらい動けるようになってから言いやがれくそジジイ」

嘲笑を浮かべて今頃地団駄を踏んでいる里長を想像する。

………愉快過ぎて不愉快だ。

ある程度走ったところで足を止めた。

「………こんなところでいいか」

大して息を荒げる事もなく呟く。

「にしても本格的にマズイな……これじゃあろくに外に出れんぞ」

「確かにね」

急に第二の声がし、そちらに顔を向ける。

「妹紅、どうしたんだよ」

内心かなり驚いていたが平穏を装う。

「いや、お前がどんな感じに落ち込んでるかと思ってな」

「俺があんな程度で壊れるような豆腐メンタルとでも言いたいのか?」

まぁな、と微笑した。

「………里の奴等はあんな感じに言ってたが……まぁ理解は出来るよ。驚異から逃れる為にはその驚異に対抗出来る奴を起てるしかない。その点に置いては同情する」

「……………なんだお前里側に付いたのか」

「まさか……といっても中立の立場だからな。あんたの方にも付かないよ」

「あぁ結構結構」

さも当然の事のように受け流す。

「……橙矢……私はさ、中立の立場だから何も出来ないけど……。どうか里の事は嫌いにならないでくれ」

不意に妹紅が語り始めた。

「不老不死の所為で忌み嫌われた私を受け入れてくれた唯一無二の場所なんだ」

「……………知ったことかよ」

吐き捨てるように言うと歩き出す。

「………っと」

前に黒を基準とした服を着ている少女がいた。

「……あれ、お前確か……」

記憶に引っ掛かった。

確かこいつ紅魔館の帰りの時……。

「わはー、おにーさん久しぶりだねー」

少女が無邪気に笑い、緊張感が一瞬霧散し―――――たのも束の間、闇が橙矢と妹紅を包んだ。

「ッ………」

「こいつ……!常闇の妖怪…!?」

すぐに気を引き締める。

「おい妹紅!あいつの事知ってんのか!なら出来る限りの情報を寄越せ!」

近くにいるであろう妹紅に叫ぶ。

「言われなくても分かってるよ!あいつはルーミア、妖怪の中では代表的な人喰いだ!」

「人喰い?……だからあの時……」

「余所見するな!来るぞ!」

妹紅が焔を上げ、辛うじて視界を取り戻す。同時に目の前に弾幕が広がる。

「ッ!ラアァ!」

刀を握り、引き抜くと同時に強化して振るう。

暴風が吹き荒れ、弾幕を逸らさせることに成功した。

しかしその代償に刀を握る右腕の骨が軋んだ。

(これ以上使うのは難しいか………)

左に持ち変えると構える。

「橙矢、私が援護するからあんたは一気に突っ込んでいってくれ」

「……場所は?」

「さっきの弾幕で位置は把握した。私の弾幕に沿って行けば何時か着く………。ただし殺しはするなよ」

「………あぁ、ルールの事ね。はいはい」

「それじゃ行くぞ!」

見慣れた紅い弾幕が暗闇に飛んでいく。

足を強化させてそれに沿って走る。

すると前方十メートル先にルーミアが見えた。

その距離を一歩で詰めると刀を横に薙ぐ。

頭を下げられて避けられる。しかし横に薙ぎ終えると回転して上から降り下ろす。

後ろへ飛んで避けられるがそれも想定内。

刀の柄を引き寄せると力を溜め、一気に解放する。

一直線に刀の先がルーミアに迫る。

「ッ!」

ギリギリで反応して避けられるが頭にしてあるリボンに引っ掛かり、ほどける。

「チッ!避けられたか…!」

後ろに退くと妹紅がすぐそこに来ていた。

「橙矢、どうなった?」

「避けられたよ、全て」

その時辺りを覆っていた闇が一気に晴れた。

「ッ………なんだ?」

妹紅が橙矢に聞くがもちろん橙矢も何があったか知らない。

「おい妹紅……あれ」

橙矢が何かを見つけ、指差した。

その直線上にはルーミアがいた。……何故か悶え苦しんでいた。

「ァ………ウゥ……ァ…!」

「………橙矢、何かしたのか?」

「何もしてない筈だけどな……。そういえばリボンが取れたな……」

「それが原因じゃ―――――」

 

「アアアアァァァァァァ!!」

 

「「ッ!」」

それまで苦しんでいたルーミアが絶叫を上げる。

瞬間ルーミアの足元から手の形をした闇が幾つも出てくる。それが一斉に橙矢と妹紅に襲ってきた。

「ッ!なんだあれ!!」

刀で切り裂きながら妹紅に聞く。

「知らないよあんなの!私だって初めて見た!」

「っんだよそれ!」

僅かにそっちに気が逸れる。

まるでその時を待っていたかのようにひとつの手が飛んできて、すでに避けられない距離にあった。

(あ…………………)

「橙矢!!」

衝撃が走り、鮮血を辺りに撒き散らした。

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