どこまでも青く澄み渡る空の下、穏やかな風が吹き抜ける森で、
喚起の門を前にして護人たちが間の抜けた顔でお互いを見つめていた。
目の前にはいつも通りの喚起の門。
目の下には喚ばれたばかりの横たえられた青年。
偶にあるように、ただ召喚されただけなら問題なかった。
知性があれば迎え入れ、そうでなければ自然に野生へと帰った。
しかし、今回の召喚は異常の一言に尽きる。
どんな召喚をすれば、あのような事態が起きると言うのか。
皆が何を言えばいいのか分からず口を閉ざしていたが、
やがてヤッファが溜息の様に一言声を出す。
「……おい、どうするよ?」
「どうするって言われても、ね……。」
当然誰も問い掛けに答える事は出来ず、その心情をアルディラが代弁する。
声には力が無く、途方にくれているのがありありと分かった。
そこへ忍びとしての自制心でも働いたのか、キュウマが提案を出す。
「とりあえず、現状の把握から行いませんか?」
「……ソウダナ。」
ファルゼンの言葉と共に他の者が肯くのを見て、キュウマが切り出す。
「まず、我々が何故都合良くここに揃っているかですが……おそらく同じような理由でしょう。」
「そうね、みんな何かしらの異変を感知した、という処でしょうね。」
キュウマの後をアルディラが続け、ヤッファが引き取る。
「お次はあのニィちゃんが、どこの世界から召喚されたかだが……まあ、亜人ではなさそうだな。」
「……融機人、でもないわね。」
「あすとらるぼでぃデモ、ナイ。」
「シルターンの人間にしては着ている物が妙ですし……。」
四人が四人とも否定した為、場が一瞬沈黙に包まれるが、不意に四人の声が揃う。
「「「「名も無き世界」」」」
その一言の後、再び沈黙が場を支配する。
他の四つの世界と違い、名も無き世界はリィンバウムとの関わりが無いに等しい。
その為、名も無き世界の人間は“召喚”という概念を知らない。
いきなり自分は召喚されたのだと言われても納得できず、
ここが別の世界だという事も、そう簡単には受け入れられない。
それが『還れない』となれば、尚更だろう。
幾度となく繰り返される召喚で、ヒトは皆、悲嘆に暮れた。
突然の愛しい人達との別れに。
思い出の残る故郷との別れに。
召喚のある四つの世界ならば、“はぐれ”になってしまったのだといくらかの理解はできた。
時間はかかっても四つの集落のいずれかに落ち着いた。
しかし名も無き世界の者には分からない。
現実に召喚なんて事が起きる事が理解できない。
はぐれという存在を知らない。
還れないという事が納得できない。
結果的に、名も無き世界からの召喚者は悲しい結末を迎えることが多い。
その為、護人達の雰囲気は重い物になる。
やがてヤッファが気を取り直したように軽く話を振る。
「で、どこの集落で引き取るんだ?」
その言葉に敏感に反応したのは、今まで会話に加わっていなかった護人のパートナーたち四人。
互いの反応を見て、同じ事を考えているのが判ったのか、目線で牽制し合う。
その一瞬の拮抗を崩しにかかったのは鬼姫ミスミ。
「オホン!……この者は風雷の郷で預かろう。」
当然それに反発したのは残りの三人。
「だめですよ~!ねむねむさんは、マルルゥと一緒に行くのです!」
「そうです!ユクレスに行くかどうかはともかく、私も反対です!」
「拒否いたします。」
マルルゥ、フレイズ、果てはクノンにまで強硬に反対され、
流石のミスミもたじろいて一歩引いてしまう。
そこへ、パートナーたちのあまりの気合の入り方に固まっていた護人たちが我に返り、
口を挟む。
***
「お・おい、マルルゥ?」
「シマシマさんは黙ってて下さいなのです!」
「お・おう……。」
ヤッファはマルルゥのかつてない迫力に押され
***
「ドウシタノダ、ふれいず?」
「どうもこうも在りませんよ、ファルゼンさま。彼の魂の輝きを見て下さい!
……ああ、何て美しいんだ!」
「……。」
ファルゼンはフレイズの暴走っぷりについて行けず
***
「ミ・ミスミさま?どうされたのです?」
「いや、その……何じゃ……。」
「……?」
キュウマは珍しく狼狽えるミスミに首を傾げ
***
「貴方までどうしたの、クノン?」
「………分かりません。」
「……ふぅ。」
アルディラはクノンの要領を得ない回答に、溜息を吐く事しかできない。
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一向に進展しないパートナー同士の会話で、風雷組に変化が訪れる。
「そ・そうじゃ!郷にはご老体が居られるではないか。」
名案とばかりに喜ぶミスミに尚も首を傾げつつ、キュウマも相づちを打つ。
「そう言われれば、あの方も“名も無き世界”から喚ばれたのでしたね。」
キュウマの言葉を受け、俄然ミスミが勢いづく。
「うむ、その通りじゃ!であれば、同郷の者が居った方がこの者も安心というものじゃ。」
そう言い放つと、周りの者をぐるりと眺めてからミスミが宣言する。
「そういう訳で、この者は風雷の郷で預かる事とする。よいな?」
勝ったとばかりに満面の笑顔で宣言するミスミに、またもクノンが食い下がる。
「賛成しかねます。」
「な・何故じゃ!?」
一番あり得そうにない者からの反対に、ミスミが問い返す。
「……この方は現在、原因不明の昏睡状態にあります。
万一の為にも、設備の整っているラトリクスで検査する必要があると、判断します。」
理由を述べるのに少し間が空いたが、クノンの説明に反論する点も見当たらず、全員が沈黙する。
それを確認し、クノンは青年をラトリクスに運ぶ為抱き上げようとするが、
ミスミが間に入り邪魔をする。
「そなたには重かろう?わらわがラトリクスまで運ぶとしよう。」
そう言って青年に近づくのを、今度はフレイズが邪魔をする。
「レディにそんな事をさせる訳にはいきません。ここは私が。」
そこにマルルゥが飛んでくるが―――
「マルルゥが……」
「「「あなた(そなた)には無理です(じゃ)!」」」
「あう……。」
三人に切り捨てられてしまう。
そして尚も言い募ろうとしていたフレイズとミスミを尻目に、
クノンが青年を抱き上げ、二人に向かって淡々と述べる。
「私は従軍看護用フラーゼンです。成年男性二人までなら何の問題もなく運べます。」
クノンが運べるのであれば、他の者が運ぶのはかえって二度手間になってしまう。
二人は悔しそうな表情を浮かべながらも、渋々引き下がった。
そこでクノンは、アルディラにラトリクスに帰る事を提案する。
「アルディラ様、検査は早急に執り行う必要があります。」
「え……ああ、そうね。とりあえずこの人はラトリクスで預かるわ。
目が覚めたらまた連絡するから。それじゃ。」
一瞬、呆然としたアルディラだったが、
直ぐに気を取り直し言うべき事を言うとクノンと歩き去った。
そしてその場に残された三組は
***
「……ふれいず?」
「申し訳ありません、ファルゼンさま。私の力が至らぬばかりに彼を奪われてしまい……。」
「……。」
フレイズの考えに最早ぐぅの音も出ないファルゼン。
***
「ミスミさま、あの者が何か?」
「ええい、何でも無いわ!」
「……?」
謂われのないミスミの怒りに首を傾げるキュウマ。
***
「ねむねむさ~ん……。」
「……マルルゥ、さっきから何だ?その‘ねむねむさん’ってのは……。」
「さっきあの人間さん言ってたじゃないですか、‘眠い’って。」
「……そんだけか?」
「はいですよ~。」
理屈の通じないマルルゥに振り回されるヤッファ。
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その日、喚起の門の前では、青年を連れ去ったラトリクス組の後姿を悔しそうに睨み付け、
その姿が見えなくなってからも、いつまでもその場を動こうとしないパートナーたちに困惑する護人たちの姿がしばらく見られたという。
(-ω-)/ やあ!自サイトの時とは少し修正してるよ!