黒の魔剣   作:暁 煌

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虐殺

 

 

 

 

何もかもが夕陽で紅く染められた丘を、たくさんの、たくさんの人影が無言で行進してくる。

全員が一つの目的の下に動いている様に、或いは何の目的も無い様に。

整然と、誰一人列を乱す事無く、着実に近付いてくる。

 

その様子を見た帝国兵たちは、汚名を返上できると、

初めての敗北を味わわずに済むと、援軍の登場に沸き立つ。

島の者たちが夕闇の墓標と呼ぶ、その丘で。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

「冗談じゃない……。今までの戦いだって、手に余るくらいだったのに……。」

「ミャ、ミャ―――ッ。」

 

ウィルとテコの声を近くに聞きながら、俺は思わず舌打ちしていた。

やっと戦いが終わったと思ったのに、また一戦かよ!

しかも、こっちはさっき戦ったばかりで疲れてるってのに!

俺ら海賊だってこんなに戦ってばっかじゃねぇぞ!

 

内心、俺が盛大に愚痴ってるとも知らず、ギャレオが興奮して大声を上げる。

 

「援軍ですよ、隊長!?これならもう一度、戦う事ができる。

 諦める必要なんて無くなるんです!!」

 

テメェはさっき俺に負けたばっかだろうが!

往生際の悪いその言葉に思わず一言言ってやろうとしたが、耳に届いた笑い声に出鼻を挫かれた。

 

「ふふふ……。」

 

誰かは言うまでも無く、この場でこんな風に笑う奴は一人しかいない。

イスラの野郎だ。

 

……何だ?まだ何かあるのか?

 

俺がイスラの笑みに警戒を抱いている内に、新手たちは攻撃を仕掛ける為の陣形を取り始める。

その動きにアズリアが目を瞠り、ぽつりと言葉を漏らす。

 

「違うぞ……。」

「え?」

 

その言葉を聞き返す様に、アティがアズリアを振り返った次の瞬間。

 

「そいつらは帝国の兵士じゃないっ!?」

「「「「!?」」」」

 

アズリアが告げた意外な内容に、俺たちの表情は驚きに染まった。

 

 

 

 

 

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「……行け!」

 

紅い髪の女性の号令で、一斉に行動を開始する人影たち。

彼らは奇声を上げながら、その手に持つ様々な武器で手近に居た帝国兵たちを攻撃し始めた。

斬られ、射られ、次々と倒れていく帝国兵たち。

 

身動きもできず、地に倒れ伏したまま次々と惨殺される帝国兵たちの姿に、

ソノラが銃を構える事も忘れて戸惑いの声を上げる。

 

「な、何で……?どうして味方を攻撃すんのよ!?」

「ヒヒヒヒ、そりゃあ味方じゃねェからさ。お嬢ちゃん?」

 

その問いかけに答えたのは、厭らしい笑みを浮かべ、余裕を振りまいているビジュ。

同じ部隊の仲間が次々と命を落としているというのに、

その顔は悲しみに染まるどころか、愉悦を浮かべている。

それは、突然現れた新手の正体を知っている事を明確に告げるもので、

カイルが低いドスの効いた声を投げかける。

 

「……何だと?」

「僕の部隊は僕の味方さ。援軍だなんて、一言も言って無いってば。」

「な―――っ!?」

 

しかし、その問いに答えたのは、他人を小馬鹿にした態度を取り続けるイスラ。

その言葉の内容に、ギャレオが愕然とした表情を浮かべる。

自分と同じく、帝国に所属するイスラの味方ならば、

自分たちの味方ではないのかと、ギャレオの表情は語っていたが、

逆にイスラの表情は、それが決定的な間違いであると告げていた。

 

そんなイスラたちのやり取りなど何ら構う事無く、新しく現れた勢力は一方的な殺戮を続ける。

 

「刻まれし痛苦と共に、汝の為すべき誓約の意味を悟るべし。

 霊界の下僕よ……愚者どもを引き裂いて、その忠誠を盟主へと示しなさい!!」

 

まるでシスターのような格好をした女性の召喚術と砲弾の嵐が帝国兵たちを襲い、

更に傷付き、倒れ、絶命していく帝国兵たち。

 

無慈悲で、圧倒的で、純粋な暴力。

まるで人が虫ケラか人形のように崩れゆく。

まるで馴染みの無い、まるで現実感の無いその光景に、アキラは呆然と立ち尽くす。

 

今までの戦いとは全く違う。

勝負でも無く、決闘でも無く、死闘ですら無い。

ただの虐殺。

 

平和な日本で育ったアキラには全く無縁だった殺人。

それが今、目の前で行われている。

何ら特別な事ではなく、ありふれた日常の様に、アキラの周りを死が取り囲んでいた。

 

召喚術が、砲弾が飛び交い、剣戟が轟く中、イスラが哂う。

 

「これだよ。これこそが本物の戦場ってヤツさ。

 強い者が弱い者から何もかもを奪い取る。単純で、明快な真実。

 君たちのやってきた戦争ごっことは違う!奇麗事なんて意味の無い世界なんだよ!!」

 

まるで泣くように、そんな現実を嘆くように、イスラは叫ぶ。

そして、イスラが声高に喋っている間にも、アズリアの目の前では次々に部下たちが死んでいく。

 

「止めろ―――っ。」

 

アズリアが弱々しく呟いた瞬間、着物を着た男にまた一人。

 

「止めさせて……。」

 

更に、紅い髪の女性にまた一人。

 

「止めさせてえぇぇっ!イスラあぁぁぁっ!?」

「……聞けないね。

 目障りなものは、この際まとめて排除するって、もう決めたんだもの。」

 

遂には叫び声に変わったアズリアの嘆願も、イスラは静かに否定する。

一言目だけはとても哀しげに、次いで凶悪な笑みで告げるイスラに、ギャレオが吼える。

 

「貴様アァッ!?」

「あはははっ!あはっ、あはははは!!」

 

碌に動けもしないギャレオの雄叫びが愉快なのか、

それとも自分の行いを振り返って自嘲しているのか、イスラは哄笑する。

 

「そんな事、絶対にさせないっ!!」

 

その哄笑を断ち切る様に、アティが声を上げる。

そしてアズリアに背を向け、一歩、イスラの方に踏み出す。

白いマントに覆われた、その小さくとも大きな背中に、

アズリアが思わずその背中の持ち主の名前を呟く。

 

「アティ……。」

 

その小さな声を背中で受け止めながら、アティはイスラに向けて宣言する。

 

「許せない……。こんな酷すぎる事、許しちゃいけないんだ。

 だから―――っ!絶対に止めてみせます!!」

「へえ……。それじゃ、証明して貰おうかな……。

 力ずくで、君の奇麗事を通してごらんよ!?」

 

そして、吼える様な、泣き叫ぶ様なイスラの声を合図に戦闘が始まった。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

確かに俺たちは帝国軍との戦いで疲れていたが、

だからと言って敵が見逃してくれる訳も無く、必死で応戦する事になった。

正規の軍隊である帝国兵とはどこか違い、一癖も二癖も厄介な新手に苦戦する中、

俺の目に紅が映った。

 

アティと同じ鮮明な紅。

 

思わず戦場で動きを止めてしまった俺を護る為、術で敵を牽制してくれたミユが、

辺りを警戒しながら話しかけてくる。

 

「どないしたんや、アキラ?」

「……あそこに居る女。」

 

それだけの言葉でミユは俺の視線を辿り、

敵の遥か後方に居て指揮を執っているらしい紅い髪の女を見つけ出す。

そして、その姿を一瞥するや不機嫌そうに言い捨てる。

 

「……イヤな瞳やな。アレは人やない、道具の瞳や。」

 

ミユの過去に何が在ったのかは知らないし、嫌な思い出なら聞き出す気もなかったが、

俺は何故かミユの言葉に賛成する気にはなれなかった。

だから俺は、自分でも気付かない内に小さく呟いていた。

すぐ傍に居るミユにでさえ、遠くで起きた召喚術の爆音で聞こえない位、小さな声で。

 

「……そうかな?―――俺には、泣いてる子供の瞳に見える。」

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

皆が皆、疲れた体に鞭打って、何処からとも無く現れた“イスラの味方”を打ち倒していく。

俺もミユと一緒に戦場を駆け巡る。

少しばかりのダメージでは、全く戦意を無くさない“イスラの味方”たち。

 

だから俺たちは多少の危険に目を瞑って、

人体の急所である首筋や側頭部に打撃を放ち、一撃で気絶させていく事にした。

殺してしまえば楽なのかもしれないけど、相手がどんな卑劣な奴でも、

自分から同じレベルに落ちるつもりはなかったから。

 

そうやってしばらく戦い続け、相手の数が少なくなってきた頃、

カイルが生かさず殺さずの絶妙な力加減で、敵の一人を殴り倒して詰め寄った。

 

「喋れる程度には手加減しといた。ぶっ殺したい気分ではあるんだがな。

 さあ、答えやがれ!!お前ら、いったい何も―――」

「新たなる世界にッ!!勝利と栄光をォッ!!」

「危ない!カイル!!」

「いけない!カイルさん!!」

「な―――っ!?」

 

凄まじい剣幕で詰め寄るカイルに、そいつはニヤリと厭らしい笑みを浮かべ、

意味の解らない絶叫を上げる。

嫌な予感がしてカイルの名前を呼んだ俺の声と、ヤードの声が重なった次の瞬間。

激しい光と音を発して、そいつは粉々に吹き飛んだ。

どうやら、どこかに隠し持っていた爆弾で自爆したらしい。

 

「―――自爆しやがった。」

「最初から、相打ちを想定していたとしか思えない……。」

「こいつらにとっては当たり前の事よ。」

「スカーレル……?」

 

ヤッファとキュウマが愕然として呟く言葉に、スカーレルが平坦な声で応える。

いつもと全く違い、淡々とした雰囲気を出すスカーレルに、ミスミが目を見張っている。

その後もスカーレルやヤードによって会話は続き、敵の正体が“紅き手袋”の暗殺者だとか、

大陸全土を跨る犯罪組織だという言葉が耳に入ってくるが、俺の頭の中は他の事で一杯だった。

 

どうして、またヒトが死んでいるんだ……?

俺たちは、目の前で起こる人殺しを止める為に戦った筈なのに、

倒した敵が、また目の前で死んでいく。

 

……何でだよっ!?

これじゃ、人が死ぬのを止められないじゃ無いか!?

 

「ぎゃあああっ!!」

 

また上がった叫び声に、俺の意識は現実に引き戻された。

小さな苛立ちと、大きな無力感を覚えながら、悲鳴の元に目線を走らせる。

そこには地に倒れ伏す帝国兵と、その傍に立つ血塗れのナイフを持つ女が一人。

紅い髪を持つ彼女は、物憂げに、悲しげに、小さく呟く。

 

「雑魚の始末は、これでお仕舞い。」

「後は……。」

 

彼女の言葉に続き、シスターのような姿をした女性が暗殺者の一人に目配せをする。

それはつまり―――。

 

 

「ッ!!やめっ―――。」

「あ、が……。」

 

伸ばした腕も、踏み出した足も、途中まで出た制止の声も虚しく、

暗殺者の投擲したナイフが帝国兵に突き刺さる。

伸ばした腕を降ろすのも忘れて、崩れ落ちる彼を見遣る。

これで、もう、帝国軍はアズリアとギャレオだけになってしまった……。

 

彼らとは何度も刃を交えてきたけれど、別に憎んでいた訳ではない。

彼らも、俺たちが憎かった訳じゃないだろう。

ただ、任務で敵対していたに過ぎない。

別のどこかで出会っていたら、友達になれたかもしれない。

だけど、彼らはもう、目を覚ます事は……無い。

 

倒れた彼に、ギャレオが駆け寄る。

 

「しっかりするんだ!おい?おいっ!?

 う、うあああぁっ!?」

 

ギャレオも、彼がもう起きる事は無いと悟ったのだろう。

声を上げて涙を溢れさせる。

そんなギャレオに、ニヤニヤ笑いながらビジュが近付く。

 

「ヒヒッ、寄せ集めの部隊なんて所詮こんなもんよォ。」

「ビジュぅぅッ!!貴様が、それを口にするのかアァァッ!?」

 

泣き、怒り、叫びながらビジュに、次いでイスラに襲い掛かるギャレオ。

その激しさを見ながら、俺の心は静かだった。

……何か、もう、どうでもいい。

 

「おっと……。まあ、そんなに熱くならないでよ?

 どうせ玉砕覚悟の戦いだったんだからさ。殺される相手が違っただけの事じゃない。」

「―――っ。」

「それより、静粛に。今から式典が始まるんだからね。」

「式典だと……?」

「そうさ、姉さん。病気で苦しんでいた僕に生きる為の方法を与えてくれた、

 偉大な力の持ち主。この血染めの宴の主賓が登場するのさ。」

 

そんな俺を無視するように、状況は流れていく。

いつものイスラの挑発と、意味深なセリフ。

そうして、凝りに凝った舞台を整えて、アイツは現れた。

 

 

 

 

 





(;´・ω・) 大変だ!


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