「―――どうしてすぐに私を呼ばなかったの、クノン?」
まさかリペアセンターでの私の第一声がこれになるなんて……。
クノンから昨日召喚された彼が目覚めたと聞かされて、
みんなに連絡してから急いでリペアセンターに来てみれば、彼は何の変化もなく眠ってる。
クノンに聞けばついさっき再び眠ってしまったと言うし。
まあ、それはいいわ。
眠ってしまったのは仕方ない事で、クノンにはどうする事もできなかっただろうし。
問題なのは、目覚めたとの連絡を受けた時には既に彼が眠っていたという事よ。
理由を聞いてみれば「申し訳ありません。」と謝るだけだし……。
いったいクノンに何があったのかしら?
……。
…………。
こうしていても仕方ないわね。
彼が目覚めた時の状況でも尋ねてみましょう。
「それで、彼について何か分かった?」
「アキラ様はヤザキ・アキラ様と名乗られました。
依然原因不明の昏睡状態です。その他全身に軽微の筋肉疲労が診られます。」
筋肉痛?
……喚ばれる前に激しい運動でもしたのかしら?
「原因は判ってるの?」
「そちらも原因は不明です。」
「そう、他に彼について判明した事は?」
「覚醒時は意識もはっきりしており、
ここが何処か、自分が何故ここに居るのかをお尋ねになりました。」
―――それだけ時間があったのに、私に報告があったのは彼が眠った後。
これは……本当に惚れたのかしら?
「分かったわ、クノン。ありがとう。当面の問題は―――」
そこまで言った時、私の耳に通路を走る騒々しい音が聞こえてきた。
まったく……マナーってモノを知らないんだから。
「―――彼女たちに何て説明するか、ね。」
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大きな足音がドアの前で急停止すると、ドアが完全に開く前に小さい隙間を押し広げるように3つの人影が部屋に飛び込んでくる。
そのまま掴みかかるようにアルディラに駆け寄ってくると、それぞれが大きな声で問いかける。
「あやつが起きたとは本当か!?」
「彼が起きたとは本当ですか!?」
「ねむねむさんが起きたって本当ですかー!?」
……出たわね、こぶ付き鬼女に、変態天使に、バカ妖精。
昨日の様子からこいつらが彼を狙っているのは明白だけど、
優しい姉(自分)としては可愛い妹(クノン)の為に、ここは一肌脱がないとね。
ニヤリと心の中で笑いながら、表面上はいつも通りに言葉を返してやる。
「あら、ヤッファたちはどうしたの?」
「シマシマさんたちなら後から来るですよ。」
「そんな事より、あやつはどうしたのじゃ!?」
「そうです!隠すと為になりませんよ!!」
私が連絡したのは“護人に”であって、あなた達じゃないのよ!
頬がひくひくと引き攣るのを感じながら、彼に近づこうとする三人の前に立ちはだかり、
追い返す為に屁理屈を言ってやる。
「生憎と彼はまた眠っちゃったのよ。
未だに昏睡状態の原因は不明だし、
もしかしたら伝染性のモノかもしれないから近づいちゃ駄目よ。」
わざと伝染性という部分を強調してやると、流石の彼女たちも怯んだわ。
……一瞬だけどね。
「ならば、そなたたちはどうなのじゃ!」
「そうですよー!」
まったくしつこいんだから。
クノンと彼の様子をもう少し見ていたかったけど、仕方ないわね。
「そうね。私も危ないかもしれないから一緒に出るわ。
クノン、ここは任せるわね?」
「承知致しました。」
さあ、後は若い二人に任せてって感じで三人を追い出そうとしたら……
「何故クノンは良いのじゃ!?」
「そうですよー。独り占めはダメなのです!」
くっ、この馬鹿共は!
……駄目よ、ここで怒ったらクールビューティな私のイメージが崩れるわ!
落ち着いて~落ち着いて~。
………。
……………。
よし。
「あのねぇ、いくらクノンが私たちと変わらないように見えたって、
この子の体は機械なのよ?伝染する訳ないじゃない。」
溜息とともに、いかにも呆れたという口調で説明してあげると、
さすがの二人も諦めた様に顔を俯け静かになったわ。
はあ、やっと静かになったわね。
さあ出ましょうと二人を促せば、
変態天使が彼の側で無駄に爽やかに笑いながら私たちに手を振っている。
「……何を、しているのかしら?」
怒りを抑えながら冷たい声で聞いてやる。
「私も生身ではありませんから、ここに居て彼についていようかと。」
「原因が霊的なモノだったら貴方も同じよ!?さっさと来なさい!」
流石の私も我慢の限界。
変態天使の首根っこを捕まえて部屋から引きずり出してやったわ。
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アルディラたちが部屋から出ると、
ちょうど通路の向こうから護人たちが歩いて来たところだった。
向こうもアルディラたちに気が付いたのか、少し歩を速めた。
「よぉ、あの兄ちゃん目が覚めたって?」
ヤッファが軽く手を挙げて挨拶と共に尋ねるが、
アルディラの周りにいるがっかりした三人を見て苦笑しながら付け加える。
「……でもねぇみたいだな。」
はーっと大きな溜息を吐いてアルディラが答える。
「実は一度起きたんだけど、またすぐ眠っちゃったのよ。
それにしても貴方たち?
パートナーの躾ぐらいしっかりしておいて欲しかったわね。」
何の事だと首を傾げる護人たちに、アルディラは先程の騒動について愚痴をこぼしながら、
彼について判った事を説明すべく、皆をミーティングルームへと連れて行くのだった。
その時、また例の三人がリペアセンターに行こうとして、
アルディラの召喚術を喰らったのは、また別のお話。
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朝、緩やかに時の流れるこの島でも、特にのんびりした時間。
各集落でいつもの朝が始まり、
今日も穏やかな一日が、いつものように過ぎていくと誰もが思っていた。
異変が起きたのは丁度、昼頃。
食後に少しゆっくり休もうかという時間帯。
昼夜を問わず働き続ける機械たちの集落で、突然警戒を報せる音が鳴り響く。
「何が起きたの!?」
「D-37地区に侵入者です。」
アルディラが問い、即座にクノンが答える。
そして二人は走り出す。
己に課した役目の為に、主の身を守る為に。
出会ったのは偶然か必然か。
彼女たちの、そしてこの島の運命を大きく変える鮮烈な紅に。
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私はその時、少し怒っていたのかもしれません。
だってお互いの事情を説明し合っただけで、もう話す事は無いだなんて悲しいじゃないですか。
だから私は必死に追いかけました。
彼女を追いかける事にしたのは、最初に出会ったヒトだから……ううん、違います。
本当はただ、何となく……何となく彼女の帰る方に大事なモノがあると思ったんです。
機械たちの集落と森の狭間でやっと彼女に追いつきました。
「待って下さい!」と彼女を呼び止め、思うままに言葉をぶち撒けました。
後から考えると無茶苦茶だったように思いますけど、その時は必死だったんです。
そして彼女がほんの少しの譲歩を見せてくれた時、彼が森の中から現れたんです。
夕陽を浴びて紅く輝く銀の髪、こちらに向けられた深い蒼の瞳。
その人はとても綺麗で、一瞬自分が何をしていたのか忘れてしまいました。
彼は私から彼女に視線を移し、柔らかな笑みを浮かべ話しかけました。
声は聞こえませんでしたが、そのまま二人で楽しそうに帰って行ったので、
彼女を迎えに来たのかもしれません。
その時さり気なく彼女の腕が彼の背中に伸ばされた様子が、
二人の関係を表しているようで、何故か私の気持ちは暗くなりました。
あの二人は恋人、なのでしょうか……
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今日は驚いた。
何と、この島に俺とゲンじぃ以外の人間が居たんだ。
こっちの世界、リィンバウムに召喚されてから、
俺はほとんど眠りっぱなしでずっとラトリクスで世話になってた。
初めは俺の髪と瞳が黒から銀と蒼になってた事や、
物語の中にしか出て来ないような住人たちに驚いたが、
慣れてしまえばどうでもいい事だった。
ただ、元の世界に帰れない事だけが、少し……辛かった。
最近になって、なんとか一日の内四時間くらい起きていられるようになり、
その時間を使って集落から集落へと渡り、そこでしばらく世話になるという暮らしをしてた。
でもゲンじぃ以外の人間に会ったのは、今日が初めてだ。
もしかしたら人間たちの集落なんてのが何処かにあるのかもしれない。
今度行ってみよう。
……そこには今日会ったあの
夕陽の中にあってなお紅い髪をしたあの
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まったく油断も隙もあったもんじゃないわ。
珍しいタイプの人間だったから少し気を許してやれば、
アキラを見た途端目の色を変えるんだから。
そこで優しくて綺麗で妹(クノン)思いの私は、可愛く健気な妹の為に一肌脱ぐ事にしたの。
「アルディラ、久しぶり。今からラトリクスに帰るトコ?」
アキラが私に笑顔で挨拶してきたところで、これが恋人同士でなくて何なんだ、
というくらいサービス満点の笑顔で応える。
「ええ、そうよ。ちょうどいいから一緒に帰りましょう?」
そしてアキラの背中に手を伸ばし、そっと押す事で並んで歩くように促す。
もちろん彼女、アティの方にちらりと牽制の視線を送る事も忘れずにね。
案の定、彼女は表情を暗くしてうな垂れたわ。
ふふっ、これでまた一人クノンの邪魔をする娘が消えたわね。
(-ω-)/ やあ!久しぶりに読み返してみると、文章がブレブレだね!