黒の魔剣   作:暁 煌

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呼びかけ

 

 

 

 

 

「(私の答え一つで全てが決まる……。)」

 

「(肝心の私がしたい事は何か。)それは―――。」

 

「(ずっと昔から二人が背負ってきた物)できるなら、それを二つとも叶えたい。

 でも、それができないなら―――!」

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

日が頭上に差し掛かる頃、アティの呼びかけに、アキラ、ミユ、

ウィル、アルディラ、クノン、ファリエル、の六人が集いの泉に集まる。

全員が集まったのを確認し、アティが静かに話し始める。

 

「正直、今も私の選択はこれでいいのか、気持ちは揺れ続けてます。」

 

アティは一息おいて、周りに情けない笑みを向ける。

誰も口を開かずアティを見つめる中、再びアティが話し出す。

 

「当たり前ですよね?

 心っていうのは、そんなに簡単に割り切れるものじゃないんですから……。」

「貴女にも決められない……そういう事?」

 

答えるのを避けるようなアティの台詞に、アルディラが少し堅い声で尋ねる。

それに対してアティは、前半は苦笑いで、後半は目を瞑って静かに答える。

 

「それで済むなら、正直そうしたいけど……。

 答えはちゃんと決めました。」

 

そう言って再び口を噤むアティを、ウィルが心配そうに見つめる中、

アティは目を開けると毅然とした表情で告げる。

 

「封印しましょう。それがより多くの笑顔を護る事になると思うから。」

「―――!」

 

はっきりと告げられたアティの言葉に、周りに居た者たちは三者三様の表情を見せる。

アキラは口の端だけ上げて満足そうに笑い、

ファリエルは安堵して全身から力が抜けたように、ぼうっとした顔を見せる。

しかし、そんな二人とは対極に、アルディラの表情は硬く強ばる。

その表情を見て、アティが悲しげに語りかける。

 

「ごめんね、アルディラ。

 マスターに会いたいと願い続けてきた貴女の気持ちが解らない訳じゃないんです。

 本当は叶えてあげたい。でも―――。」

 

アティは一呼吸おくと、表情を厳しいものに変える。

 

「―――遺跡は危険過ぎます。

 私はみんなを、みんなの笑顔を護りたい。

 だから……私は封印を選びます。」

 

強い意志を秘めたアティの瞳に、アルディラは目を閉じて小さく笑い、吐息のように一言呟く。

 

「ふふふ……。やっぱり、そういう答えになるのよね。」

「アルディラ……。」

 

心配そうに名前を呼ぶアティに、アルディラは目を開くと悲しい笑みを浮かべ、一雫の涙を零す。

 

「でも、それも仕方ない、か。

 あの人は……たった一人のあの人は、もう居ないんだものね。」

「義姉さん……。貴女は、そんなにも兄さんを……。」

 

遠く時を隔てた今もなお変わる事のない想いを抱く義姉に、ファリエルの表情も悲しみに染まる。

しかし、対するアルディラは涙を拭うと、幾分かすっきりとした表情でクノンに笑いかける。

 

「ふふ、ねえクノン?

 これからも世話をかけるけど、二人で仲良くやっていくしか無さそうよ?」

 

そんなアルディラを、クノンは微かな笑みで受け止める。

 

「喜ばしいと、感じます。

 それに、それこそがあの方の最後の望みでもあるのですから。」

「あの人の、望み?」

 

クノンの言葉にアルディラは眉を寄せ、どこか遠くを見つめるような瞳になる。

どこかに置き忘れた物を思い出そうとするその表情。

それを手助けするように、クノンがメモリの奥に大切に保存していた言葉を再生する。

 

「『生きて、幸せになって、この島を笑顔で満たして欲しい……。

  みんなが笑っていてくれる事が、自分にとって一番嬉しい事だから』と。」

 

どこか誇らしげに伝えられたその言葉に、ウィルが目を見開く。

 

「それって……先生と、同じ……。」

 

今は亡いその人を知る者は、かつてその人が浮かべていた微笑みを思い出し頬を緩め、

故人を知らぬ者は、過去と現在に全く同じ願いを抱く者が居る不思議に頬を緩める。

 

そんな中、とても深い眠りから覚めたようなアルディラの呟きが漏れる。

 

「そう―――そうだったわね。」

「はい。」

 

アルディラの暖かな笑みに、クノンの満面の笑みが重なる。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

「何、笑ってるんや、アキラ?」

 

今まで静かに成り行きを見ていたミユが、どこか嬉しそうに笑うアキラに気づき、

不思議そうに尋ねる。

すると、アキラは軽くミユの頭を撫でながら、本当に嬉しそうに答えた。

 

「クノンさんも随分笑えるようになったな、と思って。」

 

その答えに複雑そうな表情をするミユに気づかず、

アキラはにこにこと実に嬉しそうにクノンを見ていた。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

集いの泉の前で話し合い、遺跡の封印を決めたアティたち。

そして、クノンの心の成長を喜んでいたアキラ。

みんながどこか、ほっと一息ついて笑顔を浮かべていた。

しかし、ハタと何かに気づいたように、アキラが眉をしかめて心配気な表情になる。

そして漏れた一言。

 

「封印……するんだよな?」

「どうしたんですか、アキラさん?」

 

そんなアキラの呟きに気づき、アティが不思議そうに尋ねる。

アキラは困ったような笑顔を浮かべると、答えを返す。

 

「ああ、封印するならアティが剣を喚ぶ事になるだろ?

 その時どうしたらいいかな―――と思って。」

「あ……そうですね……。どうしましょう?」

 

言われて初めて気づき、アティも困ったような表情を浮かべる。

二人で首を捻っていると、掛け直す眼鏡をキラリと光らせながら、

アルディラが不敵な笑みと共に話しかけてきた。

 

「ふっふっふっ、それについては、私に考えがあるわ!

 ヤッファとキュウマに結界を張らせましょう!」

「あ、そうですね。二人に任せておけば、きっと大丈夫ですよ。」

 

完全に元気を取り戻したアルディラの言葉に、ファリエルがおっとりと賛成する。

あまりにも軽い調子の二人に、ミユが不審そうな目を向ける。

 

「ホンマにあの二人に、そんなんできるんか?」

「あら、馬鹿にしちゃ駄目よ?あの二人だって護人なんだから。」

 

ぽつりと呟かれた声に、間髪入れずにアルディラが応える。

いかにも自信ありげなアルディラに、アキラは感心したような声を出し、その提案を採用する。

 

「へー……じゃあ、二人に頼むか。

 アティたちが遺跡に着くまでには二人を呼んで来れるだろうし、

 もう出発した方がいいんじゃないか?」

 

続けて、封印するなら早い方がよかろうと、出発を促すアキラに、

アティは少し考えてから肯き、笑顔を浮かべる。

 

「……そうですね。善は急げと言いますし。

 じゃあ、行ってきますね。」

「ああ、しっかりやって来い。」

 

軽く頭を下げて出発を告げるアティに、アキラは柔らかく微笑んで応えた。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

遺跡の封印に向かうアティ、アルディラ、ファリエルを見送り、

アキラたちは結界を張って貰う為に、ヤッファとキュウマを手分けして呼びに行く事にした。

 

「じゃあ、俺とミユはヤッファを呼んで来るから、ウィルとクノンはキュウマの方を―――。」

 

アキラが三人の方を向き、役割分担をしようとするが、

その言葉を遮るようにウィルが、続いてクノンが発言する。

 

「僕もユクレスの方に行きます!」

「私も、ユクレスに向かいます。」

 

二人のその意気込みの強さにアキラは驚いて瞬きし、ミユはむっとして無言で二人を睨む。

 

一瞬の膠着状態に陥った四人の頭上を、甲高い鳴き声をあげながら一羽の鳥が通り過ぎる。

鳴き声がトンビのように聞こえたのは、果たしてアキラの気のせいだろうか?

 

その後、ようやくアキラが立ち直り、再び役割分担をしようとする。

 

「えっと……じゃあ、二人にはユクレスに行って貰って、俺たちは風雷の郷に……。」

「風雷の郷に行きます!」

「私も。」

 

しかし、やはり二人に途中で遮られてしまう。

いつも冷静な二人が熱くなっている理由に気付けず、アキラは困惑の表情を浮かべる。

そこへ、鈍い主の窮地を救うべく、ミユが解決策を提示する。

 

「そんな行きたいんやったら、

 アンタらが手分けして二人を連れて来ぃや。

 ウチらは、ここで待っとるから。

 ……それともナニか?

 わざとアキラの邪魔して、いらんコトするつもりなんか?」

 

……多分に皮肉や挑発が含まれてはいたが。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

数十分と言うには長く、数時間と言うには短すぎる時を経て、

集いの泉の前のベンチに座って待っていたアキラとミユの前に、

ウィルに連れられたヤッファと、クノンに連れられたキュウマが姿を見せる。

 

「よお、アキラ。面倒くせぇが、来てやったぜ。」

「我らを呼び出すとはいったい何事です、アキラ殿?」

 

アキラが笑顔を浮かべてベンチから立ち上がり、二人の方に歩いていく。

勿論、ミユはその後ろにぴったりとくっついている。

そしてヤッファとキュウマの前まで来ると、

アキラはその歩みを止めて綺麗な笑顔のまま唐突に切り出す。

 

「時間が無いから説明は省く。

 俺に遺跡の力が影響しないように結界を張ってくれ。」

「はあ?何だ、そりゃ?」

「いきなりそのような事を申されても、何の事か理解できませんが……。」

 

珍しいアキラの傍若無人っぷりに、ヤッファとキュウマが戸惑う。

しかし、アキラは思っていたより焦っているのか、それとも単に気に入ったのか、

傍若無人な態度を取り続ける。

 

「時間が無いから説明は省くって言ったろ?」

 

言葉の内容は傍若無人そのものだが、そう言ったアキラはどこか楽しげな笑顔で、

遊んでいるのは明らかだった。

明らかではあったが、ヤッファとキュウマはどうする事もできず、互いに顔を見合わせる。

そこで、話を進める為にウィルが助け船を出した。

 

「義兄さん、ちょっとくらい説明してあげないと、二人だって困るだけだよ。」

「そうですよ、アキラ殿。」

 

すかさずキュウマが便乗し、アキラに説明を求める。

すると、いかにもアキラはつまらないという表情を浮かべて口を開く。

 

「仕方ないなぁ。……クノン、お願い。」

「お前がするんじゃ無いのかよ!?」

 

口を開いたはいいが、急に面倒になったのかアキラはクノンに説明を任せてしまう。

そのいい加減さに思わずヤッファが突っ込むが、

 

「アルディラ様たちが遺跡を封印に行かれたので、その間アキラ様の安全を確保する為に、

 お二人に遺跡の影響を排除する結界を張っていただきたいのです。」

「……嬢ちゃんも律儀に答えんなよ。」

 

クノンがさらりと説明してしまう事で、がっくりと脱力してしまった。

 

「という訳だから、ちゃっちゃっと張ってくれ。」

「承知しました。しましたが……。」

「何でお前はそんなに偉そうなんだよ……。」

 

そんな一連の騒動をすっぱりと無視すると、アキラは再び笑顔で要求を口にする。

その様子にキュウマとヤッファはどこか釈然としないものを感じながら、

仕方なく承諾の返事をするのだった。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

「……ホントーっに、これで効果あるのか?」

 

集いの泉の前にある広場に、多分に疑いを含んだアキラの声が響く。

どうやらヤッファとキュウマによる結界の準備が整ったようだが、

準備をしてもらった当のアキラは、じと目で二人の方を見ている。

 

「信用しろって!

 メイトルパの呪術とシルターンの妖術を使ってるんだぜ?」

「そうですよ、アキラ殿。護人が二人も居るのです。安心して下さい。」

 

対する二人の声はやたらに明るく、その顔は今にも吹き出しそうにひくひくと動いていた。

 

「……そんな顔で言われても、な。」

 

二人の顔を交互に見た後、溜め息を吐くように呟いたアキラの姿は、

まるで罰ゲームを受けているようなものだった。

地面に重なるように描かれた二種類の方陣、これは問題ない。

しかし、方陣の上に立たされたアキラは、顔中に不可思議な紋様を描かれ、

額に一枚の札を貼られていた。

 

ミミズがのたくった様な文様や額の札は、方陣を描き終わった二人が、

突然思い出したかの様に後から付け足したモノで、本当に必要なモノなのか、大いに疑わしい。

 

アキラはしばらくそのまま二人を睨んでいたが、ふぅ、と息を吐くと諦めたように声をかける。

 

「……もう、いいや。とにかく早いとこやっちゃってくれよ。」

「おう。」

「承知。」

 

その言葉に二人は、にやりと勝者の笑みで答えた。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

「……。」

「……。」

「……。」

 

先程のやり取りから数十分。

高く晴れた空の下、飛び行く鳥の声を聞きながら、

ぼんやりとした黒髪黒瞳の青年を囲んだ者たちがいた。

 

多重魔法陣の上にいるという事は、その青年がアキラなのだろう。

他に変わった事と言えば、アキラの顔から落書きと札が無くなり、

ヤッファとキュウマに魔力を注ぎ込まれた多重魔法陣が、淡く光を放っている事くらい。

 

アキラの姿が変わっているという事は、

この多重魔法陣は確かに遺跡の影響を遮断しているのだろう。

……そしてやはり、顔に書かれた落書きと札は必要なかったらしい。

 

「……。」

「……。」

「……暇だ。」

 

大して大きくもないアキラの呟きが辺りに響く。

初めはアキラの変化に騒いでいた周りの者たちも、

ミユの「黒もええなぁ~」の一言で話をまとめられ、静かになった。

 

そして今は、やるべき事はやってしまったので、アティたちが封印を始めるのを待つしかなく、

その場の全員が手持ちぶさたになっていた。

 

それならば、とキュウマが詳しい事情説明を求めたが、

アキラの「面倒だ」の一言でバッサリと斬り捨てられた。

笑顔付きで。

 

「……先生たちに何かあったんでしょうか?」

 

そのうち、沈黙に耐えられなくなったのか、ウィルが心配そうにアキラに話しかける。

 

「大丈夫だって。向こうにも護人が二人ついてるんだから。」

「でも―――。」

 

アキラが励ますように殊更明るく返すが、ウィルは不安を拭えないのか言い縋ろうとした。

その時。

 

「くっ!?」

「義兄さん!?」

「「「「アキラ(様)(殿)!?」」」」

 

アキラが頭を抱え、地面に膝をつき、苦悶の声をあげた。

それに驚いた全員がアキラの名前を呼び、その姿を見た時には、アキラは銀髪蒼瞳になっていた。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

――器、黒い器、私の体

(くっ、やっぱりまた出やがったな……!)

 

以前と同じ声がアキラの頭に響く。

その声と共に重いプレッシャーが辺りに満ち、アキラは凄まじい頭痛に襲われ、

その表情(かお)が苦痛に歪む。

それでも、結界により痛みは幾分か軽減されてはいたが。

 

更に声は続ける。

冷たい愉悦を含んだ音色で。

 

――私が憎くないか?奴らが憎くないか?己が憎くないか?

(……何だ?何を言ってやがる!?)

 

頭痛に耐えながら、アキラは声に出さずに叫ぶ。

 

――この世界が憎くはないか?

(……っ!!)

 

声はアキラの問いに答える事なく、更にアキラに語りかけてくる。

その声に、一瞬、アキラが息を、飲んだ。

 

――器、黒い器、私の体

(…………。)

 

心なしか愉悦を増した声に、アキラは沈黙で答える。

全てでは無いにしろ、自分の心の一面を言い当てられた動揺を隠す為に。

 

――力が欲しくないか?他を圧倒する力が、全てを破壊する力が

(……力……。)

 

その動揺につけ込むように、声は続けた。

まるで悪魔の囁きのように。

 

――器、黒い器、私の体

(………………。)

 

次第に声は優しくなり、甘さを帯び始める。

痛みに苦しむアキラを労るように。

心の傷を包み込むように。

 

――お前が力を望むなら、比類無き力を与えよう

(……比類無き、力……。)

 

例えその優しさが偽りでも、例えその温もりがまやかしでも、

今のアキラには抗う術が無く、徐々にその声を受け入れてしまう。

 

――お前を、世界を、私を破壊できる力を!

(そんな力があれば……。)

 

声は、アキラの自分への憎しみまでも懐柔の手段にしてしまう。

己を殺す事ができる力を与えるという、

本来なら決してあり得ない矛盾にも、今のアキラは気づかない。

 

――器、黒い器、私の体

(絶対の力があれば―――っ!)

 

アキラは頭の痛みも忘れ、完全に声の思惑にはまってしまう。

 

――その時こそ、お前は私になり、私はお前になる

(……どこだ?)

 

もはや声にすら気づかず、アキラは一人問いかける。

 

――器、黒い器、私の体

(その力はどこに在る!?)

 

力への凄まじい渇望で、アキラが叫ぶ。

 

――お前はもう、その場所を識っている

(……俺は、識っている…………。)

 

そこで、アキラは、意識を失った。

自分の体が大地に崩れ落ちたのにも、自分を心配する仲間たちの声にも、気づかずに……。

 

 

 

 

 






(-ω-)/ やあ!またシリアスだね!

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