東方空雲華【完結】   作:船長は活動停止

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最近かなり寒くなってきましたね。おかげで外に出る気が失せます。だがそれでも学生である以上出ていかなければならない訳で………。

畜生めが……。




第四十一話 聖なる聞き手

数百メートルくらい橙矢が吹き飛んだ跡を見送ると幽香は傘で陽を遮る。

「ふぅ、いい運動になったわ」

「お疲れ様です幽香さん」

青娥が労うが鬱陶しそうに流す。

「別にいらないわそんな表だけの言葉。……それで、東雲はどうするのよ」

顎で橙矢が飛んでいった方を指す。

「………放っておきましょう。あれだけの技をまともに喰らえば無事ではないでしょう………。酷い場合もうすぐで彼岸へと渡る………なんてね」

苦笑いするが面白くなさそうに幽香はふん、と鼻を鳴らした。

「そんなヤワじゃないわよあの男は」

「随分と彼を買っているようですが……」

「当たり前、私に喧嘩を売ってくる奴よ?」

「…………まぁいいです。結界を破壊するのは邪魔されないでしょう」

「……………えぇそうね」

 

 

 

 

 

 

 

辛うじて残っている意識を離さないように口の中の肉を噛みきる。

激痛が走る代わりに意識がはっきりとする。

「ハァッ……ハァッ…………くそったれ…」

たった一撃受けただけでこのザマだ。みっともないったらありゃしない。

……いや、そんなことどうでもいい。

「殺してやる………」

殺意だけで自らを奮い立たせ、立ち上がる。

どれだけ吹き飛ばされただろうか。ざっと三百、四百メートルくらいだろうか。

口の中に溜まっている血を唾と共に吐き出す。

足を強化させようとしたが強化されなかった。

「ッ!なんで……」

それどころか足から力が抜け、地に倒れた。

「まさか……限界が………」

仕方ないだろう。僵尸、村紗、星と命蓮寺で戦い、依頼をこなしてそのあと幽香と二連戦なのだ。動ける方がおかしい。

「くっそが………!」

足が折れたって知ったことか。幽香を殺せれば何だっていい。

「まだだ……!」

腕を立てて腕だけの力だけで進む。

その時視界の端に紅白が映った。

 

 

 

 

 

 

 

 

霊夢は向日葵畑へと飛んで向かっていた。

さっき向日葵畑から一キロくらいにかけて光の奔流が奔った気がする。それも魔理沙のマスタースパークの数倍の威力で。

思い当たる節は一人しかいないのだが……。

「あの花妖怪誰かと戦争でもしてるのかしら」

まさか。彼女は幻想郷でも屈指の実力者なのだ。いくらなんでもそんな自殺行為をする馬鹿はいないだろう。

「…………嫌な予感がするわね。急いだ方が良いかしら」

その時下に黒い学生服を着た少年が倒れているのが目に入った。

「ッ!橙矢!?」

急降下して傍らに降り立つ。

すると霊夢に気付いたのか橙矢が顔を上げる。

霊夢が橙矢の頭を抱き起こす

「お前か霊夢………いま忙しいんだ。放っておいてくれるか……」

「何寝てるのよ!ッ!まさかさっきの……あんたさっきまで幽香と戦ってた!?」

「………転んだだけだ」

「嘘言いなさい!転んだだけでこんな傷できるはずないでしょ!」

「……何でもないって言ってるだろ……」

手を額に当ててため息をつく。

「…………疲れたんだよ馬鹿野郎。少し寝かせろ」

「だったらせめて家で寝なさい!もういいわ、神社まで行くわよ!」

手を取ると浮かんで博麗まで飛んでいく。

「重いわね……あんた」

「…………だったら捨てていけよ。楽になるぞ……」

「馬鹿言うんじゃないわよ。怪我人を前にしてそんな真似出来るはずないじゃない」

「…………おいおい、風船巫女の名が泣くぞ」

「怪我人は黙ってなさい」

「…………………」

「それでいいの……ってあら、気絶しちゃってるじゃない…。……まったく……無理をするからよ」

 

 

 

 

 

急に激痛が橙矢を襲い、意識を覚醒させた。

「ってぇ!」

「あら、起きた」

何時の間に着いたのだろうか博麗神社の一室にいた。

それよりも、だ。

「……おい霊夢。何した今」

「何って……消毒よ。傷口から変なものが入ったら駄目でしょう?」

ほらこれ、と綿棒と消毒液の入った入れ物を手に取る。

「……………余計な事を」

「うるさい、これでも喰らいなさい」

消毒液を綿棒にかなり付けて傷口を叩く。

「ッ…いてぇっての」

「中々初々しい反応してくれるじゃない。苛め甲斐があるわ」

霊夢が楽しそうに微笑む。

「…………お前、そんな風に笑えたんだな」

橙矢にしては珍しく驚いたように目を見開いた。

「何よそれ。まるで私が普段から表情が固い女みたいじゃない」

「…え…違うのか?……いてっ!」

更に強く叩かれ、痛みが生じる。

「失礼な殿方にはにはお仕置きが必要と思ったから」

「………はいはい、俺が悪かったよ」

「………にしてもなんであんたあんなところで倒れていたの?」

唐突に霊夢が切り出す。

「……さっきも言ったが転んだだけだ」

「…………………どうしても嘘を貫き通す気ね」

「だったら俺が嘘をついているっていう証拠でも持ってこいよ」

「………それは」

「…………それは?何だよ」

挑発的に囃し立てる。

「………貴方が倒れていたから………てっきり幽香にやられたかのかと思って」

「は?……訳分かんねぇこと言うなよ。………はっきり言うけどな、迷惑なんだよそういうの」

不意にパァンという音が響き、橙矢の頬がはたかれていた。

「……………………」

「…………なによ、せっかく助けてあげたのに………。助けた私が馬鹿みたいじゃない!!」

普段の霊夢からは想像できない大声で橙矢に叫んだ。

それを眉ひとつ動かさずただ見ていた。

「貴方が心配で………、心配だったのに………」

次いで橙矢を突き飛ばした。

「ッツ……」

傷に響いて顔を歪めた。

「ァ………………ッ」

少し橙矢を心配するような表情をしたがそのあと霊夢にしては珍しく泣きそうな顔をし、橙矢に背を向けた。

「……………出ていって」

「…………………」

「……出ていきなさい!今すぐにッ!」

「……………あぁ、お前が言うなら出ていくよ」

痛みを耐えながら立ち上がると襖を開ける。

「……………――――」

「ッ!」

出ていく寸前橙矢は何かボソリと呟いた。その一言が霊夢の耳に届き、振り返る。

しかしその時にはすでに橙矢が襖を閉めたあとだった。

「…………ッ馬鹿……!」

 

 

 

 

 

 

「あー、いてぇ………」

神社の入り口にある鳥居に凭れながら自身の身体を見下ろした。

「………………霊夢には悪い事したな」

だが仕方無い。あぁでもしないと無理矢理にでも吐かされる。

「………………」

太陽が沈みかけた頃、何者かの気配がして刀に手を伸ばし、立ち上がる。

(もう邪仙が攻めてきたのか……?)

だとしたら最悪橙矢一人で邪仙が言う協力者という者に一人で戦わなければいけない。

かなり厳しい状況だ。

しかし、

「あれ、橙矢じゃないか。こんなところでどうしたんだぜ?」

来たのは白黒の魔法使いだった。

「…………なんだ魔理沙か」

大きくため息を吐いた。

「ちょっ、その反応はなんだよ」

「………何でもないよ。それで、魔理沙はなんで神社に?」

「そっくりそのまま台詞を返すぜ橙矢」

「野暮用でな」

「じゃあ私も野暮用で」

「………あっそ」

勘違いだった。そう思うと立ち上がり、階段を下りていく。

「あれ、もう帰るのか?」

「………もういる用が無いからな」

「そうか。ま、橙矢が目を覚ましたって分かった事だけで大きな成果だな」

「…………………じゃあな」

話すだけ時間の無駄だ。

橙矢は早足で階段を下り、逃げるように去っていった。

「……………なんだあいつ」

橙矢を一瞥してから神社へと足を運ぶ。

「おーい霊夢ぅ、暇だから来てやったぜー」

…………………………。

…………返事がない。

「あれ、おかしいな普段なら物音ひとつするもんだが……」

不思議に思い、予め持っておいた金を賽銭箱の中に放る。

チャリン、という心地のよい音が響いた。

…………………………。

「…………。おいおいマジかよ。里にいても神社の賽銭箱に入れられた金の音を拾うあの霊夢がだぞ?」

神社の横から入り、いつも霊夢が茶を飲んでいるところへと行く。

「おい霊夢!何があ――――――」

襖を開けた瞬間愕然とした。霊夢が蹲っていたのだ。

「れ、霊夢!どうかしたのか!?」

慌てて駆け寄ると上半身だけでも起こさせる。

「大丈夫か?………一体どうしたんだぜ?」

「………………」

「……何があった」

「魔理沙………。橙矢が……橙矢が……」

「ッ!橙矢が何かしたのか!?」

それっきり霊夢は何も言わなくなる。

それだけでも何かあったかは魔理沙でも分かった。

「橙矢………ッ!お前って奴は……!」

神社から飛び出ると境内を駆け抜け、高い階段から飛び下りた。

「違う……違うの魔理沙……!」

 

 

 

 

 

 

 

橙矢が家に着く頃にはすでに陽が落ちていた。

「…………………」

顔を上げて久し振りに見る我が家。だが知らないものがひとつ増えていた。

それは今家の前にいる………道士が着るようなものを着ている女性だ。

「…………あれ、家間違えたかな」

すると女性は橙矢に気付いたのか近付いてきた。

「これ、そこの殿方。そなたが東雲橙矢か?」

「………………あんだよチビ、まずはお前から名乗れよ」

「おお、これはすまないな。我は尸解仙の物部布都だ」

(尸解仙?確か中国にそんなようなものあったよな……。えぇ…と、仙術を操り不老不死の身体を得た奴の事だっけ。それに物部って……あの蘇我氏に滅ぼされた物部一族の事か……?)

興味本意で調べていた事がこんなところで役立つとは思いもしなかった。

「…………尸解仙……あぁいや、仙人が俺に何の用だ?」

「それよりまず確認したい。お主が東雲橙矢か?」

「……だとしたら何だよ」

「そうかそうか、張り込んだ甲斐があったな」

布都と名乗る女性は満足したように頷く。

「いいから早くしてくれねぇかな。俺眠いんだが」

「………すまない。して東雲、お主確か今日の昼頃青娥とその連れと戦っておってだろう?」

「さて何の事やら」

戯けるように首を捻った。

「悪いが遠くからだが監視しておった。よもややってないだなんて言わせぬぞ」

「…………………チッ。だったら何だよ」

バレたのなら仕方無い。舌打ちして布都に向き直る。

「それに物部っつったか?お前こそ何だよ。何かあの邪仙と関係があるのか?」

「…………特に、直接の関係は無い」

「ふぅん?だったら間接的な関係はあるんだな」

「話が早くて助かる。まぁぶっちゃけて言うと同じ方に仕えている。という関係だけなのだ」

「…………ハッ、また勧誘か」

「馬鹿者、話は最後まで聞け」

軽く頭を叩かれた。

「………………」

「実はの、青娥を止めてほしいのじゃ」

「は?…………あー……で?」

「薄くは気付いていると思うが青娥がやろうとしていることはこの幻想郷にとってあまり喜ばしくない」

「………何をするつもりなんだ?あの邪仙は。……何か幻想郷を壊すだの言っていたが」

「ふむ、あながち間違ってはいない。詳しく言うと青娥がやろうとしていることは外への帰還。しかしすでに人でないあやつは博麗の巫女の許可を取るには無理であろう。……つまり博麗大結界の破壊。それ以外にあやつが外へと出る術はない」

「………ちょっと待てよ。憶測だがあの邪仙の能力は〈壁をすり抜けられる程度の能力〉……のはずだ」

「うむ、よく分かっておるな。だがそれがどうしたのだ?」

「結界に穴を開けて外へは出れないのか?結界だって言っちまえばひとつの壁だろ?」

「ふむ………お主はまだ知らないであろうが外の世界とこの幻想郷には常識の壁というものがある。まあ言うなら比喩表現だな。実際結界なんてあって無いようなものだからの」

「でもそしたらあいつらはどうやって結界を壊すつもりなんだ?」

「………青娥には芳香という僵尸がいるであろう?」

「いるな、そいつが何か?」

「僵尸に喰われた者は一時的に僵尸化する」

「――――――!それって……」

「………うむ、恐らくお主が思った通りあやつらは博麗の巫女を僵尸化させて結界を壊すつもりだろう」

「………………なんでそれを俺に話す?」

「……………青娥は今とてつもなく強大な力を持つ者を味方に付けておる。………それに対抗する力を集めなければいけないのだ」

「………霊夢に頼めばどうなんだ。いくら人数が多くなったところで敗けるような奴じゃないだろ」

「馬鹿言うな。博麗の巫女には………そうよの、誰かに保護してもらう。狙われているのに戦わせる馬鹿が何処にいる。少しは考えろ」

「………………」

その時誰かが割り込んできた。

「――――止めておきなさい布都、相手も困っているでしょう」

金髪で笏を持ち、剣を腰に差し、ヘッドフォンを着けている女性と、足がないがその代わり何かふよふよと浮いている緑髪の女性だった。

「しかし太子………」

金髪の女性は布都を黙らせてから橙矢を見る。

「いいから。………どうも初めまして。元退治屋。布都が迷惑をかけたね。私は豊聡耳神子だ。そしてこの亡霊みたいな………じゃなくて亡霊が蘇我屠自古。以後お見知りおきを」

そう言って神子は軽くウインクをする。

………中々茶目っ気な奴が来たな。

後ろに控える屠自古に視線を向けると軽く頭を下げられた。

橙矢はめんどくさそうに頭をかくとため息をつく。

「揃いも揃って何なんだよ………」

「いやぁ悪いね。用事が用事なもので。急がざるを得なかったんだ」

「…………用件はさっきその尸解仙に聞いたぞ。もうそれだけで良いんじゃないか?」

「まぁ落ち着いて落ち着いて。ちょっと気になる事があってこの事で君に話があるんだ」

「………何だよ。早く終わる事なら良いんだが」

「それは君次第だ」

「訳分かんねぇ……」

「ま、すぐに分かるさ。さてそれじゃ本題に入る。単刀直入に聞くけど元退治屋。君………

 

 

 

花妖怪との戦いの時どうして手加減していたんだだ?」

 

 

 

 

 

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