東方空雲華【完結】   作:船長は活動停止

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第二十四話 常闇の妖怪

 

橙矢は今起こった出来事に目を見開いていた。

手に貫通されそうになった橙矢を妹紅が庇い、脇腹を貫通されていた。

感じた衝撃は妹紅が橙矢を突き飛ばした衝撃だった。

「ッくそ!」

拳を地に叩き付けて爆煙を巻き上げる。

妹紅を抱き抱えると森の中に紛れた。

「おい妹紅!大丈夫か!?」

頭だけを起こさせて意識の有無を確認する。

「ッ……大丈夫だよ……私が不老不死ってのは知ってる……だろ?」

「…………あぁ。けど痛みが無い訳じゃないだろ!」

「治ればいいんだよ治れば……」

「黙ってろ……!」

顔を上げてルーミアを見る。

しかしルーミアの姿は無く、代わりに背の高い女性が突っ立っていた。

しかもその女性が着ている服がルーミアと一緒だった。

「あいつは………」

「………もしかしなくても……ルーミア…かな」

「ッ……!」

否定のしようが無かった。

事実、あの女性は闇を使って橙矢達に攻撃をしてきた。

それだけで見分けるのは容易だった。

「…………」

ルーミアは橙矢達を探しているのか辺りを見渡していた。

「――――――」

今見つかってはマズイと身を隠す。

「………………」

しばらくルーミアは徘徊していたが何もないと検討付けたのかその場を後にした。

「………………ハァ」

緊張感が一気に抜けて座り込む。

妹紅の傷は徐々に治り始めていた。

「……なんだあいつ……。ほんとにルーミアなのか?……あぁやっぱり喋らなくていい」

「…――――――あ、橙矢!」

不意に妹紅が橙矢の肩を掴んできた。

「うぉッどうしたんだよ急に……」

「マズイぞ……今ルーミアが歩いていった方角………里の方だ!!」

「ッ!おいそれって……」

「多分ルーミア自身は気付いてないと思うが……。それよりあんな人喰いが里に行ってみろ……一瞬で滅ぶぞ……」

橙矢は舌打ちするとすぐさま隠れているところから出る。

「橙矢何して……!」

「一か八か……やってみる」

「馬鹿止せ!あいつが元々幻想郷のパワーバランスの一角を担っているんだぞ!?お前が勝てるはずないだろ!」

「…………やるしかねぇだろ………確かに里の連中は嫌いだが……まぁ少しだが世話になったからな」

そう吐き捨てると足を強化させてルーミアを追っていった。

「無茶だ……たかが人間が勝てる相手じゃないんだ……!」

 

 

 

 

 

 

 

ルーミアの姿はすぐに見付かった。

妹紅と離れてから三分、距離にして約二里。ルーミアの歩き方は至ってゆっくりだった。

しかしルーミアの回りには闇が広がっており、その闇が触れている物を溶かしていた。

音を立てずに木の枝に乗るとそこから飛び、一気に奇襲をかける。

(一撃で沈める……!)

刀に全体重を乗せて降り下ろす。更にそこから刀にかかる運動エネルギーを増幅させて音速の域に達する。

(音速の斬撃……喰らいやがれ!!)

刀がルーミアを斬りつける―――寸前、常闇の妖怪はグルンと首を回してその紅い瞳に橙矢を捉えた。

「―――――――――!!」

(だが今更気付いたところで……!)

瞬間、橙矢とルーミアの間に闇で出来た壁が出てきて、防いだ。

「チィ!」

闇の壁を蹴って後ろに跳ぶ。

着地すると更にそこから飛び退いた。

「………………」

ルーミアが興味が無さそうに橙矢の方を一瞥した。

「……………誰?」

「……しがない人間だ」

ふぅん、と素っ気なく答える。

「………人間……ね。貴方、博麗神社の場所は知らないかしら?」

「知らない事もないが……………教えてどうする?」

「………博麗の巫女に会うため……といったら信じるかしら?」

「………それよりも俺はあんたが何でそんなでかくなったかが気になるんだが」

「………大きくなった?何を言ってるの?元々この姿が私本来の姿。………何年前だったか忘れたけど封印されてね……それであの小ささになった」

「………それで?」

「話せば長くなるんだ。……別に関係の無い貴方には話す必要ないでしょう?」

「確かにな。言えてる」

言い終えると同時に踏み込んで刀を振り上げる。

「ッ!」

頭を軽く後ろに下げられて避けられる。

左手で腰に刺してある鞘を抜くと顎をしたから叩き付ける。

「ガッ……!?」

そこから無理矢理腰を捻り、上から刀を降り下ろす。

しかし手の形をした闇が刀を弾いた。

「チィ!―――――なら!」

弾かれた事をいいことに反対側に回転すると再び斬りつける。

さすがの大妖怪もこれには反応出来なかったのか微かに裂く。

「邪魔だァ!」

闇が飛んでくるが体勢を崩しながらの攻撃の直後だったので咄嗟には反応出来ずにまともに喰らう。

「ゴッ!?」

吹っ飛んで地を何度も跳ねる。ひとつの木の根を掴み、何とか止まる。

「ハァッハァッ………」

闇が直撃したところを見ると服はもちろんのこと皮膚すら溶けていた。そこのところが空気に触れるだけで激痛が走る。

(なんだあれ……溶かされた?闇で?)

立て続けに手の形をした闇がいくつも飛んでくる。

「ッ!」

右左と避け、身体を横にしながら縦に回転する。掠っただけで直撃は免れる。

「ッァア!」

回転しながら闇を斬り裂いて着地すると突破口を見付け、突っ込んでいく。

(ここまで詰めればこっちの独壇場だ…!)

しかしルーミアは無表情で橙矢を一瞥した。

その事を不気味に感じたが構わず強化した拳を放つ。

が、

「アァガッ!?」

返ってきたのは激痛だった。

簡単な話、ルーミアが拳を放つところに闇を展開していた。それだけだ。

慌てて溶け始めた拳を引っ込めようとするがそれよりも早く闇に吹き飛ばされる。

後方にある木に激突し、うつ伏せに倒れる。

「ッ…………」

顔を上げるとルーミアが無感情な瞳で橙矢を見ていた。

「………………」

「くそ………ッ」

立ち上がろうとするがルーミアが闇を展開し、橙矢を掴み上げる。

「ッアアアァァァ!!」

闇が橙矢の皮膚を、肉を溶かしていく音がする。

表現のしようがない痛みが橙矢の全身に走る。

「テメェ……ッ!」

殺意を込めて睨み付ける。

しかしルーミアはそれに一切動じず掴む力を込める。

「ァ……ガ…!」

飛びそうになる意識を堪えて保つ。

「ハァッハァッ…!」

冷や汗が橙矢の頬を伝ってきた。腕を強化させて引き千切ろうとするが無駄だった。

「クソッ……………」

遂には意識を保つのも困難になり、心なしか自身の鼓動がゆっくりになっていってる気がする。

(………………死んだな)

自身の死を受け入れて目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

里の集会場――――――

未だに里長と巫女と里の守護者は腰を落ち着けていた。

「…………里長、どうやら東雲に逃げられたようですが」

「………別によい。里の外に出たらてすでに今は妖怪が活発になる時間帯、すぐに力を持つ妖怪の餌にでもなるだろう」

「…残念だけどそれは無いわね」

二人の会話に霊夢が入ってきた。

「巫女殿、それはどういう意味で?」

「分からない?普通に考えてみなさいよ。橙矢は元々退治屋なのよ?それも今までの退治屋なんて比べ物にならないくらいに強すぎる。そんじょそこらの妖怪なんて軽くあしらえるわよ」

「………では巫女殿。貴方が――――」

「里長」

霊夢が里長の言葉を遮る。

「………それは何があってもやってはいけない事よ」

「しかしそれでは………」

「………大丈夫よ。橙矢は里を襲うなんて馬鹿な事しないはずよ。………それでも橙矢がそんなことするようだったら……私も腹を括るわ」

その時、三人の間にスキマが開いた。

「はろうお三方。夜遅くまで熱心ねぇ」

「………紫、何しに来たの?」

「………ちょっと面倒な事が起きてねぇ」

紫が急に真剣な表情になったので少しだけだが背筋が張る。

「………面倒な事?」

「えぇ、多分今貴方達が抱えてる問題よりも深刻かもねぇ」

霊夢、慧音、里長の順に扇子で指す。

「………今抱えてる問題……橙矢の事?」

正解、と口元を扇子で隠す。

「焦らさないでちょうだい。一体何が問題なの?」

「それじゃあ霊夢、こっちに来てちょうだい」

手招きしてからスキマを開く。

「………………しょうがないわね」

ため息をつくと入っていった。

 

 

 

 

 

スキマを抜けると博麗神社の境内にいた。

「………何で博麗神社?」

「ここが一番幻想郷全体を見渡せるからよ……それよりもほら」

閉じた扇子で何処か一点を指す。

「ん?何よ?よく見えないわ」

「まだ分からない?………ほら、多少暗いでしょうけどそれより暗いところがあるでしょう?」

「………うん。何となくだけど分かる」

「………あれ、見覚えが無い?」

「は?知らないわよ」

「………常闇の妖怪、ルーミア」

「…ルーミアがどうしたのよ?」

「彼女の封印が解けたわ」

「―――――!」

「…………どうやら誰かが解いたようね」

「一体誰が……」

「それよりも早く行きましょう。多分彼女の事だから被害は出していないでしょう。…………なんせ唯一人を愛した人喰い妖怪ですもの」

「……………………」

その時焔が巻き起こり、闇をハネ飛ばした。

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