「危ない!!」
呆然としているミスティアとピンク色の何かの間に割ってはいるとピンク色の何かを受け止めた。
「っとと……なんだ?」
「あーんもうっ。食べ損ねたじゃない」
どうやら女性のようだ。
だが橙矢は首を捻った。単に軽いのだ。人間とは思えないほど。
受け止めた女性を放すと少し目を見開いた。
普通に美人だった。もうこのような女性とは出会わないくらいの。
「……………」
「貴方ねぇ。初めて会う女性に対して何よその受け止め方。おまけに鳥が食べ損ねたじゃない」
「鳥?………あぁそこの夜雀か」
「そうよ。どうして邪魔したのかしら」
「じゃあ逆に聞きますけどね。あの女の子をどのように見たら食料に見えるんですか」
「見た目がそうだから」
「……………」
軽く目眩が橙矢を襲い、額を手で押さえる。
「東雲さん?大丈夫ですか?」
神奈が橙矢を心配そうに寄ってくるが手で制した。
「あぁ大丈夫。ちょっと軽いカルチャーショックを受けただけだ。あまりにも常識が通じない人がいたもんで」
「それは私の事を言ってるのかしら?」
「あんた以外に誰がいるんですか」
「………誰かしらねー」
「おい……」
いい加減にしないと、と言いかけて止めた。否、止めざるをえなかった。なにしろ殺気が橙矢を……ではなくその後ろにいるミスティアを貫いたからである。
「……………ッ!」
身構えると同時に奥にある茂みの中から少女が飛び出てきた。
「うぉ……!?」
慌てて受け流そうとして後ろのミスティアを狙ってることを察すると少女の頭を掴んで止めた。
「ッ!」
「っとと、危ないな」
「チィ!」
頭を掴まれたまま手から放れさせて尚且つ手首を捻ってきた。
「………」
(……返し方が上手い。普通に戦っててもこんな技術は身に付かないはずだが……)
上手い具合に捻られた手首を返しながら感心した。
「さて困った。かなりの手立てのようだが……」
少女を改めてみると腰には刀、背にはそれよりも長い刀が納まっていた。そしてその少女にふよふよと浮かぶ白い尾を引いた物体が。
「………何だよそれ。魂魄?」
「そうです。退治屋」
「元な、これ何回目だ」
「私は一回目ですけど」
「知ってるよそんなこと」
「じゃあ聞かないでください元退治屋。今の貴方になんか興味はありません」
「今の?つまり前までは興味があったと」
「………確かにありましたよ。退治屋として活躍していた頃には、ですけど。ですが噂通りの突っ慳貪な口ですね」
「はぁ、悪かったな突っ慳貪な口で。……それでつまり今の俺は府抜けていると、そう言いたいんだな?」
「そうですね。かなり府抜けていると思います」
「…………これでもか?」
一瞬で少女の目の前に移動すると手で額を軽く叩いた。
「な――――」
「はい、一本」
「ま、まだです!もういっか―――」
「それまでにしておきなさい妖夢、今の貴方じゃ話にならないわ」
女性が妖夢と呼ばれた少女を止めた。
「幽々子様!ですが……」
「良いのよ。……お陰で良いものが見れたし」
女性――幽々子は何故か愉しそうに笑みを作るとチラと橙矢を一瞥した。
それを受け止めると身震いを起こした。
「………ッ」
「あらあらーどうしたのかしら」
冷や汗がどっと出てきて和服と肌を密着させる。
そんな橙矢を見かねてか幽々子は手から一匹の蝶を舞わせた。紫色の蝶だった。こんな蝶を橙矢はもちろん神奈も見たことがない。蝶はヒラヒラと翼を動かしながら神奈の方へと近付いていく。
「あら、その蝶は貴方になついたようね」
「……え?私に……?」
問いに微笑んで手を少し神奈へと翳す。
「綺麗でしょうその蝶」
「……えぇ、とても綺麗です」
蝶が神奈の掌に乗る―――――寸前、幽々子が口を歪ませた。
「止めろ!!」
反射的に神奈に飛び付いて蝶との距離を離した。
「きゃあ!し、東雲さん何して―――」
それ以上の言葉は続かなかった。何故なら蝶が神奈の後ろにあったミスティアの屋台に触れた瞬間木で出来ていた屋台が急に腐り始めて朽ちていったからだ。
「あらあらーよく気付いたわね」
悪びれた様子もなく幽々子が微笑む。
「お前……!どういうつもりだ!」
すぐに立ち上がると刀を引き抜いて構える。
「……どういうつもり……ね。貴方まだ知らされてないのね」
「知らされてない?どういう事だ……!」
「………まぁ言ってはいけないとは言われてないから言っても良いわよね。ねぇ妖夢」
「……ですが幽々子様。四季様からは」
「あー確かに面倒ね………。前言撤回。元退治屋さん、やっぱり話せないわ」
「んだと……!」
一気に接近して刀を振り下ろすが幽々子に届く前に妖夢の刀によって阻まれた。
「邪魔をするな……!」
「なりません!幽々子様は私が護ります!」
「そう言って簡単に護れたら苦労しねぇよ!」
力任せに押し切るが妖夢はその勢いに抗わずに後ろへと下がり、そして一気に地を蹴って懐に潜り込む。
「……………ッ!」
(マズイ………!)
「剣伎〈桜花閃々〉」
最上段からの振り下ろしに反応出来ずに深々と橙矢を斬り裂いた。
「――――ガァッ!?」
口から大量の血を吐いて地に伏した。
「……………さて、次は」
「待ちなさい妖夢。もう良いわ」
妖夢が標的を神奈に変えた時幽々子は待ったをかけた。
「幽々子様?」
「もう良いわ。貴方に勝てないのなら然程脅威にならないでしょう」
「た、確かにそうですが……」
「私がいいと言ってるの。聞こえなかったかしら?」
「い、いえ。すみませんでした……」
「分かればいいのよ。それよりもう帰りましょ」
「待ち……やがれ……」
橙矢が血を吐きながらよろよろと立ち上がる。
「東雲さん!?大丈夫ですか!」
「……まだ立てたの?」
「別に俺はもう戦う気なんてこれっぽっちもねぇ………だがな、こいつを狙うならひとつだけ教えろ」
「何かしら?生憎さっきの事は言わないわよ」
「分かってる………そんな馬鹿馬鹿しい質問誰が……するんだ。……俺が知りたいのはただひとつ………。お前らは何者だ」
「…………ふふっ、何を言い出すかと思えば……。あぁ良いわよ。答えてあげる。私はかの閻魔様に霊界を任せられた者。西行寺幽々子と」
「その庭師、魂魄妖夢」
「……え、閻魔様?」
「えぇ、死んだ者の罪を計り、罰を与える者。それと同時に新たな命を与える者。それが閻魔様よ」
「……………ハッ、馬鹿言えよ。そんなのいるわけ……」
次の瞬間目の前に弾幕が広がっていた。
「――――――――ッ!」
避けることも出来ずにまともに喰らい、吹き飛んで地を転がった。
「黙りなさい人間風情が。貴方にその話をしてあげただけでもありがたいと思いなさい。行くわよ妖夢」
「は、はい」
幽々子は妖夢を連れると飛び上がって空高く消えていった。
「し、東雲さん!」
神奈が橙矢に駆け寄って来る。
「あぁ……新郷か………。悪い、今は動けねぇや」
「待っててください!今手当てを……!」
すると横からミスティアが医療品を抱えて持ってきていた。
「だったらこれを使ってください!辛うじて店の中にありました!」
「屋台の人……?」
「ミスティアです!それよりも早く!」
「は、はい…!」
神奈はミスティアの指摘通りに橙矢に包帯を巻いていく。
時に傷口に消毒をしてその上に包帯を巻くと橙矢が呻き声をあげる。
「悪い………。もう大丈夫だ」
「まだ寝ててください。傷に触れます」
「気にすんな。怪我には慣れてる」
「馬鹿言わないでください!何が慣れている、ですか!……近くで見ている身にもなってください!どれだけ貴方が心配だったか………」
余程怖かったのか涙を目に浮かばせながら橙矢にしがみついた。
「……………悪い。けどほんとに大丈夫なんだ。……早く君を外界へ帰さないと」
安心させるように背中を軽く叩いてから橙矢を視線を一気に鋭くした。
最近橙矢くんいつから君呼ばわりしてたんだろ、自分でも分かりませんでした。
では次回までバイバイです!