黒の魔剣   作:暁 煌

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告白

 

 

 

 

 

深く、暗い闇から浮上する意識を感じながらうっすらと目を開ければ、

そこには随分と見慣れた天井。

ああ、リペアセンターの俺の部屋だと思い出したところで、隣から小さく声がかかった。

 

「ようやく目を覚ましたか。」

「……アズリア?」

 

声のした方に顔だけ向けてみると、いつも通り、

きちっと軍服を着たアズリアが椅子に腰掛けていた。

アズリアらしい、なんて思って小さく笑ったところで、

唐突に、前触れも無く、昨日の事を思い出した。

 

俺は、イスラに、斬られた。

そして“アイツ”を、あの“黒い魔剣”を、“『闇の狂皇』ヴィサイアス”を、解き放ってしまった。

 

急に不安になって自分の右手を、

“アイツ”を握っていた右手をシーツから抜き出して目の前に翳す。

その瞬間、アズリアが気遣わしげな表情で俺を見た気がしたけど、

それよりも自分の右手を、右腕を見て、俺は息を飲んだ。

 

無い筈なのに……。

もう、この手には“アイツ”は居ないのにっ―――!!

どうしてコレが!?

 

右手から腕を伝い、肩へと舞い踊る、黒い炎の文様。

唖然とそれを見詰める俺に、アズリアが躊躇いがちに声をかけてくる。

 

「……アキラ、昨夜、お前の身に何が起こったのかは、大体聞いている。

 そして今、ソレの所為で混乱している事も解る。

 だが後で知るよりは、今、一緒に見ておく方がいいだろう。」

 

そう言って一枚の鏡を差し出してくる。

何の変哲も無い、ごく普通の小さな鏡だった。

俺は横になったまま、震える右手でその鏡を受け取った。

 

……鏡で見るものって何だっけ?

一瞬、馬鹿な考えが頭を過ぎる。

だけどそんなもの、一つしかない。

『自分の顔』だ。

 

気持ちを落ち着けるように深く息を吐きながら、そっと鏡を覗き込む。

そこには、最近ではすっかり見慣れた銀髪蒼瞳の自分の顔がある……筈だった。

だけど映っていたのは、相変わらずの銀髪と、頬にまで及んでいる黒い炎と、

深い黒色をした右目だった。

 

「……。」

 

ぱたり、と鏡を胸の上に伏せて、深く、深く息を吐く。

 

「……大丈夫か?」

 

再び躊躇いがちにかけられた声に、へらり、と笑ってみせる。

 

「大丈夫だよ。髪と目の色が変わったのは、これが初めてじゃないし。

 ……それにこれは、“アイツ”がここに、俺の中に居るって証拠だし。」

 

そうだ。“アイツ”は消えてしまった訳じゃない。

それなら、どこに居るか判ってるだけ気が楽ってものだ。

俺の中に居るっていうなら、出さないようにするだけだ。

少なくとも、“アイツ”がふらふらと出歩いて、

オルドレイクみたいな奴の手に渡るよりは遥かにマシな筈だ。

 

出来るだけ前向きに考えて、気持ちを落ち着かせる。

それから俺は体を起こそうとして、すっかり慣れてしまった重みを左腕に感じた。

ふっと視線を動かせば、やっぱりそこには俺の腕を抱き枕のようにして掴むミユが居た。

……ただ、ミユの姿はあちこち傷だらけで、その頬には、うっすらと涙の跡が残っていた。

 

どうして!?

そんな疑問が、まず浮かんだ。

だけど、判ってる。そんな事は判り過ぎるくらい、解ってる。

 

俺が、やった。

 

俺が、ミユを、皆を傷付けた。

例え俺の意思じゃなかったとしても、“アイツ”がやった事だったとしても、

“アイツ”を解き放ったのは俺だから。

だから、俺がやったのと同じ事だ。

 

……どうして、こんな事になったんだろう?

ただ、皆を護りたかったのに。

ただ、皆を護る力が欲しかっただけなのに。

何が、いけなかったんだろう?

 

「その娘は、な。

 治療中も、どんなにお前から引き離そうとしても離れなかったぞ。

 『自分はアキラの護衛獣だ』と言い張ってな。」

 

愕然とミユを見詰め続ける俺に、アズリアが優しい声で言う。

 

「……。」

 

俺は無言のまま、ミユを起こさない様にゆっくりと体を起こす。

シーツをミユにかけ直してやり、そっと涙の跡を指で拭う。

 

たった一人、故郷から引き離されて、全く関係の無い戦いに巻き込まれて、

こんなに傷付いて、それでもまだ、俺を護ろうとしてくれる。

それが、とても有り難くて、とても情けなくて、自然と、涙が一つ零れた。

 

「……ごめん、ミユ。痛かったろ?

 次は……次は絶対に、俺がお前を護るよ。」

 

眠っているミユには聞こえないだろうけど、

俺は決意をより強いものにする為に、敢えて言葉にした。

 

すると、横からそっと白いハンカチが出された。

無地で何の刺繍も無い、真っ白なハンカチ。

 

「使え。」

 

そっけなくて、その上命令口調だったけど、それはやっぱり優しい言葉だった。

だから俺は有り難くそのハンカチを受け取って、目元を拭かせて貰った。

「洗って返す。」そう言おうとした時。

 

「―――傷が、残ってしまうそうだ。」

 

突然、アズリアがぽつりと言葉を漏らした。

何の事か判らずアズリアを視線を追うと、

ぐるぐると包帯を巻かれた俺の体を見ている事が判った。

まるで袈裟懸けに斬られた痕を隠す様に巻かれた包帯以外、俺は上に何も着ていなかった。

すっと、静かにアズリアの右手が動き、その指が俺の左肩から右脇腹にかけて、

包帯の上からイスラに斬られた痕をゆっくりと撫でる。

 

これは、かなり気にしてるみたいだな……。

確かに重傷ではあったけど今は全く痛くないし、

俺は男だから傷の一つや二つなんて全然気にしないんだけど。

 

「……すまない。」

 

ダメだこりゃ。

奈落の底に穴を掘る勢いで落ち込んでるよ。

 

……そんな、今にも泣きそうな顔をさせる為に助けたんじゃないんだ。

俺は、お前にも笑っていて欲しいんだ、アズリア。

 

「な~に気にしてるんだか。こんなの全然大した事無いって!

 むしろ、アズリアの綺麗な体に傷が付かなくて、ほっとしてるよ。」

 

そう言ってにやりと笑うと、案の定、アズリアは顔を真っ赤にして叫び返してくる。

 

「な、ななな何を言っている馬鹿者!!?」

 

うん、元気出たみたいだな。

 

「あはは、そうそう。そっちの方がアズリアには似合ってるよ。

 落ち込むくらいなら、怒ってる方がいいよ。

 それで笑っててくれたら、もっといいんだけど。」

「……馬鹿者。」

 

やっと笑った。

苦笑いの様な、泣き笑いの様な、そんな笑顔だけど、

さっきまでの気落ちした顔よりは、ずっといい。

 

そこまで話をして、ふと気付いた。

……今更だけど、どうしてアズリアがこの部屋に居るんだろ?

クノンやミユなら解るんだけど……。

ひょっとして――

 

「あのさ、アズリア。ずっと看ててくれたの?」

「ば、馬鹿者っ!そ、そんな訳があるか!!

 ただ、私は―――そう!私はお前に少し話が有っただけだ!」

 

ああ、成る程!何か相談したかったのか。

それで俺が起きるのを待っていた、と。

納得納得。

で、話って?

 

「昨日の……戦いが終わってからの事だ。」

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

あの戦いの後、私もここで軽い手当てをして貰った。

それからアティが世話になっている海賊船に向かったのだ。

 

何故だと?

 

……あの海賊たちが私の部下たちの亡骸を集めてくれたらしくて、な。

ならば隊長の私が部下たちの弔いをしなければなるまい?

 

浜辺で部下たちの亡骸を焼いている時だったな……。

後ろに気配がして振り向くとアティが居たんだ。

自分だって大変だろうに、いや、これからはアイツの方が大変だろうに、

アイツはやはり他人の事を心配してるんだ。

 

……色々とな、話をした。

助けて貰った礼やら、弱音やら……。

そうそう、軍学校時代の話もしたな。

 

卒業前の最後の訓練試合の話だ。

最後の最後まで全力を出そうとしないアイツに、遂に私は腹を立てたんだ。

手加減抜きの一撃を真っ向からぶつけてやったんだが、

アイツはそれをかわすと武器を捨て、試合を放棄したんだ。

おかげで私は首席に成れずじまいだ。

 

それから……父の話をした。

私の父が率いていた部隊は、陸戦隊の選抜部隊でな。

その任務は召喚術を利用した破壊活動取り締まる事だった。

 

何?よく解らんだと?

 

ふぅ……簡単に言うとだな、父は無色の派閥に敵対していたのだ。

それ故に父は奴らの憎悪を一身に受ける事となり、イスラはその巻き添えになってしまったのだ。

 

……古き召喚術の中には、術者の命を触媒として厄災をもたらす呪いがある。

召喚呪詛、と言う。

イスラはその中の病魔の呪いをかけられた。

生まれた時からあの子の身体は病魔に苛まれ続けている。

しかも、死ねない。

 

絶息寸前のところで息を吹き返してしまう。

自ら命を絶とうとしても、結果は同じだった。

呪いが解けない限り、永遠に苦痛の日々を生き続けなくてはならんのだ……。

 

だから卒業して久しぶりに戻った実家で、元気になったイスラを見た時は驚いたものだ。

ベッドから出られずにいた子が、一年足らずで軍務省の選抜試験を通過して……。

軍属になったと聞いた時には嬉しくて堪らなかった。

 

なのに―――っ!

全ては無色の派閥がもたらしたものだった!

解っていたんだ!有り得ない事だと!

そんな都合のいい話がある筈が無いと!

 

古き呪いを無効にする術は、古き知識を持つ者たちの所にしかあり得ない……。

イスラはその為に無色の派閥に頼った。

そしてあの子をそこまで追い詰めてしまった原因は、この私にあるんだ……。

 

あの子も、イスラも、そう言っていた。

実はな……昨夜、お前が暴れる前にイスラが来ていたんだ。

そして言ったんだ。

呪いの苦しみから逃れる為に無色の派閥に与したのだ、と。

私を殺す、と。

 

あの子は……叫んでいたよ。

 

『他人に僕の何が解るって言うのさ!

 毎日のように死の発作に襲われて、今度こそ死ぬかもしれないって脅え続けて……。

 そういう恐怖を君は味わった事がある?

 手厚く看病をしてくれていた者たちが、本当は自分の死を願って止まない。

 それを知った時の絶望が、どれ程か解るって言うの?』

 

被っていた笑顔の仮面を投げ捨てて……。

 

『他人なんて信用できない。助けが来るなんて期待しない。

 人は言葉でいくらでも本心を偽れるんだもの。

 だから僕は僕の決めた事だけしか信じない。

 結果以外のものに価値があるなんて、絶対に認めない!』

 

心の底から……叫んでいた。

思えばあの子の本音を聞いたのはあれが初めてかもしれんな。

 

あの子は剣を抜いて戦えと言った。

でなければ、自分が私とアティを殺す、と。

 

正直な話、私はあの子に殺されてもいいと思ったんだ。

私は、私の視点だけであの子を見ていた。

あの子の気持ちを知ろうとしなかった。

相手の気持ちを無視して押し付ける優しさなど、独善だろう?

 

しかし……しかしな、あの子は最後に哀しそうに言ったんだ。

 

『そう、なんだ……。

 やっぱり……最後まで解ってくれなかったね……。』

 

本当に哀しそうに、な……。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

目を伏せるようにして、アズリアは静かに話を終えた。

黙ってその話を聞いていたアキラは、少し間を開けて深く一つ頷く。

今まで気にかかっていた事が、やっと判ったとでもいう様に。

そして、ぽつりと呟く。

 

「……成る程ね。

 だからイスラは―――。」

「何だ?何か解ったのか?」

 

その呟きに、アズリアが顔を上げる。

アズリアには解らない。

イスラがどうして無職の派閥と一緒に居るのか。

イスラがどうして自分を殺そうとするのか。

 

だからアキラに頼った。

アキラなら、自分に解らない事も解るかもしれないと。

 

しかし、アズリアがアキラから何かを聞きだす前に、部屋の扉が軽い音を上げて開かれる。

アキラとアズリアが突然の来客に目を向けた途端、厳しい声が飛んできた。

 

「何をしているのですか!?」

「く、クノン?」

 

部屋に入って来たのは看護士の少女で、その目は険しい光を持ってアズリアに向けられている。

その余りの剣幕にアキラとアズリアの二人が驚くが、

クノンは二人の様子など全く気にせずに、ずかずかと歩み寄る。

 

「アキラ様は絶対安静の身です!

 面会は私が様子を看てから可能かどうか判断すると伝えた筈です!」

 

そう言うや否や、クノンはアズリアを椅子から無理矢理立たせ、

ぐいぐいと外に向かってその背中を押して行く。

 

「わ、解った!解ったから、押すな!?」

 

アズリアが慌てて言うのにも構わずに、クノンはその背中を押し続ける。

そして二人の姿はドアの外へ消え、部屋にはアキラと未だに眠ったままのミユだけが残された。

一瞬の騒々しさに、アキラは小さく笑っていたが、ふと真剣な表情で呟いた。

 

「馬鹿な望みだな、イスラ……。」

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

アズリアが部屋から追い出された後、アキラが今後どうするかをぼんやり考えていると、

クノンが再びアキラの部屋を診察に訪れた。

驚くべき事にその検査結果は、瞳の色の変化や腕に現れた文様にも関わらず、

内外共に何の異常も認められないというものだった。

アキラはそれならば、と自主退院しようとしたが、そんな事をクノンが許す筈も無く、

二人の間で小さな口論が起こる。

 

検査で何の異常も見付からなかったのだから大丈夫だと言うアキラに対し、

あの重症がたった一晩で治る筈が無い、仮に治ったとしても、

いつ何処にその反作用が現れるか判らないのだから、

暫くは安静にして様子を見るべきだとクノンは主張した。

 

話は平行線を辿るかの様に思われたが、最後はクノンが押し切られる形で終わった。

口には有るか無しかの柔かい微笑を浮かべているのに、

その色違いの瞳には酷く真剣な光を宿して、

「皆が戦っているのに、自分だけ寝ている訳にはいかないよ。」と言われては、

今のクノンにアキラを止められる筈もなかった。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

そんな一騒動を経て、アキラとミユは森の中を進んでいる。

今まで何度と無く通った道を、海賊船に居るであろうアティの下へ向かって。

しかし、その道の半ばでミユがぴたりと立ち止まった。

そこは何の変哲も無い森の一角で、アキラは訝しげな表情をミユに向ける。

疲れてしまったという事は無い筈だが、一応アキラは尋ねてみる。

 

「ミユ?疲れちゃったのか?」

「……。」

 

しかしミユは俯いたまま答えず、アキラからはその表情も窺えない為、

その場に二人で立ち竦む事になった。

何の変化も無いまま五分が過ぎ、十分が過ぎようとした時、

ざぁっ、と強い風が木々を揺らしながら吹き抜ける。

その風の音に紛れ、ミユがぽつりと呟いた。

 

「―――んか…。」

「ミユ?」

 

風の音に掻き消された言葉を尋ねるように、アキラがミユの名を呼ぶ。

その声に、ミユは弾かれる様に顔を上げると、何かが爆発した様に叫び始める。

 

「~っ、ええやんか!もう、ええやんか!!

 何でアキラが辛いめぇに遭わなアカンねん!?

 何でアキラが怪我せなアカンねん!?」

 

その金の瞳に涙を浮かべ、力の限りに叫ぶ。

 

「ええやんか、もう!アキラは十分頑張ったやん!

 こんな島の奴らなんか、ほっとこうや!

 このまま二人でどっか行こ!そんで静かに暮らそうや!?」

 

まるで懇願する様に。

 

「ミユ……。」

 

肩を震わせ、今にも泣き出しそうな様子で、アキラの顔を見上げて言い放つミユに、

アキラは軽く目を見開いて驚いた。

まさか、ミユがそんな事を言うなんて、思いもしなくて。

まさか、ミユがそんな事を考えてるなんて、思いもしなくて。

 

だけど、目の前で涙をこらえて震えているミユからは、

ただ痛い程の心配だけが伝わってきて、それがアキラに笑顔を浮かべさせる。

 

「ありがとう、ミユ。心配してくれて。

 はは、そう言えばミユは俺の護衛獣だもんな。

 主が怪我なんかしてちゃ―――」

「ちゃう!!」

 

アキラが笑いながら、ふと思い出したように『護衛獣』という言葉を出した瞬間、

とても強い声でミユがそれを否定した。

その余りにも強い否定に、アキラは再び目を見開く事になった。

 

確かにアキラは、今までミユと主従として接してきた事は無かったが、

ここまで強い否定を返されるとは思っていなかったのだ。

そして、アキラの驚いた顔を見たミユも、はっとした表情を浮かべると下を向いてしまう。

 

「……ちゃうんや。ウチは―――っ!……ウチはっ!」

 

下を向いたまま声を絞り出すミユは丈の短い袴を両手で握り締め、

ぎゅっと目を瞑ったまま頬を紅く染め、先程とは違い、緊張でその小さな体を震わせる。

そして何度か躊躇った後に、意を決して告げる。

 

「ウチっ……ウチは、アキラの事が好きなんや!」

 

再びアキラを見上げるその顔は、熱っぽく潤んだ瞳と、

震える小さな唇と、紅い頬で艶やかに飾られている。

そしてミユは、小さな手を伸ばし、アキラの服を掴む。

金の瞳は、黒と蒼の瞳を見詰めたまま。

 

「護衛獣やからとか、友達やからとかやない。

 ウチは、アキラに、恋してんねん。」

 

そう告げると、ミユは紅い顔を隠す様にアキラにしがみ付く。

そして最後にぽつりと声を零した。

 

「せやから、アキラが傷付くんは見たないんや。」

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

ミユに抱き付かれたまま、アキラは困惑していた。

どんなに鈍い奴でも、ここまではっきりと告白されれば相手の気持ちは解る。

しかし、アキラは今までミユの事を恋愛対象として見て来なかった。

可愛い妹として接してきたのだ。

 

だから、ミユの突然の告白に戸惑った。

二、三秒の間だけアキラは逡巡し、それからそっとミユの肩に手を置いた。

そしてミユの顔が見える様に、その小さな体を引き離す。

 

「ありがとう、ミユ。

 ……だけど、ごめん。

 俺もミユの事は好きだけど、これは、きっと、恋じゃない。

 だから―――ごめんな。」

 

優しくて、哀しい言葉。

アキラは決してミユの瞳から目を逸らさずに、その言葉を告げた。

その表情は、寂しげに、そして申し訳無さそうに歪んでいた。

 

ほんの僅かな間だけ、ミユはぼんやりとしていた。

拒絶された。

その理解は、金の瞳から始まった。

見る間に涙が溢れ出し、頬を伝い落ちる。

 

「……う、うぅ―――っ、アキラのアホー!!

 ウチはもう知らん!

 アキラなんか好きなだけ戦って、好きなだけ怪我したらええんや!!」

 

次いで、絶叫が迸る。

その自棄になった絶叫と共に、ミユはアキラの体を突き飛ばすようにして離れると、

最後に涙と捨て台詞を残し、森の奥へと駆け込んで行ってしまう。

アキラには、ただその後姿を哀しげに見送る事しかできなかった。

 

そこに、ぱきり、と小枝の折れる音が響く。

アキラが音のした方を見ると、そこには。

 

「あの、兄さん……その、僕は―――。」

 

猫の召喚獣を連れ、緑の帽子を被った少年、ウィルが居た。

おろおろと慌てるウィルに、アキラは苦笑を見せる。

 

「いいんだよ。俺もミユも、人が居る事には気付いてたから。

 それよりも……あの子を追いかけてくれるか?」

「……はい!」

 

告げられた言葉に驚きと逡巡を見せた後、ウィルはアキラの目をしっかりと見詰めて頷いた。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

緑の帽子が森を掻き分け、ひた走る。

探しているのは金の瞳と白い髪をした狐の女の子。

彼女はきっと泣いているから。

彼女は今、ひとりぼっちだから。

彼は彼女の姿を求めて森の中を走り続ける。

 

そして見つけ出した小さな姿。

彼女は大きな木の下で、抱え込んだ膝に顔を埋めていた。

 

「あ、あの……ミユさん?」

 

走っていた足を止め、ウィルはゆっくりとミユに近付く。

そして、おずおずと呼びかけた。

 

「……何やねん。何でアンタが来んねん。」

「そ、それは……その―――。」

 

返って来たのは不機嫌ながらも意外に強い声。

滅多に返ってこない返事に喜びつつも、何と言っていいのか判らず、ウィルは躊躇う。

やがて薄っすらと頬を紅くしたウィルが、ごくりと唾を飲み込み、告げる。

 

「ミユさんが……心配だったから。」

「召喚士なんぞに心配して貰う事なんかあらへん。」

 

いとも容易く、そして冷たく切り捨てられてしまった気遣いの言葉。

ウィルは厳しい表情に変わると、ミユをひたと見詰めた。

そして怒りも恨みも篭っていない、真剣みだけが伝わってくる声がミユに届く。

 

「『召喚士が』とか、『召喚獣が』とかじゃなくて、『僕』が『キミ』を心配なんだ。」

「……ふん。アンタも、変な人間やな。」

 

ウィルの言葉に、ミユの大きな耳がぴくりと一度だけ動いた。

 

 

 

 

 






(-ω-)/ やあ!前半と後半の告白の温度差がすごいね!

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