「失礼しますパチュリー様」
図書館の中には何回か入った事があるが毎度毎度大きさには驚かされる。
少し進むと広い所に出た。
その中央に大きい円卓があり、その上に幾つもの本が積んである。
その本に囲まれるようにパチュリーは座っていた。
「いらっしゃい東雲。美鈴と手合わせしたって聞いたけど大丈夫なの?」
「はい、働くぶんには大丈夫です」
「そう、じゃあ今日はこの山を片付けてもらおうかしら」
そう言って自分の後ろにある本の山を指差した。
「承りました」
「一人だけじゃ辛いでしょ、小悪魔も一緒に手伝ってあげなさい」
すると本棚の影から小悪魔が出てきた。
「はーい、では行きましょう橙矢さん」
「あぁ、よろしく頼むよ」
「任せて下さい!」
パタパタと背にある小さい羽を動かして本を手に持ち運んでいく。
「じゃあ俺も……よっと」
八冊くらい一気に持ち上げる。
「っとと、結構重いな。……えーとこの本は確か…………」
腕の筋肉を軽く強化させる。
軽くなった所で作業を再開する。
目的の場所までくると本の山を床に置く。
数冊を手に持つと掛けられてある梯子を登る。
上の方はあまりにも高すぎて梯子を使わないとしまえないのだ。
「ここと……ここだな」
本をしまうと同時に視界の端に何か白黒のものが映る。
「あ?」
そちらに目線を泳がすと数少ない窓から箒に乗って図書館に侵入しようとしている輩がいた。
「誰だ!」
飛び下りて着地すると急いで泥棒がいるであろう所へ走る。
犯人の姿を見たときやっぱり……と軽く虚脱感を覚えた。
「これも借りてくぜー」
泥棒は持参していた袋に本を突っ込んでいた。
橙矢は歩み寄ると声をかける。
「魔理沙、何してんだ」
今気づいたのか弾かれるように顔をあげる。
「なんだ橙矢か。借りてるだけだぜ」
橙矢はその言葉に大きいため息をつく。
「知らねぇな、本人の許可を取らずに盗もうとしてる奴をみすみす見逃すわけにはいかねぇからな」
刀を鞘から少しだけ抜く。
「おいおい、冗談はよせよ橙矢。私達の仲だろ?見逃してくれよ」
「あいにく今は紅魔館で働いてる身でな」
一気に引き抜くと突き付ける。
「馬鹿野郎……!」
袋を担ぐと魔理沙は箒に跨がる。
そのまま上昇する。
「逃がすかよ!」
足を強化させて跳んで壁に着地するとそこから魔理沙目掛けて跳ぶ。
「捕まってたまるか!」
箒に跨がりながら華麗に一回転すると器用に避ける。
舌打ちすると体勢を立て直し、本棚の上に着地して再び跳ぶ。
先程と同じように一回転して避けようとする。
が、通り過ぎる瞬間橙矢は足を振り上げ、箒に引っ掻ける。
「えっ!?」
力任せに思いっきり足を振り下ろす。
床に落ちそうになるが箒を上手く操作して浮き上がる。
「――――捕まえた」
声に反応して振り向こうとするがそれよりも早く襟元を掴まれ、床に組伏せられた。
「橙矢……!」
「悪く思うなよ。盗ろうとしたお前が悪いんだからな」
「ッ盗ろうとなんかしてな……」
「―――冗談にしなさいよ魔理沙」
奥からパチュリーが姿を見せた。
「ご苦労だったわね東雲」
「恐縮です。では自分は作業に戻ります」
「分かったわ」
魔理沙から手を離して元々自分がいた場所に戻ろうとする。
「橙矢……」
「………………なんだよ」
顔だけ振り返る。
「………!」
橙矢の顔を見た魔理沙は微かにだが恐怖を感じた。
橙矢の瞳には憤りが含まれていた。
「…………今日はもう帰って反省するんだな」
それだけ言うと一度も振り返ることもせずに作業場に戻っていった。
「今日は本当にご苦労様」
日が沈みかけた頃、橙矢はレミリアに呼ばれて彼女の部屋に来ていた。
「色々と迷惑かけてごめんなさいね」
「いえ、気にする事ではないですよ」
「そういってもらえると嬉しいわ」
「それで、俺が呼ばれた理由はなんでしょう?」
「ちょっと聞きたいことと頼みたいことがあってね」
ん、と眉をしかめる。
レミリアが頼み事をするときは毎度ろくなことがない。
「………なんでしょう」
「それじゃあ、貴方、この紅魔館に移住する気はない?」
「またそれですか。二回目ですけど………。する気はありません」
「そう、じゃあ頼みたい事だけど………私には妹がいてね。今は地下に閉じ込めているの」
「何でですか?」
「危険だからよ。名前はフランドール・スカーレット。能力はありとあらゆる物を破壊する能力。下手すれば私より力は上よ」
「その妹様をどうしろと……?」
「明日だけでいいから面倒を見てあげてもれないかしら。………他のメイド達じゃ遊び相手にすらならないもの」
「俺でよろしいのなら喜んでその仕事受けましょう」
「ありがとう、でも無理だけはしないでね」
「善拠します」
「あー、長かったな」
カンテラを手にもちながら暗い夜道を歩いていく。
この辺は下級の妖怪があまりいないということでそこまで警戒しずに行ける。
それにいざというときには能力を駆使して逃げればいい。
その時だった。
「う、うわぁぁぁぁぁ!!」
「!!」
急に男の悲鳴が聞こえる。
声のする方に足を進める。
人間が妖怪にでも襲われているのか。
「―――そこか!!」
目の前の木を斬り倒し、視界が空ける。
そこには身体中傷だらけの男が妖怪を目の前に気絶していた。
「させるかよ!」
人間を襲うということはせいぜい下級の妖怪なのだろう。
地を蹴って男の前にいた妖怪とおぼしき少女に突撃する。
少女が気付いたときにはすでに距離がほぼ零の時だった。
「ッラァ!」
足を強化させて少女の脇腹を蹴り抜く。
「っ!?」
少女は吹き飛ぶが空中に留まる。
「わはー、おにぃさん誰?」
「ただの人間だよ」
刀を構えながら気絶しているであろう男に近付いていく。
「お前、こいつをどうしようとしてた?」
なるべく時間を稼ごうと少女に話しかける。
「別にー、ただ食べようとしてただけだよ?」
「お前みたいな女の子がこんな男を?臭くなるぞ」
男には申し訳ないが仕方無い。
命を救うためだ、多少ディスるのは許してくれるだろう。
「食べれば誰でもいいんだよ」
「あっそう……かよぉ!」
十分に男に近付くと一気に地を蹴って男を掴むと駆け出す。
「あっ!逃げるなァ!」
少女は態度を一変させて光輝く弾―――弾幕を放つ。
それらを木々を利用して上手く避けていく。
「逃がさないよ…!」
途端に辺りが真っ暗になる。
「…!」
舌打ちしそうになるが堪える。
視界が見えない今頼りは聴覚だけだ。
嗅覚はこの男が血を流しているせいで鉄の匂いしかしないため全く機能しない。
そこまでは別にどうでもまでは良くないがいい。
問題なのがあの少女がこの暗闇の中で見えているか否かである。
「姿を見せたらどうだ!」
半ばやけくそに叫ぶ。
ただ叫ぶだけではなく声に反射することである程度の距離が計れる。
いち早く右から音波が返ってくる。
反射的に男を掴み直すと反対側へ思いっきり跳ぶ。
地らしき所に着地すると同時に足を強化させてまたしても跳ぶ。
それを何回か繰り返しているうちにようやく暗闇の中から抜け出せた。
やはりある程度の距離しか暗闇は展開出来ないようだ。
まずは多分安全であろう博麗神社へ向かう事にした。
博麗神社へ着くとこんな時間にも関わらず縁側で霊夢が茶を飲んでいた。
この前とはうってかわって不機嫌そうな表情をしていた。
「あら橙矢じゃない。どうしたの?」
「あぁ、ちょっと怪我人を見つけたもんでな。この辺で医者やってるとこないか?」
「ふーん、それでその男を連れてるんだ」
「まぁな」
「貴方、結構人がいいのね」
「そんな人がいい人に医者の場所を教えてくれませんかね」
そう言うと霊夢は茶を一気に飲み干すと立ち上がった。
「しょうがないわね」
橙矢の手を掴むと空に浮く。
「巫女って空を飛べるんだな」
「えぇ、それくらいは。それより早く行くわよ」
「ひとつ頼むよ」
「着いたわよ」
竹が無数に生えているところの中にポツンと忘れ去られたように建てられている建物の前に着地する。
「ここは?」
「永遠亭。宇宙人が住むところよ」
「宇宙人?」
「えぇ、月から逃げてきたとかいう賢者よ」
「はぁ………さしずめ兎か?」
「うーん、兎もいるわね。ただし月の兎は一匹だけ、あとは地上の兎」
早く行きましょ、といい戸を開けた。
「医者ァーいるー?」
玄関口で少々大きい声を出した。
すると奥の方から青と赤を基準とした服を着た女性が歩いてくる。
「あら、こんばんは。博麗の巫女。こんな時間に何か用かしら?」
「ちょっと怪我人を見つけた人が私の所に訪ねてたからね。医者のところに案内してきたのよ」
顎で橙矢を示す。
医者は橙矢に気付いたみたいで軽く頭を下げた
「始めまして、よね。私は医者である八意永琳です」
「東雲橙矢。一週間前に紅魔館で執事として働き始めたばかりの外来人だ。それよりこいつを診てやってくれないか?妖怪に襲われていたんだ」
背負っている男を見せる。
「わかったわ。今日帰すのは厳しいから朝にでも迎いに来てやってくれないかしら?」
「あー、俺仕事あるしな……」
チラと霊夢の方に目線を移す。
「私も忙しいから無理ね」
「うん、永琳さん。霊夢が引き取りにくるから」
霊夢の背をトンと軽く押す。
「………わかったわよ。私が行けばいいんでしょ」
「話はついたようね。じゃあ今日はもう暗いから帰りなさいな」
「はなからそうするつもりだ」
「じゃあ私はこれで~」
霊夢が欠伸をしながらいち早く飛んでいく。
「あ、おい待てよ霊夢!」
先程の事を怒っているのか聞こえてないふりをして飛んでいく。
橙矢は頭を掻いたあと大きなため息をつく。
永琳はそんな橙矢の肩に手を置いた。
「貴方……大変そうね」
「変な慰めはよしてくれ」
「あら、ごめんなさいね」
めんどくさい医者だな、なんて思いながら永遠亭をあとにした。
「ったく何なんだよ霊夢の奴………」
竹の中を歩き回り、何とか竹の森から抜け出そうとしているが何故だろうか、先程から同じところをグルグル回ってる気がする。
「気のせい………だよな」
いや、そう信じたい。
永遠亭を離れて早くも半刻が過ぎていた。
いい加減早く床につかないと明日一日耐えきれない。
「不味いな………」
さすがの橙矢も焦っていた。
先程と同様に妖怪がいない訳ではない。
―――――その時。
ドォン!という音と同時に視界が灼ける。
「ッ!」
反射的に瞼を閉じるがそれが間違いだった。
灼けたのは視界だけでなかった。
橙矢の執事服の端がわずかに燃えていた。
「なんなんだよ…!」
火をはたいて消すと顔をあげた。
そこにはあり得ない光景が広がっていた。
燃える竹林。
爆弾が落とされたかのような穴だらけの地面。
さながら戦争が起きていたかのように酷かった。
瞬間、上空へ火で生成された鳥が飛んでいった。
「……鳳凰?」
幻想郷ではそんな空想上の生物まで野放しにしているのか、と思ったがすぐにその考えを否定する。
この幻想郷に来る者は皆、忘れ去られた者達らしい。
鳳凰は橙矢が元々いた世界ではまだその存在は空想上ではあるが認められていた。
つまりあの火の鳥は鳳凰の知っている者が鳳凰を模してやったものだろう。
「くそ!避けるな輝夜ァ!」
「あら、それは無理な話よ」
火に囲まれた竹林の中で二人の人物が……。
―――――いや、もう一人いるな。
耳を澄ませば竹の間をもの凄いスピードで駆け抜ける音がする。
とにかく主になっている二人の様子を見る。
一人は白髪の若い女性でもんぺを着込んでいる。
もう一人は対称的に黒髪で平安時代などに見る十二単のようなものを着込んでいる女性。
二人が互いに光輝く弾幕を撃ち合っている。
それが永遠に続くかと思うほど続くと、やがて白髪の女性が有利になっていく。
「クッ…!」
「これで終わりだァ!」
白髪の女性から火が燃え上がる。
そしてそれが火の鳥を生成していく。
瞬間、横から二人とは異なった弾が白髪の女性に向けて放たれた。
「ッ!邪魔をするな鈴仙―――!」
弾が飛んできてイラついたのか全方向に火を放つ。
「冗談だろ……!」
再び視界が灼ける。
そこまで近付いているわけではないのにも関わらず吹き飛ばされる。
竹に激突してなんとか止まる。
離れている橙矢でさえあれだけ吹き飛ばされたのだ、黒髪の女性はただでは済まないだろう。
下手すれば死んでいる。
先程の場所まで戻ると白髪の女性の足下で黒髪の女性が倒れていた。
皮膚は焼けており、すでに出遅れの状態だった。
「……………」
目を静かに閉じて見なかった事にする。
しかしすぐに目を見開く。
焼かれた皮膚や服などが再生されていく。
「なんだよ……あれ」
気が付いたら竹にもたれ掛かりながら腰を抜かしていた。
一分とかかる前に再生は終わり、先程と同じように何もなにように立っていた。
「殺されちゃったわね~」
「今回の殺し合いは私の勝ちだな」
白髪の女性がニッと笑う。
黒髪の女性は仕方無いわねーと言って手をひらひらと振る。
「じゃあ今日はもう遅いから私は帰るわね。鈴仙、もういいわよー」
黒髪の女性は怠そうに何処かへ行ってしまう。
白髪の女性は黒髪の女性が見えなくなってからようやく動き出した。
「さて、今日は勝ったことだし、朝まで飲もうかなぁ」
帰ろうと歩みを進めた。
その先には腰を抜かしていた橙矢が――。
「ん?なんでこんなところに人間が?」
橙矢が我に返ったときには目の前に白髪の女性がこちらの顔を覗き込んでいた。
「おい、大丈夫か?」
「あ、あぁ………」
「もしかして今の見ていたのか?だとしたらすまないね、見苦しいところを見せた」
「い、いや……大丈夫だ。それよりさっきの人はなんなんだ?死んだはずなのに」
「さっきの……あぁ、輝夜か。あいつは蓬莱人……不老不死だから死なないんだよ。………まぁ私も同じような身体なんだけどな」
「……あんたはさっきのその…輝夜って人と同じような種族っていうか……そういう類か?」
「元々は違うよ。私は人間。あいつは蓬莱人」
「…じゃあなんで同じ不老不死なんだ?」
すると白髪の女性は橙矢を立ち上がらせる。
「もう暗いからまず私の家に来なよ。こんな暗闇じゃいつ妖怪に襲われるか気が気で落ち着かない」
「それは助かるよ。ちょうど道に迷っていたところだったから」
「初見でここを抜け出せる人はそういないよ」
「だろうな」
「それじゃ付いてきてくれ、こっちだ」
白髪の女性が指差す方に向かって歩き出した。
竹林の中に身を隠すように白髪の女性―――藤原妹紅の家はあった。
「まぁ入って入って」
戸を開けると電気を付けた。電気といってもロウソクに火をつけただけだが。
「お邪魔します」
「はいよ」
妹紅は近くにある座布団を二つ用意する。
「そこに腰掛けて」
「あぁ」
言われるがままに座る。
「ひとついいか、お前は外来人か?」
妹紅にいきなりな質問を受ける。
「ん、あぁ、そうだな。ちょうど一週間前にここへ来た」
「そうか、なら私みたいな不老不死は見たことないな」
「そうだな。ほんとに死なないのか?あと何年生きてるんだ?」
「あぁ死なないよ。そうだね……千三百年は生きてる」
「千三百年……生きすぎだろ」
「全くだ、そのせいで生きるのに飽きたよ」
「…………元々人間なんだよな。どうなって不老不死になったかちょっと教えてくれるか?」
「そうだな………お前は竹取物語ってものを知ってるよな?」
唐突にそんな事を聞いてきた。
勿論知っている。学校に行ってる時に古典の授業でやったことのある書物だ。
「何を今さら」
「だったらその結末に何があったかも知ってるな」
「確かかぐや姫が月に帰る際に帝と竹取翁に不死の薬を寄越すんだろ?」
「……あぁ、そうだ」
妹紅と輝夜はすでに当時から犬猿の仲だったらしく妹紅は不死の薬を奪ってしまおうと考えていた。
不死の薬は帝の命により日本で一番高い火山である富士の山の火口に入れてしまおうとしていた。
妹紅はその不死の薬の入った壺を火口へ持っていく隊にこっそり付いていき、いつ奪おうか窺っていた。
単に輝夜に嫌がらせをしていれば良いとその時は思っていた。
しかしそこはまだ子供だったということですぐに疲れ、置いていかれそうになった。
そんな妹紅がついてきてる事を知っていたその隊の長である岩笠という人物は妹紅がいるところまで引き返し、これを助けた。
岩笠率いる数名の兵士達と励まし合いながら何とか頂上に辿り着いた。
あとはどう不死の薬を奪うだけであったが岩笠に助けられた恩もあるため奪う気にはならなかった。
しかしそこで火山を静める神である木の花咲耶姫が出現して場は一変した。
今まで兵士達に明かされてなかった壺の中身を兵士達に明かしてしまった。
兵士達は酷く驚愕したであろう。
今まで自分達が運んできた物が不死の薬だなんて誰が思ったか。
その日はもう遅かったので一旦寝ることにした。
不死の薬は二人以上の人数で見張っていた。
――――が、朝妹紅が目を覚ますと異様な光景が広がっていた。
真っ赤な水溜まりがそこらじゅうにあった。
しばらく経ってそれが人の血だと分かる。
辺りを見渡すと人とおぼしき汚物が散らばっている。
酷いものなんか内臓まで見えている。
そこへ咲耶姫が妹紅の前に現れた。
この兵士達は不死の薬を欲したために殺し合いを始めた、らしい。
その時は気が動転して咲耶姫の言ってる事を信じていた。
今思えばあれは咲耶姫がやったとしか考えられないのに。
咲耶姫は少し離れている岩笠を起こし、同じような事を説明した。
岩笠も訳が分からず信じきっていた。
これでは帝の命もくそもない。
咲耶姫はこの山ではなく他の山でやってほしいと言った。
岩笠は二つ返事で了解し、妹紅と共に山を降りていった。
しかし帰っている途中、妹紅の中で何か沸いて出てくるような物があった。
それは元々妹紅が山に登ろうとした元凶。
しかも改めて前を歩いている男が持っている壺の中にあるもの――――。
――――――不死の薬があることを。
気が付いたら急な斜面で岩笠の背中をおもいっきり蹴りとばし、壺を奪っていった。
「――あとはどうなったか分かるよな。これが私が不老不死になった理由だ」
ロウソクの火が揺らめき、妹紅の顔に影を映す。
「……………………」
そんな話を橙矢はふーん、と軽い様子で返す。
「お前は不老不死になって後悔はしているのか?」
「………そうだな、後悔は今でもしてるよ。それよりどうだ私は。酷いもんだろ?私利私欲の為に人を殺しているんだ。後悔しても死にたくても死ねない。それが一番辛いところだ」
自嘲気味に微笑む。
「………そんな奴等外の世界に嫌というほどいる。人を殺すのは当たり前。戦争なんかもっと酷かったな」
「でもそんな奴等はもう死んでいるんだろ?私は――――」
「死なない、だろ?」
妹紅の声を遮るように自分の声をねじ込む。
「確かに不老不死は辛い。どんな親しくしてもいつかそいつとは別れってもんがある。でもな、不老不死じゃなきゃ出来ないもんがあんだよ」
「……なんだよそれ」
「自分には得はねぇが……。人の一生を見送る事。人はな誰かに見守られているだけで安心すんだよ」
「まるで長生きしている奴みたいだな」
「あぁ、伊達に一人で十七年生きてる訳じゃねぇんだ」
「一人で…………か。なんだか似てるな私達」
「千三百年も生きてる奴と俺がどう似てるってんだよ」
そう言うと妹紅はハハハ、と軽く笑う。
「そういえばそうだったな」
改めて思えばそうかもしれない。
妹紅は千三百年、ずっと一人だった。橙矢も十七年ずっと一人だった。
比べることは烏滸がましいかもしれないがきっと彼等は似ている。
孤独を共感出来るのは同じ孤独な人だからだ。
いつか橙矢も死ぬときがくる。
それはわかっている事だ。
だからせめて、せめて自分が生きてる間は妹紅をこれ以上孤独にさせないようにしよう。
そう橙矢は思った。