青娥が神社を襲った日から三日が経った時には既に橙矢は快復していた。
布都と村紗、それに件の青娥は中々の重症だったが永遠亭の医者のお陰で明日くらいには日常生活に戻れるらしい。
布都と村紗の見舞いに行ったついでに青娥のところにも顔を出したところいきなりの土下座をされた。
聞くところによるとどうやら青娥は神子の為に今回の異変を起こしたらしい。どうも神子には帰る世界があるだとか無いだとか云々……。
正直に白状したので強化した拳で拳骨しただけで済ませた。
咲夜はともかく幽香、屠自古、天子は軽傷だったらしい。芳香は例外。
あれ以来天子とは会っていないが咲夜から聞くとどうやら大変ご立腹だとか。
………一番心配なのはフランだ。あの異変が起こってから紅魔館へ帰ってはいないらしい。そう咲夜が言っていた。
昼過ぎ、左目を負傷して包帯で巻いた橙矢は妖怪の山の白狼天狗の休憩場へと来ていた。
「……調子はどうだ」
将棋盤を挟んで向かい側に座る白狼天狗に問うた。
「えぇ、すこぶる良いですよ」
白狼天狗―――椛は呆れた顔で盤上を見ていた。
既に詰んでおり、為す術もない状態だ。もちろん橙矢が圧倒していた。
「それにしても橙矢さんあの花妖怪を倒したんですってね」
「は?何言ってんだ。あれは結局魔理沙が決めたんだ。俺は何もしてねぇよ」
「……でもそうと新聞に………」
え、と椛の手にある文々。新聞をひったくる。
そこには『元退治屋花妖怪を征伐!?』という見出しが書かれており、その隣に橙矢と幽香が戦ってる時の写真が貼られていた。
「………………あのエセ記者。何処で盗撮していやがった」
「あの方は神出鬼没ですからね。気を付けておいて損は無いと思います」
「あぁそうするよ」
「………………橙矢さん」
「ん?」
ふとなにやら椛の顔が真剣になる。
「……橙矢さんはこの幻想郷のパワーバランスの一角である花妖怪を倒しました。それに加え文さんの新聞により貴方の名は恐らくこの幻想郷全土に広がると思います」
「………それで?」
「そうとなれば里の人達から恐れられるかもしれません」
「……………もう遅ぇよ」
「え?」
「……………もう遅いんだよ。既に里からは追い出され、挙句の果てにはこの様だ」
そういって目を覆っていた包帯を取る。
それを見た椛は息を飲んだ。
「それは………」
椛の瞳に映ったのは赭色に爛々と光る橙矢の左目だった。
「あぁ、俺は半分妖怪だ」
「いやですが……この前合った時にはまだ……」
「確かに、あの時は普通の黒目だったな。………けどフラン様に目を斬られて……そして再生したらこれだ」
「…………………」
「………昨日俺の家に来た慧音には既に話して俺に二度と関わるなと言っておいた。これで俺は無事里とはおさらば、ということさ」
「…………ッ」
椛が歯を食い縛って俯いていた。
「何でお前がそんな反応するんだよ?」
「…………いえ、何でもないです」
「ったく………それで、あとどれくらいで仕事に戻れそうだ?」
「そうですね。あと数日、というところでしょうか」
「………そうか。ま、大事にならなくて良かったよ」
すると休憩場の戸が開かれる。
「どうも清く正しい射命丸文です!」
「帰れ」
戸を閉めた。
「あやややや、酷い仕打ちですね東雲さん」
「うるせぇよ。こんな馬鹿げた事新聞に乗せやがって」
戸を開けて新聞を文に投げつける。
「馬鹿げたも何も事実を書いただけですが」
「…………で、何の用だ」
引き延ばしても面倒だと思い、切り上げた。
「あぁそうでした。いやー東雲さん、異変解決おめでとうございます」
「……その言葉は俺に言う事じゃないよな」
「謙遜なさらなくても良いんですよ。そこでですね、先日神社の方から宴会に呼ばれてまして。東雲さんはもちろん聞いてますよね?」
「いや、初耳だが」
「あれ、そうなんですか?なら東雲さんも行きましょう。どうせ暇なんですよね?」
「断る」
「あやや、まさか断られるとは思いませんでした。理由をお伺いしても?」
「面倒だからだ」
「むぅ、中々手強いですね」
「あの………行かないんですか?橙矢さん」
「椛?」
椛は上目遣いで橙矢を見上げていた。
「私は文さんの付き添いとして行くんですけど……橙矢さんは行かないんですか?」
「……いや、特に行く理由が無いからな」
「でしたら私の付き添いとして来てください」
「お前の?…………なんで」
「私こう見えても酔いやすい体質なんです。ですから付いてきてください」
「………………はぁ」
大きくため息を吐くと嫌々外に出る。
「何時からだ」
「ようやく行く気になりましたか。……強行手段に出ずに済みました」
安心したように文が微笑んだ。
「………おい、今聞き捨てならない単語が入ってた気がするが気のせいか」
「気のせいじゃないですか?別に宴会に行かなかったら今度の新聞に『元退治屋白狼天狗の筆頭と交際疑惑か?』なんて書こうとしてませんよ」
「確信犯だろお前……!」
「もちろん冗談デスヨー」
「人と話すときは顔を見やがれエセ記者」
「な……。貴方今私のことエセ記者と言いましたね!?」
「気のせいだろ。なぁ椛」
「え……そ、そうですね……」
「な、椛。貴方まで……」
「……………それより何時からだ」
「うぅ………今晩です」
「今晩だぁ?うわ、余計行く気失せるわ」
「ちょっと東雲さん」
「悪い悪い。ちゃんと行くから」
「橙矢さん。そろそろ行きましょうか」
椛が橙矢の手を取り、引っ張る。
「え、おいもう行くのか?」
「橙矢さんは飛べないから歩いて行くのでしょう?私もお供しますよ」
「いいよそんな事しなくて。一人でも行けるから」
「良いんですよ。私がしたいからするんです」
「………勝手にしろ」
「はい、では好きにさせて頂きます」
歩き出すと隣に椛が並ぶ。
「では私は飛んでいくのでもう少し後で出発します」
ではでは、と文は山の方へと飛んでいった。
「それじゃあ私達も行きましょうか」
「あ、ちょっと待ってくれ。少し寄りたいところがある」
「何処ですか?」
「いや……俺の家なんだが」
「何か忘れ物でもしたのですか?」
「前に誰かが住んでたんだろうな、酒があって………まぁ大半は妹紅が呑んだんだが。それでも少し残ってて、それを処分するにはいい時だと」
「なるほど。……それはいい考えですね。きっと巫女が喜びますよ」
「だといいんだけどな」
今頃宴会準備に追われている巫女を想像して苦笑いした。
神社に着いた頃には既に陽は落ちていて宴会が始まっていた。
「………また派手にやってるな」
鳥居を潜ると同時に四方八方から流れ弾が飛んでくる。それを最小限の動きだけで避けながら巫女のところへと歩み寄る。
「よぅ霊夢。三日ぶりだな」
「あら橙矢来ていたのね。目は大丈夫なの?」
「あぁ……まぁな。それよりほら土産持ってきてやったぞ」
指の間に挟んである合計八つの酒が入った瓶を置く。
「ふぅん……中々気が利くじゃない」
「喜んでくれたか?」
「えぇとても。ありがと」
「どういたしまして」
「それより橙矢これからどうするの?」
「どうするって?」
「誰かと呑む予定とかあるのって聞いてるのよ」
「…………いや、特には」
すると少しだけ口の端が吊り上がった。
「だったら私と呑まない?」
「おいおい俺が酒を呑まないことは知ってるだろ?」
「別に貴方に酒を呑めとは一言も言ってないわ」
「へぇ……じゃあ俺はお前の呑んでる姿をずっと見てろってか」
「貴方かそうしたいならしてても良いわよ」
「断る」
「冗談よ冗談。酌をして頂戴」
「マジかよ…………そっちの方が嫌なんだが」
「まったく……早く選んで頂戴」
「え、まさかの二択?」
「何当たり前の事聞いてるのよ」
「…………………」
「ちょっと博麗の巫女。橙矢さんが困ってるじゃないですか。それに橙矢さんは私と呑むんです。ね、橙矢さん」
「いや途中から違うな」
「あ、そうでした。橙矢さんは酒が呑めないんでしたっけ」
「まぁそれもそうだが……俺は今日誰ともいる気無いんだけど」
「それじゃあ来た意味無いじゃない。というか橙矢が持ってきた酒は自分で開けなさいよ」
「は?何でだよ…………まぁ別にいいが」
刀を抜くと横に軽く振った。すると瓶の口の部分が斬れた。
「これで良いだろ」
「……貴方いつから曲芸なんて習ったの?」
「曲芸?ただ刀を横に振っただけだが?」
「―――なんだ橙矢いたのかよ!」
声だけで誰の声かすぐに分かった。後ろから魔理沙にのし掛られる。じゃなくて押し潰される。
「………魔理沙重いからどけ」
「ちょっ、酷いぜ橙矢」
「自覚してるからどけ」
手を後ろに回して襟元を掴んで持ち上げる。
「うわっ!離せー!」
手足をジタバタさせるが全て空を切るだけである。
「言われなくても」
パッと手を離す。
「げぬっ」
地に魔理沙が落ちるが一切気にしてない。
「むきゅー」
「使う人が違うぞ」
「良いんだよ別に。著作権なんざ無いからな」
「………で、何の用だ」
「いやー橙矢がいたからついな」
「なんだ、じゃあ特に用は無いのか」
帰れ帰れと手を振って遠ざけようとする。
「なーんか橙矢って私には素っ気ないよなー」
魔理沙が口を尖らせて拗ねる仕草をしたが受け流した。
「なぁ………もういいか?俺一人でいたいんだが」
「はーい一名様ごあんなーい」
不意にババ臭い声が聞こえると橙矢の下にスキマが開いた。
「は?」
「「「あ………」」」
三人が察したように落ちていく橙矢を見送った。
「マジか………よ……!」
一瞬の浮遊感の後に地にけつを叩き付けた。
「いってぇ………あの野郎……」
「それは誰の事かしら?」
顔を上げてないため顔が見えないが誰かいるようだ。
「あ?……あぁ八雲紫の事だよあのやろ………………う?」
顔を上げたら件の八雲紫が笑顔で橙矢を見下ろしていた。
「……………あー、あれ、他に人居なかったですか賢者様」
「生憎と私しかいないわよ」
「……………さいですか。あの、笑顔が怖いんですけど。怒ってらっしゃいます?」
「まさか、怒ってないわよ」
「……………俺はこれで失礼させて頂きます」
踵を返して逃げようとしたが振り返った瞬間目の前に誰かがいたのに気付いて急停止する。
「おい貴様、紫様直々のお誘いだったというのに逃げる気か?」
お稲荷さん………ではなく尻尾を九本生やした女性が道を阻んでいた。
「…………お誘い?何か殺されそうな雰囲気出してるのにこれがお誘いだと?」
「貴様が逃げようとしなければいいだけだ」
「……にしても九尾…か。幻想郷ではそんな奴もいるのかよ」
「ほう?私の事を知ってるのか」
「いやいや、見たのは始めてだ。ただ想像していたものとはほど遠かったからな」
「ふん、では人間。貴様はどんなものを想像していた?」
「ただの狐に尻尾を八本突き刺したもの」
「ふむ………何か馬鹿にされた気分だ」
「何でだよ……馬鹿になんかしてないさ。まぁさか九尾様がこんな美人だなんて思わなかっただけだ」
「……………へ?」
急に九尾が目を丸くして黙りした。
「ん、どうかしたかよ」
「貴方の素直さにはほとほと感心するわ」
呆れたように紫が橙矢の肩に手を置く。
「ほんとの事言っただけだが?」
「まぁ確かに藍が美人なのは認めるわ。でも私も負けてないんじゃないかしら」
「知らねぇよ。霊夢とかに聞いてろ」
「つれないわねー」
「はいはい自覚してますよ……にしても藍?この九尾の名前か?」
「えぇそうよ。貴方が会うのは始めてだったわね。藍、彼が例の元退治屋よ」
「え?………あぁ、彼が……。改めて始めまして、私は紫の式神である八雲藍です」
「丁寧にどうも。元退治屋って事を知ってるのなら俺の名前も知ってる……よな?」
「東雲橙矢、ですよね。紫様からよく話をお伺いしております」
「ならいいや………で紫さんや。何で俺を呼んだんだ?」
「……………………」
辺りを見渡すと少しだけ目を見開いた。場所は神社なのだが色がかなり濁っていた。というよりこれは……。
「……ネガ?おい、何してんだよ」
責めるように紫をジト目で見る。
「……今回の異変について、少し話をしたくてね。……なるべく内密にしておきたいのよ」
「あぁ、それが?」
「あの邪仙のせいで吸血鬼の妹がおかしくなっちゃったわ」
「……確かに、精神が不安定……と言うよりかはタガが外れたと言った方が良いのか?」
「あー、まぁそうね。それで貴方はこれからどうするつもりなのかしら?」
「妹様を連れ戻す」
「これ以上にないほどストレートね。けど嫌いじゃないわ。それじゃあ任せても良いかしら」
「オーケーオーケー」
「それじゃあ次に。結界に何か変化は見られた?」
「は?それは俺が聞くことであってお前が聞く事じゃないだろ」
「違うわ。端から見てどうだったと聞いてるの」
「…………少しだけ罅が入ってた。それだけだ」
「ほんとに?」
「嘘つく理由はないだろ」
「あらご免なさいね。にしても困ったわね。どんな風に結界の崩壊が始まるのか、それが分かればまだいけると思うのだけれど」
そうそう、と続ける。
「ひとつ分かった事があったのよ。どうやら結界は自然に崩れるのではなく、誰かの手によって崩れる。そういう歴史に変えられていたわ」
「ッ!誰かの手によって……?」
「……えぇ、第一に犯人はドラキュラと考えたけど……ドラキュラは貴方の手によって殺され、この世界から消えたからね……誰かは分からないのよ。……けど恐らく……ドラキュラの事から推測するに東雲橙矢、貴方でしょうね」
「ッ!紫様、でしたら今ここで―――」
急に声をあげた藍をたたんである扇子で止める。
「藍、貴方には先日話したわよね?壊すのが東雲さんならその崩壊を止めるのも東雲さんだって」
「いえしかし……」
「第一に彼を殺したって結界を壊す人が変わるだけよ」
「………つまり事情を知ってる俺の方が何かと都合が良いわけだな」
「そういうこと。まぁ引き続き対策はこっちで考えとくわ」
「了解了解。なるべく俺の方でも練っとく。………それより何だよこの……」
話が一段落ついたところでずっと気になっていた周りの変化を聞く。
「小規模な結界でも張ってるのか?」
「正解。ただし外から私達の姿は見れないけれど」
「外から?」
ほら、と扇子で前を指す。目を向けると目の前を霊夢や魔理沙が通っていった。
周囲を見渡して何かを探しているようだった。
「貴方を探しているようね………ま、見つかるわけないわよね」
「?おいどういう事だ俺なら」
「ここにいる、そう言いたいのでしょう?けどこの結界に入ってるものは見ることが出来なくなる。そういう結界よ」
「いやそこまでやる意味が分からないんだが」
「言ったでしょう内密に話がしたいって」
「……………目の前に人がいるってのに気付かれないなんて……」
「外の世界の事でも思い出したかしら?」
「……狙ってやがったか」
「まさか、偶然よ」
笑っている辺り狙ってやったのか……。
「けど今の貴方は違うでしょう?」
「は?何言ってんだ俺はいついかなる時も誰にも見付けられない。…………変わってなんかいない」
「これでもかしら?」
紫がパチンと指を鳴らすと結界が割れて元の景色が色を戻していく。
「……………」
何秒経った辺りだろうか。横から橙矢に近付いてくる気配を感じた。
「橙矢!何処にいたのよ!」
「………霊夢?」
「ほんとだ、紫に連れていかれたからびっくりしたぜ」
「橙矢さん大丈夫ですか!?」
「魔理沙、椛も……どうしたんだよ」
「どうしたもこうしたも橙矢がいなくなったから探してたんだろ?」
「俺が?………別に放っておけばよかったろ」
「何言ってるんですか橙矢さんがいなければ始まらないでしょう?」
「………………」
チラと紫の方を一瞥すると紫は口元を扇子を開いて隠した。
「言ったでしょう?貴方は変わってないわけないと。………断言するわ、貴方はこれからも忘れられない」
「……………ハッ、賢者様が断言するんだったら間違いない……んだろうな」
喉で笑って肩を竦める。
「それより橙矢、行きましょう。紫といるとババ臭さが伝染るわ」
「ちょっと待ちなさい霊夢、それは酷いんじゃない?」
「霊夢は事実を言ったまでだぜ。それ行くぞー!」
魔理沙が橙矢の手を掴んで走り去っていく。
それを見送りながら紫はゆっくりと腰を下ろした。
「……………はぁ、まあいいわ。東雲さん、貴方は…………いえ、今言うのは無粋よね。それより…………ようこそ幻想郷へ」
段々と離れていく橙矢といつかの日の巫女が重なって見えた。その後ろ姿が何故か懐かしく感じた。
よく分からない終わり方してごめんなさい。自分の文章力の無さをよく実感出来ます。
一応これで三章目は終わりです。今度からは……どうしましょう。まぁその時の自分に任せましょう。
それとこれからもイラストを描いていこうと思います。画が下手ですが何か描いてほしい、という事があれば言ってくだされば描かせて頂きます(≧▽≦)
ではまた次回