黒の魔剣   作:暁 煌

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結ばれる絆

 

 

 

 

 

朝。

起きてから、いつものように鏡の前に座る。

櫛を手に取り、いつもより少し、念入りに髪を梳かす。

今日は、朝からアキラさんと一緒に召喚術の勉強です!

 

 

 

 

 

<修行・アティ>

 

 

 

 

 

食堂に行くと、もうみんな揃っていて私が最後でした。

「おはようございます。」と挨拶すれば、みんなからもそれぞれ挨拶が返ってきました。

アキラさんも眠そうな眼のまま、へにょっと笑って「おはよう~。」と言ってくれました。

朝から何だか良い気分です。

 

 

 

 

 

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今日はアキラさんが一緒に勉強に加わると聞いて、僕らしくもなく緊張してる。

だって、あの人の前でみっともない所は見せられない。

この前からずっと言いたい事があって、練習に使っている森の中の空き地に着いてからも

チラチラとアキラさんを窺っていたら、アキラさんの方から話しかけられてしまった。

 

「どうしたんですか、ウィルくん?」

「あの!その……」

 

抱き上げていたテコをぎゅっと抱きしめて、思い切って言ってしまう。

 

「僕の……僕の“兄さん”になってくれませんか!?」

 

突然の事に、アキラさんはびっくりしてる。

呆れられたのかな?

ううん、嫌われてしまったのかもしれない。

そう思って、そっとアキラさんを見上げると、優しい笑顔があった。

 

「私と、兄弟になりたいんですか?」

「は、はい!」

 

静かで穏やかな声に、緊張しながら答える。

 

「兄弟になったら丁寧な言葉使いなんてしませんよ?」

「構いません!」

「叱ったりするかもしれませんよ?」

「いいんです!」

 

期待で声が震えそうになる。

 

「こんな筈じゃなかったと、幻滅するかもしれませんよ?」

「そんな事ありません!」

 

思ったより大きな声で言い切った僕に、アキラさんは清々しい笑顔を見せて言ってくれました。

 

「よし!じゃあ今から俺とウィルは兄弟だ!」

「……い、いいんですか?」

 

戸惑うように聞く僕に、アキラさんは照れたように言いました。

 

「ウィルみたいな子なら大歓迎だよ。」

「あり、がとう……兄さん。」

 

抑えきれずに泣き出した僕を、兄さんはテコごと優しく抱きしめてくれた。

 

 

 

 

 

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「あの、もういいですか?」

 

何故か突然、二人の世界に入ってしまったウィルくんとアキラさんに声をかけました。

ウィルくんに信頼できる人が増えるのは良いことの筈なのに、何だか胸がもやもやします。

除け者にされたからでしょうか?

 

「ごめんごめん。

 では改めて、アティ先生お願い致します。」

 

ウィルくんを離しながら軽く謝った後、

アキラさんは右手を胸に当てて軽く腰を曲げ、仰々しく頭を下げました。

それが何だかお芝居のようで、さっきまでとは逆に自然と笑顔になります。

 

「では、召喚術の五つの属性から。

 それぞれ召喚石を用意しましたが、どれが何だか判りますか?」

 

私は眼鏡をかけて、足下に五色の石を置きました。

ウィルくんの授業でも最初にやった属性の説明。

その後、相性を調べるのが基本です。

 

「ああ、判るよ。黒がロレイラル、赤がシルターン、

 青がサプレス、緑がメイトルパ、透明なのが名も無き世界。」

 

すらすらと答えるアキラさんに、パチパチと拍手を送って補足をいれます。

 

「はい、正解です。それぞれ機属性、鬼属性、霊属性、獣属性、無属性ですね。

 じゃあ次に、どの属性と相性が良いのか調べます。」

 

そう言った途端、テコが「ミャーミャー!」と鳴き出して、緑の召喚石を両手で挟み持ち、

アキラさんに差し出しました。

 

「こ、こらテコ!すみません、兄さん。」

「ああ、いいって。これからやってくれって事かな?」

 

そう言ってアキラさんがテコの頭を撫でると、私に窺うような視線を送ってきました。

 

「別にどれからでも構いませんよ。」

 

テコのお願いを聞いてあげたそうだったアキラさんは、私の言葉を聞いて、

見ているとこっちまで嬉しくなる笑顔を浮かべます。

 

「サンキュー、アティ。」

 

 

 

 

 

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「さんきゅー?」

「ああ、ありがとうって意味。それにしても……。」

 

俺が笑いを抑えていると、アティが首を傾げながら聞いてくる。

 

「どうしたんですか?」

「いや、アズリアと同じ反応をするから、つい……くくく。」

「そうです、か……。」

 

急に表情を暗くしたアティに、俺は笑いを納めて声をかける。

 

「―――アティ?」

「あ、すみません。何でも、ありません……。」

 

この表情は前にも見た事がある。

明るい月の下、白い浜辺で誰にも言えず、不安を溜め込んでた時の表情だ。

 

「アティ、前にも言っただろ。

 『聞くぐらいなら俺にもできる』って。言ってみなよ?」

 

できるだけ優しく聞こえるように静かな声で言うと、アティは迷うように視線を泳がせた。

 

「……アズリアの事だろ?」

「っ!!」

 

本人は目を丸くして驚いてるけど、バレバレだよな。

そんな事を考えていると、アティは今にも泣きそうになっていて、

慌てて声をかけた。

 

「大丈夫だって!アズリアは良い奴だから、話せば解ってくれるさ。」

 

そう言うとアティは「そうですよね。」と言って、小さく笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

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「おほん!」

 

アキラさんの優しい声に私が顔を上げ、その蒼い瞳を見つめていると、

横から遠慮がちな咳払いが聞こえてきました。

 

「どうでもいいですけど、早く先に進めませんか?」

 

ちょっとムッとしたウィルくんの声に、

いつの間にか近くにあったアキラさんの顔から慌てて離れました。

 

私ったら生徒の前で何て事を……!!?

 

赤くなってしまった表情の事はできるだけ気にしないように、

平静を装ってアキラさんの相性チェックの続きを始めます。

 

「えと、ではテコの持っている召喚石を掌に乗せてみて下さい。」

「りょうか~い。」

 

軽い返事をした後、アキラさんはテコの前でしゃがむと、掌を差し出して言いました。

 

「貸してくれるか?」

 

その声にテコは嬉しそうに鳴くと、石を渡しました。

すると緑の石が淡く光を放ちます。

 

「兄さんも僕と同じ獣属性ですね!」

「へ~、そうなの?」

 

いつになく嬉しそうにはしゃぐウィルくんに、

アキラさんは光る石を不思議そうに眺めながら応えるので、

間違いないと保証して相性診断の続きを促しました。

 

「獣属性を使えるのは間違いありませんよ。

 他にも使える属性がないか調べてみましょう。」

 

そう言ってアキラさんに霊属性の石を手渡します。

 

「あれ?コレも光ったけど?」

「本当だ……。兄さんは二つの属性が使えるんですね。」

「凄いですよ、アキラさん!最初から二つの属性を使える人は珍しいんですよ。」

 

同じように淡く光る石をみながら、

いまいち凄さが解らなかったのか、気のない返事をするアキラさんに

「念のため」と言って機属性の石も渡してみました。

 

「……コレも光ってるけど?」

「……光ってますね。」

「こんな事もある物なんですねぇ。」

 

珍しい事もあるんだなぁ、と思いながら最後の鬼属性の石を渡しました。

 

「…………壊れてるんじゃない?」

「……。」

「そ、そんな筈ないんですけど???」

 

アキラさんの掌には淡く光る石。

困惑しつつも自分で手に取って確かめましたが、

やっぱり強い反応を示すのは元々使えた霊属性しかなくて、

アキラさんは四属性が使える特異体質だという事で納得するしかありませんでした。

そこでアキラさんを元気付ける意味も込めて、笑顔で賛辞を贈ってみました。

 

「きっと石が壊れてるんじゃなくて、アキラさんが普通じゃないんですよ。」

「「…………。」」

 

あ、あれ?私、何かおかしな事言いました?

 

 

 

 

 

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何だか俺は特異体質らしい。

まあ色々使えるのは便利でいいけど。

そんなこんなで本格的な修行を開始する事になった。

 

「それで、どうすれば召喚術は使えるんだ?」

「えーと、そうですね。じゃあウィルくんにお手本を見せてもらいましょう。」

「はい!」

 

復習を兼ねて、ウィルが召喚術をやって見せてくれる事になった。

ウィルは緑の召喚石を手に、呪文?を唱える。

何かやけに気合い入ってるけど、どうしたんだ?

 

突然、光が弾け、ウィルの前にテテが現れる。

おぉー、何遍見ても凄いな。

手品みたいだ。

 

テテは辺りを見渡すとウィルの方に顔を向ける。

多分、何の用か聞いてるんだろう。

ウィルが特に用は無いと告げて礼を述べると、テテは再び光に包まれ消えてしまった。

 

……どういう原理なんだ?

 

「さあ、次はアキラさんの番ですよ。ウィルくんがやった通りに真似してみて下さい。」

 

俺が召喚の原理に悩んでいると、アティにさらりと言われた。

 

「いや、やってみろって言われても、やり方とか何にも聞いてないんだけど?」

「え?ですから、ウィルくんのやった通りにすれば大丈夫です。

 誓約なんて案外簡単にできる物ですよ。」

 

そんなんでいいのか、先生……。

ま、いいか。

とりあえずウィルの真似をしてみよう。

 

え~と、石はどれにするかな?

緑のやつはテテだって分かってるけど、違うのは何が喚べるか気になるな。

 

……よし、赤いのにしよう!

何か良いのが喚べそうな気がする。

 

俺は赤い石を手に取り握り締めると、ウィルが言った通りに言葉をなぞる。

 

「古き英知の術と我が声によって、今、汝へと新たなる名を与えん。

 新たなる制約の元にアキラが命ずる。……来たれ、異界の者よ!」

 

声とともに何かが俺の中から抜ける感じがして、目の前で光が弾ける。

 

眩しくて思わず瞑っていた目をゆっくりと開けると、

俺の前には巫女装束を着て狐の仮面を付けた少女がいた。

 

口元だけ覗く狐の面、純白の絹のような長い髪、大きな鈴の付いた髪留め、

白い着物に赤い袴、膝丈の白い足袋に赤い下駄。

 

……そして、ピクピク動く大きな動物の耳と、フサフサした大きな尻尾。

 

俺の前に現れたのは、そんな格好をした十代半ばの女の子。

 

つーか、どう見ても人間に化けた狐、だな。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

数瞬の間、場に沈黙が降りる。

教師と生徒はいきなり高位の『狐火の巫女』が召喚された事に。

青年は初めての召喚術が成功した事に驚いて。

 

「何の用や?」

 

場の沈黙を破ったのは召喚された少女。

喚ばれたはいいが、その後何の命令も無い。

リインバウムに長く留まりたくない少女としては、

さっさと用を片づけシルターンに帰りたかった。

少女の問いかけで、やっと青年が正気に返る。

 

「あ、いや、特に用は無いんだ。

 俺たち今、召喚術の修行してて、それで君を喚び出したんだよ。」

 

青年の少し慌てたような説明にも、少女は特に反応する事なく、淡々と言葉を紡ぐ。

 

「ほな、はよ還してくれへん?」

「ああ、何か用事の途中だった?ごめん、すぐ還すよ。」

 

少女の冷淡な口調を全く気にする事もなく、

青年はさらりと承知すると、己の臨時教師に送還方法を尋ねに行った。

 

そんな反応が返ってくるとは思っていなかったのか、

少女は少し驚いたように青年の後ろ姿を見つめる。

 

程なくして青年は戻って来ると、少女に声をかける。

 

「お待たせ。それじゃ今から還すけど、また後で喚んでもいいかな?」

 

朗らかな笑みを浮かべた青年の頼みに、少女は怪訝な声を出す。

 

「何でや?用は無いんやろ?

 それに、ウチらは召喚術には逆らわれへん。喚びたかったら喚べばええ。」

 

どこか嘲りを含んだような、その少女の言葉も気にした風もなく、青年は笑顔で返す。

 

「実は俺の護衛獣になって欲しいんだ。

 それに、今みたいに突然じゃ、親や友達が心配するだろ?」

 

青年のリインバウムの人間ではあり得ない『頼み』に、

少女は内心首を傾げるが表情には出さず、端的に否定の言葉を述べる。

 

「嫌や。」

「え?」

 

余りにも短い否定の言葉に思わず青年が聞き返すが、少女の冷淡な態度と言葉は変わらない。

 

「嫌や言うてるんや。ウチ、こっちの世界好かんねん。」

「あ~、そっか。それじゃ仕方ないな。ごめんな、いきなり喚び出したりして。」

「……って、還えしちゃうんですか!?」

「そうですよ、兄さん!

 誓約があるんだから護衛獣になれ、と言えばいいじゃないですか!?」

 

少女と青年のおかしな会話に割り込んだのは教師と生徒。

普通では考えられない会話に、思わず口を挟んでしまったらしい。

 

「だってさ、無理矢理言う事きかせるのって感じ悪いじゃないか?」

「う、それは……まあ……。」

「でも!」

 

なおも食い下がろうとする義弟に、青年は滅多に見せない悲しい表情で語りかける。

 

「ウィル。この娘の気持ちが俺にはよく解る。」

「っ!!」

「“幸い”俺には酷い召喚主は居ないけど、

 誓約なんかで無理矢理言う事きかせるのは間違ってる。解るな?」

「はい……兄さん。」

 

申し訳なさそうに俯く弟に、義兄は優しく肩を叩き「気にするな」と微笑む。

すると、今まで黙って動向を見守っていた少女が口を開いた。

 

「アンタ、こっちの世界の人間とちゃうんか?」

「ん?ああ、違うよ。一応、俺も召喚獣。」

 

青年の答えに少し警戒を解き、少女が更に尋ねる。

 

「ほな、同郷か?」

「いいや、俺は名も無き世界から喚ばれたんだ。」

 

それを聞き、少女は何度か頷くと呟いた。

 

「成る程な。道理で変わっとる訳や。

 ……ええやろ。護衛獣、やったるわ。」

 

呟きの後、数秒の間青年を見つめ、少女は護衛獣になると言い放つ。

当然、青年は困惑して尋ねる。

 

「でも、こっちの世界に居たくないんだろ?」

「ああ、嫌や。そやけど、ここで還っても、また誰かに喚ばれるだけや。

 そやったらアンタの護衛獣やってる方が、なんぼかマシや。

 それにアンタ、男前やしな!」

 

少女は唯一見える口元に笑みを浮かべ、さっきまでとは逆に溌剌と答える。

その元気の良さに青年は笑みを深める。

 

「はは、ありがとう。俺はアキラ。君は?」

 

少女がゆっくりと狐の面を外すと、その下から金色の瞳が現れ、日の光を弾いて輝く。

その金の瞳が楽しげに細まり、満面の笑みが浮かぶ。

 

「ミユや!ゆろしゅうな、アキラ。」

「ああ、よろしく。ミユ。」

 

 

 

 

 






(-ω-)/ やあ!オリ護衛獣の登場だ!可愛がってやってくれ!

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