ジャキーニたちを懲らしめた翌日、俺は久しぶりに畳の感触を味わう為に鬼の御殿に来ていた。
畳に転がり、そのすべすべとした感触と真新しいイ草の匂いを楽しむ。
しばらくすると、隣の部屋からアティとミスミの声が聞こえてきた。
どうも、ミスミがアティに島の子供たちの先生になってくれと頼んでいるらしい。
「……ウィルくんの為の先生でいてあげたいんです。」
「こんのォ―――バカタレがァァッ!!」
「きゃっ!?」
突然の怒鳴り声に跳ね起きる。
目茶苦茶聞き覚えのあるその声に、俺は膝立ちのまま、
襖をちょっとだけ開けて確認する事にした。
ああ、やっぱゲンじぃだよ……。
「若造め、知ったような口を叩くでないわい!」
「ご老体……いつ、こちらに!?」
「つい、さっきじゃよ、ミスミ殿。」
唐突に現れ、説教を始めるゲンじぃに、ミスミが驚きの声をかける。
それをさらっと流すゲンじぃ。
つーか、ミスミに気付かれずに近付くなんて何者だよアンタ。
あ、ミスミがこっちに気付いた。
ここは唇に指を当てて沈黙の合図だ。しーっ、と。
ゲンじぃは嫌いじゃないけど、小言が多いから……。
「な、何なんですか?このオジイさん……。」
「こっちの世界の教師がやって来たと聞いて、見に来てみれば……実になっとらん!」
見知らぬ人間に怒られ、うろたえるアティに、ゲンじぃは更に憤然と怒鳴りつける。
……何か勘違いしてるなぁ。
教師は教師でも、アティは家庭教師で、ゲンじぃが考えてるような学校の教師じゃないのに。
しかも新米だし。
「言うに事欠いて、一人の為の先生でいたい、だとォ?
『子供たち』を導いてやれぬ者が、『子供』を導ける筈無かろうがッ!!」
「!?」
これぞ真理!って感じで言い切ったゲンじぃに、アティが衝撃を受けたように固まった。
けど……逆じゃないかな?
『子供』を導けなきゃ、『子供たち』なんて導ける訳ない。
複数よりも単数の方が楽に決まってる。
つーか、アティは家庭教師なんだから、たった一人の為の先生でいいんだって。
「ついて来い!ワシが貴様に教師の何たるかを教えてやるわい!」
「は?ちょっと!?そんな、引っ張らないで下さいぃ!?!?」
おっと、ここまでかな。
いくら教師魂に火が付いたからって、無理強いは良くない。
ちょっとからかって煙に撒こう。
「おいおい、こんな衆目の中で誘拐かよ。
いくらアティが若くて可愛いからって、それじゃ犯罪だぞ、エロジジィ。
ああ、仕事絡みだからセクハラか?」
俺が毒を吐きながら襖を開けて現れると、
アティを引っ張って行こうとしていたゲンじぃが顔を赤くして動きを止める。
「な、何じゃとッ!?ワシは教師の何たるかを教えようと……っ!」
「はいはい。
そんな事言っても、アティから離れないその手が全てを物語ってるよ。」
「ッ!!」
ゲンじぃは慌ててアティから手を離すと、今度は俺の首根っこを捕まえた。
「おのれ小童が!今日こそ、その性根を叩き直してやる!!」
俺はそのまま引きずられて行き、ゲンじぃからお説教を喰らった訳だけど、
その甲斐なくアティは島の子供たちの先生を引き受けちゃったらしい。
まあ、お説教の方は例によって例の如く、途中で眠り込んでしまったけど。
う~ん、こんな時はこの病気に感謝、だな。
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翌日、空は気持ち良い晴れで、俺は森の中を散歩してた。
そう、散歩してただけの筈なのに―――どうして俺は捕まってるんだ?
……状況を整理してみよう。
目の覚めた俺は、いつものように暇を持て余し散歩に出た。
ここまでは問題無い。
森の中を散歩してたら、ネコを連れた少年が、でかいオッサンに捕まってる所に出会した。
今思えば、これが失敗だったな……。
たった一人の少年に、大の大人が寄ってたかって武器を突きつけてる。
その様子に思わず口走っちゃったんだよ。
「……ダサ。」
この一言でそいつらの俺に対する扱いが決まった。
すなわち敵で、捕虜だ。
抵抗しようかとも思ったが、人数差を考えればそれは無理ってモノだ。
それに奴らの格好は、明らかに軍隊か何かだった。
多分アルディラの言ってた‘帝国軍’って奴らだと検討を付け、
隙を見て逃げるために大人しく捕まったんだったな。
で、捕まったはいいが逃げる隙なんかありゃしない。
そうこうする内に、奴らの本隊まで連れて行かれてしまった。
……こりゃ駄目かな?
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突然の嵐に巻き込まれ剣を紛失し、なんとか流れ着いた島で隊を立て直した。
そして島の探索のため派遣した部下が捕虜を捕まえたと聞き来てみれば、
ネコを連れた子供と優男が縄で縛られていた。
……これは何かの冗談か?
「……ギャレオ、これは何だ?」
「はっ、捕虜であります!」
副官になってそれなりになるギャレオの返事に、頭痛を感じながら質問を重ねる。
「男の方はともかく、この子供もか?」
「はっ、この子供は男の仲間だと思われます!」
思われます、だと?確認も取らず、いきなり捕まえたと言うのか?
酷くなった頭痛に耐えながら、最後の質問をしてみる。
「……何を根拠にこの者たちを捕らえたのだ?」
「はっ、それは……その……。」
まともに答える事も出来ないギャレオに、私の忍耐も限界がきた。
「何の根拠も無しに、年端もいかぬ子供を剣で脅し、捕らえたと言うのか!?
貴様は帝国の威光を汚すつもりか!」
「はっ、も・申し訳ありません……。」
大きな体を小さくして悄然としているギャレオを横目に、捕らえられた二人に向き直る。
「私は帝国軍海戦隊所属、第六部隊隊長、アズリア・レヴィノスだ。
お前たちはこの島の者か?
……それともビジュの報告に有った反逆者か?」
言葉の最後の部分にだけ剣呑な雰囲気を混ぜてやる。
案の定、子供の方は気圧されたようで怯えているが、
優男の方は気にした風も無く返事をしてきた。
「俺はアキラ。まだ日は浅いが、この島の住民だ。
更に言えば、あんたたちと一戦交えたのも、この島の住民だよ。
後、そっちの少年とはさっき初めて会った。」
そこで優男は言葉を切って、子供の方をちらりと見た。
子供はまだ怯えていて何も話せそうにない。
それを確認すると、優男は深く溜息を吐くように言葉を続ける。
「それにしても、反逆ねぇ……。ここは帝国領じゃないんだがな。
それとも、あんたたちは“侵略”に対する自衛を反逆って言うのか?」
「何だと、貴様!」
「止せ、ギャレオ。」
優男の言葉に熱くなるギャレオを手で制し、話の続きを聞いてみる。
「“侵略”とは、どういう事だ?
報告では、はぐれに襲われ撃退しているところをお前の仲間にやられたと聞いているが?」
「そのはぐれが、この島の住民なんだよ。」
「何?」
「だから、この島の住民は全員はぐれ召喚獣なんだって。
それをアンタたちが突然襲うから、みんな応戦しただけ。」
うんざりしたように話す優男に、どういう事か尋ねようとすると、
今まで怯えていた子供が大声を出した。
「待って下さい!この島には人の暮らす村か町が在るんじゃないんですか!?」
妙に切羽詰まった声に、私は開きかけた口を閉じ、優男の返事を待った。
それに、それは私も聞きたかった事だ。
「……君の期待を裏切るようで悪いんですが、
この島に住んでいる人間は、私とゲンじぃの二人だけです。」
「そんな……。」
突然口調を変えた優男に不可解さを感じながら、子供の様子を窺ってみる。
優男の言葉がそれほどショックだったのか、すっかり気落ちして座り込んでしまった。
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「嘘を吐くな!召喚獣がいるなら召喚士が居る筈だ!
貴様がそうなのではないのか!?」
少年の問い掛けに答えてやると、突然でかいオッサンが怒鳴り出した。
その途端に少年が再び怯えモードに入ってしまう。
ったく、軍人ってのは皆こうなのかね。
本当は口を開くのもウザかったが、黙っていると何をしてくるか分からないので、
仕方なく答えてやる。
「俺もはぐれさ。召喚士は居ない。……どこにもな。」
自分で言ってる事なのに、途中から答える俺の声に苦いモノが混じる。
胸に大きな穴が開いたようで、オッサンに対する苛立ちも消えてしまう。
そう、居ないんだ。誰も帰れない。
……絶対に。
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恐怖とショックで何も考えられなくなっている僕の耳に、
深い哀しみと絶望に塗り込められた声が届いた。
それは僕が勝手な望みを掛けていた人の声だった。
その声は、僕の受けた痛みとなんて比べられない位の痛みを秘めていて、
僕は自分の事も忘れてその人を心配していた。
「あの……大丈夫ですか?」
僕が声をかけると、まるで泣いているような笑顔で「大丈夫です。」と応えられた。
全然、大丈夫そうに見えないのに、僕に気を遣ってる。
僕が……子供だから。
また落ち込みそうになる僕に、その人は自己紹介してきた。
「先程も聞かれたかもしれませんが、私はアキラ。一応、はぐれ召喚獣です。
良ければ君の名前を教えてくれますか?」
その物言いに、初めてこの人が僕だけに丁寧に振る舞っている事に気が付いた。
その事に少し戸惑いながらも、自己紹介を返す事にした。
「……僕はウィル。ウィル・マルティーニと言います、アキラさん。」
僕がぎこちないながらも、何とか笑顔で名乗ると「よろしく。」と綺麗な笑顔で返された。
成る程……あの人の言ってた通りだ。
「マルティーニだと?帝国でも屈指の貿易商の名だな。
それがどうして、こんな所に居るのだ?」
せっかくアキラさんの笑顔で和んでいたのに、無粋な女隊長のせいで台無しになった。
僕は不機嫌さを隠しもせず、女隊長をしばらく睨み付けてから話し始めた。
「……僕は軍学校に入る為に、家庭教師と船で工船都市パスティスに向かっていました。
その途中で海賊に襲われて、嵐まで起きて、この島に流れ着いたんです。
今は、不本意ながら海賊の世話になっています。」
「成る程、辻褄は合うな。
と言う事は、ビジュの報告にあった人間とは、その海賊共という事だな。」
僕の話で納得したのか、女隊長はそう呟いてから少し考えて、
部下に僕の縄を解くように言ってくれた。
この人は……そんなに悪い人じゃ、ないのかもしれない。
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「待って下さいよ、隊長殿ォ。そんなガキの戯言を信じるんですかい?」
ウィルくんの縄が解かれた時、顔に入れ墨をしたチンピラ風の男が現れた。
何だコイツ?
黙ってチンピラ風の男と怖い姐さんの話を聞いていると、
どうやらこのチンピラ(もう決定)がアルディラやアティに伸された奴らしい。
それでウィルくんを人質にしようと提案してる。
……最低だな。
俺が何か言ってやろうとしたら、姐さんが低く押し殺した声を出した。
「……では、お前はこの子供に縄を掛け、捕虜として扱えと言うのか?」
「ヒヒ、それが利口ってモンですよ。」
「この愚か者め!
どこの馬の骨かも判らぬ輩に負けただけでは飽き足らず、まだ恥の上塗りをする気か!
それとも貴様は、こんな子供を人質に取らなければ戦えない臆病者なのか!」
「っ!!……ちっ、勝手にしやがれ!」
おお、上手いな。
チンピラは姐さんの挑発にあっさり乗って、捨て台詞を吐いて逃げるように去っていった。
その後ろ姿が見えなくなった頃、ウィルくんが小さな声で姐さんに尋ねた。
「どうして、助けてくれるんですか?」
その質問に、姐さんは初めて見せる微笑みで答えた。
「帝国の民を守るのが、私たち軍人の務めだ。」
……良い人じゃん。チンピラの仲間とは思えないな。
名前はアズリア、だったかな?
駄目元で聞いてみよ。
「なあ、アズリア。ついでに俺の縄も解いてくんない?」
まるで冗談でも言うように笑顔で軽く聞いてみると、
アズリアは少し考えてからニヤリと笑うと、交換条件を言ってきた。
「島の者たちが我々の邪魔をしないと約束するなら、縄を解いてやってもいいぞ?」
やっぱり笑顔で拒否してみる。
「そう言われても、俺たちも自分の生活は守りたいし?」
アズリアは更に笑みを深める。
「ならば交渉は決裂だな。」
最後に子供のように言い放ってみた。
「アズリアのケチー。」
何故かアズリアとのお喋りは楽しい。アズリアも楽しそうに笑ってる。
まるで学校の友達と喋っているみたいだ。
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深い森の中、紅い髪を靡かせながらアティが走っている。
その顔は後悔と不安に彩られ、いつもの心暖まる笑顔は無い。
何かを必死に探すその瞳に、小さな人影が映る。
アティは期待と不安を胸に、人影に走り寄る。
しかし、それは求めていた人ではなく、機械の少女の影だった。
アティは落胆を顔には出さないように、クノンに尋ねる。
「クノンさん、ウィルくんを見ませんでしたか?」
しかし、返ってきた言葉は望んだ物ではなく、更に落胆が募る。
途方に暮れるアティに、クノンが逆に尋ねる。
「アキラ様をご覧になりませんでしたか?」
「見てませんけど、アキラさんに何かあったんですか?」
今、心を占めている不安のせいか、
アキラを探しているとの言葉に不吉な物を感じ、アティの声が震える。
それとは対照的に、クノンはいつもの抑揚のない声で告げる。
「いいえ。昏睡の原因が判明したので、アルディラ様がお呼びなのです。」
「そうだったんですか。……良かった。
あ!じゃあ、アキラさんの病気も治るんですね?」
悪い状況の中、唯一の明るい報せにアティは頬を緩ませるが、返ってくるのは感情の伺えない声。
「それはまだ判りません。今は原因が判明しただけですので。」
「あ、そうか。そうですよね。じゃあ、アキラさんを見かけたら―――。」
「センサーに反応。竜骨の断崖に人と思われる反応があります。」
「っ!行きましょう!」
アティの言葉を遮り、クノンがセンサーに何かを感知した事を報せる。
それはウィルかアキラが近くに居る可能性を示しており、
アティの足を動かすには十分な物だった。
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「隊長、本当にその者は来るのでしょうか?」
「来る。それがもし、あの者ならば、必ずこの子供を救いにやって来る。
私が知っている、あの者ならばな。」
……崖の端で、オッサンとアズリアが勝手な事を言ってる。
待ってる位なら、使いを出すとかすればいいのに。
ウィルくんの縄は解かれたけど、俺の縄は付いたまま。
……どうすっかな?
「―――来たな。」
「ウィルくん!アキラさんまで!?」
え?あ、ホントだ。アティとクノンさんが森から出てきた。
あはは、二人とも驚いてるよ。
まあ、知り合いが縄を掛けられてたら、普通驚くだろうけど。
それにしても、アズリアってばやけに嬉しそうだな。
「アズリ、ア……?」
ん?アティはアズリアと知り合いなのかな?
「ふふ、向こう見ずなのは学生の頃とちっとも変わらんな……アティ。」
ああ、成る程。二人は同級生な訳か。
と言う事は、穏便に話が終わるかもしれないな。
「帝国軍海戦隊所属、第六部隊隊長。これが今の私の肩書きだ。
今なら海賊共と暴れた事は見逃してやろう。
大人しく投降しろ。悪いようにはしない。」
「……それは、出来ません。」
「どう―――。」
「どうしてですか!?アイツらは僕たちの船を襲った海賊なんですよ!
どうして……信用出来るんだよ!?」
あらま、ウィルくんてば爆発しちゃったよ。
言葉を遮られたアズリアも、ウィルくんの勢いに黙って様子を見ている。
う~ん、何か張り詰めてるとは思ってたけど、そういう事か。
でも、部外者の俺には何も言えないな。
ここはアティに期待しよう。
「仲間だから、ですよ?貴方だって解ってる筈ですよ。
確かに彼らは私たちの船を襲ったけど、いい人たちだって。」
「っ!!」
アティの疑う事など何も無いという純粋な言葉に、ウィルくんは息を飲み、目を見張る。
この子も本当は解っていたんだろう。
カイルたちは確かに海賊だけど、意味も無く暴力を振るうような人間じゃない。
アティの完全勝利、だな。
唇を噛んで涙を堪えるウィルくんに、アティが優しい眼差しを向ける中、
アズリアが表情を厳しくして声を上げる。
「……よかろう。だが、我々の邪魔をするなら容赦はせんぞ!」
「……解ってます。」
アティも表情を引き締めて応える。
全てを言わなくても、お互い通じ合う。時の重なりが生み出す、目に見えない絆。
……今の俺には無いモノ。
こんな時だけど、二人が少し……羨ましい。
アズリアが、涙目のウィルくんの背中を優しく押して「行け。」と囁く。
ウィルくんがこっちを見て戸惑っているので、小さく頷いて促してやると、
まだ躊躇いながらもアティの所へ走り始める。
すると、アズリアが俺の方へ歩いて来て剣を抜き、縄を斬ってくれた。
「アズリア?」
「お前も行くがいい。」
何だかやけに疲れた声を出すから、つい軽口が口を突いて出た。
「人質はいいのか?」
「馬鹿にするな。帝国軍は人質なんぞ取らん。」
その少し怒ったような様子が、すっかり元に戻ったようで二人して少し笑った。
「さあ、もう行け。」
アズリアの声に頷いて、アティたちの所へ向かう。
二、三歩歩いた時に、まだ礼を言って無い事に気付き、立ち止まってアズリアに声をかけた。
「サンキュー、アズリア。」
「さんきゅー?」
首を傾げて可愛らしく言うものだから、俺は笑いながら意味を教えてやる。
「ありがとう、て意味だよ。」
そして今度こそ、アティたちの方へ走り出した。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
「ありがとう、か。……ふ、らしくないな。」
赤くなってしまった顔を自嘲の笑みで誤魔化しながら、
部隊に指示を出すため後ろを向いて歩き出す。
……もう、アティと共に歩く事はあるまい。
少し落ち込んでいる私の耳に、下品な笑い声が届く。
「ヒャハハハ!そう簡単に終わってもらっちゃ困るんだよ!」
ビジュ!?
慌てて振り向いたその先には、先程別れたアキラがビジュに羽交い締めにされ、
ナイフを突きつけられている姿があった。
「ヒヒヒ、いけませんねぇ、隊長殿ォ。アイツらは帝国軍に刃向かう海賊ですぜ?」
「ならば真っ向から勝負を挑み、打ち負かすまでだ。
その男を離せ、ビジュ。これは命令だ!」
「ヒヒヒヒヒッ、残念ながらそれには従えませんねェ。
俺はソイツらに借りがあるんだよ。
この手でぶちのめさなくちゃ気がすまねェぜ!!」
くっ、愚か者め!
しかし、どうすれば……っ。
下手に動けば、ビジュは躊躇わずにアキラを傷つけるだろう。
かと言ってあの体勢では狙撃も出来ん。
……今、私に出来るのは、状況に変化があればすぐに動けるように隊を整える位か!
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
あの人の、先生の所へ走っていると、後ろから下品な笑い声が聞こえてきた。
振り向くと、ついさっき女隊長にやり込められた刺青の男が、
アキラさんを羽交い締めにしてナイフを突きつけている。
頭の中が真っ白になる。
助けなきゃ!という思いだけは強く残って、気が付くと僕はアキラさんの方へ走っていた。
「アキラさ――――ん!!」
「ミャミャミャ、ミャ―――ッ!!」
僕は沸き上がってくる心のままに、僕の中で膨らんだ魔力を解き放った。
それは威力なんて全く無い、光と音だけが派手な物だったけど、
一瞬の隙を作るには十分な物だった。
「しょ、召喚術だと!?」
刺青の男が怯んだ隙に、アキラさんは男のナイフを持った手を掴み、遠ざけ、
踵を思い切り男の足の指に落とした。
そうして羽交い締めから抜け出すと僕の方へ走ってきて、
あの綺麗な笑顔でお礼を言ってくれた。
「ありがとうございます、ウィルくん。お陰で助かりました。」
その笑顔と声に、僕が喜びを噛みしめていると、刺青の男の声が邪魔をしてくれた。
「よくもッ!?よくも、よくもッ!!まとめてェ……ブチ殺して……ッ。」
「てめえがなっ!?」
「ぐひゃァっ!?」
刺青の男がナイフを投げようとしたところを、いつの間に現れたのか、
海賊の船長が助けてくれた。
人助けをするなんて……本当に、変な海賊。
「総員、ビジュを援護!あの愚か者を、私の下まで連れて来い!」
女隊長の声と同時に、帝国兵たちが僕たちの方へ走って来る。
それを見て、アキラさんはテコを抱き上げると、僕の手を引いて走り出した。
「長居は無用、です。」
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
俺は例によって例の如く、みんなの後ろでクノンさんと観戦をしてた。
それにしても、ウィルくんまで戦えるなんて、俺ってばかなり情けないな~。
今度、誰かに戦い方を教えて貰おうかな?
大した時間もかからずに雑魚を倒し終わって、アティがでかいオッサンと一騎打ちをしている。
何でナイフで戦ってるんだろ?
力押しじゃ不利だろうに。
俺がそう思った途端、アティが鋭く高い音とともに碧の光に包まれた。
何だ?何が起こってるんだ!?
――器、黒い器、私の体
頭に直接響くようなドス黒い声。それと同時に頭に走る痛み。
まるで万力でゆっくりと締め付けられるような痛み。
『コレ』は少し前にも起きた事がある。
あれは……アティに会う少し前だ。
――もう少し、後少しで出来上がる
出来上がる?いったい何が?
必死に痛みに耐えるが、頭の芯が急速に冷え、血の気が無くなっていくのが分かる。
――お前に私を注ぎ込み、お前を私にしよう
……もう、ダメだ。
ぐらりと揺れる視界の中に、白く、そして碧くなったアティを捉えながら、俺は意識を失った。
――ふふふ、器、黒い器、私の体
――もう少し、後、少し
(-ω-)/ やあ!話は「転」に入ったよ!