黒の魔剣   作:暁 煌

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始まりは突然に

 

 

 

 

その日、空は青く晴れ渡り、雲は緩やかに流れていた。

風は穏やかで、日差しの暖かな日だった。

島はいつものように平和そのものだった。

誰もが平穏を享受していた。

今まで続いてきた日常がこれからも続いていくと、何の疑問も無く信じていた。

彼が喚ばれるその時までは……。

 

 

 

 

 

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「シマシマさ~ん、朝なのですよ~。起きて下さ~い、シマシマさ~ん。

 今日も気持ちいい晴れですよぅ。」

 

爽やかな朝に可愛らしい声が木霊する。

ここは森を住処とするメイトルパのはぐれ達が暮らす集落、ユクレス村。

先程聞こえた可愛らしい声の主は、花の妖精マルルゥ。

他の木より一回り大きな木の(うろ)に向かって話しかけている。

軽やかに飛びながらかけられるその呼び声に、洞の中から男の声が応えが返ってくる。

 

「……ふあぁ。そーか、そりゃ良かったな。だから……寝かせてくれ。」

 

マルルゥの呼び掛けに面倒くさそうに答えたのは、この村の護人(もりびと)、シマシマさんことヤッファ。

彼は寝床に転がったまま返事を返すと、ごろりと寝返りを打った。

その様子からは起きる気が全く感じられない。

慌てたマルルゥは洞の中まで入り込むとヤッファの周りを飛び回る。

 

「ダ・ダメですよぅ!お仕事はどうするんですか!?起きてください、シマシマさ~ん。」

 

再び眠ろうとするヤッファを起こそうと、マルルゥはヤッファの髪を引っ張ったり、

お腹の上で跳ねたりと大忙しだ。

騒がしいこの光景も、この村ではいつもの朝の始まりである。

 

 

 

 

 

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水晶が朝日を反射して、辺りを煌びやかに照らす場所。

大小さまざまな水晶に囲まれたここは、サプレスのはぐれ達の暮らす集落、狭間の領域。

夜は賑やかなこの集落も、朝になるとその住人達はどこかへ姿を消して静まり返る。

そんな中、広場の一角で大きな全身鎧と天使の青年が話をしている。

 

「お疲れ様です、ファリエル様。少しお休み下さい。」

 

青年が声をかけると、全身鎧は光を発して姿を消し、その場所には儚い少女が一人残されていた。

その少女は全身鎧を着ていたにしてはあまりに小柄で、

宙に浮いていている点を除けば普通の少女のように見える。

彼女が朗らかに微笑んで青年に返事を返したことから、

やはり先程ファリエルと呼ばれた全身鎧はこの少女なのだろう。

 

「ありがとう、フレイズ。でも、村の周りを見回っただけだから、たいして疲れてないよ?」

 

誰かに頼まれた訳ではないが、ファリエルは毎夜狭間の領域周辺を見回りをしていた。

長く続けていれば苦も無くできるようになってくる。

しかしファリエルの応えに、青年、フレイズは声を厳しくする。

 

「いけません!我々は体を維持するだけでも魔力を消費しているのですよ。

 休める時に休まずにいて、肝心な時に動けなかったらどうするのです!?」

 

フレイズの叱咤に、一瞬言い返そうとしたファリエルだが、すぐに俯き謝る。

 

「……うん、そうだよね。フレイズの言う通りだよね。ごめんなさい。」

 

それを聞いてフレイズは厳しい顔を緩め、優しい声で応える。

 

「さあ、ファリエル様。どうぞお休み下さい。その間は私が見回りを致しますので。」

 

ファリエルは先程の悲しげな表情を消し、明るい笑顔を見せる。

 

「うん、ありがとうフレイズ。それじゃ、お休みなさい。」

「はい。お休み下さい。」

 

互いを思いやる言葉を交わし、見回りを引き継ぐ。

これが、この集落ではいつもの平和な朝。

 

 

 

 

 

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広い水田と、和風の家屋が点在するここは、シルターンのはぐれ達が住む集落、風雷の郷。

中でも一際大きい屋敷で、今日も賑やかな朝が始まっている。

その中心にいるのは、やんちゃ盛りの少年。

そしてその少年を取り巻くように、少年の若き母親と、青年が一人。

 

「これ、スバル!箸の持ち方はそうではないと言うに。」

 

母に叱られ、スバルと呼ばれた少年が頬を膨らませて応える。

 

「こっちの方が、おいらには持ちやすいんだよ。」

「そういう問題ではない!キュウマ、そなたからも言うてやれ。」

 

少年の母にキュウマと呼ばれた青年が、厳しい表情を浮かべながらスバルに口を開く。

 

「ミスミ様の言う通りです。スバル様はいずれこの郷を率いていかれる身。

 そのような御方が箸も禄に扱えぬとあれば、周りに示しがつきません。」

 

キュウマのお説教にもめげず、スバルはご飯を食べながら言い返す。

 

「ふん!キュウマはいつだって母上の味方ばっかりじゃないか!」

「なっ!?……そ・そんな事は!」

 

スバルの指摘に、激しく動揺するキュウマ。

それを見てスバルは悪戯な笑みを浮かべ、追い討ちをかけた。

 

「あ~、キュウマ赤くなってら。」

「ス・スバル様!」

「ごちそうさま!それじゃ、おいら遊んでくるから!」

 

キュウマが怯んでいる隙に、スバルはご飯を食べ終え、走り去ってしまう。

後に残されたのは、呆気にとられたキュウマと呆れ顔のミスミ。

そしてミスミが溜息とともに一言呟いた。

 

「やれやれ……。スバルにしてやられるようでは、まだまだじゃな。」

 

これもまた、ここではいつもの朝。

 

 

 

 

 

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全てが鋼で出来ている、ロレイラルの機械達が暮らす集落、ラトリクス。

機械達は与えられた命令に従い、誰も居なくなってしまった街の中、

いつまでも壊れた所を捜しては修理をしている。

そんな中、この島でたった一人の融機人(ベイガー)と、たった一体のアンドロイドの朝が始まる。

 

「おはようございます、アルディラ様。お飲物をお持ちしました。」

 

少女の姿をしたアンドロイドが、融機人、アルディラと呼ばれた方に話しかける。

 

「ああ、ありがとうクノン。おはよう。」

 

アルディラは飲物を受け取り、少女、クノンにお礼と挨拶を返す。

 

「……アルディラ様。若干の体温の上昇と、眼球の充血が見られます。

 また―――徹夜なさいましたね?」

 

クノンが抑揚の少ない声で、アルディラに尋ねる。

ビクリと肩を震わせ、目を泳がせるアルディラ。

 

「……あ・あのね……え~と……そう!

 どうしても昨日の内にしておかないとイケナイ事が―――」

「ア・ル・ディ・ラ・様。」

 

言い訳しようとするアルディラに、クノンが一言ずつ区切るようにして名前を呼ぶ。

クノンの声の中に、滅多に表されない感情が込められていた事で、

アルディラも観念したように頭を下げる。

 

「うっ……ごめんなさい。」

 

それで許したのか、クノンはいつもの抑揚の少ない声で注意を促す。

 

「ただでさえ、融機人は抗体を持たず、体調を崩しやすいのですから……。

 もっと御自分の事をお考え下さい。」

 

最後にまた、少しだけ心の籠められた音色で告げ、クノンは黙ってアルディラを見つめる。

その感情に気付いたのか、アルディラは真剣な顔でクノンに応える。

 

「ええ、解っているわ。心配をかけてごめんなさいね、クノン。」

 

アルディラが真剣に聞いてくれた事を感じ、クノンの顔に少し、ほんの少し笑顔が浮かぶ。

これもまた、ここではいつもの朝の風景。

 

 

 

 

 

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それぞれの村で、いつものように穏やかな朝が訪れていた。

しかし異変はそんな日常の中、突然に舞い降りるもの。

それはここ、はぐれ者たちの島でも変わらない。

 

最初に異変に気付いたのは、果たしてどの護人だったのか。

あるいは皆が同時に気づいたのかもしれない。

しかし今、そんな事に意味は無く、また異常の方もそんな事は気にも留めはしない。

 

 

 

 

 

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風が木の葉を揺らし、駆け抜けていく。

その風にいつもと違う何かを感じ取ったのか、ヤッファが空を仰ぎ見る。

 

「……何だ?これは……“門”の方か!」

 

言うが早いか駆け出すヤッファの後を、小さな影が追いかけてくる。

 

「どこに行くのですか、シマシマさーん?」

 

声を掛けながら、走る自分の周りを飛び回るマルルゥに、珍しくヤッファは厳しく言い捨てる。

 

「付いて来るんじゃねぇ!お前は村で留守番してろ!」

 

いつもと様子の違うヤッファに、マルルゥはビクリと体を震わせる。

しかし怯みつつも、彼女は自分の役目である“ヤッファの見張り”を果たそうと食い下がる。

 

「怖い顔しても駄目ですよ!ちゃんとお仕事してください!」

「だから!その“お仕事”をしに行くんだよ!」

 

木々を掻き分け、走る速度を上げつつ言い返すヤッファに、

マルルゥは必死で付いて行きながらなおも言い募る。

 

「そんな事言って、またサボルつもりですね~!」

「ちっ!なら勝手にしやがれ!」

 

さすがに相手をしている余裕がなくなったのか、

ヤッファはそう言い捨てると更にスピードを上げた。

 

異常に対して少しでも早く対処する為に。

そしてマルルゥを危険から遠ざける為に。

 

「ああ!待ってくださいよ~。」

 

既に風は木の葉を揺らすだけに止まらず、木々を吹き倒すほどに激しくなり、

朝の快晴と打って変わって空は暗雲に包まれている。

 

 

 

 

 

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同時刻、見回りを終えたフレイズがファリエルに報告している時。

 

「特に異常はありませんでした、ファリエル様。」

「ご苦労様、フレイ、ズ……!?」

 

会話の途中で不自然に言葉が途切れる。

しかし2人ともそんな事は気にも留めず、辺りを鋭く見渡している。

何かを探しているのではなく、何かを必死に感じ取ろうとしているようだ。

先に口を開いたのはフレイズ。

 

「ファリエル様……これは?」

「ええ、マナが何処かに集まっている。でも一体どうして……?」

 

2人が感じ取ったのはマナの流れ。

最初こそは霊界の住人だからこそ気付いたような微弱なものだったが、

今や島中のマナが一点を目指し凄まじい勢いで集まっていた。

 

「どうやら“門”の方へと流れているようですね。」

「とにかく行ってみましょう。」

 

急激なマナの流れによるものなのか、

いつもは淡い光を発している紫水晶が不気味な明滅を繰り返していた。

 

 

 

 

 

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同じく風雷の郷、鬼の御殿。

キュウマが帰ってきたスバルに剣の型を中庭で教え、ミスミが縁側でそれを眺めていた時。

 

「えい!えい!えい!」

「スバル様、もう少し肩の力を抜いて―――これは!?」

 

指導の途中で急に辺りを警戒しだしたキュウマに、スバルがどうしたのかと視線を向ける。

そこにはいつも以上に顔を厳しくして辺りを見渡しているキュウマと、

いつの間にか槍を携え並び立つミスミの姿があった。

 

「妖気……じゃな。」

「御意。おそらく“門”の辺りかと。」

 

傍に立つミスミの言葉にキュウマは片膝を付き、臣下の礼をとって答える。

いつもと様子の違う2人に、スバルは躊躇いがちに声を掛けた。

 

「は・母上?キュウマ?」

 

その小さい声に硬い声が返ってくる。

 

「スバル、そなたは屋敷に居れ。行くぞキュウマ!」

 

言うなり疾風のように駆け出してしまい、

制止の声を掛けることも出来ず慌ててキュウマが追いかける。

 

「くっ!お待ちください、ミスミ様!」

 

あっという間に影も見えなくなってしまった2人に、

置いていかれる形になったスバルの呟きが零れる。

 

「ちぇっ……なんだよ。」

 

 

 

 

 

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そして最後にラトリクスの中央管制施設。

アルディラがディスプレイの前で集落の機械群の様子をチェックしていると、

少し急いだようにクノンが部屋に入ってきた。

 

「あら、どうしたのクノン?」

「アルディラ様、これをご覧下さい。」

 

そういうとクノンはコンソールの一部を素早く操作し、グラフや数字を表示する。

 

「これは……!?」

「この島の至る所で水脈の乱れ・地盤の揺れ・異常な風速・気温の上昇低下などが見られます。

 原因は現在不明。」

 

ディスプレイの数値を見て驚くアルディラに、クノンが概略を説明する。

どうやら島の各所で異常が観測されているようだ。

 

「原因不明?……一体どうして?」

 

呟きを漏らしながらもコンソールを叩き、状況を詳しく調べ始めるアルディラ。

その横でクノンもコンソールに指を走らせる。

 

「アルディラ様、原因は依然不明ですが、この異常現象の中心地が判明いたしました。

 “門”の周辺です。」

「何ですって!?行くわよ、クノン!」

 

“門”という言葉に弾かれるように走り出すアルディラ。

そしてクノンも、表情こそ何も浮かべていなかったが、

それでもどこか焦った様にその後を追った。

 

 

 

 

 

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かくして全ての集落の護人とそのパートナーが“門”へと集まる事となった。

 

そして幾ばくかの後、全員がほとんど同時に“門”へと辿り着いた。

 

それこそ計られたように……。

 

 

 

目の前に広がる光景に、全員が|表情≪かお≫を強張らせる。

そこに在ったのは、空に渦巻く暗雲と、揺れる大地、

異様な妖気を放ちながら周囲のマナを無尽蔵に吸い込む“喚起の門”。

今や“喚起の門”はその身に光の水面を現し、辺りの様子と呼応するように波打たせている。

誰もが今まで見たことも無い“喚起の門”の様相に息を呑み、

何が呼ばれるのかと固唾を呑んで見守る中、光の水面に変化が生じた。

それまで激しく波打っていた水面が、まるで鏡のように静まり返り、一際輝きを増す。

 

 

 

そして水面から何かを掴む様に出てきたのは人の腕、

 

次いで銀の髪を靡かせた頭が、

 

黒いパーカーに包まれた体が、

 

最後に、ジーンズと丈夫そうなブーツを履いた2本の足が、

 

光る水面から吐き出される。

 

 

 

皆が唖然と“彼”を見守る中、その体は光に包まれ、羽毛のようにゆっくりと地面へと降りてきた。

 

 

 

……気が付いた時には既に雲も風も揺れも無く、辺りはいつも通り静まり返っていた。

まるで夢でも見ていたかのような変わり様で、護人たちは辺りを見回すが、

いつもと違うのは目の前に横たわる“彼”だけ。

 

このままにしておく事も出来ず、用心しながら“彼”の周りに集まる護人たち。

ヤッファが皆を代表するように“彼”に声を掛ける。

 

「おい、大丈夫か兄ちゃん?」

「…………。」

 

“彼”からの返事は無く、その瞼は閉ざされたままだ。

次いでキュウマが声を掛けようとした時、“彼”に動きがあった。

瞼を震わせ、口から吐息を漏らす。

 

そして、ゆっくりと開かれた瞼から覗くのは深い蒼。

 

皆が注目する中、声が漏れる。

 

「―――ねむい……。」

 

皆の緊張をぶち壊し、“彼”は再び目を閉じ眠りに落ちた。

後に残されたのは、間の抜けた顔を見合わせる護人たちばかり。

 

まるで彼らを笑うように涼やかな風が走りぬけた。

 

 

 

 

 






(-ω-)/ やあ!凝りもせず投稿するよ!

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