東方空雲華【完結】   作:船長は活動停止

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第三十話 空飛ぶ鉢

「ちーかよーるーなー!」

 

 

「うるせぇ」

出てきて早々うるさかったので出てきた人影を蹴り飛ばす。

「もっかい土に埋まってろ」

半分埋まっている身体をさらに埋める。

「やーめーろー!」

「じゃあ黙れよ」

引っこ抜いてそのへんに捨てるように投げる。

「あー」

しかし華麗に着地を決める。

そこで出てきた人影を確認できた。

女性で曲がらない膝に少し中華風な服装、そして額には札。

「……キョンシー……あぁいや、僵尸か。可哀想だねぇ、死んでも死ねないってのは。あ、魂は別にあるんだからいいのか」

「誰だおまえ?」

「人間だよ僵尸。それと墓場から出てきてんじゃねぇよ。死人は死人らしく墓に埋まってろ」

跳ねながら近付いてくる僵尸から一定の距離を保ちながら様子を窺う。

(こいつ、ほんとに僵尸か?いや、多分そうだと思うが………自由奔放過ぎるだろ……。それに伝承通りならあいつに噛まれたら……)

僵尸になる。

(それだけは死んでも御免だな)

「何でこんなとこいるんだ?」

「道に迷ってな」

「それじゃ食べてもいいか?」

「殺すぞ死人風情が」

「多分無理だと思うぞー」

比喩だ、と答えて空を仰ぐ。夕焼けに染まり、これから妖怪の時間になる。

「そろそろ帰らないとまずいな………っと」

目の前に僵尸が迫っていた。

それを受け流して避ける。

(マジかよ……。ちょっと距離は取っておいたはず……。だとしたらどんな跳躍力だ……!)

「いきなり襲ってごめんね。でもそういう能力だから仕方ないよね?それに夜になると……妖怪としての力が疼くんだよ!」

「いや仕方ないはないだろ」

次々と襲ってくる僵尸を避けていく。

「まったく………何してるんだか」

反撃しようとして、止めた。

僵尸は身体が鋼鉄よりも固いと聞くが………なるべくは戦いたくない。どうせ強化したって通じないだろう。

「めんどくさいな……」

能力が使えるとはいえまだ病み上がりなのだ。

「チッ、なるべく使いたくないが……」

足を強化させて一気に距離を取る。

その時に痛みが生じるが仕方ない。あとで叩いとけば治るだろう。

墓場の表にある寺の横を通る。とにかく今の場所を把握しなければいけない。

「……ここまでこればもう良いだろ」

「――――捕まえた」

「――――――ッ!?」

背後から声がして振り向くと、同時に地に組伏せられた。

目の前には僵尸がニタリと笑って橙矢を見ていた。

「お前……どうやって……!?」

膝は曲がらず、手だけで押さえつけられていた。

「なんつー馬鹿力だこの馬鹿力野郎……!」

「馬鹿って言うなー!私は僵尸だ!」

「まんまで受けとんなや単細胞!」

何とか抜け出そうともがくが無意味だ。強化すればいいと思ったが何処を強化させれば抜けられるか、そこまで頭が回らない。

「くっそ…!退きやがれ!」

まだ動く足で蹴りつけるが硬すぎて逆に足が痛くなる。

「無駄だよ!」

鋭い牙が迫る。

「ッ!」

膝を曲げて足の裏で刀を収めている鞘を蹴りつけるとその衝撃で刀が半分抜かれる。

その柄を口で咥え、刀身で何とか牙を受け止める。

「……………ッ!」

さすがの僵尸でも驚いたのか目を見開いた。

次に降り下ろされる拳を 自由になった手で受け止める。

(力の差が………違いすぎる……ッ!)

腕を強化させて拳を押し返そうとするが強化してようやく拮抗するぐらいだった。今はまだいいがいずれ強化にも限界がくる。

(どうすれば……!)

―――――一筋の光が奔る。

その光は僵尸の背を掠める。

「ッ!誰だ!」

一瞬だが僵尸の意識がそちらへと向く。

「ッどけェ!」

残っている拳で横から殴り付け、少しグラついたところで腹に強化した膝で蹴りつけた。

「ッ…!」

吹き飛び、距離が僅かに広がる。

それより―――

「だ、誰だ……?」

見間違えていなければ光が一瞬だが奔った気がする。そんなものが自然で起こるはずがない。つまり誰かがあの光を放った。

「そこにいるのは誰だ!」

暗闇の奥から凛々しい声が響いた。

刀を抜き放ち、構える。

夜に行動するのは妖怪以外いない。つまり橙矢の敵だ。

「………………」

「誰だと聞いている!」

「それはこっちの台詞だ」

何か言わなければもう一発放たれそうなので答えることにした。

「なんだ、人間ですか。いるなら返事をしてくださらないと困ります」

急に畏まった口調で話しながら暗闇の奥から歩いてきたのは主に黄色を基準とした服装を纏っており、不思議と虎をイメージさせた。右手には宝塔………だろうか、そして左手には長い槍を持っていた。

「………………!」

(妖怪?いや違う……妖獣か…!)

姿を現せると同時に橙矢は一気に殺気を放った。

「ッ!…………そんな殺気を向けないでいただきたい」

「こんな時間に、しかも妖獣であるあんたを前に向けるなって方が難しいだろ?」

「ごもっとも、ですがどうかその刀は収めてほしい。私は貴方と敵対する気はない。元退治屋……いや、東雲橙矢さん。あぁ自己紹介がまだでしたね。私は寅丸星、毘沙門天の代理であり弟子でもあります」

「…………んだよ、知ってたのか」

「えぇ、なんせ人間で唯一ルールを守れない妖怪と戦っていた人間ですから。」

「哀れに思ってくださってますかなそれは」

「えぇとても―――後ろ!」

「ッ!?」

急に大きな声を出されて驚いたがすぐに振り向く。目の前に僵尸が迫っていた。

「しま―――――」

 

 

「―――転覆〈撃沈アンカー〉」

 

 

直後横からアンカーが飛んできて、僵尸を吹き飛ばした。

「………錨?」

「正解。にしても私にしては良いことをしたね」

僵尸を潰しているアンカーに腰かける人影がひとつ。

セーラー服というか水兵服というか。……まぁ一目であ、こいつ舟乗ってるな。という感じを醸し出している。

星はふぅ、と息を吐いた。

「良いところで来ましたね村紗。おかげで助かりました」

「良いって星さん。………それよりそこにいる人間は?」

村紗、そう呼ばれた少女は手にした杓で橙矢を指した。

「あぁ、彼は少し前までちょっとした騒ぎになってた退治屋ですよ」

「ふーん……で、退治屋……だっけ」

「元な、今はもう辞めた」

「どっちでもいいよそんなこと。……それで、元退治屋のあんたがなんでこんなところに?」

「道に迷った。以上」

「これ以上にないくらい率直だね。逆に感心するよ」

「そんな褒められても」

「褒めてないよ」

「さいですか」

「まぁ今日はもう遅いから寺に泊まっていきなよ……。星さんもそれでも良いでしょ?」

「そうですね。どうせ聖もそう言うでしょう。それでは東雲さん。行きましょう」

「は?行くって何処へだよ」

「命蓮寺ですよ。ほらすぐそこにある」

星が指差す先には……ひとつのまぁまぁな大きさの寺。

「………ほんとに寺だな。……てかここって墓の目の前の寺じゃん。にしても命蓮寺って…………ん?おいちょっと待てよ。命蓮寺……命蓮?信貴山縁起に出てくる命蓮と何か関係とかあるのか?」

信貴山縁起に出てくる命蓮という人物。

彼はある特殊能力に近い能力を持っていると書かれている。それについて触れているのが山崎長者の巻だ。

命蓮は神通力を使い、鉢を宙に浮かせる。という事が出来た、らしい。

命蓮は滅多な事がない限り山を下りず、ずっと仏道に励んでいた。そのため神通力を使って麓の長者の家まで鉢を飛ばし、食物を貰っていたらしい。

しかしある日いつものように麓の長者の家へ鉢を飛ばしていたところ、その長者は「いまいましい鉢よ」と言って鉢の中には何も入れず倉の隅に放ってしまった。

そして長者はいつしか鉢の事も忘れ、その倉に鍵をかけてしまった。

するとその倉は宙に浮き、そしてこの扉がひとりでに動き、ついに開くと中から例の鉢が出てきた。

鉢は倉の下に潜り込むと倉を持ち上げ、山のかなたへと飛んでいった。

そのあと長者は追いかけ、命蓮の寺へとたどり着き、その寺の近くに落ちている倉を見ると「この倉を返してくれ」といった。結局倉自体は返されなかったものの中身だけは返されたらしい。

………ただこの話は平安時代末期に書かれたものだ。故に命蓮という人物は存在していない。

「さて、どうでしょうね」

「いや、多分関係あると思うな。寅丸……さんだっけ?あんた確か毘沙門天の代理やら弟子やら言ってたよな?命蓮は東大寺から南北の方角にはるか霞んでみえる山、信貴山に毘沙門天を祀る堂を建てたはずだ……。偶然にしては出来すぎじゃないか?」

「……………………博識ですね」

「別に、ちょっと考えれば分かる事だ」

「あぁそれとひとつ言っておきますよ。貴方のいう命蓮という人物。彼はすでにこの世にはいませんよ」

「だろうな。なんせ信貴山縁起が書かれたのは平安時代末期だ。つまり実在しているとしたらそれよりも前ってことだ。生きている方がおかしい」

「そうですね。それよりもどうしてその話を?」

「決まってるだろ。この寺にはその命蓮の子孫がいるかもしれないだろ?」

すると星は橙矢を見定めるように見ると面白そうに口を歪める。

「貴方中々面白い発想しますね。………それではそろそろ夜も更ける頃ですし中へと入りましょう」

「………頼むよ」

 

 

どういう訳か、命蓮寺という寺に一晩世話になることになった。




改めて自分の作品を見てみると誤字脱字多いですね、、

なんとか修繕していきたいと思います。
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