「―――って、和んでる場合じゃないわよー!!?」
雨上がりの空に、突然アルディラの絶叫が響き渡る。
戦闘が終わり、アキラにもいつもの優しい笑みが戻った事で、
張り詰めさせていた緊張を解いていた一同は、驚き飛び上がる。
アキラも、その声の余りの大きさに耳を塞いだが、怪訝そうな表情でアルディラに尋ねる。
「急にどうしたんだよ?」
「どうしたも、こうしたも無いわよ!剣よ剣!!
シャルトスを持って行かれちゃったじゃない!」
アルディラの指摘に、一同の声が揃った。
「「「「「「……あっ。」」」」」」
互いに顔を見合って呆然とする仲間たちに、アルディラがヒステリックに詰め寄る。
「『あっ』じゃないわよ!『あっ』じゃ!!どうするのよ!?」
アルディラの凄まじい剣幕に、しどろもどろになっている仲間たちに代わり、
アキラが緩い笑顔で答える。
「まあまあ、獲られた物は仕方ないって。それより少し落ち着こうぜ?」
一瞬、アキラの言葉と雰囲気に気を抜きそうになりながらも、
アルディラは頭を振ってボルテージを取り戻すと、再び声を荒げようとして、
続くアキラの言葉に声を失った。
「それにさ、召喚すれば良いじゃん。」
「……は?」
「だからー、アティが剣を喚べば取り返せるんじゃないの?」
間。
そして、アキラの提案に一同が成る程と頷くと、アティが一歩前に進み出る。
「じゃあ、やってみますね?」
帝国に要求された時とは違い、今度はアキラ自身が剣を喚ぶ事を提案した事と、
先程の召喚でも何の影響も無かったらしい事から、
アティは気負いのない笑顔でそう言うと、右手を空に翳す。
みんなの見守る中、いつものように剣をイメージして集中力を高めていく。
アティの額に汗が浮かび、それが玉のようになった時、
目映い碧の光と共に空間が砕けるような音が響き、アティの手に剣が現れる。
しかし、疲労の為にアティの集中力は切れ、剣はすぐに消えてしまう。
そのまま倒れそうになるアティを、アキラが抱き止める。
「大丈夫か、アティ?」
「……大丈夫、です。」
心配そうに声をかけたアキラに、その腕の中のアティは荒い息を吐きながら答える。
全く大丈夫そうには見えないのに、みんなに心配をかけまいと、
元気に振る舞おうとするアティにアキラは苦笑を浮かべる。
「……仕方ないなぁ。よいしょ!」
オヤジ臭いかけ声と共に、アキラはアティの膝の裏に手を通し、肩を抱くと、一気に持ち上げた。
俗に言う『お姫様抱っこ』をされ、本人と周りが騒ぐ。
「あ、アキラさん!?私は大丈夫ですから、下ろして下さい!」
「アキラ!本人がそう言っとるんや、下ろしたり!」
「ぶーぶー!先生ばっかりズルイ!アタシも疲れたよ~、アキラ。」
「アキラ様、看護なら私がします。」
「アキラ!わらわも……ではない、軽々しく女子の体に触れるでない!」
「マルルゥもアキラさんに乗りたいですよ~。」
腕の中でもがくアティと、傍で飛び跳ねるミユ、
そして周りを取り囲んで騒ぐ女性陣に、アキラは溜め息を吐く。
「あ~、はいはい。一度に言われても判りませーん。
ていうか、アティ。本当に大丈夫なら俺を押し退けられる筈だろ?」
「で、でも、これはちょっと恥ずかしいです。
それにアキラさんだって疲れてるでしょう?」
「せや!何もアキラが運ぶ事あらへん!」
投げ遣りな対応に、一斉にブーイングを上げる女性陣をさらりと無視して、
アティとミユの言葉に、アキラは空を見上げて少し考えた後、へらりと軽い笑みを浮かべる。
「ん~、でもまあ、アティがこんな風になったのは、
提案した俺の責任みたいな物だし?
これくらい平気、平気。」
そう言ってすたすたと船に向かって歩き始めてしまう。
結局、船に着くまでアティが下ろされる事はなく、ミユのやっかみが止む事も無かった。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
眠い~。
やっぱり怒るのは体力使うな~。
俺、普段はあんまり怒らないしな~。
ミユは朝からどっか行っちゃったし、今日は一日ユクレスで昼寝しよ~……。
「おーい、みんな!アキラさんが『青空相談室』開いてるぞー!」
って、おい!
どうしてみんな、俺がユクレスで寝ようとすると寄って来るんだ!?
そもそも青空相談室って何だ!?
「アキラさん、聞いてー。」
「聞いて下さいよ、アキラさーん。」
「俺もー。」
「私もー。」
ぐわっ!?いつの間にこんなに集まったんだ!?
ふ、ふふふ……。
上等だちくしょー!みんな纏めてかかってきやがれ!!
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
お、おお……次で最後だな。
まったく……喧嘩の仲裁や悩み事なら分かるけど、何で作物の発育状況なんて報告に来るかな?
みんな暇なのか?
「あの、アキラさん?」
「ん?ああ、ごめん。今回はどうした、シアリィ?
また、人間について聞きたいのか?」
向かい合うようにしてユクレスの根に腰を下ろしているシアリィに話しかけられ、
考え事を中断して顔を合わせる。
シアリィは人間に興味があるらしく、前からよく話しかけられてた。
その度に俺は、ちょっとこの世界とは違うけど、と前置きをして俺の世界の話をしていた。
ところが今日は違うらしい。
「あ、いえ、違うんです!
今日は、その……ある人と……えっと……仲良く、
なりたいんですけど、どうしたら良いのか判らなくて……。」
頬を赤く染めて、詰まりながら必死に説明しようとするシアリィは可愛いけど……。
う~ん、恋の悩みか……難しいな。
「仲良くしたい人が誰か、教えてくれるか?」
「え!?それは、その……。」
「相手が誰か判らないと、俺には一般論的な事しか言えないよ?
大丈夫。誰にも言ったりしないから。」
少しでも信用して貰えるように、シアリィに柔らかく微笑みかける。
シアリィは赤い顔を更に紅くして、呟くように相手の名前を教えてくれた。
「オ、オウキーニ、さん……です///」
うんうん。
やっぱり好きな人の名前を他人に教えるのは、恥ずかしいよな。
う~ん。でも、オウキーニか~。
食事を作りに村に来た時に知り合ったのかな?
だったら……。
「シアリィ、料理は好きか?」
「え?あ、はい。結構好きです。」
「よし。なら、話は簡単だ。
今度オウキーニが料理に来てくれた時に、作り方とか聞いてみな?
きっと仲良くなれるから。」
そう言って、励ますように再び微笑みかけると、シアリィも嬉しそうに笑って、
何度も頭を下げて礼を言いながら帰って行った。
は~。それにしても自分の恋すらままならないのに、
恋のキューピッド役をする事になるとは……。
俺が軽く苦笑を浮かべると、すぐ傍から声をかけられた。
「お疲れ様です、アキラさん。」
「アティか。体はもう良いのか?」
その声に顔を上げると、アティがにこやかに俺の傍に立っていた。
いつから居たのか気付かなかったが、特に驚く事も無く尋ね返すと、
アティは木の根に腰を下ろしながら答えてくれた。
「はい、健康そのものです。
寝過ぎちゃった位で、体慣らしに散歩してたんですけど、
村の人たちにアキラさんが相談室をやってるって聞いて、見に来たんです。」
「はは、好きでやってた訳じゃ無いけどな……。」
俺が乾いた笑みを漏らすと、アティは困ったような表情になり、言い淀んだ。
そこで目だけで何事かと問いかけると、アティは申し訳無さそうに口を開いた。
「えっと、実は相談したい事があったんですけど……。
アキラさん、疲れてるみたいですし、また今度にしますね。」
「ちょ~っと、待った!」
言うだけ言って、足早に立ち去ろうとするアティを、マントを掴む事で何とか引き止めると、
俺は強引にアティをもう一度木の根に座らせた。
できるだけ真摯に見えるように努めながら、アティの瞳を覗いて語りかける。
「前にも言ったろ?
『俺じゃ、愚痴を聞いてあげる位しか出来ないかもしれないけど、
それで良ければいつでも聞いてあげる』って。
『アティが何か悩んでる時は、いつでも相談に乗る』ってさ。
だからさ、言ってみなよ?」
「アキラさん……。」
俺の言葉に、アティは安心した様な、嬉しそうな笑顔を見せた後、
俯いて少し考えると、意を決した様に顔を上げて話し出した。
「あの!実は、私……ッ!!
ミユちゃんに嫌われている様な気がするんです!!」
「……は?」
深刻そうな顔をしてたから、
てっきり剣の事やアズリアの事で悩んでるのかと思ったら……ミユの事かい。
……まあ、いいか。
難しい事ばっかり考えてるよりはマシだろ。
あ~、う~ん、でもなあ……。
ミユのあれは、アティが嫌いって訳じゃなくて、リィンバウムの人間が嫌いなんだよな。
正確に言うと、リィンバウムの召喚士が、だろうけど。
「あ~、アティ。ミユは別にお前の事が嫌いって訳じゃないと思うぞ。」
「そうですか?それにしてはミユちゃん、私と喋ってくれないし、
避けられてる様なきがするんですけど……。」
不安そうな表情をするアティを見て、何か上手い言い方は無いかと考えを巡らせて見るが、
いい考えが浮かばなかったので、ストレートにいく事にした。
「だったらさ、直接聞いてみればいいよ。」
「え?ミユちゃんに直接、ですか?」
「そう。ミユは今朝からどっか出かけちゃったから、
探すついでに散歩も兼ねて聞きに行こうか?」
躊躇いを見せるアティに、笑顔で更に一押しする。
すると、アティはぽへっと気の抜けた顔を見せて呟いた。
「……付いて来て、くれるんですか?」
「勿論!俺が言い出した事だしな。」
「じゃあ、行ってみます!」
力強く肯いた俺の言葉に意欲が湧いたのか、アティは笑顔で返事をする。
俺は根から立ち上がるてアティに手を差し伸べた。
「よし!それじゃ、出発だ!」
「はい!」
結局その後、俺たちはミユを見つける事ができなくて、午後いっぱい島を散歩して過ごした。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
今日のウチは、いつもとちゃうで。
何せアキラより早起きして、一人で出かけとるんやからな!
……まあ、アキラと離れんのは不本意やけど、
ウチとアキラの幸せな未来の為に、今日はちょっと敵情視察や。
まずは、
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
「え?アキラさんの事ですか???」
「そや。どない思ってるんや?」
ふわふわと花畑の上を飛んどった、ちみっこを見つけて聞いてみる。
まあ、ウチの相手にはならへん思うけど、いっつもアキラの周りをチョロチョロしとるからな。
念の為や。
「マルルゥはアキラさんの事、大好きですよ!
いっつも、にこにこしてて、とっても優しいですから。」
……やっぱりちみっこは相手にならんな。
そんな子供の『好き』なんか論外や。
「だからマルルゥ、大きくなったらアキラさんのお嫁さんになるのですよ!」
「なっ!?あかん!そんなん、あかんに決まってるやろ!?
アキラと結婚するんはウチや!」
いきなり何言い出すねん、このちみっこは!?
まったく……油断も隙もあらへんわ。
「じゃあ狐さんも一緒に、三人仲良く結婚するですよー。」
「アホ!三人で結婚できる訳ないやろ!?
せやからアンタは諦め。」
「えー?嫌ですよぅ。狐さんこそ諦めて下さい。」
「何やて~!言うても解らんちみっこは~……こうや!」
「うひゃ~!?」
ちみっこに飛びかかって、花畑をアッチコッチ追いかけ回したった。
コレでちみっこは「おっけー」やろ。
次は……あの
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
「おや?貴女が一人で私の所に来るなんて珍しいですね、狐のお嬢さん?」
「ウチの名前はミユや!ちゃんと覚えとかんかい!」
「おや、これは失礼。」
……?
何やいつもと違うな?コレやったらまるっきり普通の兄ちゃんや。
まあ、ええわ。釘だけ刺して、早よ帰ろ。
「こら、変態。」
「なっ!?誰が変態ですか、誰が!」
「アンタや、ア・ン・タ!
……ウチのアキラにちょっかいかけるの止めてくれるか?」
気分的には見下ろして睨み効かせたてやりたいトコやけど、
変態のくせに背だけは高いから、どうしても見上げる形になってまう。
まあ、ガン飛ばすだけで我慢したろ。
変態はウチの睨みにも怯まず、眉を逆立てて睨み返してきよった。
「ちょっかいとは心外ですね?
私は全身全霊でアキラさんのお役に立とうとしているのに。」
それで何でアキラの体にべたべた触る必要があるねん、この変態!
「……ええからアキラに近づくんやない!」
「何ですって!?
あの方の魂の輝きは我々にとって、至上の美酒、妙なる雅楽だと言うのに……っ。
それを取り上げようと言うのですか!?」
ああ、成る程な。
コイツがアキラの前でおかしなるんは、魂の輝きとやらで酔っとるからなんか。
……って、あかんやん!
元から何するか解らんヤツやのに、酔っとったら余計危ないやんか!
「もうアンタはアキラに近づくんは禁止や、禁止!」
「理不尽です!護衛獣の貴女に何の権限があって……」
「そや!ウチはアキラの護衛獣。ウチのモンは全部アキラのモンや。
せやったらアキラのモンは全部ウチのモンや!」
ウチは身も心もアキラのモンなんやから、アキラもウチのモンで当然や!
「何て傲慢な……っ!」
「そういう訳やから、アキラに近づくなや!」
言い捨ててウチは次の集落に向けて走り出した。
後ろで何や言うてるけど、「のーぷろぶれむ」や。
それに、あんな変態に構っとったら日が暮れるわ。
さて、次は……
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
「ん、何じゃ?お主一人か?アキラはどうした?」
で、会った早々それかい!
どいつもこいつも同じような反応しよって……。
誰がお前らなんかにアキラを会わせるねん!
「今日はアンタに言いたい事があって来たんや。」
「ん?何じゃ?」
「人妻で子供までおるくせに、アキラにちょっかいかけるんやない!」
ビシッと指を突きつけて言うたった。
大体、生涯の伴侶を決めた奴が、他の男に手を出そうとするトコから間違ってんねや。
しかもガキまでおるくせに!
「確かにわらわは人妻じゃが、連れ添いは既に亡い。何の問題も無かろう?
スバルの事とて、アキラは気に入ってくれておるしな。」
くっ、何て厚い面の皮なんや!
コレが年の功ゆーヤツか。
せやけどウチは負けんで!
「ふん、まあええわ。今日は一言言いに来ただけやからな。
ええか!アキラには指一本手出しさせへんからな!」
もう一度ビシッと指さし捨て台詞を決めて、呆然としてるこぶ付きを放って、
次の集落に向けて「だっしゅ」した。
後ろで笑い声が聞こえたけど、今は我慢や。
コレ以上時間かけたら暗なってアキラに心配かけてまう。
次は強敵の
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
「何のご用でしょう?」
……相変わらず愛想の無い娘やな。
まあ、ええわ。それよりさっそく確認しよか。
「ちょっと聞きたい事があるんや。アンタ、アキラの事どない思てるん?」
「質問の意図が解りかねます。」
即答かい!
分からへんにしても、ちょっとくらい考えるやろ普通!
「……あ~、つまりやな、アキラの事が好きなんか?って聞きたいんや。」
「『好き』とは、どのようなモノなのですか?」
な、なんやて~!?そんなんも解らへんのかい!?
う~、この娘の行動は、どー見てもアキラに惚れとると思ったんやけどなぁ?
……ん?
ちゅー事は、この娘はウチの敵にならへんって事やな。
よっしゃ!「らいばる」が一人減ったな!
「ミユ様?」
「ん?ああ、せやな~……『好き』言うんは、ソイツの事しか考えられへん、
言う事かな。」
「その人の事しか、考えられない……。」
「まあ、そんな感じや。ほな、邪魔したな!」
何や考え込んどる機械娘は放っとくとして、コレで全部釘差し終わったな。
仕方ないとはいえ、一日中アキラに会えんなってもたわ。
早よ帰ってアキラに甘えよ!
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
はー、やっと船まで戻ってこれたわ。
ぎりぎりで陽が沈む前やな。
ん?船の前に居る人影は……。
「アキラ!!」
名前を呼びながら、その腕の中に飛び込む。
アキラはまるで、ウチが飛び込む事を分かっとったみたいに、その腕で抱きとめてくれる。
く~っ、やっぱアキラの腕の中は気持ちエエわ。
「ミユ!一日中どこに行ってたんだ?心配したぞ。」
ちょっと怒った声に謝ろ思て顔を上げたら、声がのうなってしもた。
いつもは静かに光っとる銀の髪が、夕陽を浴びて紅く艶めかしく輝く。
どこまでも紅い空の背景に、深い蒼の瞳が映える。
……綺麗や。今まで見てきたどんなモンより。
「……ミユ?」
「あ?ああ、今日は集落回って、みんなと話しとったんや。」
ウチの答えにアキラが怪訝な顔をしとると、船から
「あ、ミユちゃん!やっと会えましたね、アキラさん。」
「ああ。アティ、あの話はどうする?」
「今日はもう遅いので、また明日、という事で。」
「そうだな。」
な、何や!?
ウチが居らへん間に何かあったんか!?
紅毛は学校やら何やらで、「のーまーく」でええと思たのに!
くっ、もう二度とアキラを一人になんかせえへんで!!
「覚えとけや、紅毛!」
「え?ええ???」
(-ω-)/ やあ!話は進まないよ!