里に着くと同時に橙矢に目を細めた。
「……………その得物を下げてくれるか」
そう言う橙矢の目の前には槍の先を橙矢に向けて睨む門番。
「………何の用だ」
「……仕事を終えたからその報告だ」
「その死体の山はなんだ」
門番の視線が橙矢の後ろへと向く。
「………………殺された奴等だ」
「誰に」
「言わなくても分かるだろ?」
感情の篭ってない表情でさも当たり前のように答える。
「残念ながら生存者は一人だ……。俺が行った時にはすでにこの子除いて全員殺されていた」
少女の頭に手を乗せると門番が近寄ってきてその手を払った。
「そんな汚い手で触るな!」
「………………………悪い」
手を引っ込めると里の中に入ろうとする。
「………通すとでも?」
「………じゃああんたがこれを運んでくれるのか?」
「……………」
「まさか棄てる、なんて馬鹿なこと言わねぇよな?」
「……………ッ」
「図星かよ」
呆れたようにため息を吐くと引きずっていく。
「誰が通って良いと言った!」
「誰も言ってないからこそ通るんだよ」
「調子に乗るな!」
目に触れるほどの距離に槍が迫る。
「……………………」
「退治屋風情が……。お前はただ単に汚れ仕事をこなせばいいのだ!里に入ることは言語道断!」
「……………………あぁ確かに俺がやってるのは単なる汚れ仕事だ。だがそれがどうした?里に入っていけないという決まりなんて無いだろ?」
「……………分かった。……だが置いたらすぐ帰ってくれよ」
舌打ちをして槍を下ろし、道を通した。
そこを通る際軽く手をあげた。
「悪いな」
大通りを歩いて行くと音に気付いたのだろう家の窓から視線を感じる。
「……………」
すでに少女は帰しており、一人で俯いて死体を引き摺る。
「……………………」
「こんなところで何してるんだ東雲」
前方から声がして顔をあげる。そこには里の守護者がいた。
「…………あぁ慧音か。………後処理だ」
「……………………」
「まったく………里の奴等は馬鹿だよな」
髪を巻き上げて辺りを一瞥する。
「表面では助けたいだの救ってくれだの言いやがる。だが人が死ねばそいつらは棄てておけと言う。………ふざけるなよ」
一瞬だけだが殺気を放つ。
「………その考え方は間違っているな。人は死体を棄てているんじゃない。土に還しているんだ」
「……………………馬鹿言え――――」
ガツン!
横から衝撃が奔り、脳が、視界が揺れる。
「………ッツ!」
頭から血が流れる感覚がする。それよりも衝撃が来た方へ目を動かす。少し離れたところに一人の男がこちらを睨んでいた。
……いや、一人だけでない。橙矢を囲むように里人が集まっていた。
「………………」
足下を見ると石にしては大きいものが転がっていた。
(成程、これを投げつけられたのか)
すぐに納得して腕で血を拭う。
「け、慧音さんから離れろ化物が!」
「ま、待てお前たち!彼は敵じゃない!」
慧音が止めようとするが橙矢に突き飛ばされ、輪から出る。
「………………」
空を仰ぐと腹に投げられた石が直撃した。
「ッ……………!」
敢えて避けることもせずただただ立ち尽くす。
「里から出ていけ化物が!」
「お前が早く行かないせいでそいつらは…!」
「お前には命の尊さが何にも分かってねぇ!」
「消えろ殺人鬼!!」
暴言を好き放題言われながら石などを投げられる。
「…………………殺人鬼……か」
こんな状況にも関わらず頭が冷静過ぎる。
自分自身でも恐ろしいくらいに冷静だ。
しかしそれも一瞬。
「ククッ……ハハッ……ヒャハハハハハハハハハハ!!」
狂人的な嗤いをあげた。
「俺が殺人鬼?ふざけるな!!俺は妖怪、妖獣を死ぬほど殺してきたが人は、人は一度も殺したことはない!!テメェらそれでも………人を殺してない奴を殺人鬼だなんて呼ぶのか!?冗談じゃねぇ!!勝手に退治屋に仕立てあげられて、その上縛られて!挙句の果てには辞めたら殺されるだァ!?常識がねぇにも程がある!!テメェらには考える能がねぇのか!アァ!?自分が出来ないからって人に押し付けて、自分だけふんぞり返って楽をして!危険もくそも無いところで生活しやがって!それで里が襲われたら退治屋のせい!?自分勝手も程ほどにしろよ……!!」
まるで妖怪を相手にするかように睨み付ける。
「退治屋が何を言ってる!くたばれ!」
「………………ッ」
全身から血が流れ、地にボタボタと垂れる。
「ハァッ……ハァッ………」
本来の目的は達成した。
後は………。
足を強化させて包囲網を突破する。
「ッ!退治屋が逃げたぞ!追え!」
(追い付けるかよ鈍足共…………!)
グチャグチャな視界で何とか里の外へ出ようと試みる。
時たま家に、建物にぶつかるが痛みを堪えて走る。
「ハッ………ハッ……」
里を囲う柵を越えて思いっきり跳ぶと意識が飛んだ。
少ししてから着水する音が聞こえた。
「……う………やさ……!」
微かに聞こえた誰かの声で僅かに意識が戻る。
「とうやさ……!橙矢……ん!橙矢さん!」
「……………………ッ」
高い声が頭に響き、痛みで目を開ける。
「橙矢さん!?起きたんですね!」
先程から橙矢を揺らして起こしていた白狼天狗はさも嬉しそうに尻尾を振った。
「うるせぇよ………椛」
「あ、あぅ………すみません」
「まったく…………」
身体を起こそうとすると包帯に縛られている事に気付く。
「あ、起きちゃ駄目ですよ。まだ怪我は治ってないんですから」
椛が優しく橙矢をまた横にする。
「いや、俺はだいじょ―――」
「やぁ白狼天狗。盟友は起きたかい?」
第三者の声が聞こえ、顔を傾ける。
そこには青い服を着て、大きな鞄を背負った少女が椛と橙矢を見ていた。
「……………誰だ?」
椛に聞くと少女は大きくため息をついた。
「おいおい、盟友のくせになのに知らないのか?」
「まずその盟友ってのを止めてくれるか」
「あぁゴメンゴメン。私は河童の河城にとりっていうんだ。よろしく盟友……っとそんな睨まないでくれよ。東雲橙矢」
「………なんだ俺の名前知ってたのか」
「あぁ、そこの白狼天狗が頬を緩めきって君の話していたよ」
にとりが橙矢の隣にいる椛を指す。
「椛が?」
「………ッ!にとり……!」
「おぉ怖い怖い」
逃げるように椛から逃げるにとり。
「待ちなさい!………ってもう……」
椛が顔を真っ赤にして剣を構える時にはすでに近くにある川へと飛び込んでいた。
「……………………うー」
恥ずかしさからか顔を隠してしゃがみこんだ。
「お、おい大丈夫か?」
「ち、近付かないでください!」
剣を振って橙矢の接近を阻む。
「分かった分かった………だから落ち着けって」
一定の距離を保ったまま宥める。
「うー………もうお嫁に行けません……」
「いや何でだよ………………にしてもここ何処だ?……あ、お前がいるってことは妖怪の山か?」
「…………へ?えぇまぁ…そうですけど」
「………こんな川あったか?」
「ありましたよ。ただ橙矢さんが気付かなかっただけです」
「………で、俺はなんでここに?」
「そこの川から流れてきたんですよ。全身傷だらけで………何かあったんですか?」
「………別に、何も無かったよ」
「…………嘘ですね。まぁ貴方ならそういうと思いましたが」
「だったら聞くなよ」
「一応の確認ですよ」
「…………ハァ」
大きく息をつくと再び横になる。すると睡魔が襲ってくる。
(そういえば最近熟睡してねぇな……)
その様子を見ていた椛は橙矢を起こそうとする。
「こんなところで寝てはいけませんよ。風邪をひきます。ここから近いところは…………。そうだ、今から私の家に来ませんか?そこでならいくらでも寝ていただいて構いませんから」
「え、いや、でもお前哨戒の役があるんじゃ……」
「今日は非番なので何も問題はありません」
橙矢の手を取ると立ち上がらせる。
「早いところ行きましょう。また盟友もどきに邪魔されます」
「邪魔?何のだよ」
「………………何でもないです。早く行きましょう」
「あ、おい……」
抵抗する気も起きず、なすがまま手を引かれた。
……最近ネタが思い付きません……。
さすがにまずい……どしましょ……。
まあ今が楽しければ良いですよね~(´~`)