ミユのお披露目が終わった翌日、
世話になったユクレス村を後にし、俺はミユを連れて船に向かっていた。
今までの戦闘はアティを中心に起こっていたから、
アティの傍に居れば置いて行かれる事は無いと考えたからだ。
そういう訳で、今は森の中を歩いてる。
腕には相変わらずミユがぶら下がっているが、特に邪魔にならないので気にしない。
しばらく歩いてると、木陰に人が居るのが見えてきた。
あれは……アティと、アズリア?
アティはどうやら眠っているらしく、目の前のアズリアに全く反応しない。
それに対してアズリアは、その状況をどうしたらいいのか迷っているようだ。
そのまま見守っていようかと思ったが、アズリアが剣の柄に手をかけたところで声をかけた。
「アズリア、何してるんだ?」
アズリアは声に反応して跳び退き、戦闘体勢に入る。
それを見てミユが飛びかかろうとするのを手で押し止め、
できるだけのんびりした声で話しかける。
「アズリアも散歩?あ、こっちは俺の護衛獣になったミユ。」
警戒を解かないアズリアを刺激しないように、
ミユの手を引きながら歩き、アティの隣に腰を下ろす。
同じようにアズリアを威嚇したままのミユは、俺の胸にしがみつくようにして離れない。
仕方なく足の間に座らせると、軽く抱きしめるような格好になった。
俺たちが腰を下ろしたのを見て、やっと剣の柄から手を離したアズリアに目を向け、
笑顔で問いかける。
「アズリアも一緒に昼寝しない?」
アズリアは驚いたような、呆れたような表情をして口を開いた。
「何を考えている?私たちは敵同士だぞ。」
その硬い声に対抗するように、軽くやる気の無い声を出す。
「いいじゃん別に。ここには俺たちしか居ないんだし。
そういうのは、お互い仲間が居る時だけにしようよ。」
すると今度こそ呆れた表情をして、アズリアは体から力を抜いた。
「つくづく変な奴だな、お前は。」
「そうかな?」
「そうだ。」
言い切られちゃったよ。
そんなに変でもないと思うけど……まあ、いいか。
ん?アズリアがミユをじっと見てるな。
あ、眉間にシワができた。
ミユが何かしたのかな?
この位置じゃ確認できないんだけど。
眉間にシワを作ったアズリアは、ずかずかと歩いて来ると俺の右隣、
アティとは逆になる位置に腰を下ろした。
てっきりアティの隣に座ると思ってた俺は、不思議に思い名前を呼んだ。
「アズリア?」
「うるさい。こっちの方が都合がいいんだ。」
そう言ってアズリアは俺の肩に頭を乗せてきた。
ああ、確かにこの体勢はアティにするより、俺にした方が楽だよな……って、
そんな場合じゃない!
この体勢はちょっと、いや、かなり恥ずかしい。
どこか不機嫌そうに耳を動かすミユと、恥ずかしくて慌てる自分を落ち着かせる為に、
ミユの頭を何度もゆっくりと撫でた。
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いつの間にか眠ってしまった俺は目を覚ますと、
自分の置かれた状況を確認して思わず笑みを浮かべてしまった。
アティもアズリアもミユも、気持ち良さそうに眠ってる。
敵も味方も無く、召喚獣と人間も無い。
いつか、みんなとこんな風に過ごせるようになればいいな。
三人にまだ起きる気配は無い。
俺は動くに動けず、木陰の下で穏やかな風に身を任せ、木の葉の奏でる音に耳を傾ける。
風に靡くミユの髪を優しく撫でてやると、大きな耳が小刻みに動く。
それがおかしくて、つい声に出して笑ってしまった。
それに反応してか、アズリアが目を覚ました。
「……ん……ここは?」
「おはよう、アズリア。」
「っ!!」
寝起きにすぐ近くから声をかけられたからか、
アズリアは俺にもたれ掛っていた体をぱっと起こして距離を取った。
「……アキラ?」
「おはよう、アズリア。」
不思議そうにしてるアズリアに、もう一度にっこり笑って挨拶をする。
すると、挨拶に反応してアティとミユも目を覚ました。
「……あれ?アキラさんに、アズリア?……おはようございます。」
「………。」
アティは寝起きで、今一状況把握ができないらしく、ぼ~っとしながら頭を下げ、
ミユはもう一度寝ようとするように、俺の胸に猫みたいに頭を擦り付けている。
「おはよう、アティ。ミユも、もう起きな。」
俺が挨拶を返すと、やっと意識がはっきりとしてきたのか、
アティはアズリアを見て目を丸くした。
「え?ええ!?どうしてアズリアがここに?」
「アズリアはアティと話をしに来たんだって。」
俺がにっこりと笑みを浮かべてアティの疑問に答えると、
アティ以外の二人から驚きの声が上がったが、無視して続ける。
「話し合いで解決した方が双方にとって有益だってさ。な?」
最後の部分はアズリアの目を見つめ、有無を言わせない口調にする。
勢いにつられて、アズリアは戸惑いながらも肯定してしまう。
そうなれば、もうこっちの物だ。
アズリアを再び近くに座らせると、
三人で(ミユは俺の膝の上から動かなかった)円になり話しを始める。
「アティ、剣を持って私の所へ来い。
そうすればお前の仲間たちは見逃してやる。」
「それは、できません。」
いきなり直球のアズリアに、アティが苦しそうに表情を歪めて言った。
その途端、立ち上がって怒鳴り出しそうだったアズリアを遮り、俺が代わって疑問の声をあげる。
「どうして?」
俺の横槍で勢いを削がれたのか、アズリアは浮かせかけた腰を下ろし、憮然として俺を睨む。
「貴様、どっちの味方なんだ?」
確かに今のタイミングだと、アズリアの邪魔をしているようだが、
発言の内容はアティを問い詰める物で、どっちの味方か判らない。
しかし、今の俺にとってはどうでもいい事だったので、白々しく答える。
「俺は、俺の味方だよ。」
納得はしなかったようだが、これ以上言っても無駄と判断したのか、
アズリアはアティに問い直した。
「何故だアティ?何故、海賊やはぐれの味方をする?」
「仲間を守るのに、理由が必要ですか?」
アティの言葉にアズリアは口を噤む。
そして、苦々しさの中にどこか寂しさを含んだ表情を浮かべる。
「では、どうあっても我々と敵対すると言うのだな?」
アズリアの問いに、今度はアティが悲痛な表情で何かを訴えようと腰を浮かせかけるが、
再び俺が横槍を入れる。
「アズリアが諦めれば、敵対しなくて済むけど?」
今度はアティが出鼻を挫かれ、俺の方を恨めしそうに見てくる。
だけど、俺はどこ吹く風で、そんな視線は無視する。
そんな俺の軽い言い方が気に入らなかったのか、内容が気に入らなかったのか、
アズリアが気色ばんで怒鳴る。
「帝国軍人に、任務の失敗は許されない!
軍とは結果のみが問われる実力主義の世界なのだ!
何も知らぬ癖に勝手な事を言うな!」
アズリアが叫ぶ、アズリアの中の現実。
その実情を曲がりなりにも知っているアティと、知らない俺。
確かに俺は軍の世界など知りはしない。
だけど、アズリアだって俺の世界を知りはしないんだ。
同じ世界観を知る者だけど、悲しげな表情を浮かべるアティと、怒りを浮かべるアズリア。
俺は二人の表情を交互に見て、小さく息を吐く。
そして、一切の表情を消し、
目を閉じて、
意識だけを二人に向け、
尋ねる。
「己の成そうする事とは、友を傷付けてまで成さねばならぬ物か?」
静かな声で
「己が身を置く場所は、命を懸け、尽くすに値する所か?」
心に染み入るように
「己の本当の望みは、いったい何だった?」
謳うように。
目を開くと、アティもアズリアも言葉をなくし、目を見開いたまま考え込んでいた。
俺は二人の邪魔をしないように、何故か上機嫌で首に抱きついてくるミユの頭を撫でながら、
二人が結論を出すのを待った。
「隊長ー!アズリア隊長ー!」
「先生ー!どこー?」
しばらくすると、二人を呼ぶ声が聞こえてきた。
お互いはまだ気付いていないみたいだけど、このままじゃすぐに気付いて戦闘になるだろう。
アティとアズリアは同時に立ち上がると、お互いに笑顔を浮かべる。
「今日はここまでですね?」
「ああ。この問題は次までの課題にするとしよう。」
まるで学生のような会話をして、二人は背を向けて歩き出した。
俺はミユを抱えて立ち上がり、二三歩アティの方に歩いて立ち止まり、振り返る。
「アズリア、またな。」
「……ああ。」
こちらを見る事もなく返事をするアズリアが、あまりにもらしくて笑ってしまった。
アティの後を追いながら、俺は二人の事を考える。
この二人は別々の道を進みながら、きっと同じ所を目指してる。
(-ω-)/ やあ!二日酔いだよ!