「東雲さん、起きたのね」
内心かなり驚いていたが悟られないよう平穏を装う。
「たった今起きたばかりだ。……にしても我ながらしぶといな」
身体を起こそうと少し身じろぐが激痛が奔ったのか顔を歪める。
「あまり無理しない方がいいわよ」
「どうでも良いんだよんなこと……それよりもルーミアが……」
「その事については心配しなくてもいいわ。三週間前に終わってるから」
「……三週間前に………?」
「えぇ、そうよ」
「つまり俺は三週間も寝込んでたって事かよ」
「あら、理解が早いわね」
「あんたが嘘つくとは思えないしな。それに他に信じるものが無いから」
「よく分かってじゃない」
フン、と橙矢が鼻を鳴らす。
「当たり前だ。……にしてもあんな奴誰が……あ、いや、何でもない。大体想像がつく」
頭に紅白の巫女が浮かび、自分で出した問いを消した。
「一応行っておくけど紅白だけじゃなく白黒と……妹紅も貢献したんだから退院したら真っ先に礼を言っときなさいよ」
苦笑いして了解した、と返す。
「………相変わらずな頑丈さね」
「あ?何だよ急に。………まぁそれだけが取り柄だからな」
「そういうこと言ってないわよ。……それより貴方、自分の家系について調べた事ある?」
「………あぁ、あるが」
「貴方の家系………どんなものだった?」
「はぁ?プライバシーの侵害だろそれ」
「いいから答えなさい」
「……チッ、わーたよ。どうせ外の世界の事なんざどうでもいいからな。………さてどんな事から話そうか。……何を探ろうとしてるかは大方想像はつくがひとつ言っておく。俺の祖先は人間だからな」
「……………そう」
「なんだその残念そうな顔」
「あら、そんな顔してたかしら」
「してたな…………。そんな俺みたく馬鹿みたいにろくに学校に行かず博学ばっか調べておまけに変な能力まで付いている奴なんか誰一人としていなかったよ」
「それで?」
ますます興味深く橙矢を見る。
「まったく……何処まで聞く気だよ。といってももう話すことはないぞ」
「えぇ、もう十分よ。今は身体を休める事に務めなさい」
すると橙矢は動かない身体を無理矢理動かして持ち上げる。
「十二分に休めたさ。それに……何時までも世話になるのは癪に触るんだよ」
「…………あっそ、勝手にしなさい」
言われるが否やすぐにベッドから下りると部屋の戸を開ける。出ていく寸前顔だけを永琳に向けた。
「……………ありがとな」
素直に礼を言うと永琳はクスリ、と笑みをこぼした。
「あらあら、素直ねぇ」
「うるせぇよ」
顔を羞恥で真っ赤にしながら早足で長い廊下を歩いていった。
三週間も寝ていたためか橙矢の歩き方はおぼつかない。
筋肉も多少落ちており、刀が少し重く感じる…………はずだ。
だが運動してみても倒れる前よりも脚力というか全体的に力が増してる気がする。
すぐにおかしいと感じた。
どんなに筋肉がついていようと一ヶ月近くも何もせずいたら筋肉が落ちるに違いない。落ちないのは異形な奴しかいない。
………それって自分の事を異形って事を認めてるよな。
まぁいいやと疑問を投げ捨てると家を目指す。
「………………帰りかた忘れた……」
まさかの迷子である。
仕方ないだろう。なんせ今いるのは迷いの竹林。迷わない方がおかしいのだ。
「あー、どっかに手掛かりでもあればいいんだが」
その時、熱風が肌を焼いた。
「ん………この熱さどっかで………」
熱源の方へ足を進めていく。
すると――――
「殺してやる……!」
久しぶりにみたもんぺの女性と、
「そんなんじゃ私は殺せないわよ~」
着物を着た女性が例のごとく殺し合いをしていた。
(まぁよく飽きないよな……)
何事もすぐに飽きる橙矢からしてみれば何百年も続けるなんざ不可能だ。
……もっともそんなに生きられないのだが。
多少の暇潰しにはなるだろうと思い、さらに歩を進める。
そして丁度見える辺りにまで移動し終えると足を止めた。
軽く殺し合いを眺めたあと二人がまた激突する瞬間を見つけ――――――
(まずは落ち着いてもらおうかな!)
強化させた足で跳び、二人の間に割って入る。
「え………!?」
「だ、誰――――――」
二人の腕を掴むと地に叩きつけるように投げる。
「「…………!」」
二人が地に落ちてから輝夜の首を掴み上げ、妹紅の背を踏みつける。
「………なんだ、意外と簡単だったな」
「ッ………!し、東雲………!?」
「ッ!橙矢…!?」
輝夜が僅かに開いた瞳に橙矢を写す。
「悪いなぁお楽しみのところ邪魔して」
そう言うと輝夜から手を離し、足を退ける。
二人は一斉に橙矢から距離を取った。
「………」
喉で嗤ったあと表情を消す。
「…………橙矢?」
妹紅が幽霊を見るように橙矢を見た。
「……あぁ俺だが。……んだよ目ぇ覚まさきゃ良かったか――――っと」
話している途中に妹紅が駆け寄ってきて手を取った。
「ほんとに橙矢なんだな!?」
「信じられないか?」
「まさか!…でも良かったよ……無事で」
「お互い様にな。……ま、お前に助けられたしな。礼を言うよ」
「は?馬鹿な事言うなよ!友人……じゃなかった、親友を助けるのは当たり前だろ?」
「親友?ハッ、俺には一番似合わない言葉だな」
「でもそれは外の世界での事だろ?」
「……………まぁな」
「だったら良いじゃないか。私と橙矢は親友だ」
(まったく勝手に決めやがる……)
苦笑いしながらも拒絶することはしない。というより出来るはずがない。
どれほど拒絶しようが近付いてきやがる。
こんな奴始めてなのだ。
普通人間、拒絶されたら滅多にその人へは近付かない。
当たり前だろう。むしろ好き好んでいく人の気が知れない。よほどの馬鹿なのであろう。
すると横から輝夜が橙矢の腕を取ってきた。
「それじゃあ私と東雲は親友以上よね?」
いきなりの宣言には?と言うざる他ない。
「だって考えてみなさいよ。貴方が寝てる間私が四六時中看病してたのよ?これはもう親友どころの関係じゃないでしょ」
「待てよ輝夜!私が行くときいつも居ないがそれはどうなんだよ!」
妹紅が輝夜に反発する。
「それは私が貴方に気を利かせて出ていってるだけよ。ねぇ東雲?……いや、橙矢さん?」
「馬鹿言うなよ輝夜!橙矢、こんな変な奴の言うことなんか無視して。帰りたいんだろ?送ってくよ」
「そのくらいだったら私がやっておくわよ。貴方は里にでも行ってなさい」
「おいおい、引きこもりのお前が案内なんか出来るのか?お前が案内するより橙矢一人で行かせた方が安全だな」
「失礼ね。私だって暇な時は散歩してるわ。もはや竹林は私の庭よ」
そう言いながら二人が橙矢を両方から引っ張る。
まぁ輝夜の方は悪戯な笑みを浮かべている辺り単に妹紅をからかっているだけだと思うが。
………それも分からない妹紅も妹紅だが。
「おい、二人共、そろそろ―――」
宥めようと口を開いたが、辺りの空気が熱くなってきた事に気付く。
「輝夜ァ、今日はここのところまでにしておこうとしたが……気が変わった」
「奇遇ね。私もそう思ってたところよ」
二人は同時に橙矢を離すと互いに弾幕を放ち始めた。
「ちょっ、ま――――――」
目の前で弾が相殺し、その衝撃で橙矢は吹き飛ばされた。
夕方あたりになり、何とか自力で竹林を抜け出した橙矢は回りに田畑しかない道を歩いていた。
さてどうしようかなんて考えているといつの間にか墓場の近くに来ていた。
「………たちの悪い」
ふと目を細めると墓場の向こう側に寺が見えた。
「はぁー、定番だな」
夏になると誰か肝だめしにでも来るのか―――
その時前方の地面が盛り上がる。
「………おいおい、ゾンビでもいるのかよ」
半ば呆れ気味に悪態をつきながら刀に手を伸ばす。
そして大方の予想通り手が地面から出てくる。
「…………よ…ぁ」
何か地面から声がする。
「………………」
興が冷めたように冷ややかな目で見つめる。
瞬間地面の中から人影が飛び出た。
「ちーかよーるーなー!」
「うるせぇ」
あまりにもうるさかったので蹴り飛ばした。