黒の魔剣   作:暁 煌

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戦闘開始

 

 

 

 

 

まだ陽があまり高く昇っていない時間、

海賊たちと朝食を食べ終えたアキラとミユは後部甲板の船縁に座り、

湿り気を含んだ海風に髪を遊ばせながら、特に何をするでもなく水平線をぼんやりと眺めていた。

 

そこへ、突然野太い声が轟く。

 

「アティ殿は居られるか!?」

 

驚いた弾みに、海に落ちそうになるアキラとミユ。

何とか落下を免れて、二人はほっと顔を見合わせる。

 

そして何事が起こったのかと、二人は体を低くして下から見つからないように船の反対側、

陸地に接している側に回る。

そして船縁からそっと下を見下ろした。

するとそこには、船の前で仁王立ちしている、アズリアの副官、ギャレオの姿があった。

 

アキラたちがその姿を確認した時、どたどたと船の中から足音が響き、

前部甲板にある出入り口からアティたちが飛び出てきた。

そしてそのまま、アキラたちに気付く事無く船を降り、ギャレオと対峙する。

アキラは、未だに驚きで尻尾を膨らませたままのミユの頭を撫でて落ち着かせながら、

その場でギャレオの宣戦布告に耳を傾けた。

 

 

 

 

 

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一通り宣告が終わらせたギャレオが帰った後、

残されたアティたちが話しているところへ、アキラが船から降りてきて輪に加わる。

当然、その腕にはミユがくっついている。

 

「くっくっく……。弱者ときたか。」

「カイルさん……。」

「ムダよ。ああまで言われちゃあ、流石にアタシらも引っ込みつかないわ。」

 

不敵に笑うカイルにアティが声をかけようとするが、スカーレルに遮られてしまう。

そして続くようにソノラが申し訳なさそうな顔で謝る。

 

「ごめん、先生……。あたしたち、やっぱね、海賊なのよ。」

「おい、先生よ……。まさか、止める気じゃねえだろうな?」

「はい、止めちゃいます。」

 

ソノラの謝罪に続き、カイルが念の為といった感じで尋ねると、

至極あっさりとアティから肯定の返事が返ってくる。

予想外の返事に呆気に取られるカイルに、アティは「今のは自分に対する宣戦布告だ」と続ける。

そう言われてカイルは何も言えなくなるが、やはり感情的に納得はできない。

そこはアティも解っているのか、苦笑を浮かべ更に言葉を接ぐ。

 

「我慢して欲しいなんて無理な事は言いません。

 だけど、その前に……少しでいいですから、私に彼女と話す時間をください。」

 

その言葉に沈黙する海賊に代わり、今まで動向を黙って見ていたアキラがアティに声をかける。

 

「―――アティ、答えは出たのか?」

「はい。どうなるか分かりませんが、私なりの答えは出しました。」

 

明るい笑顔を見せるアティに、アキラも嬉しそうに笑う。

 

「OK。じゃあ、みんなを呼んでアズリアの所に行こうか?」

「はい!」

 

ミユを除く周りの者たちには、

二人の遣り取りが何の事か分からず、首を傾げる。

しかし、そんな周囲を放ったまま、アキラとアティは構わず先に進んで行く。

結果、困惑顔のカイルたちが慌ててその後を追いかける事になった。

 

 

 

 

 

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「来たか……。」

 

布告した場所に既に陣を布いていたアズリアは、アティが来たのを見て一人だけ前に進み出た。

そして、同じようにアティとアキラ、アキラから離れようとしないミユが、

仲間たちを残して前に進み出る。

互いが互いの間合い一歩手前まで来た時、同時に立ち止まり、見つめ合う。

 

「アズリア、答えは出たのか?」

「ああ。ここに来たという事は、お前も答えが出たのだろう、アティ?」

「はい。」

 

アティにしたのと同じ質問をするアキラに、アズリアは不敵な笑みで答えた。

そしてアズリアの確認に、アティも笑顔で答えた。

そこにあるのは、まるで学校で戯れる生徒のような楽しげな雰囲気。

出された宿題をやってきたかと、互いに確認し合うような和やかな物だった。

 

「それじゃ、答え合わせしよう。

 先ずは自信ありそうなアズリアからいってみようか?」

 

軽く挑発するように、楽しげな笑顔で尋ねるアキラに、アズリアは腰に手を当て得意げに答える。

 

「ふ、良いだろう。

 アティ、私は、お前も剣も、両方を手に入れる事にした!」

 

ビシッとアティを指さし宣言するアズリア。

その姿はさながら舞台女優のように決まっていたが、

その素晴しさも、突然笑い出したアキラのせいで台無しになってしまう。

 

「ぶはっ!くくく、あは、あはははは!

 ア、アズリア、くく、カッコ良すぎ。

 そ、それで、アティ、熱烈な告白に対する返事は?」

 

顔を真っ赤にして「告白じゃない!」と怒鳴るアズリアを無視し、

アキラは少し頬を赤くしたアティに答えを尋ねる。

 

「あ、はい。ええと……ごめんなさい?」

「誰が告白の答えを聞いた!

 お前はどうして、いつもいつもそうズレているんだ!?

 アキラ!お前もいつまで笑っている!!」

「あは、あはははは、ごめ、ごめん。くくく。」

 

アキラが一頻り笑い、ようやくその笑いが収まった頃に、

アティがその場を改めるように、その場に挑むように、口を開く。

 

「アズリア、剣は渡せません。貴女と戦うのも嫌です。

 だから貴女たちには剣を諦めて、島から出ていって貰います!」

 

何か吹っ切れたように、すっきりとした笑顔で言い放つアティ。

その笑顔を、子の成長を喜ぶ親のように頬を緩めて見ていたアキラは、

何かを思い付いたようにニヤリと笑う。

 

「振られちゃったな、アズリア~。」

「うるさい!……ふん、私は私の道を征くのみだ。

 アティ、力づくでも連れ帰ってやるぞ!」

「お?そう来るなら、こっちもそれなりに応えないとな。

 ……コホン。

 アティは俺(たち)のモノだ!お前(帝国軍)になんか、絶対に渡さないぞ!

 正々堂々と勝負だ、アズリア!!」

 

ノリノリで宣言したアキラだが、その口調はやっぱり芝居じみていて、

表情は明らかに面白がっている事から、冗談だというのは明白だ。

しかし、冗談だと解っていても、周りの者たちは反応せずにはいられないらしい。

 

アティは耳まで真っ赤にして照れており、

アズリアはどこか釈然としないような複雑な表情をしている。

ミユに至ってはあからさまに不愉快だと表情に書いている。

 

言いたい事を言ってすっきりとしたのか、

アキラは周りの者たちの様子に気付いていないかのように、

足取りも軽く仲間たちの元へと戻っていく。

それをアティとミユが追いかけ、アズリアは背を向けて自陣へと歩み出す。

 

そして戦いの火蓋は斬って落とされた。

 

 

 

 

 

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戦いが始まり、俺は刀を抜いた。

厳密に言えば、これが俺の初陣という事になる。

緊張で震える手を押さえつけ、嶺を返して握り込む。

相手を殺さないように斬るなんて、俺にはまだできない。

 

だから、殺さないように、やりすぎないように、嶺を返す。

そして俺は走り出す。

 

初めての戦場に向かって。

 

 

 

 

最初は慣れていない事もあって、みんなから離れないように注意していた。

でも、俺とミユの二人に歯が立つ奴らなんていなくて、

いつの間にか調子に乗った俺たちは、かなり突出してしまっていた。

 

「みんなからはぐれちゃったな。どうしようか?」

「別にええやん。ウチが居ればアキラに傷一つ付けさせへん!」

 

ミユの強気な言葉にちょっと笑いながら、俺もだんだん強気になっていく。

 

「よし!だったら思い切って、アズリアの所まで攻め込むか!」

「了解や!」

 

俺たちは更に深く敵陣に斬り込む為に、再び走り出す。

 

敵の剣を避け刀を叩き込む。

すると倒れる敵を目隠しに利用して、後ろから新手が現れる。

 

刀を振り下ろした直後で反応の間に合わない俺に、そいつが斬り付けようとした瞬間、

俺の脇からミユが飛び出して、威力は低いが詠唱の短い術をぶつける。

そいつが怯んだ隙に刀を斬り上げ叩き伏せる。

 

打ち合わせをした訳でもないのに、ミユとはぴったりと息が合う。

自然と俺たちの顔には笑顔が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

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「よ、アズリア。調子はどう?」

 

あっと言う間に敵の本陣に辿り着いた俺は、横から威嚇してくるオッサンを無視して、

軽い口調でアズリアに話しかけた。

 

「まさかお前がここまでやるとは思わなかったぞ。

 それで?アティより先に私とやるつもりか、アキラ?」

 

不敵に笑うアズリアに、とんでもないと首と手を横に振る。

 

「アズリアとアティの邪魔はしないよ。

 それより、あのチンピラはどうしたんだ?」

「チンピラ?……ああ、ビジュの事か。

 そう言えば、さっきから見当たらんが……それがどうかしたか?」

「ん?いや、何となく聞いただけ。」

 

怪訝な表情をするアズリアに、何でもないと軽く答えながら、俺は周りに目を向けた。

 

戦闘はほとんど終わっていて、立っている帝国兵は四、五人しかいない。

そのまま視線を巡らせていると、アティとカイルの二人が目に入る。

 

二人は戦闘が始まった時と同じように、アティが召喚を唱える間はカイルが守り、

カイルがストラを使ってる間はアティがナイフで牽制していた。

 

感心しながら見ていると、不意に、帝国兵を倒したばかりのカイルと目が合った。

カイルは目を丸くして俺を見つめると、慌てたようにアティに話しかける。

そして、残りの帝国兵をみんなに任せて、アティと二人でこっちに向かって走り出した。

 

 

 

 

 

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「アキラ、無事か!?」

 

あっと言う間に近くまで来たカイルは、俺を背に庇うようにアズリアの前に立ち塞がる。

 

「カイル、何をそんなに慌ててるんだよ?」

「何をって、お前が敵に囲まれてるから助けに来たんだろうが!」

「別に囲まれてないけど?ただ世間話してただけだし。

 な、アズリア?」

 

無言で肯くアズリアを見て、カイルの額に青筋が浮かび上がる。

 

「ほう?じゃあ何か?

 お前は戦闘の最中に敵の大将と仲良くお喋りしてたってか?」

「その通り!」

 

胸を張って言い切った途端、カイルに胸倉を掴まれ持ち上げられる。

 

「こ~の~や~ろ~!」

「わー!嘘、ウソ!冗談だって!」

 

カイルは、腕に噛みついてぶら下がるミユをものともせずに、俺の首を絞め上げ始めた。

その、もの凄い形相に思わず謝ってしまった。

そこへアティが仲裁に入ってくれる。

 

「まあまあ、カイルさん。

 今はそんな事より、アズリアたちと決着をつけないと。」

「ちっ、仕方ねぇ。後で覚えてろよ、アキラ!」

「了か~い。」

 

怒声にへろっと敬礼をして応えると、カイルは俺を投げ捨てるように離してオッサンに向き直る。

 

「女隊長サンは先生に任せるとして、アンタが俺の相手かい、オッサン?」

「ムッ、いいだろう!貴様等全員まとめてかかって来い!」

「あ、俺たちはパスね。」

 

勢い込むオッサンの出鼻を挫くように、俺は気のない声を出す。

 

「やっぱ、こういうのは一対一(サシ)でやるモンでしょ?」

「違いねぇ!オッサン、俺と一騎打ちといこうぜ!

 それとも、一対一(サシ)でやるのは怖いのかい?」

「嘗めるな小僧!帝国軍人の力、見せてやる!」

 

二人は同時に動き出し、それぞれの右拳をそれぞれの左頬に叩き込む。

人を殴ったにしては派手な音が響き、二人の足がふらつく。

しかし二人とも怯まずに次の打撃を繰り出す。

 

どうも攻撃を避ける事は考えていないらしい。

まさにどっちが先に倒れるかのガチンコ勝負だ。

 

……参戦しなくて良かった。

 

もう一方のアティ、アズリア組の方を見てみる。

二人は何やら楽しげに喋っている。

近づいて聞いてみると、

軍学校時代の思い出話に花を咲かせてるようだった。

 

「あ、そうそう。覚えてますか?

 私とアズリアで戦闘の模範訓練をやらせられましたよね?」

「ああ。あの時は私の負けだったな。

 しかし、その後で行った軍事行動演習では私の勝ちだったな。」

 

あれ?思い出話に花を咲かせてるにしては何か険悪だな?

 

「入学して二度目の学科試験では、私の勝ちでしたね。」

「実技試験では私の勝ちだったがな。」

「「ふ、ふふふふふ。」」

 

……二人とも、その笑い方は怖いぞ。

ひょっとして、仲悪いのか?

 

「そろそろ長かった勝負に決着を付けるとしよう!」

「望むところです!」

 

アティがナイフを、アズリアが剣を抜き、構える。

 

ピリピリとした緊張感が二人を包む中、アズリアが先に動いた。

まるで野生の肉食獣のように素早く踏み込み、連撃を放つ。

アティは連撃を避け、あるいはナイフで捌きながら召喚術を唱える。

アズリアは召喚術が完成した瞬間、アティから飛び離れ、効果範囲を抜ける。

そしてまた、アズリアがアティに向かって踏み込んでいった。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

レベルの高い二組の戦いにみんなが目を奪われる中、俺は一人、視線を辺りに巡らせる。

 

あのチンピラがアティを前にして何も仕掛けて来ないなんてあり得ない。

きっと何処かで隙を狙っている筈だ。

 

…………。

 

居た。

チンピラは森との境で何やら怪しげな動きをしている。

 

あれは……大砲!?

 

慌てて走り出した俺の後ろをミユが追いかけて来るが、追いつくのを待っている余裕は無い。

走り寄る俺に気付き、チンピラがにやりと汚い笑みを浮かべ、導火線に火をつけた。

 

くそ!間に合わない!!

 

そう思った瞬間、俺は大砲の射線上に立ち塞がっていた。

爆音が鳴り響くと同時に、腰を落とし、足場を固め、体の回転とともに刀を抜き打つ。

 

キュウマ直伝の『居合い斬り』だ。

 

凄まじい衝撃を右手に感じると共に、金属同士がぶつかる高い音が響く。

 

真っ二つになった砲弾が俺の左右に落ちた時には、俺は再び走り出していた。

 

二発目が撃たれる前にチンピラの所へ着いた俺は、

チンピラが慌てて次弾を装填した大砲に刀を突っ込む。

 

「……撃ってみるか?」

 

不敵な笑みで挑発する俺に、チンピラは苦々しい表情で「化け物め!」と吐き捨て、

森の中へと逃げて行った。

 

戦っていた者も、観戦していた者も、突然の大砲の音に動きを止めて呆然としてたが、

状況を把握して動き始めた。

 

「……つまらん邪魔が入ったな。

 決着をつけるのは、またの機会に取っておくとしよう。」

「……そうですね。それじゃ、また今度という事で。」

「総員撤退!大砲の回収を忘れるな!」

 

アズリアの号令で、帝国兵たちが互いに肩を貸し合い引き上げて行く。

その様子をぼんやりと眺めながら、無性に疲れを感じた俺はその場に座り込んだ。

 

何やら慌てたように、こっちに向かって走って来るアティたちを視界に収めながら、

俺は気持ち良い風に身を任せた。

 

 

 

 

 






(-ω-)/ やあ!一話の文字数を5000字くらいにしたいとは思ってるよ!

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