ゆらゆらと闇の中を漂っている。
光も届かない深い海の底を流されている様な、
星一つ無い暗い夜空に浮いている様な、
不思議な感覚。
ここは、何処だろう?
俺は、どうしてこんな所に居るんだろう?
「……痛ッ!?」
今の状況について考えた瞬間、頭の中に直接ガラス片を叩き込まれた様な激痛が走る。
どうして、と考えれば更に痛みが激しくなる。
耐え難い痛みの中、どうやら現状について考えると痛みが生じるらしいと悟り、
できるだけ何も考えない様にする。
次第に遠退いていく痛みを感じながら、ぼんやりとした考えが浮かぶ。
ここが何処だっていいじゃないか。
どうしてここに居るのかも、大した問題じゃない。
ここは暗く静かで落ち着くし、漂う様なこの感覚も悪くない。
それなら、このままで良い。
何も考えず、ゆったりとしたこの闇を享受しよう。
…………。
…………。
…………おかしいな?
何か、忘れている気がする。
大切な大切な、何か。
ズキンッ
くっ……、また頭が……。
この事も考えちゃダメなのか?
遠退いていた痛みがぶり返してくるのを感じながらも、考えるのを止められない。
だけど……、でもっ―――!
忘れちゃダメだ!!
ズキンッ!
俺にとって、何よりも愛しくて、何物にも換え難い、
大切な、大切な、何か。
アレは…………。
痛みでぼんやりとした頭のままに、必死で考える。
すると突然ココで無い場所の映像が、まるでテレビの様に映し出される。
そこは木材でできた部屋で、大きなテーブルが一つ置いてある。
そのテーブルを囲み、見覚えの有る五人の男女と一匹の猫が座っていた。
どうやら会議をしている様で、皆は一様に真剣な表情をしている。
五人の内の、金髪の男が声を荒げる。
「だから、そんな事あいつらに要求できる筈無いだろう!?
相手がどんなにゲスで、情け容赦のいらない野郎どもでも、
アティは本気で叩きのめせやしねぇ!
アキラは剣を喚んじまったら、アキラじゃなくなっちまう!!
解り切ってる事だろうがよ!?」
アレは、カイル/アニキ/俺/海賊……?
一人の対象に複数の認識が浮かび上がる。
アレはカイルだ。
だけど、アニキでもあって、自分自身でもあって、人間の海賊だ。
混乱の中、金髪の少女の声に意識が移る。
「アニキ、声が大き過ぎるってば!?」
ソノラ/妹/アタシ……。
また、訳の判らない認識。
少女の隣の男性が喋る声に、また意識が移る。
「でも、そうしなきゃ叩き潰されるのはアタシたちなのよ。」
スカーレル/ご意見番/幼馴染/アタシ……。
くそっ!頭がおかしくなりそうだ。
……いや、頭がおかしいからコンナモノを見ているのか?
「封印の剣という名の強大な抑止力によって、今まで我々は有利な立場でいられました。
しかし、同じ力を持つ『紅の暴君』をイスラが用い始めた事によって……、
その図式は、もはや通用しなくなってしまっているんです。」
ヤード/召喚士/客分/私……。
もう、うんざりだ。見たくない。
こんなモノを見続けていたら、『俺』が消えてしまう。
それなら、さっきまでの闇の方がマシだ。
そう思った途端、今まで見えていた映像が歪み、薄れ始める。
「アタシたちが束になったところで、まずあのボウヤには敵わない……。
立ち向かえるのは、同じ力の持ち主であるセンセとアキラだけなのよ。
アキラが戦えないんじゃ、彼女に頼るしかないわ。」
「それは、そうだけど……でも―――っ、それじゃ先生が可哀想過ぎるよ。
あんなに、戦う事が嫌いなのに……。」
「……畜生がッ!!」
俺に一切気付く事無く続けられていた会話が、次第に遠退いていく。
辺りに闇が戻ってくるのに安堵を感じながらも、
さっきまであんなに見るのが嫌だった映像に、心残りを感じる。
もう人の形も判らなくなった映像が、弾けて消える。
最後に“紅”が見えた気がした。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
揺ら揺らと、緩々と、心地良い闇に沈む。
何も考えず、何も思い出さず、ただ沈んでいく。
どれ位の時間が過ぎたんだろう?
数分の様な気がするし、何年も経った気もする。
このままで良いのかな?
このままが良いのかな?
ココは心地良いけど真っ暗だ。
だから、落ち着く。
でも、昏い闇の中、沈んでいくその先は?
底に着けば判るかな?
ソコに行ってもいいのかな?
沈むって事は、ソッチが下なんだろう。
でも、じゃあ上には何があるのかな?
……。
…………。
………………声?
『強い力は、どんなものでも打ち負かす事ができるけれど、
想いを込めた言葉の持つ力は、そうやって打ち負かされたものを、
より強く蘇らせる事ができるって。』
……誰の、声だっけ?
あれ、は……あれは、紅い―――。
『だったら……私は、言葉の力を、想いの力を……信じたいな。
打ち負かす力じゃなく、解り合う為の力で守りたいって思うの。
一人でも多くの人の、優しい笑顔を……。』
ああ……、アティだ。
懐かしい。
まるで何年も会ってなかったみたいだ。
でも、まだ何も終わってない。
イスラの事も、無色の事も、俺の事も。
アティはまだ戦ってる。
なら、俺も行かなくちゃ。
アティの所へ。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
深い森の一角。
拓けた場所にソレは『在った』。
今、その場所で一人の男が立ち尽くしている。
彼の背後には、何人もの部下が護衛として付き従っているが、
その存在など意に介することも無く、彼は無防備にソレに歩み寄る。
「バカな……。
始祖達の造りし“召喚の門”が―――破壊されるとはッ!?」
いつも尊大な色を帯びていたオルドレイクの声が、驚愕に塗り替えられていた。
何故なら、彼の求める物が一つ失われていたのだから。
はぐれたちの島の中ほど、森の中にかつて建っていた“門”。
オルドレイクは遺跡の確保を剣の奪回より優先する事にし、
手始めに“召喚の門”を調べに来ていた。
しかし、もはや“門”は無く、在るのはただ瓦礫の山ばかり。
「一体何故、このような事に……?
ッ!これは!?」
瓦礫へと近付いたオルドレイクはある事に気付く。
それは、“門”を斜めに奔る一つの直線。
まるで一太刀で斬られた様な、その断面。
「ふ、ふふふ。面白い。
何かは判らんが、この島にはまだまだ調べねばならない事があるようだ。
仮に、これがはぐれどもの仕業だとしたら、是非ともその力、手に入れねばな。」
深い森の一角。
瓦礫に囲まれながら、男は倣岸に哂う。
見詰めるのは、人形の様な部下たちのガラスの瞳。
彼はその異常さに気付かない。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
真っ暗な闇の中、上へ、ただひたすら上へと、アティの声を頼りに意識を引き上げる。
ゆっくりとしか浮上しない体に焦り、襲ってくる痛みに歯を食いしばる。
痛みが何だって言うんだ!
今は、一秒でも早くアティの所に行くんだ!!
もがいて足掻いて、愚直に上を目指す。
『貴方に、もうこれ以上誰かを傷付けさせる訳にはいかない!!』
(アキラさん!)
『はははは……いいよ!最高だよ!
それでこそ、戦う意味があるってものさ!』
(これなら、きっと僕の望みも―――)
目指す場所からは、声と共に彼女たちの心が聞こえてくる。
それを認識した途端、再び俺の目の前にはテレビの様に、ココじゃない何処かが映し出される。
「アティッ!!?みんなもっ!!
イスラと戦ってるのか!?」
海辺の絶壁で、仲間たちと暗殺者たちが戦っている。
絶壁の頂上にはイスラが立っていて、アティたちは下から攻め上がろうとしているようだ。
でも、暗殺者たちは数多くの飛び道具を持っていて、みんなは苦戦を強いられている。
「ッ!!?危ない、ミユ!!」
銃口の一つがミユを狙っていて、思わず駆け寄ろうとし
ゴガッ!!
「―――つッ!!」
壁の様な物に頭を強打した。
だけど、そんな事に構ってる場合じゃない。
痛みにチカチカする目を必死に凝らして戦場を見れば、
撃たれる寸前で気付いたミユが身を翻して銃弾を避け、ソノラがその射手を撃ち倒していた。
ほっと安堵の息を吐きながら、目の前の光景に手を伸ばす。
掌に感じるのは、冷たく固い壁の感触。
「くそッ!!何なんだよ、コレは!!?」
悪態を吐きながら、俺は見えない壁を叩く。
小揺るぎもしないソレを、忌々しげに睨み付ける。
こんな所で……指を咥えて見てるしかないのか!?
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
「は、ははは―――っ、
何だよ……やれば、こんなにもできるんじゃないか?
虫も殺せない様な顔して、やっぱり君も僕と何も変わらない。
自分の望みの為に、他人を傷付けられる人間だったってワケだ。」
キルスレスに掴まり、ボロボロになった体で、尚も毒づくイスラ。
対するアティは微塵も動揺を見せず、剣をイスラに向ける。
「もう、挑発したって無駄ですよ……。」
「!?」
「貴方の言う通り、今の私は目的の為なら、手段を選ばないつもりです……。
それが判ったらのなら、すぐに剣を捨てて降服して下さい。」
「く―――ッ!
なめるなあァァッ!!」
冷たく投降を促す言葉に、イスラは屈辱に顔を歪めて飛び掛る。
その刹那、澄んだ音共に碧の光がアティを包み、その手にシャルトスが現れる。
そして
「―――無駄ですッ!!」
「ぐはっ!」
言葉と共に放たれた魔力でイスラは吹き飛ばされ、
遂にはその手からキルスレスも姿を消してしまう。
誰の目から見ても、地に這うイスラにはもう戦う力は残っていない。
「今のは手加減しました。次は、本気ですよ。」
再び冷たく投降を促すアティ。
地に這ったままイスラはアティを睨み付け、そして気付いた。
シャルトスの罅に。
「……認めるよ。勝ったのは君だ。
だけど、君には僕からこの剣を取り上げる事は、絶対にできない。」
しかし、イスラは勝機に気付きながらも、行動に移そうとしなかった。
薄っすらと笑みを浮かべ、ただ上半身だけ起こし、アティへと話しかける。
「知ってる筈だよ?
継承者を殺さない限り、この剣の活動は停止しない……。
そして、僕を殺せるのは、同じ力を持つ君だけだって事も。」
その笑みは今までの人の神経を逆撫でする様な物ではなく、どこか諦めを含んだ儚い笑顔。
「皆の笑顔を守るんだろ?
なら、僕を殺してこの剣を奪いなよ?」
「―――っ。」
まるで憑き物が落ちた様に穏やかに、イスラは告げる。
「さあ。」
「うあああああアアアアアぁぁぁぁァァァァッ!!」
叫びと共にシャルトスを振り上げるアティの姿を見上げ、イスラは静かに目を閉じた。
(ああ……これで、やっと……僕は―――)
ガシャン
「……!」
硬い音をさせて、シャルトスが地面に落ちた。
「ダメ―――っ。
やっぱり、私にはできないよっ。
貴方を殺せない……。
力づくで終わらせるなんて、私はやっぱり認めたくない……。」
「バカだよ……。どうして、君は―――ッ!」
顔を伏せて泣くアティに、イスラは労わる様な、傷付いた様な瞳を向ける。
しかし、次の瞬間。
イスラは険しい目付きになり、飛び上がる。
そして、キルスレスを喚び出した。
「ウオオォォォッ!!」
「―――っ!?」
カシャアアァァン!!
正確に罅を突かれ、シャルトスが砕け散る。
「あ……。」
「形成、逆転だね。」
「あ……?ああ、あ―――っ!?
アアああぁぁぁっ!?」
どこか残念そうに呟くイスラの声も、今のアティには届かない。
封印の剣は、心の刃。
つまり、剣の破壊は所有者の心を破壊するのと同じなのだ。
「うあアァッ!?
うああアあアアァぁぁあアあァぁッ!?!?」
「あははははははっ!お似合いだよ。
君はそうやって赤ん坊みたいに泣いてればいいんだ。
でも、そんなんじゃ先生として恥ずかしいだろうから……、最後の情けで楽にしてあげるよ!」
最早、自分でも解らない感情で複雑に表情を歪めたイスラが、キルスレスを振り上げる。
そのイスラの前、アティとイスラを遮る空間が、突如として歪む。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
「アティーーッ!!!!
くそっ!くそっ!!くそっ!!!壊れろよ、この!!
どうして!どうして向こうへ行けないんだよ!!」
アティの危機に、アキラは拳から血が流れ出るのも構わず壁を殴り続ける。
ただひたすら壁を壊す事を考えて、殴り続ける。
拳が血に染まり、壁に赤い斑が印されても、止まる事など考えない。
その行為は“彼”の興味を引いた。
――無駄だ。ヒトにそれは、越えられん
「ッ!!ヴィサイアス!!!!」
――だが、私なら越えられる。私ならな
それは悪魔の誘い。
破滅の誘惑。
――どうする?その身体を私に渡して向こうに行くか?
……もっとも、お前の仲間を私が助けるとは限らんがな
絶望的な提案に、アキラは静かに顔を上げる。
「……いいだろう。俺はお前を受け入れよう。」
――ほう
純粋に驚嘆の声を上げる彼に、アキラは毅然と告げる。
「お前は人々の、召喚獣たちの、世界の生んだ闇。
そして、それは俺の中にも在る。
ならばお前を恐れる必要は無い。
お前は、俺なのだから。」
アキラは見た。
いいや、経験した。
かつての、今の戦争を。
彼が生まれるまでの全ての憎しみと悲しみを。
だから、もう恐れない。
――ならば、私を喚ぶがいい
「ああ。今こそ、俺の意思でお前を喚ぼう。
其は守護から生まれた狂気。
其は護る為に存在する常夜の暗黒。
其は平和を望むヒトから生まれた心の闇。
其の身は世界を源に
狂気で溶かし
狂気で叩き
狂気で冷し
研ぎ澄まされた破壊の刃。
流れ出る魔力は暗黒となり
奏でし歌は人々の嘆きと成り変る。
狂気で鍛えし刃は守護の願いを忘れ
全てを破壊へと導ゆく。
我が喚び声に応えよ。『闇の狂皇ヴィサイアス』。」
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
イスラは驚きに目を見張る。
目の前、空間の歪みから、黒い禍々しい剣が、昏い炎の文様に包まれた腕が、
闇を切り取った様な髪が、現れる。
黒の頑丈そうなブーツ。
黒いジーンズ。
そして、黒のタンクトップ。
全身黒尽くめの服の中、袖なしのベストだけが唯一、メイトルパの碧をしていた。
見覚えのある剣。
見覚えのある服装。
見覚えのある顔。
しかし、決定的に違う、身に纏う黒い闇。
戦慄する。
先日の圧倒的な魔力の暴風を思い出し。
恐怖する。
以前向けられた彼の殺意を思い出し。
紅き剣を握り締め、その身を震わせるイスラの前に、瞼を閉じて双眸を隠したまま、
彼は、『アカツキ アキラ』は、戦場に現れた。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
アキラ!?
驚きの余り、自分の目ぇが見開かれるのが解る。
絶壁の頂上に、
間違いや無い。
ウチが見間違う訳あらへん。
何で……何でアキラがこんなトコに居んねん!?
今は『りぺあせんたー』で寝とるハズやのに―――ッ!
この前倒れてから、いっこも目ぇ覚ませへんかったのにッ!
それに……それに、アレはッ!!
あの剣は―――!?
まさか、またアイツが!
あのクソッタレが!!
アキラの身体を乗っ取ったんかッ!?
尻尾が、髪の毛が、ううん、それだけやない。
全身の毛がウチの心に反応してザワザワと逆立ってる。
もしそうやったら―――許さへん!!
今すぐに飛んでいって、あのクソ剣、ぶっ壊したる!!!
そう思って、グッと足に力を込めて飛び上がろうとした時、“アキラ”が目ぇを開いた。
そうや、間違いない。
アレはアキラの瞳や。
色は黒やけど、アイツの奈落の底みたいな闇色やない。
いつか見た、夜の空みたいな穏やかな黒。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
アキラは、ゆっくりと目を開く。
まるで、暗い所から急に明るい所へと出て来た様に、
始めは薄っすらと、そして次にしっかりと、目を開く。
そして、ゆっくりと息を吸って、吐く。
まるで、深い海の底から浮かび上がって来た様に、鼻から吸って、口から吐く。
アキラの一挙動に、一動作に、イスラの身体が小刻みに揺れる。
いつ襲い掛かってくるのか、いつ斬りつけて来るのか、
その恐怖が、過剰反応となって現れる。
紅い瞳が不安に揺れる。
そして……そして、アキラは“後ろを振り向いた”。
目の前に、イスラが居るにも関わらず。
キルスレスがその手に握られているにも関わらず。
まるで、己の前には何の脅威も、危険も、存在しないと言う様に。
振り向き、しゃがみ、未だに泣く様に、呻く様に、声を漏らすアティを見詰める。
黒の瞳に限りない慈しみを込めて。
「アティ……。」
「うぅ……。あああぁぁぁ。」
アキラは、そっとアティの名前を呼ぶが、
今のアティから返ってくるのは、意味を成さない呻きだけ。
それを聞いて、アキラは痛ましげにアティを見詰め、そっとアティの頭を抱き寄せる。
「ごめん。……ごめん、アティ。
俺がもっと強ければ、俺がもう少し早く此処に来れてれば、
キミを護れていたのに……。」
アティを抱き締めたままの、アキラの懺悔にも似た謝罪。
いつも優しい笑顔を浮かべていた綺麗な顔を深い悲しみで歪め、アキラは強くアティを抱きしめる。
その事に、初めてアティが反応を返した。
零れ続けた声が止み、戸惑いに瞳を揺らす。
そして、まるで迷子が親を見つけた時の様に、
安心できる場所を見つけた幼子の様に、安らぎに目を閉じる。
ほんの、ほんの一時だけ二人は抱き合ったまま互いに寄り添って、
しかし、その静寂を振り切る様に、決意の篭った声でアキラが語りかける。
「アティ……。
俺、アティに言いたい事が、ずっとずっと言いたかった事があるんだ。
でも、今はまだ言わない。
……待ってる。
アティが元気になるのを、ずっと待ってるよ。
俺の言いたかった事、アティに伝える為に。
だから……だからさ、早く元気になってくれよ。」
それを告げると、それだけを告げると、アキラは決然と立ち上がる。
アティを背に、毅然と前を向く。
敵を倒す為に。
大切な人を、大切な人達を護る為に。
少しでも、自分の望む未来を手に入れる為に。
それは正に“
「ファルゼン!」
アキラの前方、敵の攻撃を防ぐ盾になる為に、冥界の騎士が立ちはだかる。
「ヤッファ!」
アキラの右側、攻撃を補助する爪として、ユクレス村の護人が並び立つ。
「キュウマ!」
アキラの左側、死角を無くす眼として、風雷の郷の護人が控える。
「アルディラ!」
アキラの後方、戦況を分析して支援する頭脳として、ラトリクスの護人が静止する。
まるで召喚された様に、四人はアキラの声に応えた。
その四人に、アキラは“頼み”を口にする。
召喚の“命令”とは違う、仲間としての“願い”。
「アティを連れて下がってくれ。」
そんなアキラに、四人は不安そうに、いや、心配そうに声をかける。
「アキラ……?」
「お前さん、アキラ……だよな?」
「アキラ、よね?」
「本当に……アキラ殿、ですか?」
ファルゼンの、ヤッファの、アルディラの、そしてキュウマの、
期待を込めた問いかけに、アキラが安心させるように微笑み、応える。
「ああ、俺だよ。
アイツじゃ……ヴィサイアスじゃ、ない。」
その言葉に、その微笑みに、四人が心の底から安堵する。
今までの絶望的な状況も、これからの見通しの無い不安も、全てが綺麗に洗い流される。
そんな頼もしいアキラの微笑みに、自然と四人の顔にも笑みが浮かぶ。
だから自然とアキラの“願い”を聞き入れた。
アティを護りつつ後方へと下がる。
それを見届けてから、アキラは己の唯一の名を喚んだ。
溢れんばかりの信頼と、限りない慈愛を籠めて。
「ミユ。」
反応は間を開けず。
返答も一言。
「遅い。」
いつの間に現れたのか、アキラの左隣に少女が一人。
純白の髪を靡かせ、金の瞳を鋭く光らせる。
その表情には明らかに不満だと書いてある。
恐らく、護衛獣である自分が最後に呼ばれたのが気に入らないのだろう。
そんなミユに、アキラは一つ苦笑を零す。
「ごめん。今度、埋め合わせはするから。
ミユには邪魔が入らないようにして欲しいんだ。」
ミユはその言葉に訝しげな表情をして、白い耳をクルクル動かす。
その耳がピタリ、とある方向で止まる。
ふん、と詰まらなそうに言ってから、アキラたちから離れる。
了解した、と言う事だろう。
そして、アキラはたった一人と対峙する。
「……イスラ。」
いつもと違う低い声。
「イスラ。」
自分の中に在る、荒れ狂う激しい感情。
「イイィィスゥラアアアァァァァッ!!!!」
アキラが吼えた。
(-ω-)/ やあーーー!!