「具合はどうですか?イスラさん。」
「……貴方たちは?」
にっこり笑って尋ねるアティ。
しかし、突然訪れた二人の客に、彼は不思議そうに目を瞬かせる。
その様子にアティは、あ、といった感じで自己紹介を始める。
「初めまして、私はアティと言います。
貴方を見つけて、ここに連れてきたのが私なんです。」
「私はアキラと言います。まあ、貴方と似たような境遇のモノ、ですかね?」
その尻馬に乗って、俺も我ながら不可解な自己紹介をしてみた。
「………は?」
案の定、彼は更に混乱したらしく、間の抜けた声を漏らして固まってしまう。
俺と彼との出会いは、こんな感じで始まった。
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結局イスラを加え、その日は三人で島を廻る事になった。
集落を回って住民と他愛ない会話をしながら、綺麗な場所や面白かった出来事の話をするうちに、
アティは元気になったみたいだし、イスラの顔にも笑顔が浮かぶようになった。
……まあ、デートは潰れてしまったけど、良しとしよう。
今は休憩という事で集いの泉に居る。
「どうでしたか、イスラさん?少しは気晴らしになりましたか?」
「はい。久しぶりにしっかりと歩いて、外の日差しを浴びて、とても気分がいいです。
本当にありがとうございます、アティさん。アキラさんも。」
「いえ、私もこの島に人間が増えて嬉しいです。」
アティの問いかけに、イスラは嬉しそうに答える。
そんなイスラに笑顔で応えながら、俺は二人の表情を窺う。
……どうやら今は無理して笑ってる訳じゃなさそうだ。
それにしても、特に面白い事がある訳でもないのに、
にこにこ笑ってる三人組って、端からみたら馬鹿みたいじゃないだろうか?
そんな事を考えていると、アティが何かを思い付いたように聞いてきた。
「そう言えば……アキラさん、今日は眠くならないんですか?」
「ん、そう言われれば眠くないな。どうしてだろ?」
「どうしてでしょう?」
アティと二人で首を傾げていると、イスラが遠慮がちに尋ねてくる。
「あの、どういう事ですか?」
「ああ、すみません。え~と、それについては長くなりますし、
道すがらお話しする事にして、今は日が暮れる前に帰りましょう?」
一人だけ話題に置いて行かれる形になったイスラに謝り、俺は帰る事を提案する。
いくら月明かりがあっても、夜の森は迷いやすい。
暗くなる前に帰らないと。
「そうですね。風も出てきちゃったみたいですし。」
「それじゃ、俺はイスラさんと帰るよ。アティ、また明日。」
「あ、はい。また明日。」
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アティさんと別れた後、アキラさんは一言も口をきかずに黙々と歩き続けている。
何となく気まずくて、話しかけようとしたけど全て徒労に終った。
このままラトリクスまで歩くのは正直勘弁して欲しいと思い始めた時、
突然アキラさんは立ち止まり、僕の方を振り返った。
そこにはさっきまでの微笑みはなく、蒼い瞳には冷たい光を宿し、
端正な顔には厳しい表情があって、知らないうちにゴクリと喉を鳴らしてしまった。
……緊張、しているのか、僕は?
「イスラさん?」
さっきまでの明るい声とはまるで違う、感情の起伏が読みとれない冷たい声が僕の名を呼ぶ。
思わず裏返ってしまいそうな声を無理に押さえつけ、返事をする。
「は、はい?」
「私は、貴方がどうして無理に笑っているかは聞かないし、興味もありません。
……でもな、俺の仲間を傷付けたら―――殺すぜ?」
「っ!!」
怖い。
コイツは何の戦闘訓練も受けていなさそうだったのに、今は何をしても勝てる気がしない。
口の端だけで笑う表情の中で、蒼い瞳が闇を湛えて僕を見ている。
恐怖で身動き出来なくなっていると、不意に笑みが元に戻り、プレッシャーが無くなった。
「早く帰りましょう?余り遅いとクノンさんが心配しますし。」
そう言って何も無かったように歩いて行く彼を、
僕は未だに固まったままの足をどうにか動かして追いかけるしかなかった。
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イスラと帰って来た翌日の朝、自然に目が覚めた。
昨夜アルディラの言ってた通りだ。
普通に夜寝て、普通に朝目が覚める。
……随分久しぶりだなぁ。
体が適応したって事らしいけど、どう適応したんだろ?
時差ボケが治ったとか、そんな感じなのかな?
……まあ、いいや。
とりあえず普通に一日過ごせる事を喜んどこう。
さて、今日は何しようかな?
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「お手伝い、ですか?」
朝食の後、アキラ様が言われた事を確認の為に聞き返しました。
「ええ。折角、普通に生活出来るようになった事ですし、
今までお世話になった分、ご恩返しでもと思いまして。」
そう言って微笑むアキラ様を見ながら、やっていただく仕事を検索しましたが、
ラトリクスでは常に私たちが働いているので、特にお任せする事はありませんでした。
そこで少し考えて、お任せする仕事を導きだしました。
「……傍に、居て下さい。」
「え?あの、クノンさん?」
アキラ様が驚いたような、困ったような表情をしました。
説明が足りなかったからでしょうか?
「私の傍に居て下さい。
何かお任せしたい事があれば、その都度お願い致します。」
「ああ、何だ……つまり、クノンさんの助手って事ですね?
任せて下さい!」
アキラ様がいつもの綺麗な笑顔を浮かべてくれました。
本当は、ただ傍に居て“欲しかった”だけですが、これはきっと、言ってはいけない事。
私は、アルディラ様の―――護衛獣だから。
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その日は一日中クノンさんの傍にいて、細々とした仕事を手伝った。
……まあ、あんまり手伝う様な事はなかったんだけど。
しかも、途中でまたあの頭痛に襲われた。
痛みは以前のように気を失う程のものでは無かったが、
俺は痛む頭を押さえながら、またアティが抜剣したのだろうと考えた。
今回は『声』も聞こえず、すぐに頭痛は治まった。
そのまま手伝いを続けようとしたのだが、
心配したクノンさんに無理矢理寝かし付けられてしまった。
ベッドの中で、俺は頭痛について考えを巡らせる。
……アティ、また誰かと戦ってるのか?
その夜、ラトリクスの自室でだらだらしていた俺は、
突然訪ねて来たマルルゥに誘われて宴会に行った。
そこで初めて、みんながジルコーダと戦いに行っていた事を報せられた。
「どうして俺も連れて行ってくれなかったんだ」と拗ねてみれば、
一様に「仕方ない」と返ってきた。
戦えない者には危ないから、と。
仲間が、友達が危ない目にあっているのに、何も手助けできない上に足を引っ張りかねない。
そんな自分がみっともなくて、悔しくて……俺は一人、宴会から抜け出した。
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逃げたり、隠れたり、見てるだけ。
……そんなのが嫌で、俺はキュウマに修行をして貰えるように頼んだ。
うん、頼んだのは俺だけどさ―――このままじゃ俺が死ぬ!?
<修行・キュウマ>
「戦い方を教えて欲しいんだ、キュウマ。」
虫退治を終え、宴会をした翌日、朝早くに訪れたアキラ殿は、開口一番そんな事を言ってのけた。
また何を突然……。
そう思い断ろうとしたが、その瞳が真剣な光を宿していて気が変わった。
「……何故、私に?ヤッファ殿の方が宜しいのでは?」
「俺の居た世界、正確には国だけど、そこは剣よりも刀の方が主流なんだ。
だから、刀を使う戦い方ならすぐ馴染めると思って。」
尋ねた事に返ってくる言葉も真剣で、日頃のミスミ様に対する無礼も、
この時ばかりは許してやろうという気になった。
「……分かりました。私で良ければ手ほどき致しましょう。
ただし!私は厳しいですよ?」
「望む所だ!」
威勢の良い返事を受け、場を移し、アキラ殿に私の予備の刀を渡した所で、
修行を始める前に力量を確認する事にした―――のだが、何故こうなったのか?
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「ほらほら、どうなされたのです、アキラ殿!
逃げてばかりでは埒が空きませんよ!?」
「って、そんな事言われても!」
避けるのが精一杯だっつの!
喋ってる間もキュウマの刀が俺の脇を掠めていく。
右に左に上から下に、袈裟掛け逆袈裟、果てには突きが。
俺は寝ている間に強化された運動能力と反射神経で辛うじてかわし続けているが、
反撃する余裕なんてある訳もなく、されるがままだ。
だんだんテンションが上がっていくキュウマは、はっきり言って不気味だ。
「ふははは!」って笑ってるし。
何時までも終わる気配の無い斬撃を避けていると、物騒な呟きがキュウマの口から漏れた。
「いっその事、このまま修行中の不慮の事故という事に……。」
「待てまてマテ!怖い事言うな!!」
「問答無用!往生して下さい、アキラ殿!」
「どわー――!?」
結局、その日はミスミが止めに来てくれるまで、ひたすらキュウマに追い回されて終わった……。
そして、流れ的にその日は鬼の御殿に泊まって、翌日。
目を覚ますと満面の笑顔のキュウマが側に居た。
「……キュウ、マ?」
「おはようございます、アキラ殿。今日も共に修行に励みましょう!」
マジかよ……。
<二日目>
今日もアキラ殿と修行をするため、朝早くに彼の部屋を訪ねた。
起きたばかりの彼を昨日の場所に連れ出し、敵の攻撃をかわす修行と称し襲いかかる。
今日こそは仕止めてくれる!
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いきなり襲いかかってきたキュウマの斬撃を、借りた刀で受け止める。
驚いたキュウマは飛び離れ、一旦間合いを取った。
俺だって昨日は伊達に逃げ続けた訳じゃない。
キュウマのスピードにも慣れたし、攻撃パターンも大体把握した。
今日は一矢報いてやる!
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驚いた。
昨日とはまるで別人だ。
避ける動作に無駄が無くなり、私の攻撃の合間に反撃までしてくる。
まだまだ未熟な斬撃だが、その端々に私の斬撃を真似しようとしている意志が感じられ、
自然と口の端が持ち上がる。
面白い!私の技、盗めるモノなら盗んでみよ!
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「だー、疲れた!」
キュウマの修行が終わった後、俺は海賊船に来ていた。
甲板で大の字になり、涼しい海風に身を任せる。
既に陽は沈みかけで、日差しは肌を焼くものではなくなっている。
側ではアティが腰を降ろして、にこにこしながら俺を見てる。
「お疲れ様です。大丈夫ですか?」
「無理!もー動けない。」
子供みたいに駄々をこねると、アティはクスクス笑う。
それにつられるように、俺もへらりと笑う。
少しの間笑った後、思い出したようにアティにお願いしてみる。
「なあ、アティ。明日から俺に召喚術、教えてくれない?」
「え、キュウマさんとの修行はいいんですか?」
突然の申し出に、アティは目を丸くして問い返してきた。
俺は不敵な笑みを浮かべ、答える。
「もうお墨付きは貰ったよ。
『これだけ出来れば十分でしょう。後は様々な敵と戦い、経験を積むことです。』
だってさ。」
「―――たった二日で、修行終わらせちゃったんですか?」
「そ。しかも必殺技まで教えて貰っちゃった。」
「え、どんな技なんですか?」
「秘密~。」
にやりと笑い、教えようとしない俺に、アティは頬を膨らませて拗ねてしまう。
そこで慌てて今度見せてあげるからと約束し、機嫌を直して貰って話を戻した。
「で、教えてくれる?」
「まあ……そういう事でしたら。」
どことなくアティは不満顔のままだったが、俺は喜びいっぱいの笑顔で礼を言った。
「ありがとう、アティ!」
(-ω-)/ やあ!急転直下だがついてきてくれたまえ!