黒の魔剣   作:暁 煌

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初めてのお休み

 

 

 

 

 

イスラの騒動があった翌々日。

アティが船外へ出てみると、船の持ち主であるカイル一家が集まっていた。

 

「え、休日ですか?」

 

話に加わった途端、カイルたちに言い渡された休みの話に、不思議そうにアティが聞き返す。

 

「うん。昨日みんなで話し合ってさ、決めたんだよ。

 明日一日を先生の自由時間にしようって。」

 

ソノラが嬉しそうにアティに答える。

 

「センセったら、ほっとくと際限なく働きまくるからねえ。

 こうでもしないと、自分の為に時間を使おうなんてしないでしょ?」

 

続くスカーレルに図星を指されながらも、アティは遠慮がちに断ろうとする。

 

「でも……。」

 

しかし、それもヤードがやんわりと押さえるように、休む事を再度奨める。

 

「偶には良いじゃありませんか。

 息抜きをする事で見えてくる物だって、きっとありますよ。」

 

そして他の発言を封じるように、カイルが声を大にして宣言する。

 

「ともかく、明日は煩わしい事を考えるのは禁止だ!

 面倒くせえ事はみんな俺らに任せて、思いっきり羽根を伸ばしてくんな?」

「は、はあ……。」

 

勢いに飲まれるように承諾の返事をしてしまったアティは、困ったような笑顔を浮かべる。

そして、少し離れた所で木箱を机代わりに、

召喚術の勉強をしているウィルとアキラを見付け、そちらへと歩み寄る。

当然、二人の傍にはそれぞれの護衛獣が居て、主と同じように本を覗き込んでいたので、

アティは横合いから話しかける事になった。

 

「……って、言われたのは良いんですけど。」

 

アティが先程告げられた休みの話をすると、二人からは肯定が返って来る。

 

「良いんじゃないですか?みんな、そうしろって言ってるんですから。」

「そうそう。アティは頑張り過ぎだよ。偶には休みなって。」

「ミャーッ!」

 

ウィル、アキラ、そしておそらくテコも、アティが休む事を奨める。

……ミユは、どうでもいいとばかりに欠伸をしていたが。

 

まだ何か躊躇っているようなアティに、ウィルが不思議そうに尋ねる。

 

「公認で休ませて貰えるなんて、滅多にない機会だと思いますけど?」

「そうなんです!それが問題なんですよ。」

 

ウィルの質問に、我が意を得たりとアティが握り拳を胸の前で作る。

訳が分からず首を傾げる二人に、アティが情けない笑いを浮かべる。

 

「お休みを貰うなんて久しぶりなので……、

 何をして過ごしたら良いのか、全然思いつかないんですよ。」

「「はあ!?(ミャ?)」」

 

予想もしなかったアティの言葉に、思わずアキラとウィル(ついでにテコ)の驚きの声が被る。

………ミユは小さな声で「アホやな。」と呟いていたが。

 

そこで、当然沸き起こってくる疑問をウィルが尋ねる。

 

「それじゃ貴女、今まで休日はどうやって過ごしていたんですか?」

「そうですねえ……。

 学生の頃は自習をするか、ぼんやりするかのどちらかでした……。」

 

アティは少し考え、学生時代の休みに何をしていたか思い出す。

そのあんまりな内容に、ウィルが質問を重ねる。

 

「趣味を持つとか、どこかに遊びに出かけたりとかは?」

「特にありませんねぇ。

 ほら?それに私は村のみんなに学費を出してもらって勉強してましたから、

 外に出て遊ぶのはどうしても気が引けちゃって……。

 滅多に遠出はしなかったんです。」

「……。」

 

アティの律儀な性格は解っていたつもりだったが、これ程とは思いも及ばず、

ウィルは言葉を無くす。

そこに、心底困ったといった感じでアティが尋ねてくる。

 

「でも、本当にそうなんですよ。どうしましょう?」

「知りませんよ!?そんな事、普通は自分で考えるものでしょうに……。」

 

呆れて物も言えない時に、更に呆れる事を言われて、ウィルはつい怒鳴ってしまう。

そしてその後に、疲れたように言葉を繋げた。

 

「フミュゥ……。」

「う~ん……。」

 

テコが心配そうに見守る中、アティは目を瞑って頭を捻る。

と、そこで、隣で面白そうに成り行きを見ている存在を思い出した。

 

「アキラさん。アキラさんは休みの日には何をしてたんですか?」

「俺?そうだな……弟妹たちと日向ぼっこしたり、散歩とか買い物に行ってたかな。」

 

元の世界を思い出し、楽しそうに、でもどこか寂しそうにアキラは微笑んだ。

その表情にミユは気遣うような瞳を向ける。

アキラは頭を撫でる事で、心配無いとミユに伝え、アティに目を向ける。

アティは考え事に集中していて、二人の様子には気付かなかったようで、

「そうですか……。」と呟いて頭を捻り続けていた。

 

「別にそんなに急がなくても、休みは明日だろ?ゆっくり考えればいいさ。」

「それもそうですね。ありがとうございます、アキラさん。」

 

放って置くと際限なく悩み続けそうなアティに、アキラがのほほんと譲歩案を出す。

その言葉に意識の底から浮上したアティは、にっこりと笑顔を浮かべてアキラにお礼を言うと、

今日の授業の準備をすべく船の中へと戻って行った。

どうやら何故休みを貰えたのかを、いまいち理解していないようである。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

 

みんなにお休みを貰ったのはいいんですけど……。

 

「結局、何も予定を決められないまま当日になっちゃったなぁ。」

 

でも、せっかく貰った休みを寝て過ごすっていうのも悪いですし……。

 

「とりあえず、まずは誰かに声をかけてみましょうか……。

 何をするにしても、誰かと一緒の方が楽しいでしょうし。

 うん、そうしましょう。」

 

そんな事をいいながら、私の頭には優しい笑顔をしたあの人が浮かびます。

アキラさんは……今日、暇でしょうか?

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

「で、いつの間にかこんな大所帯になってたりして。」

 

照れ隠しに、全員に声をかけたのは失敗だったかもしれません。

私が辺りを見渡して、その人数の多さに苦笑すると、

いつものようにミユちゃんを腕にぶら下げたアキラさんが、隣で楽しそう笑いました。

 

「それだけみんな、アティが好きなんだよ。な、ちびっ子たち!」

「こっそり出かけちゃうなんて、ズルいよ。」

「そうだ、そうだー!」

 

アキラさんに声をかけられ、パナシェくんとスバルくんが騒ぎだしてしまったのを、

両手を挙げて何とか押し止めます。

 

「はいはい……。みんな一緒に遊びに出かけましょう、ね?」

 

そう言って子供たちを宥めていると、アルディラとクノンさんがやって来て、

子供たちを引き取ってくれました。

 

「子供たちの事は私たちに任せて、貴女は好きなように過ごせばいいのよ。

 今日は貴女の為の休日なんですもの。ね?」

「特に、私はその目的の為に同行すると決めた訳ですから、遠慮などはしないで、

 どうぞご自由にお寛ぎ下さい。」

「ありがとう、アルディラ、クノンさん。」

 

二人の言葉に感謝して、頭を下げる。

そこへ、ヤッファさんの号令がかかりました。

 

「よーし、そんじゃあそろそろ出発するとしようかい?」

「いってらっしゃい。」

「後はアタシらに任せて、思いっきり楽しんできなさいよ。」

 

留守番組のヤードさんとスカーレルに笑顔で見送られ、元気に返事を返して出発します。

 

「はい、それじゃあ行ってきます!」

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

日が高く明るい森の中を、一行はヤッファを先頭に賑やかに歩いていく。

後ろの方で子供たちに囲まれ、引っ付かれたりよじ登られたりして苦笑するアキラや、

お喋りに花を咲かせる仲間たちの様子を見渡して、

アティが嬉しそうに隣にいたウィルに話しかける。

 

「何か、こうしてみんなと歩いているだけで、わくわくしてくる気がしますね。」

「先生、見てて分かる位はしゃいでますからね。」

 

珍しく浮かれた様子を見せるアティに、ウィルも嬉しそうに応じる。

アティは目を閉じ、ほんの少しの間、島に来てからの事を思い出し、

残念そうな声で誰ともなく問いかける。

 

「考えてみたら、みんなで集まるのはいつも戦いの時ぐらいで、

 こうやって、普通に集まった事なんか無いですよね?」

 

いつの間にかカイルと共に近くに来ていたソノラが、それに不思議そうに答える。

 

「そう言えば、そうだよね。」

「いい機会だし、今日は俺も連中と親睦を深める事にすっかな。」

 

アティとソノラの話を聞いていたカイルは、

過ぎた事は仕方ないとばかりに豪快に笑って、他の仲間たちの方へと歩み去る。

その大きな背中を見ながらアティは再び笑みを浮かべ、

ソノラに「そうですね、それじゃ私も。」と言い残して後方へと足を向けた。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

「アキラさん。」

「アティ!いいところに来てくれた。ちょっと助けてくれよ。」

 

私を見てぱっと顔を輝かせたアキラさんは、結構凄い状態でした。

右手はパナシェくんに掴まれて、背中はスバルくんに引っ付かれて、頭はマルルゥに乗られて、

その三人を左手にくっついていたミユちゃんが威嚇しているという状態。

 

これでここまで歩いて来るなんて、アキラさんはやっぱり凄いな~。

 

……って、感心してる場合じゃありませんでした!

子供たちを離さないと!

 

「ね、みんな。先生、アキラさんに大事な話があるの。ちょっと離れてくれる?」

「「「え~……。」」」

「お願い!」

 

口を揃えて渋る子供たちに軽く手を合わせてお願いしてみると、

名残惜しそうにしながらもアキラさんから離れてくれました。

ミユちゃんはそのままでしたけど。

 

「は~、助かったよ。アティ、ありがとう。」

「いえ、そんな……大した事じゃありませんから。」

 

にっこりと綺麗な笑顔で言われて、熱くなった顔を隠しながら応えます。

 

「それで大事な話って何、アティ?」

「え?え~、と……。」

 

困りました。

あれは子供たちを離れて貰う為の嘘だったんですけど、

今更そんな大事な話なんて無いとは言えませんし……。

 

あ、そうです!

 

「アキラさん、耳を貸してくれますか?」

 

秘密めかせて言ってみると、どことなく楽しそうにアキラさんは顔を近づけてくれました。

 

銀の髪が少し耳にかかった綺麗な横顔が、私の目の前にあります。

とても綺麗なその横顔に見惚れてしまっていると、

ミユちゃんの唸り声が聞こえて正気に戻りました。

 

両手を筒のようにしてアキラさんの耳に近づけ、ミユちゃんには聞こえないように囁きます。

 

「目的地に着いたら、この前のデートの続きをしませんか?」

 

アキラさんは一瞬驚いた表情をした後、笑顔で「いいね。」と言ってくれました。

でも、私たちのやり取りを見て、ミユちゃんが騒ぎだしました。

 

「何や?何の話や!?」

 

アキラさんは、そんなミユちゃんを見ながら少し考えて、私の方に視線を変えました。

 

「ん~、秘密?」

「はい!秘密です。」

 

更に騒ぎだしたミユちゃんには悪いですけど、何だか二人だけの秘密って感じで嬉しいです。

 

早く、目的地に着かないでしょうか?

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

海に程近い岩場に、色とりどりの花畑が広がっている。

アティたちが見惚れていると、岩場の亀裂から染み出した温水があちこちにプールを作り上げ、

多くの動植物にとって理想的な環境になっているのだと、クノンがみんなに説明してくれる。

 

その後、自由行動という事で、クノンが荷物番に残り、

他の者たちは思い思いの場所へと散っていった。

 

そんな中、アティを警戒してアキラにべったり引っ付いていたミユの目に、

アキラの周りを飛び回るマルルゥが映った。

目の前をマルルゥが通る度に、ミユの尻尾がうずうずと動く。

そして何度目かに通り過ぎた時、ミユが叫び声をあげた。

 

「―――あかん!もう我慢できん!!」

「うひゃああぁぁ!?」

 

その叫びと共にミユがマルルゥに飛びかかり、マルルゥは悲鳴を上げながらも何とか逃げ出す。

そのまま追いかけっこが始まってアキラが一人になると、アティがこっそりやって来て、

みんなに気付かれないようにアキラの手を引いて喧騒から抜け出した。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

「あはは、上手くいきましたね?」

「ホント。誰も気付かなかったな。」

 

二人は花畑から少し離れた、小高い丘の芝生に並んで寝転んでいた。

上からは下の様子が一望できるが、下からは立たない限り見つかる事は無い絶好の場所。

そこから、こっそり二人はみんなの様子を窺い、くすくすと笑う。

 

「みんな楽しそうですね。」

「そうだな。

 でも、今日はアティの為の休みなんだから、アティが一番楽しまないとダメだぞ?」

「ふふ、楽しんでますよ?

 みんな楽しそうですし、お日様はぽかぽかですし……。

 (それにアキラさんが隣に居てくれて)……私は今、凄く幸せです。」

「そっか。」

 

心からの笑みを見せるアティに、アキラは満足気に笑うと、ごろりと仰向けになる。

アティも、それに倣うように仰向けになって空を仰ぎ見た。

 

どこまでも青く澄み渡った空、すずやかな風、そして潮騒に混じって聞こえてくる笑い声。

とても平和な時間を満喫していたアティの耳に、隣から微かな歌声が届いてきた。

 

 

 

 

歩いて行こう

君と歩いて行こう

 

笑顔も泣き顔も全部見たいから

笑顔も泣き顔も全部見て欲しいから

 

君の傍に居て分かち合いたい

喜びも悲しみも

 

歩いて行こう

君と歩いて行こう

 

君を支えたいから

君に支えて欲しいから

 

君が泣きたい時は傍に居たい

泣きたい時には君に居て欲しい

 

笑顔で居て

笑顔になれるから

 

笑顔で居るよ

笑顔で居て欲しいから

 

歩いて行こう

君とどこまでも歩いて行こう

 

 

 

 

目を瞑り歌に聞き入っていたアティは、歌が終わるとゆっくり目を開いて、

寝たままアキラの方に体を向ける。

 

「今の歌は……アキラさんの世界の歌ですか?」

「ああ。俺のお気に入りの歌。」

 

アキラが笑顔で答えると、アティも笑顔を浮かべる。

二人で穏やかな空気を楽しんでいると、だだだ、と誰かが走って来る音が聞こえ、

小さな影がアキラに飛びかかった。

 

「アキラーーー!!」

「ぐはっ!?」

 

どすっ、という鈍い音と共にアキラの呻き声があがる。

その呻き声の元凶は、アキラにダイブしたまましがみつき、

白くて大きな尻尾をぱたぱたと振っていた。

 

「え!?ミユちゃん!?」

「……げほ……どうしたんだ、ミユ?」

 

ミユの突然の登場に驚くアティと、咽ながらも驚かずに尋ねるアキラ。

そして二人の様子など全く気にした風もなく、ミユは嬉しげにアキラに話しかける。

 

「ほらほら!とうとうやったんや!!」

 

そう言ってミユが掲げて見せたのは、ぐったりとしたマルルゥだった。

 

「「ま、マルルゥー!!!?」」

 

高く晴れた空に二人の驚きの声が吸い込まれていった。

 

 

 

 

 






(-ω-)/ やあ!作中の歌は一応自作だ!

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