昨日は戦闘よりも、その後の方が大変だった気がする。
俺も大砲の前に立ち塞がったのは無茶だったと思うけど、
ミユに泣きつかれた状態の俺をみんなで叱るのは勘弁して欲しい。
あれは辛い。ホンット辛い。
でも、もっと辛かったのは、アティのお説教。
みんなのお説教が終わった後、
半分泣きながら俺を叱り続けるアティは酷く脆くて、今にも壊れそうで、
いつの間にか俺は「泣かないで。」と囁きながらアティを抱きしめ、慰めていた。
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「はー、どうすっかな~?」
俺は船室のベットの上で寝ころんだまま、深い溜め息を吐いた。
原因は脇に立て掛けてある刀。
借り物だったのに、昨日した無茶のせいで刃がぼろぼろになってしまった。
キュウマに謝ったら「元々予備ですし、気になさらなくても結構ですよ。」と言ってくれたが、
俺の得物が無くなった事に変わりはない。
「……仕方ない。メイメイの店に行くか。」
「……アキラ、どっか行くんか?」
俺の横で丸くなって、うとうとしていたミユが、目を擦りながら起き上がる。
俺も上半身を起こし、ちょっとだけ乱れたミユの白い綺麗な髪を手で梳いてやりながら微笑む。
「うん。実はまだミユに会わせてない住人が居るんだ。
これから、その人の所に行こうかと思って。」
気持ち良さそうに目を細めていたミユは、俺の言葉に可愛らしく首を傾げる。
「何でこの前行かへんかったん?」
その言葉に俺は少し表情をしかめる。
「行くのはいいんだけど……面倒臭いんだ。」
「は?」
「行く度にそいつに酒をせびられるんだよ。
まあ、それはいいんだけど、酒を手に入れるにはジャキーニの畑仕事を手伝わなきゃいけない。
それが凄く面倒臭い。」
また溜め息を吐きそうだ。
でも、やらなきゃ何も変わらない。
待っていても刀が降ってくる訳じゃない。
結局、自分でやるしかないんだ。
「よし!じゃあ行くか!」
「うん。」
気合を入れなおして船を出ると、たまたまスカーレルに出会ったので、
刀を手に入れに行く事を告げ、俺たちはユクレスへと足を進めた。
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森の中にぽつんとある赤い中華風の店。
いや、シルターン風の店か。
とにかく、俺たちはいつも酒臭いその店へと入っていく。
むせ返るような酒の臭いにミユが眉をしかめるのを見て、
今度から連れて来るのは止そうと思いながら、店の中を見渡す。
「メイメーイ、居るかー?」
カウンターには誰も居らず、俺が店の奥に声をかけると、
顔を赤くしたメイメイがふらふらと出て来た。
「あら、いらっしゃーい。アキラが来るなんて久しぶりじゃな~い?」
「会う度に酒を要求しなきゃ、毎日だって来てやるよ。
それより今日は二つ用事が有るんだ。
まず、俺の隣に居るのが―――。」
ミユを紹介しようとして目を向けると、そこには目を丸くして口を開けた、
いかにも驚いてますって感じのミユが居た。
「……ミユ?」
「あーー!!龍「にゃーーーーーー!!!!!」
ぐわ、み・耳が!
メイメイが、何か言いかけたミユを遮って上げた大声のせいで耳鳴りがする。
俺は咄嗟に抑えた耳から恐る恐る手を離し、メイメイを睨み付ける。
「何だよ、メイメイ?いきなり大声上げて。」
「にゃは、にゃはははは!何でもない!何でもないわよ~。」
怪しい。
とんでもなく怪しい。
さっきから目を合わせようとしないし、暑くもないのに止まらない汗が更に疑惑を深める。
ここはミユに聞いてみるか。
「なあ、ミユ。メイメイと知り合いなのか?」
「え、えっと……それは、その……。」
「あーっと!そ、そんな事より何か用事が有ったんじゃないの!?」
俺の問いかけにミユがしどろもどろになると、メイメイはわざとらしく話を逸らしにかかる。
……どうも相当知られたく無いみたいだし、これ以上は可哀想かな。
「あ~、うん。この子はちょっと前に俺の護衛獣になったミユ。
ミユ、この島で唯一のお店を開いてるメイメイだ。」
「ミユ、言います。よろしゅう。」
「あ~、よろしくね~。にゃは、にゃははは。」
やっぱり、おかしい。
メイメイはいつも通りだけど、ミユが何故か畏まってる。
ひょっとして、メイメイってお偉いさん?
「それでアキラ、もう用事はおしまいかしら?」
「え?あ、いや。実は刀が欲しいんだ。前のは、こんなになっちゃって。」
俺はメイメイの前にぼろぼろになった刀を差し出した。
メイメイは刀を鞘から抜き刃を見ると、呆れた表情をつくった。
「ありゃまあ。よくこんなにぼろぼろに出来るわねぇ。
……まあいいわ。今、アキラに合う刀を持ってきてあげる。」
メイメイは再び店の奥に引き込むと、しばらくしてから一振りの刀を持って現れた。
「コレなんかど~お?結構な業物よ~?」
俺は手渡された刀を抜き、じっくりと眺めてからにやりと笑う。
特に刃物に詳しい訳じゃ無いし、こいつが業物かどうかなんてさっぱり判らないけど、
こいつには何だか心惹かれるものがある。
「うん、気に入った。これにする。」
「毎度あり~。お値段の方は―――。」
メイメイが刀の値段を言おうとしたのを遮るように、カウンターにどんッと『龍殺し』を置く。
「これで良いだろ?」
にっこりと爽やかスマイルで言ってみたが、メイメイは人差し指を振って得意げに拒絶する。
「あ~、ダメダメ。言ったでしょう?この刀は業物なの!
『龍殺し』の一本や二本じゃ―――。」
またしてもメイメイの言葉を遮るように、どんッと二本目をカウンターに置いてみる。
「い、一本や二本じゃ―――。」
明らかに心が揺れだしたメイメイの前に、駄目押しの三本目をどんッと差し出す。
「……きゃーー!今からその刀は貴方のモ・ノ!!
持ってけドロボー!にゃははははは!」
酒瓶を抱きしめ頬擦りするメイメイを見て、俺はにやりと笑うと刀を手に取る。
「じゃ、遠慮なく。行くぞ、ミユ。」
メイメイの狂態っぷりを見て呆然とするミユの手を引き、俺は店を後にした。
既に店の中ではたった一人の酒宴が、それはもう賑やかに行われている事だろう。
俺も別に酒は嫌いじゃないが、メイメイのペースには付いていけない。
何より今はミユも居る事だし、真っ直ぐ船に戻る事にした。
そして船に戻ってきた俺たちを迎えたのは、放火事件の報せだった。
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集落が放火されたゆー話を聞いた日の夜、いつものようにアキラと寝とったら、
月が高く昇った頃に、アキラがこっそり部屋から出て行こうとする気配に目が覚めた。
「どこ行くんや、アキラ?」
「え!?あ、え~と……トイレに。」
めっちゃ動揺しとる。
まさかウチを置いて他の女のトコへ行くつもりやあらへんやろな?
「ど・こ・へ・行くんや?」
声を強してもう一遍聞いてみると、はーっと重い溜め息を吐いた。
どうやら観念したみたいやな。
「……ちょっとラトリクスまで。」
あの機械娘のトコに行く気か!?
そうはさせへんで!
「もう遅いし、明日にしたらええやん?」
「あ~、いや……明日はちょっと。」
何や!?夜に行ってあの機械娘と何する気なんや!?
……させへん!させへんで!こーなったら断固阻止や!
「ウチも行く!それとも、ウチが一緒やったら何か困るんか!?」
「あ、いや、ミユも今日は疲れたろ?ゆっくり寝た方がいいんじゃないか?」
……意地でも付いてったる!
けど、アキラは一筋縄ではいかんし、ココは小技を使わんとな。
「い・や・や!何でウチを置いて行こうとするんや?
……ウチは、アキラの護衛獣ちゃうんか?」
最後の方で顔を伏せて、声を震わせる。
コレでアキラには泣いてるように見える筈や。
「分かった!分かったから。……泣かないで、ミユ。」
アキラは慌ててウチに近づくと、今にも泣きそうな声でウチを慰めて、優しく頭を撫でてくれた。
うっ……とりあえず付いて行くのは成功やけど、ウチの良心に大打撃や。
今度からは使わんようにしよ。
それにしても、優しいんはアキラのええトコやけど、
こんなに簡単にひっかかるやなんて……心配やわ。
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夜。
明日の計画を推敲している時に、あの男が護衛獣と共に訪ねて来た。
来るとは思ってたけど、こんな時間に来るなんて……。
まさか、今、仕掛けて来る気なのか?
「……こんな夜中に何か御用ですか、アキラさん?」
「ええ、少しイスラさんに聞きたい事が有りまして。
…………集落に火をつけたのは、お前か?」
怖い。
細められた蒼い瞳が、表情のない顔が、冷たさしか感じない声が。
いつかの夜と同じように、凄まじい威圧感が僕にのしかかって来る。
いや、あの夜以上の威圧感が。
強すぎる威圧感が、彼の後ろの護衛獣さえも震わせる。
……でも、今バレる訳にはいかない。
計画はもう始まっているんだ。
僕の望みの為には、コイツに殺される訳にはいかない。
何とか誤魔化さないと。
「……どうして僕だと思うんです?そんな事をして、僕に一体どんな利益が?」
「はっ、そんなセリフ吐いてる時点で、テメーが犯人なんだよ。
ここは泣いて否定する場面だぜ、お坊っちゃん?」
欠けた月のように歪んだ笑みが僕を捕らえる。
まるで数百という虫が背筋を這うような寒気が走る。
「く、くくく。何をそんなにビビってるんだ?
いくら閑散としているとはいえ、放火された場所は、
ユクレスみたいに森に密接した訳でもない村の中心近くだぞ?
知らない人間が入って来たら村人が真っ先に気付く筈だ。
それが無いって事は、やった奴は村に居てもおかしくない程度には顔見知り。
アティたちがやって無いとしたら、残りは?誰だろうな?」
……こいつは、一体何者なんだ?
仲間と居る時は馬鹿みたいにのほほんと笑っているくせに、
今は綺麗な顔に狂人のような禍々しい笑いを浮かべて、僕をじわじわと追い詰める。
まるで、別人だ。
「……アキラ。」
僕が何も言えずにいると、彼の後ろに控えていた護衛獣が主の名を呼んだ。
声につられてそっちを見ると、いつの間にか震えの止まった少女が、
主と同じように金の瞳に冷たい光を宿し、こっちを見ていた。
「コイツ、ココで始末付けるんか?」
ッ!!
まずい。
ただでさえ、奥の手を使わないと勝てるかどうかも分からないのに、
二人掛かりでこられたら……!
くっ、どうやってこの場を切り抜ける!?
「……いや、今は何もしない。」
護衛獣の声を聞いた途端、ヤツは狂笑を消し、人形のように無表情になって答えた。
何故、何もしないんだ?
もう何か手を打っているのか?
……だとしたら、何とか聞き出さないと。
「僕を捕まえなくていいのかい?
……後で後悔しても知らないよ?」
「お前は、まだ何もしてない。だから何もしない。
今日、来たのは最後の警告だ。
俺の、仲間に、手を出すな。
……じゃあな。」
「…………。」
言いたい事を言って、ヤツは踵を返し部屋から出ていく。
その後を護衛獣が付いて行くが、部屋から出る前にちらりと視線を送ってきた。
それはまるで、遙か高みから見下ろすような、
取るに足らないモノを見るような、無機質な瞳だった。
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機械だらけの集落を出て、月の光でちょっとは明るい森の中を帰っとったら、
今まで黙々と歩いてたアキラが突然立ち止まりよった。
「……は~。ごめんな、ミユ。怖い思いさせて。
俺、キレると時々訳分かんなくなるんだよ。
最近まではそれ程でも無かったんだけど……どっか悪いのかな、俺?
…………あんな嫌な事言ったの、初めてだよ。」
さっきまでの覇気がのうなって、まるで泣き笑いみたいな表情をしとる。
アキラには、そんな表情似合わへんのに。
……それにしても、何や勘違いしとるみたいやな。
「アキラ。ウチは何も怖がってへんで?」
「え?でも―――。」
「確かにちょっと驚いたけどな。それよりウチは嬉しかってんで?」
「嬉しい?」
「そや!アキラみたいに
シルターンで何て呼ぶか知っとる?
―――神様、言うんやで!!」
凄まじい力を持ち、神聖さと邪悪さを合わせ持つモノたち。
ウチらはソレらを神様ゆーとる。
紅毛女と女隊長を諭した時の神聖さ、そして今日見せた全てを破壊しつくす様な邪悪さ。
まるで、アキラは神様そのものや。
そう考えると色々合点がいくわ。
ウチが稲荷に生まれたんも、巫女になったんも、どの社に仕える気にならんかったんも、
ぜ~んぶアキラに会う為やったんや!
アキラ言う、たった一人の、ウチだけの神様に仕える為やったんや!
コレが運命、言うやつなんやな!!
(-ω-)/ やあ!謎がモリモリだね!