黒の魔剣   作:暁 煌

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戦うのは―――

 

 

 

 

船室の窓からは、いつもの潮騒に混じり多くの人の気配が聞こえてくる。

不安からくる囁きや、落ち着きなく動き回る物音、子供の泣き声。

怪我をしている者も少なくなく、着のみ着のままで逃げてきた者たちばかりだ。

誰も彼もが疲れきった顔をしており、皆が不安に押しつぶされそうな表情をしていた。

そんな避難してきた島の住人達で、今や海賊船の周りは溢れかえっていた。

 

亡霊を退け一定の防衛ラインを築いた事で、今の所海賊船の周りは安全を保っていた。

しかし、いつまでもその安全が保たれる訳も無く、アキラ達は船室で会議を行っていた。

この亡霊達はどうして現れたのか?

どうすれば止める事ができるのか?

 

答えは簡単に得られた。

以前にも似たような事があったから。

そう、遺跡の封印が解けかけているのだ。

 

では、誰がそんな事を?

これも簡単だ。

今現在、島に居る者の中でそんな事をするのは一人しか居ない。

オルドレイク・セルボルト。

無色の派閥の当主。

アキラとアティに敗れた傲慢なる者。

 

ならば、後はどう対処するか。

話し合いは続く。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

「集落の皆は無事にここまで避難できたそうです。」

 

ウィルの報告を受け、船室に集まっていた皆がほっと息を吐いた。

 

「おう、ご苦労さん。

 で、だ。……これからどうする?」

 

カイルがウィルに労いの言葉をかけ、ぐるりと周りに居る仲間を見渡す。

その顔はいつになく真剣で、事態が余り良くないのがアリアリと見てとれる。

問いかけられた仲間達も一様に表情が暗い。

いつも軽い調子のスカーレルも、表情を固くして意見を述べる。

 

「相手があの数じゃ、立て篭もるのは分が悪すぎるわね。」

「それに再封印のお陰でこの程度で済んでいるけど、封印していなかったら今頃、

 島に居る全員が意識を乗っ取られていたわね。」

 

続けてアルディラが更に悪い情報を告げる。

 

「ええ。核識は島に存在するものを、共界線(クリプス)を経由して自由に操れます。

 そして、それは島の外から来た人も同じです。」

「完全に封印が解けちまえば、今度は自然そのものが襲いかかってくるぜ。」

「島そのものが変幻自在の武器であり、鉄壁の要塞です。」

 

続けてファリエル、ヤッファ、キュウマが情報を開示する。

内容はどれも最悪。

敵の強大さだけが浮き彫りになっていく。

自分達が立ち向かおうとしている相手の力を知り、場が更に暗くなる。

 

皆が沈黙する中、ぽつりとアキラが告げる。

 

「……核識の精神は倒れた者の痛み、悲しみ、怒り、恨み、

 そして声なき者達の叫びを知覚していた事で崩壊してしまっている。

 アレはもう怨念の集合体みたいなモノだ。」

 

声に込められていたのは同情、悲哀、憐憫、そして“敵”に向けられる冷たさだ。

 

「ふん。『狂った島の意志』ちゅーとこか。

 ―――で、どうやったらヤッつけれんねん?」

 

アキラの交戦意志を感じ取り、ミユがギラリと金の瞳を光らせる。

普段は主であるアキラがにこにこしている為それに合わせているが、

ミユはもともとミユは好戦的な性質(たち)だ。

アキラがその気になっているのなら、思う存分暴れる事ができる。

にやり、と楽しげに問いかけるミユに、アルディラが答える。

 

「遺跡の中枢。核識の間に乗り込んで、直接魔剣による封印を行うしかないわね。」

 

唯一の作戦はとてもシンプルだ。

ダンジョンに乗り込んで、ラスボスを直接封印する。

よくあるRPGのノリそのもの。

 

「しかし、それはかつて無色の派閥が用いた戦法です。

 当然アチラも警戒しているでしょう。」

 

そう、キュウマの言う通りだ。

唯一の作戦故に対策も立てられやすい。

余程の馬鹿でなければ、何かしら用意しているだろう。

 

「だが、それに賭けるっきゃねぇ―――だろ?」

 

にやり、とヤッファ笑う。

分の悪い賭けだが、他に方法が無いのならば是非も無い。

アティも静かに頷き賛同を示す。

そして真っ直ぐな瞳で仲間達を見渡した。

 

「……私は守りたい。

 皆と出会ってから楽しい日々を過ごしてきた、この場所を。

 僅かでも望みがあるって言うのなら、絶対諦めません。

 もっと、これからもたくさんの思い出を、作っていきたいから。」

 

力強い瞳と優しい笑顔。

どんな逆境でも絶対に失われない心の輝き。

そこに皆惹かれたのだろう。

だからアティの周りには色んな者達が集まってくる。

人間も召喚獣も関係なく、海賊も軍人も関係なく、元暗殺者やかつて敵だったものまで。

 

アティの笑顔は力をくれる。

どんな時だって何とかなると思わせてくれる。

だから守ろうと思うのだ。

アティが自分達を守ろうとしてくれている様に、自分達がアティを守ろうと。

 

気が付けば先程まで暗い顔をしていた仲間達は、皆力強い笑顔を浮かべていた。

状況は何も変わっていないけれど、自分達が突然強くなった訳でもないけれど、

それでもきっと何とかなると信じている顔だった。

 

そして同時にこうも思っていた。

アティのこの笑顔を取り戻してくれたのも、今こうして自分達が笑っているのも、

いつもニコニコ笑っている誰かさんのおかげだと。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

会議が終わり、アキラ達は封印組と、船の周りの防衛ライン組に分かれて行動を開始した。

既に相手にばれてしまっている作戦であること、

そしてやはり守りを薄くしてしまう訳にはいかないという事で、封印組は少数精鋭。

 

封印の要であるアティ、突破口を開く為のアキラ、ミユ、

そしてそれを補助する為にアルディラ、ファルゼン、ヤッファ、キュウマの八人。

八人は今、退路の確保も度外視して遺跡の中枢へと突貫している。

 

そして残った防衛ライン組は、アティ達が成功する事を祈りながら、

島の住人達を守る為に船を起点にして扇状に展開していた。

 

「オオオォォ……。」

「オオォォ―――ッ!」

「ウオオォォ……。」

「ウオオヲォォォッ!!」

「召鬼・風刃ッ!!」

 

防衛ラインの一角、ワラワラと押し寄せる亡霊を相手にミスミが術を放つ。

 

「ギィアアアァァッ!?」

 

まとめて吹き飛ばされる亡霊達。

しかし、その全てを吹き飛ばせる訳も無く、とめどなく亡霊達は打ち寄せる。

 

「ああ~、もうッ!

 どんだけ湧いて出てくるんだよ!?」

 

身の丈に似合わぬ大斧を振り回し、亡霊達を斬り捨てながらスバルが吐き捨てる。

斬られた亡霊は溶ける様に地面へと消えていく。

しかし、やはり押し寄せる亡霊の数は変わらない。

 

「そう言うなスバル。

 アキラ達が封印するまでの辛抱じゃ。

 それまでは何としてもここは食い止めるぞ!!」

 

ミスミが槍を振り回しながらスバルの横へと並ぶ。

言い放った一瞬。

ミスミは我が子へと視線を向けた。

向けてしまった。

その隙を付いて、ミスミの死角から一体の亡霊が襲いかかる。

 

「っ!!?くっ、しまった!!」

「母上!?」

 

気付くのが遅れミスミは防御が間に合わない。

スバルもミスミの身体が壁となり、亡霊に斧が振るえない。

そして、亡霊の持つ錆でボロボロの剣がミスミへと迫る。

 

「放て!!」

「「「「応ッ!!!!」」」」

「ギィアアアァァッ!?」

 

合図と共に放たれた無数の矢が、次々と亡霊に突き刺さる。

 

「―――何と。」

「いったい誰が……?」

 

助けられたミスミが驚きに目を見開き、傍らのスバルが矢が飛んできた方を確認する。

そこに居たのは弓を手にした鬼達だった。

いや、鬼達だけでは無い。

妖怪変化と言われる者達が列を成し、武器を構えていた。

 

彼らの顔に見覚えがあった。

いや、同じ郷に住む家族同然の者達ばかりだった。

彼らは海賊船の周りに避難していた筈だ。

しかし、何故と問う二人の声は湧き上がる鬨の声に掻き消される。

 

「風雷衆、前へ!!

 姫様達を御守りするんだ!!」

「「「「おおーーーー!!!」」」」

 

掛け声と共に彼らは前進を始めた。

亡霊達に向かい、ミスミとスバルを守る様に。

 

そして掛け声は彼らの物だけでは終わらなかった。

少し離れた場所からも同じ叫びが聞こえてくる。

 

「ユクレス隊、遅れるな!!

 我等の力を見せるのだ!!」

 

「狭間に棲む者よ!

 我が君の命だ!妄執共を黙らせろ!!」

 

「久々ノ指令ダ。

 各自、機能ヲ果タセ。」

 

それは自信を感じさせる声だった。

それは高揚を感じさせる声だった。

それは誇りを感じさせる声だった。

 

それは皆、避難していた者達の闘争を告げる声だった。

 

そしてそれは、あってはならない事だった。

彼らを守る為に、ミスミ達は戦っていたのだから。

 

「そ、そなた達……何をしておるのじゃ!?

 早よう非難を―――。」

「我らは皆、アキラ様に喝を入れられたのです。」

 

逃げろ、と告げるミスミの声を遮り、一人の鬼が告げる。

出てきた名前に責める事も忘れ、ミスミは聞き返す。

 

「……アキラじゃと?」

「はい。

 あの方は危地へ赴く前に、脅え隠れているだけだった我々の所に来られたのです。

 そして色違いの瞳を燃やしながら言われたのです。」

 

 

 

『何をしている?

 お前達は何をしているんだ?

 こんな所に隠れ、震えて、どうなると言うんだ?

 

 何も変わらない!

 何も変わりはしない!!

 

 お前達の護人は戦っているぞ!

 お前達の仲間は戦っているぞ!

 あの時の様に!あの大戦の時の様に!!

 

 お前達はどうするんだ!?

 

 鍛えてきた技は何の為だ!?

 その爪と牙は何の為にある!?

 その霊力(ちから)は何の為にある!?

 何の為に生み出されたんだ!?

 

 仲間を、家族を守る為では無かったのか!!?

 大切な場所を、守る為では無かったのか!!?

 

 ならばどうする!!

 ここで蹲っていればいいのか!?

 

 否!!断じて否だ!!!!

 今は戦いの時だ!

 

 傷つくのも、傷つけるのも、嫌だろう。

 だが、今は戦いの時だ!

 

 愛しい者達を残すのは、愛しい者に残されるのは、不安だろう。

 だが、今は戦いの時だ!

 

 ならば!ならば、どうする!?』

 

 

 

「あの方の言葉に、魂が震えました。

 ……今は、今は戦いの時です!」

「「「そうだ!守る為に、戦う時だ!」」」

 

事情を説明していた鬼が声を高らかに叫べば、周りから呼応する声がいくつも上がる。

 

「そうだ!!故郷の為に!!!」

「「「今は、戦いの時だ!」」」

 

その声は波及する。

鬼達だけに留まらず亜人達へ。

 

「仲間の為に!!!」

「「「今は、戦いの時だ!」」」

 

精霊達へ。

 

「愛しい者達の為に!」

「「「今は、戦いの時だ!」」」

 

そして機械達にまで。

 

「今コソ命令ヲ果タス時!!」

「往クゾ!!!!」

 

「「「「おおーーーーーっ!!!!」」」」

 

鬨の声を上げ、彼らは駆けて往く。

自分達よりも遥かに多い亡霊達に向かって。

倒しても倒しても甦る敵に向かって。

 

守る為に駆けて行った。

 

 

 

 

 






(-ω-)/ やあ!盛り上がってきたね!

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