ではではどうぞ。
「ガァ……!?」
殴り飛ばされた退治屋はすぐに体勢を整えると弧を描くように橙矢に迫る。
「甘いな」
回転して刀を持つ手を横から蹴り飛ばした。
「グァ!」
「……どうしたよ。この前の方がまだ手強かったぞ」
「言ってろ――――!!」
「吹っ飛べ」
顔面を殴り付けて吹き飛ばす。
「…………!」
退治屋の身体が何度も地を跳ねる。
一瞬で追い付くと胸ぐらを掴み上げた。
「立て。俺を殺しに来たんだろ?だったら殺してみせろ」
「言われなくても……!」
下から退治屋の顎を膝で蹴り上げた。身体が宙に浮いて無防備になる。そこで背を殴る。
「これで終わりか?」
「くっそがアアァァァ!」
自棄になって橙矢に札を投げ付ける。確か爆破する札だった気がする。
斬りつけると同時に地に叩き付けた。過剰なオーバーキルにより機能を果たさなくなった札は破れて消える。
それと同時に足を強化して退治屋に斬りかかる。
「うぉ……!」
すれ違い際に胴を薙ぎ払い、退治屋の腹部から血が吹き出る。
「カハ……ッ!?」
「……いつから退治屋はそんな弱くなった?」
「なんだと……!」
憤怒で睨み付けるが橙矢が腹を蹴り飛ばして黙らせる。
「生憎と俺はそこの白狼天狗ほど優しくなくてね」
刀を鞘に納めると両腕を広げる。
「殺したいなら殺しに来い俺はそれを止めはしない」
「…………後悔するなよ東雲橙矢―――!」
「そっくりそのまま返すよ」
退治屋は一歩で橙矢の目の前に迫ると刀を突き出す。
それを頭を軽く傾けるだけの最小限の動きだけで避ける。
「……!」
驚愕している退治屋の顔面に拳を叩き付けて身体が揺らいだところに胸ぐらを掴んで近くの木に叩き付ける。
「可哀想にな。お前もこの依頼が失敗すればどれだけの人間に恨まれるか。……まぁいつの時代も汚れ役は所詮汚れ役だ。………せめてものの慈悲だ。お前の命ここで俺が閉めてやるよ」
「―――ふざけんなッ!」
急に退治屋が拘束を解き、橙矢の肩口を浅く斬り裂いた。
「……やれば出来るじゃないか」
顔面に蹴りを入れると退治屋の背後にある木もろともへし折って飛ばした。
「ッ!」
「…………勝手に倒れてるんじゃねぇよ」
再び胸ぐらを掴み上げる。
「立て。立って俺を殺してみせろ。それが今お前が出来る唯一のことだ」
「お前……!」
「………そうだ。俺を恨め、憎め、記憶の奥底に俺という存在を刻め!」
腕を振り上げて地に叩き付ける。
「カ……!?」
地に落ちた退治屋の腹を蹴り飛ばすと仰向けにさせて腹を踏みつける。
「…………今、お前を自由にしてやるよ」
刀を抜いて首に血が出ないほど浅く突き入れる。
「………ッ!」
「ほら抵抗してみせろよ。お前の最後を見せてみせろ」
刀を抜くと振り上げる。
「……ひとつだけ質問だ。………お前はだれから依頼を受けた?」
「…………里の長だ」
抵抗する気がないのか刀を地に落とした退治屋はゆっくりと目を閉じる。
「………そうか」
「………結局はこうなるんだな」
「………俺とお前が逆だったら俺はお前に感謝してるよ。………まぁ捉え方は人それぞれだが」
「……知ったことか」
「……だろうな」
「―――橙矢さん」
急に名を呼ばれて振り下ろそうとしていた腕を止められて振り向く。そこには先程橙矢が裂いた椛がいた。
「………椛、なんの真似だ?」
「………止めてください橙矢さん。貴方が今ここでこの人を殺したって何もなりませんよ」
「………………何もならないから殺すんだ」
そう言って突き飛ばして刀を振り下ろす。
「ッ!?」
鋭利な刀の刀身が退治屋の首を斬り裂くと同時に首が撥ね飛んだ。
▼
噴水のように吹き出る生暖かい血を全身に浴びながら橙矢は死体を冷たい目で見ていた。
「ヒ……!」
その背後では椛が短い悲鳴をあげて腰を抜かしている。
「……………ハハッ」
口の端が吊り上がって笑みを作っていた。
「神も人間も妖怪も心臓を貫けば、首を撥ね飛ばせば死ぬ。なんも変わりないな」
血塗れのまま椛に近付いて顔を覗きこんだ。
「……おい椛、どうかしたのか?」
すると椛は首を横に振りながら後ずさる。
「い……いや………」
「………どうした?」
笑みを作ると椛はさらに顔を恐怖に染めていく。
「ば、化け物………!」
「え…………」
椛の言葉に一瞬思考が止まる。その隙に椛は橙矢から離れて上空へと逃げる。
「…………………椛?」
取り残された橙矢は一人、虚空を眺めた後薄笑いを浮かべた。
▼
――――退治屋を殺した橙矢はその足で里へ下りてきていた。
血塗れということで門番にいきなり止められた。
「――元退治屋、止まれ」
言う通りに足を止めた。
「…………何だよ」
「何故お前がここにいる。確か―――」
「退治屋が退治しに行ったのに、か?」
「ッ!」
「悪いがあいつは自由にさせてやったよ」
それだけで察したのだろうすぐに門番が構えた。
「おいおい、元はといえばアンタ等が擦り付けた事だろ。………あいつだって色々と抱えてたぞ」
門番を押し退けて里の中へと入っていく。
「行かせるか……!」
「煩い」
足を蹴り飛ばして門番の身体を反転させる。
「うぉ……!」
「少し黙っててくれるか。俺は里の長に話があるんだ」
里に一歩入ると人々の死角を一瞬で見付けてその間に身体を入り込ませて誰にも気付かれることなく進む。
「………ここらでいいか」
不意に立ち止まると息を軽く吸い、吐いた。
「里長ァァ!出てこい!」
喉元を強化しての大声だったので軽く里全体には響いてるだろう。里の人々が瞬間的に耳を塞いだ。人々が橙矢を見付けると同時に顔を真っ青に染める。
「し、東雲橙矢!?」
「嘘だろ!退治屋が退治しに行ったんじゃないのかよ!」
慌てふためく人々の中を通り過ぎながらあるひとつの場所を目指す。
集会所だ。
すると橙矢の前に一人の少女が現れる。
「…………」
歳はそれほど橙矢と変わらないくらい。だが何であろうか、橙矢よりも長生きしている感じがする。
「…………何だよ」
「……貴方が元退治屋である東雲橙矢ですね。私は稗田阿求。幻想郷の歴史と共に生きる者です」
「……………で?」
「貴方はこの幻想郷において幾代ものの中でも類も見ない危険な存在です」
「…………ほぉ、だから何だよ」
「……貴方はこの幻想郷に害を成す。出ていきなさい」
「………悪いな。アンタに言われて易々と出ていく橙矢さんじゃねぇよ」
刀を抜いて阿求に突き付けた。
「とっとと退け。じゃねぇとアンタも退治屋みたく首を撥ね飛ばすぞ」
「………ッ!」
「俺は幻想郷の実力者みたく優しくねぇからな殺るときは殺るぞ」
「――――止めろ橙矢!」
阿求と橙矢の間に割って入ってきた人物は阿求を抱えて後ろへ跳んだ。
「……おやおや、これは慧音先生。如何なさいましたか」
薄笑いを浮かべて慧音を睨み付ける。
「……橙矢。今お前がしようとしていたことがどんなことか分からないのか!?」
「さぁ、知らねぇな」
「―――お前には理解出来ないだろうな!」
「ッ!」
真上から声が響き、それを確認する前に後ろに全力で跳んだ。
直後橙矢がいた場所に踵落しされ、さらに爆風が舞う。
「…………………………」
爆風を剣先で分けながら目の前にいる蓬莱人と距離を取る。
「随分と酷いことするじゃないか橙矢」
「黙れ妹紅」
刀を構えると足を強化させる。
「…………橙矢。ほんとにアンタは橙矢なのか?」
「どういう意味だよ」
「………アンタはどう考えても里を自らの意思で襲うような奴じゃなかった……」
「残念だったな。俺を知った気になって浮かれてたか?俺はどんな手を使ってでも自らの目的を達成するタイプでな」
「………あぁもう駄目だな。既に手遅れだったな」
妹紅はひとつため息をつくと身体中から焔を巻き上げる。
「………アンタがいくらそう言おうと私はアンタを戻させてもらうよ――――
――――私が好きだった東雲橙矢に!!」
では次回までバイバイです!