第九十話 忘却
――――神を殺した人間は神になるのだろうか。答えは否だ。神の力を得るわけでもなければ神の加護を分け与えられるわけでもない。ただ単に神を殺した罪に囚われるだけ。殺した神が悪事を働いていたとしてもだ。神はこの世における絶対的な存在。全ての生物の頂点に立つ存在を殺す。即ちその配下の者達を敵に回すことと同じ。そんな罪に囚われた者は全てを敵に回したことに気付き絶望するだろう。
………だがそれでも薄笑いを浮かべている少年が一人――――――――
三日後――――――
橙矢は新調された学生服を着ながら家の外へ出て近くの墓へ歩み寄った。
「…………よぅ、新郷。今日も来たぞ」
微笑みながら橙矢は後ろに回り込むと座り込んで新郷神奈の墓にもたれる。
「………なぁ、俺はどうしたらいいと思う?」
話しかけるが当然返事は無い。
「……………………お前を残して外の世界に帰ることは出来ない。……けどこの世界ではすでに手配済みだしな……」
橙矢はシヴァを殺した次の日から異変を解決した神を殺したという里の勝手な決めつけにより指名手配されていた。だが一向に橙矢を殺しに来る者はいない。
「………お前がいなくなってから駄目になった俺は……」
ため息をついて額に手を置いた。
「―――――――橙矢さん」
不意に橙矢の名を呼ぶ声がした。
振り向くとそこには犬走椛がいた。
「……椛。何か用か?」
「………いえ、今日は非番なので」
「………そうか」
「……もうあれから三日経つんですね」
「………そうだな。何も起きないな」
そうだ、何も起きないのだ。ドラキュラは三ヶ月前にちょうどこの頃に幻想郷を囲む結界を破壊する運命に変えた。しかし結界を破壊する対象であるシヴァは橙矢の手によって殺害された。
「……で、椛。お前は俺を殺しにでも来たのか?」
冗談半分、半ば本気で橙矢はそんな事を聞いてみた。
「ッ!な、何を言ってるんですか!」
「……………悪いが俺のところに来る奴なんてほとんどが指名手配されている俺を殺したいと思ってる奴等だ……ま、今のところ来てないがね」
すると急に椛が橙矢の胸に飛び込んできた。
「…………………椛?」
「なんで……なんでそんなこと言うんですか!橙矢さんは何も悪くないのに……!」
「…………いや、俺が全て悪い」
「橙矢さん………」
「……椛、お前にはかなりの迷惑をかけたな」
頭を撫でると気持ち良さそうに目を細めた。
「……もう俺と関わるのはやめろ。指名手配中の俺と会うのはマズい。お前や幽香、村紗達が俺によくしてくれるのは嬉しい。だけどそれ以外に………幻想郷中から狙われるお前らは見たくない」
「橙矢さん、でも私は――」
「頼む。やめてくれ」
椛の言葉を遮るようにいって軽く抱き締めた。
「……そうじゃないと……もう俺が俺でなくなりそうなんだ」
「え………?」
「………俺は忘れられてなんぼな人間だ。人の記憶に残ればそれはもう俺じゃない」
「……どういう意味ですか? 」
「…………そのままの意味だ。お前が俺の名前を呼ぶ度に俺は東雲橙矢としての機能が落ちる。俺は忘れられることが絶対条件させられた人間だ……誰かの記憶に残るのは許されない」
「そんな……けど橙矢さんはちゃんと橙矢さんでいられてるじゃないですか!!」
「こんなもの俺じゃない。……悪いが俺は人の記憶に残るような人間ではなくてね……少なくともお前の前にいる東雲橙矢は4ヶ月前の東雲橙矢じゃない。いつ俺が俺でいられなくなるのが不安なんだ」
「……………」
すると椛が優しく抱き締め返す。
「………貴方がどうなろうとも橙矢さんには変わりありません………違いますか?」
「………一人前な事を言いやがって」
椛が嬉しそうに尻尾を振る。
「………お前の気持ちは素直に嬉しいよ…けど……俺は新郷を失ってからもう何者でもないように思えてきたんだ」
今まで護るために東雲橙矢は東雲橙矢として機能してきた。だがその役目を放棄したとき東雲橙矢は東雲橙矢として機能するのか。橙矢はその答えをすでに出していた。否と。だったら自らは何者なのか。何のために生きているのか。何故こんなところにいるのか。何者でもない自分はもはや亡霊のような存在ではないのか。
そこで橙矢は何かに気付いたように顔を上げた。
「……そうか。そういうことか……」
「橙矢さん?」
「ははっ、なんだよ、すげー簡単なことじゃないか」
突如椛を突き飛ばした。
「きゃ……!」
「ようやく分かったよ……俺が何をするべきか。……新郷はこの幻想郷があるから死んだ。つまりこの幻想郷に殺された」
「ッ………!」
橙矢の薄笑いからは何か気味悪いものが感じ取れた。
「……だったら俺の為すべきことはひとつ。
………この幻想郷を壊すことだ……!」
椛を下から袈裟を斬り上げた。
「ぐ………!橙矢さん……!?」
傷口を押さえながら後ずさる椛は信じられないような目で橙矢を見つめる。
「………悪いな椛」
「橙矢さん……駄目です……!」
「………もう決めたことなんだ。これだけは譲れない」
少し悲しそうな笑顔を向けると椛に背を向けて歩いていく。
「待ってください橙矢さん……!」
「……………………」
冷ややかな目で椛を見ると刀に手をかける。
「…………俺に関わるなとどれだけ言ったら分かるんだ」
「――――だったらお前はもうこの世界から消えたらどうだ」
不意に割って入る第三者の声。
「………俺にはやることがあるからな。退治屋」
橙矢の視線の先には刀を構えた青年が。
「……ようやく里も俺を殺しにきたのか」
「その口調だと殺されるのを待っていた感じだな」
「…………まぁな」
「じゃあお望み通り殺してやるよ」
「………勝手にしろ」
退治屋は一気に身を屈めると一瞬で橙矢の目の前に来る。
「死ね東雲橙矢!」
振り下ろされた刀を振り上げた刀で弾き返し。腹を殴り飛ばした。
えぇと…今回は凄く短いです。すみません。書く時間がまったくありませんでした、、
では次回までバイバイです!