ではではどうぞ。
妖怪の山の反対側に位置する太陽の花畑の中で風見幽香は少しご機嫌斜めに水を蒔いていた。
「…………橙矢が来ない」
幽香が不機嫌の原因はそこだった。
確かに暇な時に来いとは言ったもののこれは来なさすぎる。
「………何故かしらね。孤高の妖怪である私がこんなにも一人の人間に執着してしまうなんてね……」
撫でられた事を思い出して少しだけ頬が緩んで朱に染まる。
「ふふ………私から会いに行こうかしら」
普段一日の大半を太陽の畑で過ごしている幽香からしてみればあり得ない選択だった。自身でも驚いていた。
それほど自身の中で橙矢というのは大きな存在なのだろう。それこそ花に並ぶほどに。
「……………いや、それは無いわね」
苦笑いして日傘を差し、水やりを再開する。
と、その時幽香の手がピクリと動いた。
「……………………何か焦げ臭いわ」
瞬間幽香を殺気が貫く。
「――――――!!」
一瞬で戦闘体勢を取ると魔力を放つ。
刹那真後ろの花が飛んできた斬撃によって斬り裂かれる。
「花が………!」
次いで熱を帯びていた斬撃が花に着火して辺りに燃え移っていく。
「ッ!」
奥歯をギリッと鳴らすと斬撃が飛んできた方を睨み付けた。しかし誰もいなかった。
不意に幽香を背後から視線を感じた。
「後ろ――――!?」
傘を畳んで振り向く勢いで振り抜いた。体勢が悪かったせいか大きく後退させられる。
「グ………」
足に力を込めて止まると自らを後退させた人物を瞳に映し、目を見開いた。
「と、橙矢……!?」
「……………」
無感情な瞳で幽香を見詰めた橙矢は何も言わずに身を屈ませて刀を横に構えて振るう。
傘で受け止めるが再び押し返される。
「ッ重い……!」
幽香ですら手が痺れてくるほどの威力。
(何よこの威力――――!)
顔を上げると同時に足を振り上げて華麗にバック宙を決める。幽香の足があった場所に刀が通り過ぎる。
「橙矢!何よ急に!」
距離を取りながら叫ぶ。
「……貴方がやったの?これを」
燃える花畑を我が子を見るような目で見ると橙矢に傘を突き付ける。
「……………………」
橙矢はやはり何も言わずに刀を構える。それだけで答えは分かった。
「………そう、貴方なのね」
納得、と頷くと橙矢の四肢に魔力の塊が叩きつけられた。
「だったら尚更よ。貴方とはいい関係を築けそうだったのに………残念」
「………………」
微塵も表情を崩さない橙矢に対して幽香は不屈の笑みを溢す。
「貴方の意思とは考えにくいけど……まずは貴方から聞き出すとしましょう」
魔力を傘の先端に凝縮させると一気に放った。
「……………」
ゆっくり刀を下から振り上げる。そこに光の奔流が直撃し、綺麗に斬り裂いた。
「………これをいなすなんてさすが橙矢ね」
足に力を込めて地を蹴って橙矢に迫る。
「覚悟なさい橙矢!」
「………………」
振り下ろされた傘を片手で握り締めた刀を再び振り上げて弾き返した。幽香が地を削りながら大きく後退していく。
ようやく止まった幽香は信じられないものを見るような目で橙矢を見た。
「……貴方、ほんとに橙矢なの?」
未だに痺れる腕を振って直すと宙に浮かぶ。
「…………………」
「愛想ないわね。……まぁいいわ」
滑空しながら橙矢に迫る。
大して驚いた様子は見せずに回し蹴りを顔面に入れようとする。蹴りが入る寸前幽香が上空に飛んだ。次いで位置エネルギーを味方につけた幽香は橙矢の頭を掴んで地に叩き付けた。
組伏せて傘の先端を橙矢の額に突き付ける。
「マウントポジションよ橙矢。観念なさい」
「………………」
「………何か喋れないわけ?」
「………………」
「そう、別に構わないわ」
徐々に傘の先端に魔力が集まる。
「……数秒後には貴方の頭が吹き飛ぶわ。何か抵抗してみなさい」
しかし橙矢は黙ったままだ。
「…………………」
幽香の視線が鋭くなる。
「確かに貴方の事は好きよ。けれど私が育ててきたあの子達を燃やすのは………貴方でも許さないわ。……さようなら」
「――――」
放たれる直後橙矢は身体を捻って拘束を解くと幽香の腹を蹴り飛ばして斬撃を放った。
咄嗟の事で反応出来なかったのか斬撃をまとまに喰らう。
「ッァ!」
怯んだ隙に橙矢は背に回って襟首を掴んで地に投げ捨てるように叩き付ける。
受け身をとって自分の身体の陰から光の奔流を放つ。
「……………」
手を翳すと橙矢の目の前に不可視の壁が造られて防いだ。
「何よそれ……!?けどこれを防げるなら……」
一瞬で目の前に移動すると傘を振り上げる。
しかし橙矢を護っていた壁が幾つものキューブ状に分かれるとそれが急に幽香に突撃して吹き飛ばす。
「―――――!?」
意味が分からず成す術なく燃えている花畑に突っ込む。
「………橙矢ァ!!」
可視出来るほどの魔力の柱が上がる。
「久々に会いに来たかと思ったらとんだサプライズじゃない。嬉しいわ、とことん殺り合いましょう!」
幽香にとって橙矢は愛すると同時に好敵手だ。唯一巫女を除いて人間の身で自身に勝った人間。
「簡単に終わってくれるんじゃないわよ!」
「…………………」
幽香が駆け出すと同時に橙矢も駆け出す。
「喰らいなさい!」
突き出した傘を片手で止めると刀を上段から振り下ろす。
「チッ!」
足を振り上げて横から蹴り飛ばすとその勢いで横に一回転して胴を蹴り抜いた。だが吹っ飛びはしなかった。
「何……!?」
「………………」
幽香の足を掴むと引き寄せる。すぐ手を離して刀を握って突き出す。
それを紙一重で首の動きだけで避けて傘を握ってないほうの拳で橙矢の顔面を力任せに殴り付けた。
「ッ…………」
今度は吹っ飛んで距離が開く。
「物理系には弱いようね」
そう言いながら弾幕を放つ。もちろんこれが効くとは思えない。だからあくまで目眩まし。
予想通り橙矢が刀を振って弾幕を吹き飛ばす。その隙に接近すると拳を振り上げて叩き付ける。
橙矢は幽香ごと拳を受け流して背後を取る。しかし幽香は無理矢理身体を捻って回し蹴りを入れる。橙矢も対抗するように足を振り上げて激突する。
「…………!」
「……………」
押しきったのは橙矢だった。元々崩れていた幽香に身体が揺らぐ。
勝機とみたのか刀を真っ直ぐ幽香に向けると突き出した。
「く……!」
幽香が焦りの表情を浮かべると同時に鮮血が舞った。そして刀を引こうとして、急に止められた
「……………………!」
しかし橙矢の腹に衝撃が走り、吹っ飛ぶ。
「…………?」
何があったか分からなかったのか首を傾げた。
「……何があったか分からないって顔してるわね」
悠然と歩み寄りながら幽香は橙矢を睨み付ける。
その頬には微かに切り傷がついていた。それを見て橙矢は何があったか予想出来た。
幽香は避けるのを諦めて歯で受け止めた。ということか。
……だとしても普通の妖怪は出来ない技量たが。
「残念だったわね。唯一のチャンスだったのにね―――――って、きゃ!?」
目の前に刀が迫っていた。それを頭を倒して避ける。次いで橙矢の振り上げてきた脚で腹を蹴りあげられる。
「――――ッ」
宙に打ち上げられて斬撃をまともに喰らう。
「ッゥ……!」
激痛に耐えて着地すると橙矢目掛けて柱のような光の奔流を撃つ。
橙矢は手を翳して再び壁を作って防いだ。
「砕けなさい!」
幽香が傘を振り上げて一気に叩き付けると壁に皹が入る。
「このまま………!」
「……………………」
割れて砕けた、瞬間橙矢の手が伸びてきて幽香の顔を掴むと頭突きをかます。グラリと幽香の身体が崩れ、橙矢が刀で胴を通り過ぎる際に深く斬り裂いた。
「ぐうゥ……!」
苦悶の声をあげながらも膝をつくような情けない真似はしない。簡単に膝をついて何が最強の妖怪だ。最強である私はどうな不利な状態でも膝をつくような真似はしない―――――!いや、不利になることすら許されない。
「ふざけないでちょうだい……!」
怒りで魔力を放ち、威嚇する。
「………………お前が俺を許せない事はなんだ?」
不意に橙矢が口を開いた。
「………貴方まだ喋れたのね」
「口を開いてなかっただけだ」
吐き捨てるように言うと刀の先を幽香に向ける。
「もう一度聞く。お前が俺を許せない事はなんだ?」
「今更そんな事を聞くの……?花を燃やしたからよ!」
「……それはお前が護れなかっただけにすぎない話だ」
「言ってくれるじゃない!……構えなさい橙矢。次で決めてやるわ……!」
「……………そうだ、その怒りだ。その全てを俺にぶつけろ……!」
同時に駆け出して各々の得物を振り上げる。
「喰らいなさい橙矢!」
「それは無理な話だ風見幽香」
拮抗せずに橙矢の刀が傘を砕いて幽香を斜めに先程よりも深く斬り裂いた。
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では次回までバイバイです!