黒の魔剣   作:暁 煌

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蠢き出す過去

 

 

 

 

 

木漏れ日の差す森の中、最近になって何度も通った為に踏み固められて硬くなってきた小道を、

三つの人影がゆっくりと歩いている。

アキラ、ミユ、アティの三人が、ファリエルの呼び出しを受けて、

森の中を狭間の領域に向かって歩いているのだった。

 

「―――て、ウィルくんは言ってくれましたけど、

 私がこの剣を持ってる限り、帝国軍との騒動は続くんですよね……。」

 

喚起の門近くに差し掛かった時、アティは今朝方のウィルとの会話をアキラとミユに話していた。

 

休日を貰い、多少は気分が軽くなったとは言え、少しでも考える時間ができると、

自分の持つ剣の所為で人質にされたスバルたちの事を

考えてしまうアティを見かねたらしいウィルに、

今ちゃんと人を守るという夢を叶えている、と励まされたと話した後、

アティは疲れたように呟きを付け足した。

 

その呟きにミユがアティに呆れた視線を送り、アキラはその頭に手を置く事でミユを注意し、

アティに向けて口を開こうとした時、近くで誰かが戦っている音が聞こえてきた。

 

瞬間、アキラとアティは目を合わせると、同時に音の聞こえてきた方へと走り出し、

ミユも慌ててアキラの後を追いかけた。

 

 

 

 

 

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「お願い、お願いだから!このまま眠っていて!」

 

喚起の門の前で、亡霊兵士たちと戦うファルゼンを見つけ、アキラとアティの声が重なる。

 

「「ファルゼン!?」」

「アティ!?アキラさんまで!?」

 

突然呼びかけられた事で一瞬の隙が生まれ、

亡霊兵士の攻撃を受けてしまったファルゼンが悲鳴をあげる。

すかさず抜剣しようとするアティと、ミユを連れたアキラが助けに入ろうとするが、

助けようとした人物の声で動きを止める。

 

「近づかないでっ!」

「えっ!?」

「剣の力を使ったら、ますます彼らは荒れ狂ってしまうわ!」

「何ですって……?」

 

ファルゼンの言葉でアティは完全に動きを止められてしまったが、

逆にアキラとミユは何の問題も無いと判り、騒ぐ亡霊たちに向かおうとする。

しかし、二人もやはりファルゼンの声で動きを止める。

 

「気を静めて……。もう、貴方たちの戦いは終わっているの。

 還りなさい……二度と目を覚まさない深い眠りの中へと。」

 

三人の見守る中、ファルゼンの言葉と辺りに広げられた魔力によって、

苦悶に呻いていた亡霊兵士たちは鎮まり、消えていく。

 

「兵士たちが……消えていく……。」

「グ―――ッ。」

「大丈夫、ファリエル!?」

 

静かに姿を消す亡霊兵士たちを見て、アティが信じられないといった感じで呟きを漏らす。

しかし、その驚きもファルゼンが苦しげに声を出した時には消え失せ、

アティは思わずファリエルの名を呼びながら駆け寄った。

そしてアティとは対照的にアキラとミユは辺りを警戒しつつ、ゆっくりとファルゼンに近寄る。

 

「ナゼ……ココニ、キタ……。

 近づいたらダメだと、あれほどお願いしたじゃないですか!?」

 

近づいて来た三人に、途中でファリエルに姿が変わりながらも問い詰める。

しかし、その変化に驚きの表情を浮かべたのは、ミユ一人。

 

「それは……。」

「うう……っ。」

「しっかり!?しっかりして!?ファリエル!?」

 

アティたちが答えに詰まっていると、ファリエルはマナの使い過ぎで意識を失ってしまう。

その緊急事態に、アキラはすぐさま倒れたファリエルを横抱きにし、

アティたちを連れて狭間の領域へと駆け出す。

 

その道の途中で、不機嫌そうに走るミユの気配に気まずくなったのか、

アティが走りながらもアキラに尋ねる。

 

「アキラさんもファリエルの事、知ってたんですね?」

「そりゃそうさ。俺の方がアティたちより先にこの島に来てたんだし。」

 

返ってきた言葉に、アティが意表を突かれたような表情を浮かべる。

 

「あ、そうでしたね。

 ……ところで、どうしてアキラさんはファリエルに触れるんですか?

 ファリエルって幽霊ですよね?」

 

失念していた事実を思い出し、納得するアティ。

しかし、すぐに次の疑問が思い浮かぶ。

 

「ん?ああ。

 フレイズによると、俺の体からは常に魔力だかマナだかが出てるらしくて、

 それがファリエルとか霊体に作用してるんで、実際に触ってる訳じゃないんだって。」

「へ~、そうなんですか。」

「らしいよ。……お、狭間の領域が見えて来たな。急ぐぞ!」

「はい!」

 

ひた走る一行の前に、森の中の水晶群が現れ、三人は更に速度を上げて駆け出した。

 

 

 

 

 

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「かなり消耗は激しいですが、ここに戻った以上はもう安心です。」

「よかった……。」

 

フレイズの指示でファリエルを魔晶の台地へと運び、

その言葉を聞いてアティは安堵の声を漏らした。

そして、ファリエルが落ち着きを取り戻したのを見計らって、フレイズは険しい目を向ける。

 

「それにしても、今回ばかりは無茶が過ぎますよ!

 鎮めの儀式をする時は、必ず私に声をかける約束をした筈ではありませんか?」

 

フレイズの怒りを目の当たりにして、ファリエルは項垂れると謝罪の言葉を紡ぐ。

 

「ごめんね、フレイズ。

 彼らの本格的な目覚めが、こんなにも早く始まってしまうとは思わなくて……。」

 

二人だけで進められる会話に痺れを切らし、アティが怪訝そうに口を挟む。

 

「ねえ、二人とも。私にも分かるように説明してくれますか?

 鎮めの儀式とか、彼らとか……。」

「それは……。」

「亡霊ですよ。」

「フレイズ!?」

 

アティの問いかけにファリエルが言い淀むと、フレイズが横から簡単に答えてしまい、

ファリエルが驚きと戸惑いの声をあげる。

 

「これ以上隠そうとしたところで無理です。

 それに……その原因である彼女には、真実を知る義務がある筈でしょう!?」

「え……。」

 

反論するようにフレイズが声を荒げると、

今度は突然自分に関ってきた話にアティが疑問の声をあげる。

ファリエルは苛立ちを押し隠しながらフレイズに命令した。

 

「さがって、フレイズ。」

「しかし!?」

 

なおも反論しようとするフレイズに、今度こそファリエルは押さえきれずに叫んでしまう。

 

「さがりなさい!これは、誓約に基づく命令です!!」

「―――っ。」

 

今までファリエルが持ち出した事の無い誓約の名に、フレイズは息を飲み押し黙る。

 

「私から、きちんと全部説明するから、だから―――っ。

 お願いだから……フレイズ……。」

「……分かりました。」

 

驚きのあまり、目を見開いているフレイズの前で、

ファリエルは小さな体を震わせながら泣くように懇願する。

その姿にフレイズは苦い表情をしながらも、一言承諾の言葉を残して飛び去っていく。

 

今まで黙って様子を眺めていたアキラは、軽くファリエルの背中を叩いて微笑むと、

フレイズの後を追って歩き去り、ミユもその後を追って行ったため、

その場にはアティとファリエルの二人だけが残された。

 

数秒の沈黙の後、ファリエルは瞳を強いものに変えて話し出した。

 

「それでは、お話しします……。」

 

 

 

 

 

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アキラがフレイズを見つけた時、フレイズは人程の大きさもある水晶の上に力無く座っていた。

 

「フレイズ。」

「アキラさん……。すみません、見苦しい所をお見せして……。」

 

いつもと違い、落ち込んだ様子を見せるフレイズに、

アキラは微笑みを向け、ミユは溜め息を吐いた。

 

「フレイズはちゃんと解ってると思うから、何も言わない。

 だけど、愚痴なら聞くよ?」

「……ウチはな~んも聞いてへんからな。」

 

アキラがフレイズの正面の水晶に腰掛け、明るく話しかける。

そして、その隣にミユが座り、そっぽを向いたまま耳を伏せた。

 

「……ありがとうございます、お二人とも。」

 

アキラの自分と向き合ってくれる優しさと、ミユの遠回しな優しさに、

フレイズは小さな笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

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ファリエルに話を聞き、他の護人たちにも剣の事、遺跡の事、昔の事を聞いたアティ。

しかし、それだけでは納得が行かず、彼女は護人たちに秘して遺跡の調査を決意する。

 

「……ねえ、先生。いいの?アキラにこの事言わなくて……。」

「ええ、アキラさんは遺跡には近づかない方がいいんです。

 それに、アキラさんも召喚された方ですし……。」

「まあ、お前がいいってんなら構わねえけどよ……。」

 

ソノラが不安そうにアティに尋ねるが、アティははっきりとした口調で言い切った後、

少し顔を伏せて付け加える。

その様子にカイルが自分の頭を荒っぽく掻き回しながら息を吐き、応える。

 

「そろそろ行きましょ。

 グズグズしてるとアキラたちにばったり、な~んてコトになりかね無いわよ。」

「……そうですね。

 進むのであれば、行動を起こすのは早い方がいい。」

 

重くなる空気の中、スカーレルとヤードが先に進む事を促す。

それを受け、アティが強い意志の光を瞳に宿し、前を見据える。

 

「ええ、行きましょう!」

 

そしてアティたちは足を踏み入れる。

古き召喚師たちの狂気が生み出した遺跡へと……。

 

 

 

 

 

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アティたちに置いていかれたアキラとミユは、海賊船の一室で置いていかれた事にも気付かず、

既に日の高くなった現在もまだ眠っていた。

 

しかし、穏やかな寝息をたてていたアキラの眉間に皺が刻まれ、

口からは苦しげな声が漏れ始める。

やはりそれは、アティが遺跡で剣を抜いたのと時を同じくしていた。

 

次第に痛みが増しているのか、大きくなるアキラの呻き声に、ミユが目を覚ます。

 

「……アキラ?……アキラ!?

 どうしたんや!?どっか苦しいんか!?」

 

ミユの叫びにアキラがうっすらと目を開く。

しかし、金の瞳と重なり合った蒼い瞳に意志の光は無く、

口からはぼんやりと、夢でも見ているかのような呟きが漏れる。

 

「……行かなきゃ。」

「行くて……どこ行くんや?……アキラ!?」

 

ミユの問いには答えず、アキラはふらりと立ち上がる。

そしてブーツも履かずにふらふらと部屋から歩み出る。

 

「待ってや、アキラ!ウチも行く!ウチも一緒に行く!」

 

そしてミユも、自分は裸足のままにも拘わらず、アキラのブーツを胸に抱き、

後を追って部屋から飛び出した。

 

 

 

 

 

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木々の乱れ立つ森の中をアキラはふらふらと、しかし氷上を滑るように、

かなりの速さで移動していく。

 

「行かなきゃ」と繰り返し、夢を見ているように。

転びそうになりながら付いてくるミユにも気付かずに。

 

やがて森を抜け、アキラの足が止まった。

そこに在ったのは喚起の門。

低く唸るような音を発し、淡く光を放つ喚起の門だった。

 

アキラが腕を伸ばして門に触れようとした瞬間。

 

音が止み、光も消え、アキラは糸の切れた人形のように崩れ落ちた。

 

……。

 

…………。

 

数分の後、草むらの揺れる音と共に、

白い髪に木の葉や枝を絡ませたミユが、荒い息を吐きながら辿り着く。

胸にはアキラのブーツをしっかりと抱き締めているが、

その小さく白い素足には、擦り傷や切り傷が無数に付いていて痛々しい。

 

「アキラ!?」

 

倒れているアキラを見て、ミユはブーツを投げ出すと、

アキラに駆け寄って体を調べるが、どこにも異常は見られず一息吐く。

そしてアキラを起こそうと、名を呼び、体を揺する。

 

しかし、アキラは目覚めない。

 

焦りが募り、ミユは声を張り上げ名を呼び、体を揺する力も強くした。

 

しかし、アキラは目覚めない。

 

為す術の尽きたミユには、涙を浮かべ、ただアキラにしがみ付く事しかできなかった。

 

 

 

 

 






(-ω-)/ やあ!ドシリアスだね!

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