戦いが始まってから数十分。
戦況はアティたちに有利に動いていた。
「(勝てる……)剣が無くたって、みんなと一緒ならどんな困難にだって勝て―――。」
しかし、アティが勝利を確信して喜びを感じ始めた時、それは起こった。
――そうかな?
アティの耳に、どこかで聞いた事のある声が響くと共に、辺りを紅い光が照らす。
「!?(この感覚―――っ。そんな、まさか……)あああぁぁぁっ!?」
光と共にアティは馴染み深い気配を感じ、慄然とする。
そして、次の瞬間。
アティは碧の光に包まれ、シャルトスを手にしていた。
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紅い光が辺りを照らした時、船の中でも混乱に陥っていた者が一人。
「アキラ!?―――アキラ!!?
……何やねん、この光?」
ベッドの上でシーツを握り締めながら苦しむアキラに、傍にいたミユがしがみつき、
窓の外を睨みつける。
窓から紅い光が差し込んだと思った途端、静かに寝ていたアキラが苦しみだしたのだ。
前回と同じく、何ら有効な手を打てずに、
ただアキラの名を呼ぶしかないミユの瞳に涙が滲みだした時、
呻き声が止み、アキラの目がゆっくりと開かれた。
一瞬、ミユの表情が喜びに包まれるが、アキラの瞳を見た途端、表情が凍る。
「!?」
ゆっくりと開かれたその瞳は、いつもの深い蒼でもなく、昼間見た黒でもなく、
暗い闇の色を映していた。
アキラは能面のように表情を動かさず、その口から無機質な声を漏らした。
「扉も……鍵も……私さえも……もはや私には必要ない。」
「……アキラ?」
かつて聞いた事のない声に、思わずミユは確認するようにアキラの名前を呼ぶ。
その時、再び外に変化が生じる。
紅い光はそのままに、突然空を雷雲が覆い、海を波立たせる程の地震が起きる。
「今度は何やねん!?」
激しく揺れ動く船に、ミユはアキラのベッドにしがみついて叫ぶ。
しかし、そんな叫びを無視するように、強い風と共に大粒の雨が降り出す。
「!?」
立て続けに起きる異常事態に、もはやミユは声も出せず、窓を叩きつける雷雨を凝視する。
その瞳に一際明るい紅い光が映る。
遺跡から立ち昇る紅い光の柱は、まるで血の色のように目映く輝き、その存在を主張していた。
……やがて、光が消えてミユが我に返った頃には、揺れは治まり、雨だけが窓を叩いていた。
アキラも既に目を閉じ、何事も無かったように静かな寝息をたてている。
ミユは緊張で張りつめた表情のまま、ゆっくりと辺りを見渡した後、
静かに上下するアキラの胸に顔を押しつけた。
「……起きてぇや、アキラ。」
くぐもったミユの言葉に応える声は無く、静かな部屋にアキラの寝息と雨音だけが響いた。
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降りしきる雨の下、続けて起きた異変に動きを止めていた双方の中で、
シャルトスを消して元に戻ったアティの叫びが木霊する。
「どうして……。一体、何が起こっているの!?」
「判らないわ……私にも……。
何が起きたのか、どうなってしまうのか、本当に……。」
アティの叫びにアルディラが呆然としたまま答える。
そして、それに被さるようにアズリアの号令がかかる。
「総員撤退する!どのみち、これ以上の戦闘続行は無理だ!」
「り、了解!」
呆然としていたギャレオが、号令に弾かれたように敬礼して撤退の指示を出し始める。
その様子を悲痛な面もちで見つめながら、アティが力無くアズリアに声をかける。
「アズリア……。」
その声にアズリアはアティの方に振り向くと、全く衰えない光を瞳に宿したまま傲然と告げた。
「お前の仕業であろうとなかろうと、関係無い。
そこに剣がある限り、私はお前共々それを奪回してみせる。
次が―――最後だ!!」
どこかアティを気遣うような台詞と、強い決意を秘めた最後通告を残し、
アズリアは部隊を引き連れ、激しい風と雨の中を去っていく。
残されたアティたちは皆、悄然と立ち尽くし、雨に身を任せていた。
そんな中、一人アティだけが暗雲を見上げる。
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全てが終わったと思っていた。
そんな私たちをあざ笑うかのように、横殴りに雨は叩きつけます。
新たな嵐の始まりを、私の胸に刻み込むように。
呆然と空を見上げながら、私は呟いていました。
「それでも、止まない雨は無い。終わらない嵐は無い。」
そうですよね……アキラさん……。
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帝国軍と戦った日の夜。
未だに眠りから覚めないアキラの部屋に、白い髪の少女と紅い髪の女性が居た。
二人はベッドの傍の椅子に腰掛け、じっとアキラの顔を見つめている。
「……ようやく、雨もあがったみたいですね。」
窓を叩く雨音が止んだ事で、アティが目を窓の外に向けてミユに話しかける。
「……。」
「あ、あはは……。はあ~。」
しかし、ミユからの返答はなく、アティは乾いた笑いを浮かべた後で溜め息を吐いた。
部屋に来て以来、アティは何かとミユに話しかけているのだが、
ミユは部屋に入ってきたアティを一瞥してからは全くそちらを見ようともしない。
当然、会話になる事もなく、先程のやり取りが繰り返されていた。
そして気まずくなったアティが再びアキラに視線を戻した時、来訪を告げるノックの音が響いた。
「?(こんな夜更けにいったい誰かな?)」
ノックがした時、ミユはピクッと耳を動かしたが、出迎える気はないのか座ったままだ。
そこでアティがドアを開けに向かう。
「どちら様ですか?」
「……私です。」
「フレイズさん!?」
アティがドアを開けると、そこには普段とは違い、張りつめた表情をしたフレイズが立っていた。
「こんな夜更けに不躾で申し訳ないのですが、貴女がこちらに居らっしゃると聞いて……。
付いて来て下さい、アティ。
どうしても、貴方にしておきたい話があるんです。」
「……分かりました。」
フレイズの雰囲気に、アティもやや表情を厳しくして応じる。
しかし、そこへ予想外の声が加わる。
「―――俺も行く。」
「アキラ!?」
一番最初に反応したのは、それまでじっと黙って座っていたミユ。
椅子から立ち上がり、アキラの顔を覗き込む。
ミユが見つめる中、アキラはゆっくりと目を開けてミユを見ると、その蒼い瞳で微笑んだ。
「~~っ!!」
その優しい笑みに、ミユが涙を滲ませながらアキラの首に抱きついた。
そんなミユに笑みを深めながら、アキラはその頭を撫でてやる。
そこへ、先程のアキラの言葉を拒絶するフレイズの声がかけられる。
「……申し訳ありませんが、アティと二人だけで話したい事があるのです。」
「なら、この部屋を使えばいい。俺たちは外に出てるから。」
「……。」
その拒絶も、アキラは代替案を出す事でさらりとかわす。
そしてアキラは、沈黙するフレイズを寝たまま横目で睨む。
「……それとも、アティだけを連れ出さなきゃいけない理由でもあるのか?」
「ッ!!」
その言葉に、傍目で判る程フレイズの体が強ばる。
アティとアキラが見つめる中、フレイズは目を瞑って一つ深呼吸すると、
アキラをの目を真っ直ぐ見返して応えた。
「……分かりました。付いて来て下さい。」
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
「ここは……。」
「魔晶の台地。
私たちの領域を満たすマナは、この水晶から生み出されています。」
「「……。」」
フレイズの後を付いて来たアティが辺りを見渡して呟くと、律儀に説明してくれる。
しかし、無理矢理付いて来た筈のアキラと、アキラに付いて来たミユは、
いつもと違うフレイズにも、ここへ連れて来た事にも何も言わず、フレイズを見ていた。
そんな二人の視線に気まずいモノを感じるながらも、
フレイズは敢えて無視するようにアティに話しかける。
「……拓けた場所の方が、何かと都合がいいですからね。」
「例えば―――私と全力で戦う、とか。」
対するアティは、フレイズの剣呑な雰囲気を感じてか、引き締まった表情でフレイズを見据える。
「承知の上でしたか。」
「殺気を感じて……。
これでも、一応は元軍人ですし。」
軽い驚きと安堵を滲ませながら、フレイズがアティと距離を取って言うと、
アティも柔軟な対応が取れる体勢に移って応える。
そして、フレイズが剣を抜こうと柄に手をかけた瞬間、横から伸びた手が、その手ごと柄を押さえ込んだ。
驚いたフレイズが手の主を見ると、いつの間に近寄ったのか、アキラが隣で微笑み、
その傍には睨みを効かせるミユが居た。
「アキラさん!?」
「まずは話し合い。だろ?」
「……フレイズさん。聞かせてくれませんか?
そこまでして、貴方がファリエルを守ろうとしている理由を。」
アキラにいつもと変わらぬ笑顔で話しかけられ、アティに懇願するように尋ねられ、
フレイズは手から力を抜いて息を吐いた。
「……いいでしょう。ここまで踏み込んで来てしまった貴女には、それを知る権利がある。
アキラさんも、無関係という訳ではありませんし。」
そこでアキラは手を離すと、近場の水晶の上に腰を下ろし、ミユがその横にちょこんと座る。
それに倣い、フレイズとアティも、思い思いの場所に腰を下ろした。
そして、一泊の間を置いてフレイズが語り出す。
「ファリエル様が、あのように亡霊として生き続けている原因を作ったのは、この私なのです。」
「!?」
「「……。」」
のっけから驚くべき事を聞かされ、アティが目を見開く。
そんなアティの様子と、逆に目を瞑り何の反応も示さないアキラと、
ただアキラを見つめるミユを見渡し、フレイズは話を続けた。
「まだ未熟ながらも、精一杯に運命へと立ち向かって行く彼女の魂の輝きを、
私は心から慈しみ、その助けとなる事を心から嬉しく思っておりました。
ですが、それでも越えられない運命がやって来たのです。」
「この島で起こった過去の戦い……。」
「「……。」」
どうやら、アキラは話が終わるまで口を開く気はないらしく、聞き役に徹している。
当然、ミユも口を挟む気などない。
そこで必然的に、フレイズとアティの二人によって話は進められていく。
「乱戦の中ではぐれ、ようやく私が彼女を見つけ出した時には、
ファリエル様は息を引き取られる寸前でした……。」
「―――っ。」
「半ばまで炎に失われた身体には、手の施しようもなくて……。
あの時ほど……私は自分の愚かさを悔いた事は……ありません……。」
「フレイズさん……。」
フレイズの深い悲しみの表情に、アティの表情も悲しみに染まる。
しかし、フレイズは休む事なく話を続ける。
「死せる者の魂は、次の世界で新たな姿に生まれ変わります。
しかし、この島ではそれが不可能である事は、貴女たちも知っている筈です。」
「……島の力に囚われて、操られるがままの亡霊になってしまう。」
「ファリエル様を、彼女の魂を、そんな目には会わせたくなかった……。
そして……私は天使である事を捨てました……。
自分の魂を分け与え、彼女を霊的生命に変え、確定されていた運命に逆らったんです。」
「な……。」
人を霊的生命に変えるという今まで聞いた事のない話に、
アティの目が、今日何度目かの驚きに開かれる。
「天使のもたらす奇跡は、その魂に課せられた運命を全うさせる為に用いるもの。
その掟を破った私は、もう天使ではない。
堕ちた天使なのです。」
「そんな……。」
「悔いてはいません。
生き延びたいと願う彼女の意志を、私は叶える事ができたのですから。」
「フレイズさん……。」
そしてフレイズの話は過去の事を終え、現在の事に移る。
「だが、貴女と出会い、ファリエル様は変わられてしまった。
兄を救えなかった無念。
現世に存在し続ける為の意識を、彼女は捨てようとしている。
それが、自身の消滅を意味すると知りながら。貴女の為に……。」
「あ……(あの時、二人が話していたのは、この事だったんだ……)。」
フレイズはより一層表情を歪めると、その表情を隠すように両手で覆い、
肩を震わせ、アティはその話に思い当たる事があるのか、下を向く。
「転生の輪からはぐれた彼女の魂は、もはやどこへも行けません。
生きる意味を失えば、後はただ消え去る運命です。
私は、それを黙って見過ごす事はできない……。」
語りから嘆きに変わったフレイズの言葉に、アティは悲しい目で見つめて力なく尋ねる。
「……だから、力ずくで私を彼女から遠ざけるつもりなんですね。」
「その通りです。
貴女が彼女との接触を断つ事を誓って下さらない限りは……。」
その言葉にフレイズは顔を上げ、険しい瞳でアティを見据える。
両者の瞳が重なり、まさしく火花を散らそうとしたその時、初めてアキラが口を開いた。
「お前は、主の苦しむ姿を見ていたいのか?」
「!?」
やっと口を開いたかと思えば、その内容は凍てつく風のように冷たくて、
普段のアキラからは想像もできないもの。
更に、その顔は完全な無表情で、アキラが何を考えてそんな事を尋ねたのか、
その真意が全く伺えない。
しかし、フレイズの動揺など気にもせず、アキラは立ち上がり、進み出る。
その後ろには、いつの間に被ったのか、口元だけが覗く狐面を着けたミユが、
まるで神に仕える巫女のように、恭しく付き従う。
アキラがフレイズの前で立ち止まると、その間に立つようにミユが一歩進み出る。
そして、常とは違う平坦な声で、
「ただ静かに聞くがいい。今、託宣がなされる。
“
そして、ミユが一歩下がり、アキラの脇に控えると、辺りが厳かな空気に包まれる中、
アキラは波一つない静かな湖面のような瞳をフレイズに向けた。
「お前は、主に兄を救えなかった無念を抱き、永遠に生きろと言うのか?」
「ッ!そ、それは……。」
弾劾するようでいて、どこか風が吹いただけのようなアキラの問いかけに、
フレイズは目を逸らす。
「主に、顔では笑顔を浮かべさせ、心の中では無念に泣かせるのが、お前の望みなのか?」
「違う!」
糾弾にも似た問いかけは続き、フレイズは思わず叫び返し、立ち上がる。
そして、今にも泣きそうな表情でアキラを睨みつけるが、アキラは揺るがぬ瞳で見返す。
「しかし、お前は言った筈だ。
兄を救えなかった無念を捨てさせない、消え去る事も見過ごさない、と。」
「……違う―――違う!違う!!私は―――っ!私は、ただ―――っ。」
傷を抉るように、心の闇を曝すように、アキラはフレイズの言葉を取り上げる。
フレイズも、自分がどれだけ勝手な事を言っているのか、どこかで解っていたのだろう。
悲鳴をあげるように否定すると、力なくその場に膝をついた。
そこへ突然、先程までとは逆に、暖かさを感じさせる声が舞い降りる。
「お前の願いは何だ?」
「私の……願い?」
その声に戸惑うように、下を向いたままフレイズが聞き返す。
「そうだ。お前の本当の願いは何だった?」
「ファリエル様の、幸せを……護る、事。」
正しい答えに導くように、自分の原点を思い出させるように、
アキラはフレイズに語りかけ、途切れ途切れにフレイズが答える。
「お前のしようとしていた事は、ファリエルの幸せに繋がるのか?
……そうかもしれない。しかし、違うかもしれない。
ファリエルの幸せは、ファリエルにしか解らない。」
「……。」
静かに、ただ静かに告げられた言葉を、フレイズは黙って聞き届ける。
そこへ、アティが説得するように言葉を続ける。
「そうですよ。貴方にも、私にも、そんな事を決める権利なんてありません。
それは、彼女自身が決める事です。」
その言葉に、フレイズは手を強く握り締め、悔しそうに言い捨てる。
「しかし、それではあの方が―――っ!」
フレイズの悔しさを思いやり、ファリエルの行動を思い返し、アティは悲しげに応える。
「解ってます。
あの子はいつも、みんなの前に立って災いを受け止めようとしてる。
死なない身体を理由に、彼女はみんなの生命を守る盾になろうとしてるんでしょう?」
「それを知っていながら、何故貴女は止めてくれないのです!
魂だけの身であろうと、傷つけば痛みや苦しみだって感じるのですよ!?」
「―――っ。」
その言葉にフレイズが激発し、膝をついたままアティを睨み上げる。
そして、フレイズは己の訴えに息を飲むアティに、更に激情をぶつける。
「止められない……。護衛獣である私には、止められないのですよ。
だから、私は貴女に託したのに……なのに―――っ!」
「なら、お前が守ってやればいい。」
「―――!?」
その激情に被せるように、アキラの静かな声が響く。
驚いてアキラを見上げるフレイズに、アキラは月の光のように優しい笑顔で告げる。
「お前も共に戦場に立って、今度こそファリエルを守ってやればいい。」
「アキラさん……。」
告げられた言葉に、呆然とフレイズが目を見開く。
「そうですよ、フレイズさん。
私だってファリエル一人に全部任せる気なんかありません。
ファリエルだって仲間だもの。私はファリエルも守ってみせる。
ただ、私は同時にあの子の気持ちも大事にしてあげたいの。
力ずくで危険から引き剥がす事だけが、守るって事じゃない筈でしょう?」
「アティ……。」
続けて、アティにも笑顔で言われ、今度はそちらを見上げる。
呆然として、何を言ったらいいのか判らないフレイズの耳に、聞き慣れた声が届く。
「……フレイズ。」
「ファリエル様……。」
水晶の陰から現れたファリエルが、しばらくの間フレイズと見つめ合う。
そして、声をかける。
「どうして、こんな勝手な事をしたの?」
「……聞いて、おられたのですね。」
「うん……。」
静かに問いかけるファリエルに、フレイズは泣き笑いのような表情を見せる。
そして、下を向いたまま、力なく話し始める。
「護衛獣の使命は、召喚した者を守る事。
例え貴女が拒んでも、その為なら私は戦い続けたい。
貴女の魂だけは、失いたくない―――っ。
守りたいんです!」
最後には叫ぶようにして告げられたフレイズの想いに、ファリエルは嬉しそうに微笑んで応える。
「ありがとう……フレイズ……。貴方が心配してくれて、私、とても嬉しいよ。
貴方のおかげで、私、凄く幸せだったわ。
だから、もう、いいの……。
貴方が、憎まれ役にならなくてもいいの。」
「ファリエル様……。」
初めて聞く主の心の内と、自分の事を思いやる言葉に、
フレイズは顔を上げ、その瞳に涙を滲ませる。
「それにね、フレイズ。私、今は消えるつもりなんてないよ?」
「え……?」
明るく、まるで悪戯を成功させたように笑うファリエルに、フレイズが戸惑いの表情を浮かべる。
それを見て、ファリエルは更に楽しそうに笑う。
「もっと別の未練ができちゃったから。貴方や、集落のみんな。
それに―――。」
何事か言い淀み、ファリエルはアキラの方をちらりと見て、心なしか頬を染める。
そして、アキラと目が合うと慌ててフレイズの方に向き直る。
「わ、私!色んな人たちと一緒に、ずっとこの島で暮らしていきたいの!
……だから、消えない。もったいなくて、消えたりできないよ?」
「あ……。」
ファリエルの話す、別の未練という言葉に、フレイズは目から鱗が落ちたように、
この日、何度となく浮かべた呆然とした表情になる。
しかし、フレイズの態度に不安なものを感じたのか、ファリエルが心細そうに尋ねる。
「ダメ、かな?」
「いいえ―――っ。いいえ、決して。」
ファリエルの声に弾かれるように、フレイズは応え、涙を零した。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
しばらくして、フレイズが落ちついた頃。
またいつの間にか面を外したミユにくっつかれて微笑んでいるアキラと、
ほくほくした笑顔のアティと、フレイズの泣き顔を初めて見て嬉しそうなファリエルが、
優しげにフレイズを見つめていた。
その視線に恥ずかしくなったのか、フレイズは膝についた土を払いながら立ち上がると、
一つ咳払いをしてアティに向き直った。
「数々の無礼、どうかお許し下さい、アティ。もう、私は迷わない。
彼女の望んだ道が、貴女と共に行く事であるのなら……私も共に戦います。
彼女の魂の輝きを守る為に……。
そして……私に道を見せてくれた、貴女たちの魂の輝きを信じて……。」
「ええ!」
そして、真剣な表情で告げられた言葉と共に差し出された右手を、
アティが笑顔で握り返す事で、今回の騒ぎは幕を下ろした。
(-ω-)/ やあ!今まで目立たなかった霊界組だよ!